002*アメジスト〔008〕
「伊達に長く生きてはいないよ。
悪評や中傷に晒されたことが、
これまで一度もなかったわけでもないし、
財を築き、それを保持し、
富み栄え続けるということが、どんな難事か、
わかるかね?」
改めて、思い至る。
旦那様は、大富豪。
色事に疎いからといって、決して。
愚鈍で世間知らずな、若造では、なかった。
「おまえさんが今いる所を、苦界と言うね。
たしかにそうだ。でもね。
かと言って外の世界が、そのまんま翻って、
極楽というわけでは、ないよ。
この世は単純にできていない。
親戚や知人には、強烈な連中も、いるのだよ。
力の及ぶ限り守りたいが、
おまえさんが彼らの毒舌から完全に免れることは、
不可能だろう。
はっきり言って私の老い先も、短い。
だのに、おまえさんを身請けする。
これは私の我儘だ。わかっている。それでも。
傍に、いて欲しい。
私の家に、来ておくれ。
いつまで生きられるか、わからないけれど。
最期の時まで、共に私と、暮らしておくれ」
遊女は、旦那様の胸に顔をうずめて、うなずく。
「旦那様に約束するわ。
あなたに、跡継ぎを、生んであげる。
そしてね」
しがみつく腕に、力をこめる。
「あたしは、絶対、旦那様より先に、死なない。
あたしと、息子は、絶対に。
旦那様より先には、死にません」
「……世間には、言いたいことを、言わせておくさ」
旦那様は、遊女の頭を、なでる。
「真実なんて、私達ふたりが知っていれば。
それで充分なのでは、ないかね」
ええ、そのとおりです、旦那様。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。