002*アメジスト〔005〕
舞や歌を披露すると。
「旦那様」は最後まできちんと見守ってくれて。
終わると、惜しみない拍手と感嘆のため息と、
ねぎらいの言葉を、くれる。
したり顔でうなずく、玄人の冷徹な納得とは、
まったく異なる、あたたかさ。
前戯の一環としか見なさぬ他の客とも、
一線を画す、きまじめな鑑賞態度。
さあさあ「そんなこと」はもういいから、
はやくこちらへおいで、と。
途中で手招きをされる場合もあれば。
辛抱たまらなくなって、
まだ舞い終えぬうちに抱きついてくることも、しばしば。
いずれ遊女の習いおぼえる舞などというものは、元来。
男の劣情を煽るための「技」のひとつであり。
その点で言えば彼女の舞は、
本来の目的を十二分に果たしてはいた、とはいえ。
「そんなこと」のために、ひたすら費やした時間、労力、
血と汗と涙、それらを少しでも、思いやってくれる、
誰かが、いたら。
誰か、ひとりだけでも、いてくれたなら、と。
心の底で渇望していたことに。
旦那様と出会って、初めて自覚した。
自覚したことは、他にもある。
無力で哀れでいたいけな少女を、
旦那様の前でことさら演じる必要など、なかった。
素の自分そのままが、
実は無力で哀れで、いたいけだった。
旦那様の、前でだったら。
素の自分のままでいても、傷つけられる心配は、
ないのだった。
舞や歌を披露し、飲食を共にし、
幾度も歓談を重ねる内。
旦那様の、悲しい思い出話を、聞いた。
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