天下の猛将が深窓の貴族令嬢に恋をし、娶った後に訪れる悲劇。
001*ガーネット〔001〕
その娘を彼が見初めたのは彼が軍学校を卒業し、
近衛兵として舞踏会の警護にあたった時。
彼女はその夜、
社交界へ晴れて羽ばたく、
きらびやかな娘たちのなかに、いた。
うす紅の衣装に包まれ。
肌もまた、うす紅の光を帯び。
瞳は薄いスミレ色。
波うつ淡い金髪をふわりと結い上げ。
衣を透かして内側から光を放っていた。
彼の目には、そう映った。
そして彼の魂には。
彼女の残像が刻みつけられたのだった。
彼は破竹の勢いで出世を遂げた。
厳格な軍人の家系に生まれ。
軍学校時代には反発もし。
悪友たちと徒党を組んでは、
放蕩の日々を送ったことも、あった。
近衛兵として城に出仕したとて、
職務にさほどの情熱を持っていたのでもなく。
定められた軌道を巡る、退屈な星のような人生と、
なかばあきらめ、
投げやりな気持ちでいたのだった、が。
十四やそこらの少女が、彼を激変させた。
十四やそこらの少女はしかし、
全身から放つ柔和な光で彼を照らし、
しかも由緒正しき貴族の血を、受け継いでいた。
彼は近衛隊を辞した。
城に出仕していれば、
彼女を眺めることなら、できた。
ただ、遠くから眺めることならば。
けれど。
彼は、
ただ眺めるだけでは満足できなかったのだ。
近衛隊を辞し、最前線に赴き。
幾度となく死地へとみずから飛び込んでは、
そのたびに切り抜けてきた。
敵を威圧し、仲間を鼓舞し。
知恵と勇気をふりしぼり。
持てるあらゆる能力を駆使して。
出世して、彼女を手に入れるか。
さもなくば、戦場でのたれ死ぬか。
彼女を手に入れられないのなら、どのみち。
この命など、
あらかじめ失われているようなもの。
どんな苦境も、逆境も。
不敵な笑みで立ち向かう彼は、仲間の尊敬を集め。
仲間はいつしか、忠実なる配下となり。
彼の名は国の内外に轟き。
いまや、生きながらの伝説に。
国王の覚えも目出度く、
褒美をとらす、と直接お言葉を賜った時。
彼は初恋の娘を所望した。
こうして娘は、彼の妻となった。
彼は、娘を手に入れた。
誰の目にも、そう映った。だが実際は。
彼に所有された娘は、もう三年も昔から。
彼を、虜にしていたのだった。
彼の眼前に妻として佇む彼女は。
十七になり、
少女めいた清らかさはそのままに、
手足がすらりと伸び、
表情にも物腰にも大人の気品が加わり。
彼女を柔かく包み込んでいた光は輝きを増し。
微細な針のように彼をちくちくと苛む。
今さらながら、彼はおのれを恥じる。
強引な手段で、略奪するように連れて来てしまった。
彼女の意思など、お構いなしで。
彼女はおれを、どう思っているのだろう。
かつてない恐怖に背筋が凍りつく。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。