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百年リセット

作者:桶乃弥
 画面に映し出されたオープニング。あの男性の笑顔と声に惹き込まれ、私は何度この映像を見ただろうか。二十六歳独身、彼氏に振られて数ヶ月のOLが、部屋で寂しくケータイの恋愛ゲームに興じる姿など、誰にも見せたくない滑稽な姿だ。

 でも、私は彼に恋をした。

 ゲームは一人の女性が様々な男性と出会い、やがて誰かと結婚すればクリア。意中の彼はゲームの中の私が二十歳になると登場する隠しキャラだ。始めから登場する男性キャラとは違って、攻略サイトでも彼の素性は謎だらけ。その彼と結婚する為には、とにかく親交を深める事が必要だった。

 私が初めてこのゲームを始めた時だ。何の予備知識も無く、主人公の幼馴染である男の子と親交を深めて行く中で、ひょんなことから彼が登場したのだ。その出会いは衝撃的だった。その時の胸を締め付けられた想いは今も鮮明に覚えている。現実主義だったはずの私が「こういう世界もアリだ」と、その恋心を受け止めたほどだ。

 ……ただ、ゲームのクセにやけにリアルを突き付ける。その彼との恋は成就せず、私は幼馴染と二十一歳で結婚することになった。ゲームは結婚イベントに突入。それは男性キャラがプレイヤーの父親に、「娘さんを僕に下さい」と言う、どこか古風な、でも決して避けて通れないワンシーンにスポットがあてられている。このゲームの最大の見せ場でもあるのだ。

 本来ならばそれでハッピーエンドなのだろう。祝福のエンディングテーマがスピーカーから鳴り響く。でも私は全然ハッピーでは無かった。好きでもない幼馴染と結婚。こんなのまるで政略結婚みたいだ。何としても意中の彼と結ばれたい。その日から私の恋模様はエスカレートしていくのだった。

 二度目の挑戦は二十二歳で結婚。相手はやっぱり幼馴染だった。正直、このゲームがそういう仕様なのかと疑うほど、幼馴染との親交は簡単に深まっていく。虚しく響く祝福のエンディングテーマを遮るように私は息をついた。こんなに深いため息は職場だけで十分だ。

 そこで三度目は幼馴染からの誘いを極力拒否してみた。その表情や声色や態度から、あからさまに私に対する好意丸出しの幼馴染。そんなどこか子供っぽい幼馴染のデートの誘いをことごとく断り続ける。冷たい私の態度に寂しそうな顔をする幼馴染。罪悪感と共に、私の中に眠っていたSっ気を思い知ることになる。

 幼馴染からの猛アタックをちぎっては投げ、やがてバイト先で知り合った妻子有る男性と恋に堕ち、ドロドロの不倫関係の末破局。傷心の私に手を差し伸べてきたのは幼馴染だった。その永久の想いに根負けした私は三十一歳で結婚してしまう。正直、ここまで来ると幼馴染の存在が面白くて仕方ない。

 縮まらない彼との距離どころか、再会すら出来ない仕打ち。何度もやめようと思ったある日奇跡が起きた。初めて彼からデートの誘いを受けたのだ。そこからはトントン拍子だった。一気に彼との関係は親密になっていく。ジェラシー全開の幼馴染との三角関係もどうにか振り切り、現実の私と同じ二十六歳で彼からついにプロポーズを受けたのだった。

 彼との結婚イベント。私は一番お気に入りの真っ白な洋服に身を包み、この素晴らしき門出をささやかに祝う。意中の彼が私の実家にやって来た。高揚感が止まらない。父親の前で彼はあの美しく痺れる声でその台詞を言った。

「娘さんを……。僕に下ちゃい!」

 一瞬、耳を疑った。彼は「下さい」と言ったつもりなのだろう。でも、私にはハッキリとそう聞こえた。

「どうしてこんな大事な台詞を録り直さないの!」

 混乱する私に追い打ちをかけるかのように、父はキッパリと彼に言う。

「娘はやらん! 出ていけ!」

 父は彼を家から追い出した。彼はそのまま振り返ることなく私の前から去っていく。ますます混乱する私。展開が止められない。どうして? なんで? 意気消沈し、独り涙ぐむ私にそっとハンカチを差し出したのは幼馴染。

「ありがとう。私やっと気づいた。本当の私をちゃんと見ていてくれたのは、あなただ……」

 パタンと閉じたケータイを最後に、私の百年の恋は幕を閉じた。
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