9.大沢たかし− 卒業
9.卒業− 大沢たかし
彼女に励まされた 恋に正解はない と
俺の恋も 成就を夢見て何も悪い事などない と
同性に恋をする それは確かに普通の恋路とは異なり
明らかにマイノリティーとしてのイバラの道がまっている
それでも 今 俺は宏という存在以外を
心の中に描く事ができない
それぞれの進路が定まった時 それは卒業という別れの時の
訪れを意味していた
彼女は希望通りのデザイン科のある短大へと入学を決めた
宏は入院中の母親を気遣ってか
当初希望していた授業料の高い私大を諦め
横浜郊外にある国立大の建築学科に合格した
俺は医学部の不合格をうけ 急遽2次募集の法学部を受験し
某国立大学に入学を決めた
そして迎えた卒業式
穏やかに広がる青い空に 桜の花が散る
同級生や後輩たちに取り囲まれて
学ランのボタンをねこそぎもぎ取られた
見回せば 宏もまた同様に女子たちの黒だかりの中で
困惑したような笑顔でこちらを見ていた
逃げよう
そう目で訴えた
このままでは中に着たワイシャツのボタンまで
引きちぎられそうな気配にさすがに恐怖を感じていた
宏もまた同様であったのだろう
俺の目線に頷くと 周囲の女生徒を気遣いながらも
人垣を掻き分けて逃げ出した
二人 かなりの速さで走って校舎の裏手へと逃げ込んだ
さすがにもう誰も後を追ってはこなかった
はぁはぁと息をきらした宏が桜の木に手をついた
花びらがはらはらと宏の上にも舞い散った
桜の精のようだと思った
抱き締めたい ふとこみ上げてくる衝動に身震いした
お互いの手に握られている卒業証書の筒だけが
今日が本当に最期の日なのだと俺に訴えている
変わらず いつまでも続いてゆくと信じて疑わなかった日々も
こうして何かしらの終止符はうたれてゆく
友情が終わるわけじゃない
一生の別れなわけじゃない
二度と会えなくなるワケでもなし
それでも
今日を逃したら
一生 そのチャンスは巡ってこないような
そんな思いに取り憑かれていた
俺は 宏の手をとり引き寄せた
拒まれれば そのまま玉砕してもいいと思った
重ねた唇は柔らかく 甘かった
どういうつもりだと俺を睨んだ宏の瞳が潤んでいた
その瞳には 必死の形相の俺が映りこんでいた
離したくないのだ
このまま抱き締めたまま連れ去りたいのだ
誰にも渡したくない
今ここで俺だけのものにしたい
そんな必死の思いが俺の瞳に熱い怪しい炎を灯していた
「はなして・・・離せよ 大沢っ!」
「イヤだ」
「何のつもりなんだ・・・一体・・・」
「お前が好きだ」
「なっ・・・・」
「お前がずっと好きだった 寺山の・・・宏の事だけを見つめて
高校の3年間を過ごしてきた 宏の事が・・・好きなんだ」
「お・・大沢・・・」
宏の身体から抗う力が抜けた
一層強く抱き締めたら 俺の腕の中で小さなため息が零れた
「・・・・大沢・・・」
小さくつぶやく彼の唇を再び奪った
宏のくったりと力の抜けた身体を抱き締めて
深い口づけに夢中になった
抱き締めた胸元が熱かった
ボタンを全て失った学ランは前立てがはだけ
下に着たシャツの薄い生地越しに宏の胸のささやかな突起が見える
思わず 指先でその小さな尖りに触れた
宏の身体がぴくりと震え 重ねた唇が小さく喘いで開かれた
「やっ・・・やめっ・・お大沢・・いやだ・・」
言葉とは裏腹に 崩れ落ちそうに俺にしがみついてくる宏が愛おしかった
抱き止めて桜の樹に宏の背を押し当てた
そのままその白い首筋に唇を這わせ
シャツのボタンを外していった
露わになった胸元に可憐な花の蕾のようにうっすらと紅く色づいた
胸の突起が震えていた
口づけて 舌で転がすように弄ぶと宏の口から甘い吐息が漏れた
もう止められない
身体を起こし 宏を抱き締め直すとその耳元に囁いた
「抱かせて・・・・」
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