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青春という名の日々に
作:tensuke



8.私− そして卒業


8.私− そして卒業

修学旅行から戻って2日目に 私は大沢少年と二人で話をした
放課後 宏が部活の最期の引継ぎがあると教室を出て行った後
私は大沢少年に呼び止められ そのまま人気のない理科準備室へと
いざなわれ 周囲に人影のない事を確認し
さらに 声をひそめた大沢少年から「秘密」の続きを告白された

自分の胸の内だけに留めてはおけない程に
大沢少年の中で宏の存在は更に大きくなり 苦しくてならないのだという
そして 私の画策のおかげで勝ち得た 三泊四日の「同室」は
苦行以外の何物でもなかったと
これは少し抗議めいた口調で打ち明けられた

私には正直あまりぴんと来ない話であり
よかれと思ってした事に 非難めいた言葉を向けられたのがやや
納得のいかない程だった

大沢少年は私に神妙な顔で訴えた
自分は寺山宏を一人の親しい友人としての存在以外に
たまらなく性欲を刺激される対象として見てしまう事が止められない
こんな自分は異常なのではないだろうか
可愛らしい女生徒よりも誰よりも
寺山宏が可愛く思えてならず またその思いは募るばかりなのだと

私はしばらく考えたのち ごくごく当たり前の返答をした
好きになってしまう事に理由などないのだと思う
相手が異性であろうと同性であろうと
この際 大きな問題ではないのではないか
もちろん マイノリティーで在ることは否めないが
本人が覚悟を持って望むなら
恋に正解も不正解もないのではないか
そのような事を言ったと思う

大沢少年はほっと小さなため息をついたのち
私と友人になれて本当によかったとつぶやいた
異性である私とこそ友情を育み
同性の宏につらい恋心を抱いてしまったこの少年に
私はいくばくかの同情めいた思いも感じていた
その一方で
私ははてしない好奇心にそそのかされていた

このまま この二人が想い合う日がやってくるのかどうか

その日以来
私はあらためて 18年間近しくあった幼馴染みを観察し直してみた
寺山宏 性別 男 年齢18歳
身長180センチ 体重60キロ
一見 華奢な程細く見えるが 実のところ意外にもしっかりとした
美しい筋肉に覆われたバランスの良い体格をしている
小さな顔に細く長い首 そして長い手足でスタイルが良い
水泳が得意だ
それは優雅な美しいフォームで泳ぐ
顔立ちは どこか古風な美人女優を思わせるような
長い睫に縁取られた大きな瞳が印象的な美形である
少しぽってりと厚い唇が ほのかな色香を匂わせる

女生徒たちは宏の事を 少女漫画から抜け出してきたようだと言う
優しい性格が表れる静かに穏やかな笑顔は
くっきりと深い笑窪を刻み 人懐こい雰囲気をかもす
その一方で ちらりと視線を移すその瞬間に
たまらなく淫猥な艶めいた色気をふりまく事がある

案外 女生徒たちのみならず 男子生徒の中にも大沢少年同様に
宏の容姿とその垂れ流しのフェロモンに陥落している者がいるのかもしれない
そんな事に思い至った
幼馴染みであり あまりにも近くにいすぎたせいで
気づかずにきた宏のあまりにも無防備に垂れ流されている色気に
今更ながらに目が覚めた思いがした

大沢少年が 宏と枕を並べて安眠できなかった理由が
ようやく私にも少し理解できてきた

宏本人には何の意識も意図もなく
ただただ天然と思われる屈託のなさで周囲を戸惑わせる
大沢少年の嘆いた 悪魔的だの魔性だのといった言葉たちが
ようやく私にも少し理解できてきた

ようやく
そう すべてがようやく
それでも まだまだ 私には他人事であり
好奇心と興味のある対象でしかなかった
大沢少年と寺山宏
どちらが最初の一歩を踏み出すのだろうか
それとも どちらかが先に逃げ出すのだろうか

私は ただ その結末が知りたいと強烈に思っていた
残された日々は多くはなく
桜はあっというまに散り
受験対策クラス編成になった3年の新学期
私たちはそれぞれ別々のクラスになっていた

私は 二人と過ごす時間が少なくなっていった
それでも 放課後にはともに図書館へとむかい
それぞれの参考書と格闘して過ごしたりした
時折 大沢少年に その後何か進展はあったのかと
小声で尋ねてみても
その都度 彼の哀しげに首を横にふる仕草が痛々しかった

宏に
私が宏に「大沢君の事 どう思っているの?」と
そう切り出せばよいのだろうか?
「あんたはその気はないの?」とせっつけばよいのだろうか?
そんな私の素朴な思いつきに
大沢少年は激しく動揺した様子できつい調子で応えた
どうか そんな事だけはしてくれるな と
いつかきっと 自分できちんと決着をつけてみせるから
そう言って 大沢少年は静かに微笑んで見せた

いつしか 私のスケッチブックには
習作と題された 宏と大沢少年のデッサンばかりが溜まっていった
卒業 という別れの季節が迫っていた












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