7.大沢たかし 月夜に
7.大沢たかし 月夜に
京都の月夜を見上げていた
ホテルの窓は小さい
高校生が大挙して逗留できるようなホテルはさして多くはない
それはそう大きくもないビジネスホテル
駅から近いのだけが取り柄だろう
ツインといっても 狭い部屋にベッドがぎゅうぎゅうに二つ
トイレも一緒のユニットバス
旅行の荷物をほどくスペースもない程の部屋で
俺と宏はそれぞれのベッドの上にいた
窓際のベッドに陣取った俺は ベッドに腰掛けて窓から見える月を見上げていた
宏はシャワーをつかう準備をして ベッドを降りていった
ほどなく シャワーの音が響いてきた
いやでも脳裏に宏の裸身がよぎってしまう
今 あの扉を開けて押し入ったら 宏はどうするだろうか
押し入って その白く滑らかな肌を抱き締めて
触れたい
触れたい
この手で・・・・・触れてみたい
身体の中心に全身の血液が集まるような熱を感じていた
「大沢ぁ〜 お先に シャワーどーぞー」
「あっ・・ああ・・・ありがとう」
そそくさと着替えを掴むと宏と入れ違いにバスルームに入った
すれ違う時に 濡れ髪から甘い香りが零れた
目眩がした
短パンに素足 上半身にはバスタオルをはおっただけの姿
頭からかぶったそのタオルで濡れ髪を拭いている
ベッドに腰を下ろした宏と視線が絡む
「なに?大沢・・・・」
「いや・・・なんでもない・・シャワーもらう」
「ん」
そんなに無防備な顔を見せないでくれ
そんなに無防備に俺を誘惑しないでくれ
お前の身体からは蜜の香りがする 匂い立つような色気に目が眩む
同性の裸身にこんなに困惑するなんて
頭がくらくらする
俺は冷ための湯を頭からかぶった
バスルームから出た時
宏はベッドカバーもはがさないままに 大の字に寝ころび
すぅすぅと穏やかな寝息をたてていた
俺はその傍らにしばし立ち尽くしていた
綺麗な寝顔だと思った
長い睫が白い頬に淡い影を落とし
細い鼻梁に続くふっくらと紅い唇がうっすらと開いている
禁断の果実だ そう思った
部屋の電気を落とすと 宏の足元からベッドカバーをめくると
そっと肩までひきあげてやった
小さな伸びをしながら むにゃむにゃと寝ぼけた声が聞こえた
可愛い
押さえきれない衝動に突き動かされて 俺はそっと顔を寄せた
唇が重なる瞬間 身体に電気が走った気がした
柔らかくて 甘い唇だった
天使のような寝顔なのに その魔性の罠にどっぷりとハマッた
俺はもう逃れられない
逃れようとも思わない
一生 この美しくも妖しい生き物の虜なのだ
三泊四日 後にも先にも 俺が妖しい衝動に負けたのは
この一回きりだった
けれど
そのかわり 俺は最終日まで眠れぬ夜を過ごし
帰りの新幹線は 宏の肩にもたれて爆睡するという醜態をさらした
ヨダレを垂らさなかったのがせめてもの救いだ
この旅行で 宏の甘い香りが
彼の愛用のボディクリームの香りだと初めて知った
乾燥肌なんだ そういっていたっけ
鼻をくすぐる甘い香り
ある意味トラウマになるな
これから先ずっと この香りを嗅ぐと 犬のように俺は
反射的に宏を想いだし そして全身の血が滾るのだ・・・・
修学旅行 甘く切ない青春の想い出になる日がくるのだろうか
悪魔に魅入られた想い出だ
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