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青春という名の日々に
作:tensuke



5.私−彼ら 高校の3年間


5.私−彼ら 高校の3年間

大沢少年がマウンドに立つとギャラリーから黄色い声援がとぶ
グラウンドを取り囲むフェンスの金網に すがるように集まった女生徒たち
私もその中の一人として 彼の雄姿に熱い視線を送っていた
それが抱えたスケッチブックに彼の姿をとらえる為であったとしても
私もまた彼を好ましく思い 憧れに似た気持ちでいた事に間違いはなく
当然のように 周囲の友人に誘われるがままに
その年のバレンタインデー
私は 大沢少年のためのチョコレートを選んだ
高校1年の春だった

季節はめぐり かわらぬ毎日をすごしながらも確実に時間は過ぎていった
私たちは高校2年の新学期 3人が同じクラスになった
大沢少年の堪えきれずに溢れる嬉しそうな笑顔が眩しかった
担任教諭の「好きな場所に座って良い」という言葉が終わらないうちに
大沢少年は宏の隣の席に陣取っていた

多くの女生徒たちが大沢少年の近くに座席をとりたがり
私もまた 皆にまざって その席のためのあみだくじに参加した
宏はただニコニコとそんな大騒ぎを静かに見つめていた

その年の夏 
夏休みに入ると同時に宏の両親が離婚した
宏が高校に入学してすぐ 地方へ単身赴任となっていた父親が
若い愛人と暮らし始めていたことが原因だった
宏は沈みがちな母親を気遣って 随分と明るく振る舞っていた
予てから出張だの何だのと家をあけている事の多かった父親だから
いなくなったところで今更寂しくもない
そう言って 宏は心配する私たちにも笑顔を見せた

しかし 実際の所 宏もまた深く傷つき悩んでいたのだろうと思う
宏の母親は離婚後半年で身体を壊し 入院した
父親側に一方的な非のある離婚であったため
宏と母親には十分な慰謝料と養育費が支払われていた
母は与えられた養生の場で十分な治療を受ける事ができた

実質 一人暮らしになってしまった宏を心配した私の両親は
時間を作っては宏の母を見舞い 宏の世話をかってでていた
さすがに同居する事にまでは首をたてに振らなかった宏も
できる限りは自分一人でやってゆきたいと思うが
厚意はありがたく頂いて お世話になりますと深々と頭をさげた

宏の母の病状は一進一退をくりかえし
そうするうちに 鬱病を併発するに至り 医師の説明によれば
自殺の恐れがあるため 退院させる事はできない との事だった
 
夏休み中はほぼ毎日のように そして新学期が始まってからも
放課後 宏に付き添い 私と大沢少年はよく宏の母親の見舞いに行った
私たちの顔を見ると 彼女は嬉しそうに昔と変わらぬ穏やかな
優しく美しい笑顔を見せた

いつの頃からだろうか
宏は ただ静かに周囲を観察する 口数の少ない少年になっていた
どこか達観したような 年齢よりも大人びて見える少年に・・・

宏の母親が入院した年の秋 私たちは京都と奈良へ修学旅行へ行った
これが終わってしまうと あとはもう大学受験にむけて
本格的な勉強勉強の日々がやってくる
私たちは 高校生活最期となるイベントを楽しみにしていた

京都・奈良ともに観光名所といわれる場所を巡った
事前に構成されたグループごとに 私たちは寺や茶屋をきままに廻った
大沢は常に宏の傍らにあり 穏やかな笑顔で宏を見つめていた
母親に土産を選ぶという宏に付き合って
私たちは小さな土産物屋に足をとめた
可愛らしい布で作られた小物達が出迎えてくれた

宏は自分の母親と 私の母にもお揃いで可愛いがま口を買ってくれた
二人の母に育てられているようなものだからと照れくさそうに笑った
そして 自分のために小さな練りリップクリームを買っていた
大沢が不思議そうにそのリップを手にとって眺めているのを
宏は可笑しそうにニコニコと見つめていた

宏は大沢のどことなく真面目で朴訥とした所を面白がっている節がある
大沢の方でも 宏にかまわれるのはイヤでもないらしく
いつも何を言われてもおとなしく受け止めていた

私は 時折この大沢少年と共有しているはずの「秘密」を忘れそうになる
それ程に 普段の大沢少年はいたってあたりまえに
ごくごく自然にあたりまえに宏の傍らに存在し
ただただ仲の良い親友同士にしか見えなかった

大沢が宏に恋をしている
私はその秘密を知っている
そして 大沢のために 二人の距離が縮まるようにと友人の輪を広げた
共犯者?協力者?
私は就学旅行の企画実行部にも立候補した
二人の宿泊部屋を同室にするよう画策するためだった
そして見事 私は 京都も奈良も 宿泊するホテルでの
ツインルームを 大沢・寺山同室にと裏工作に成功していた

「大沢君・・・・」
「なに?」
「この借りはしっかり返してもらいますよぉ〜」
「・・えっ?」
「同室にしてあげたんだからね・・・とぼけないでよ」
「あ・・・そうだったんだ・・・やけにくじ運がいいなぁって思ってた」
「単純なんだから・・・いつもながら で 宏にはナイショだから」
「うん ありがとう」
「あした どこかのお茶屋さんでご馳走してね(笑)」
「わかった」
「でも・・・襲ったりして嫌われないようにね(笑)」
「おっ・・おそったりしないよ・・・たぶん」
「たぶん」
「うん・・・努力する」
「ははは(笑)」

私は実のところ この時 少年が少年に恋する心理をあまり深く考えていなかった
二人がどうこうなる などというイメージさえ浮かばずにいた
ただ もし自分が好きな人と同室だったら嬉しいだろうなぁ・・・
そういった 実に子供じみた単純な思いのみが心にあったように思う
だから
そんな私の余計なお世話が 大沢少年の心を大いに揺さぶり悩ませ苦しませる事に
なろうとは 思いもよらない事だった
三泊四日の旅は 大沢にとって まさに据え膳おあずけ状態だったワケで
17歳の少年には過酷な試練だったに違いない
残念な事に 後にも先にも 私はこの時の話を大沢少年から聞く事はなかった
宏もまた 何も語らず
おそらくは 何事もなく 大沢少年ただ一人を眠れぬ夜に縛り付けた旅であった












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