4.恋する事 愛する事 求める事
4.恋する事 愛する事 求める事
都内のそこそこ名の通った進学校だった
私は宏にひきずられるようにして いや ひっぱってもらいながら
中学3年の夏から本腰を入れたという遅いスタートにも係わらず
その文武両道を校訓とする歴史在る高校への入学を果たした
宏は目立つ程の成績を納めないかわりに
まんべんなく そつなく全ての教科を平均点以上の成績ですごすという
不思議な特技を持っていた
そして何よりも 試験の山かけが奇跡のようにうまかった
私の高校入試も前日に宏から示された予想問題が
見事に当日の問題用紙に踊っていた事が勝因であった
私はそもそも学業はごくごく普通の生徒であり
また 有名大学への進学を希望する生徒でもなかった
唯一進路の希望があるとすれば
好きな絵を描ける美術系の学校へ進みたいと秘かに思っていた
しかしそれも将来の展望などひらかれるたちのものでもなく
女子の美術屋などというものは
つぶしもきかなければ 職もないのが現実であり
私も結局は就職のありそうなデザイン系の学校へと目標を定めた
高校入学とほぼ同時に 3年後の進路を決めさせられるのも
この進学校の特徴でもあった
そして同時に 生徒達は何かしらのクラブ活動への参加が義務づけられており
文化系・運動系にかかわらず それらは 授業の単位と同等の評価が下された
その分 授業はそれぞれの生徒の希望する進路にそってすすめられ
きめ細かい指導もあり 例年 卒業生たちは華々しい結果を残していった
私は正直なところ
この学校が自分にとって相応しくない場所のように感じていた
芳しくない成績を自覚していた事もあり
宏がいなければ 不登校の生徒になっていたかもしれない
毎朝 にこやかに登校を促しにやってくる宏に連れられて
私は 毎日重い足をひきずって登校していた
そんな私が 学校を楽しいと思うきっかけになったのが
かの 野球部主将の大沢たかし少年であった
所属する美術部の同級生に誘われて見学に行ったグラウンドで
私は一目みるなり 彼の 大沢少年の姿に心を奪われていた
それは私のキャンパスに描かれる彫像たちをしのぐ
均整のとれた美しい筋肉に覆われた肢体
そして 不思議な力を宿した切れ長な黒い瞳
きりりと結ばれた形のよい薄い唇
私は頭の中に一瞬のうちに彼の姿を写し取っていた
その日の帰り道 私は宏に大沢少年の事を夢中で語った
宏は静かな微笑みを浮かべたまま 私の興奮がおさまるまで
じっとその話に耳を傾けていてくれた
結局 私は友人たちと共に大沢少年の大いなるファンになったのだと
宏に熱く訴え それは家の前に辿りついても尚語り尽くせず
私は宏の腕をひっぱって家へと引きずり込み
晩ご飯を共にする事を強要し 食事が終わるまでしゃべり続けた
呆れたように肩をそびやかす母親とは対照的に
宏はそれでもイヤな顔一つみせずに 時折ニコニコと頷きながら
私の話を最期までちゃんと聞いてくれた
幼馴染み
そんな響きは正直ぴんとこない
お互いに一人っ子だった事もあり 私と宏はまるで双子のようだ
両方の親も そのどちらかが家にいればよいとまで思っているふしもある程
どちらの家で 何をしようと何も言われなかった
そして 食事もまた どちらの家ですませようと何も言われず ただ歓迎された
宏の両親は女の子が欲しかったといい 私を可愛がり
私の両親もまた男の子が欲しかったといい 宏を可愛がった
お互いの初恋の話も語り合った事があった
宏は中学の同級生で おとなしくて可愛らしい女の子に恋をした
私はこっそり二人の仲をとりもとうと画策してみたが
残念な事に宏の恋は実らなかった
彼女の答えは 宏君は優しすぎるから という不思議なものだった
私の初恋は小学校6年生の時だった
新学期にやってきた転校生に恋をした
しかし彼は夏休みが終わる頃にはまた別の学校へと転校していった
宏は夏休みの間中 私とその少年を誘ってプールへと出かけた
一緒にくたくたになるまで遊び スイカを食べて 花火をした
幼い恋は楽しいばかりの想い出になった
そして今 宏は私ににっこり言った
「大沢君はホントに格好いいよね 絵のモデルにはもってこいだ」
宏は私の想いが恋ではないと知っていたのだと思う
憧れと恋は微妙に違う
お気に入りと恋もまた少し違う
好き は好きでも 犬も好き 猫も好き お花もチョコも 彼も好き
私の呑気な想いは宏にはお見通しだったようだ
そしてくだんのバレンタイン
私は友人たちの勢いに飲まれて その場の雰囲気にのせられて
大沢少年へのチョコレートを調達した
思いもしない展開がまっていようとは 夢にも知らずに・・・
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