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青春という名の日々に
作:tensuke



23.大沢たかし−生還


23.大沢たかし −生還

面会時間を過ぎた病院の中は静かだった
特別に入れてもらった大沢の個室で 宏はベッドの傍らに椅子を置き腰掛けていた
眠り続ける大沢の顔を見つめていた
今はもう痛々しい包帯も 沢山のチューブも繋がれていない
ただ そこに横たわり静かに眠り続ける大沢の姿があった

宏は大沢の手をとるといつものように指の爪を切り始めた
一人 誰にともなく 聞く人もいないはずの部屋の中でぽつりぽつりと
自分の心のうちを語りながら爪を切った

「俺は・・・結局何も判ってなかったって事だよな・・・・仕事の事も 自分の事も
気づかないフリして過ごしてきたって事なんだ・・・・ずるかったな
大沢がいてくれるのだって 当たり前に思ってて
いつでもこの手を差しのばしてくれてるって甘えてたんだよな
いざ その手をとろうって思った時には遅かった・・・・
俺 大沢に伝えてないんだよな・・・・好きだよ・・・とってもとっても
いてくれるのが当たり前だと思ってた
いなくなるなんて考えた事もなかった
でも
生きてこうしてここにいてくれるだけでもいい
お前が死んでしまわなくて本当によかった・・・・好きだよ・・大沢・・・」

宏はちいさく呟きながら握りしめていた大沢の手の指先にそっと口づけた
「疲れたな・・・・寂しい時って何かしてないともたなくて・・・
がむしゃらに働いてみたんだ でもダメだった
さっきある人からも言われたんだ 自分にちゃんと向き合わなくちゃダメだって
大沢もずっと俺にそう言ってたんだよな・・・・自分に正直に生きるって事
簡単そうで難しくて でもやっぱり一番大切な事なんだよな・・・・
疲れたんだ・・・明日から・・・明日からまた頑張るから 今日はもう
弱虫な俺のままで許して・・・ごめんな 大沢・・・・」

宏は大沢の手を握りしめたままそのベッドに頭をのせた
椅子に腰掛けたままベッドに顔をふせ 間もなく宏は静かな寝息を立て始めていた

病室の薄いカーテン越しに朝日が眩しかった
ベッドにつっぷしたまま眠り込んでしまった宏は 後頭部に優しく触れる何かの感触に
穏やかな気分で目を覚ました
「んん〜っ・・・いっけねぇ・・・寝ちゃった・・・っあっ!」
「おはよう 宏」
「・・・・・・・!!」

宏の髪をやさしく撫でていたのは ベッドに横たわった大沢の手であった
優しい笑顔で目を細めて宏を見つめる大沢の姿に
宏は我が目を疑った
しばらくの間 まだ自分は夢の中にいるのかとさえ思った

大沢が目を覚ました
宏は声もなく 大沢の顔を見つめていた

我に返ってナースコールをしたのは それからどれ位の時間がたってからだったろうか
駆け付けた医師とナースたちによって大沢はすぐに検査室へと連れ去られてしまった
宏はただ呆然と病室に残された

ようやく気持ちが落ち着いてきて初めて 宏は幼馴染みの携帯へメールをいれた
「大沢が目を覚ました」たったそれだけの短いメールだった
宏は大沢が検査を終えて病室へ戻るまで 椅子に座って待ち続けた
飼い慣らされた犬のように ただ静かに座り続けていた

驚いた事に 大沢は検査から車椅子にも乗らず 医師達に支えられてはいたが
しっかりとした足取りで 病室へと戻ってきた
そして 宏の顔を見ると顔中に華やかな笑顔を見せた
「・・・宏・・・」
「大沢っ!」
言葉が見つからず 宏はただ大沢の手をとった
蕩けるような優しい笑顔で大沢がそれに答えて宏の手をきゅっと握りかえした

医師達が一通りの検査と処置を終え病室を出て行くと
宏に向かって大沢はしっかりとした声で言った
「ずっと・・・ずっと夢を見ていたんだ 寺山の・・・宏の夢
もう一度必ず会える 会いたいってずっとずっと願ってた よかった 俺戻って来られた」
「ばか・・・・」
「三途の川ってホントにあるぞ 俺見てきたからなぁ・・・嘘じゃない
宏が反対岸から帰ってこい帰ってこいってしつこく叫んでたから仕方なく帰ってきた」
「ばぁか」
「もう少し 優しくしてくれ」
「バカ野郎」
「心配かけてすまなかった」
「大馬鹿野郎」 宏の声は少し震え 瞳は涙で滲んだ
「事故ったんだよな 俺・・・女の子は無事だったのかな・・・?」
「ああ・・・犬も女の子も擦り傷一つなかったよ」
「よかった・・・」
「お前は2年近く意識も戻らず タイムトラベルって気分だろ?」
「そんなにっ・・・・そうか・・・そうなのか・・・」
「でも・・・でも本当にヨカッタ お前が戻ってきてくれて・・・・」
「うん」
「大沢・・・」
「ん?」
「ちゃんと言うよ・・・俺・・・まだ大沢は俺の事想ってくれてるか?」
「・・・・・宏?」
「俺・・・大沢の事 大切に想ってる 好きだった ずっと
たぶん 高校の頃からずっと・・・・卒業式に素直になれなかった すまなかった」
「宏・・・・」 大沢の瞳が優しく細められる
「お前の爪・・・ずっと切ってやったんだぞ 俺の爪・・・キレイにしてくれよ・・・」
「おぅっ・・・・退院したら・・・俺がずっと切ってやる」
「うん」

覗き込むように顔を近づけた宏と受け止めるように微笑んだ大沢の
二人の唇がどちらからともなく静かに重なった
すれ違い 掛け違ってしまった時間を埋めるように
二人はお互いの唇を求め合った












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