21.寺山宏−素直になって 手をとって
21.寺山宏 −素直になって 手をとって
素直になれた そう思っていたのに
ようやく その差し伸べられた手をとって その思いに素直に応えられると思ったのに
神様は俺に今まで自分の心を偽り続けてきた罰を下したのか?
まだまだ苦しめというのか 悩めというのか そして俺から全てを奪うのか?
大沢が病院へ運ばれた
大学3年の夏だった
頭を強く打っており 意識不明の重体だった
バイクに乗った大沢の前を犬を追いかけた少女が横切ったのだ
少女を避けて大沢は転倒した 大学へ向かう途中だった
運ばれた病院で 大沢は手術を受けた
幸い 命は取り留めたが意識は戻らなかった
知らせを聞いて 宏は病院へと駆け付けた
ガラス越しに見える大沢は包帯だらけでいくつものチューブに繋がれ
まるで映画に出てくるモンスターのようだった
涙で曇る大沢の姿を 宏はただガラスに額を押しつけて見つめていた
集中治療室を出るのに1ヶ月を要した
その後 一般病棟に映ってからも 大沢の意識は戻らないままだった
大沢の入院後 宏は自分の母と大沢の二つの病院へ通い続けた
社会人になった幼馴染みの彼女もまた二つの病院をしばしば訪れた
大沢が運ばれてから10ヶ月以上が過ぎようとしていた
季節はめぐり 再び暑い夏が訪れようとしていた
「大沢君 顔色もよくて よく眠ってるって感じよね・・・・」
「ああ・・・・先生も どうして意識が戻らないのか判らないって言ってた」
「何かきっかけがあれば・・・・帰ってきてくれるのかしらね・・・大沢君」
「・・・・うん・・・・」
「宏は就職どうするの?もう4年の夏なのに」
「うん・・・建築士の資格は取ったんだ なんとか・・・でも
就職活動はすっかり出遅れちゃったからね・・・このまま今の事務所で
モデルの仕事をしていこうかと思ってるんだ」
「そうなの?」
「うん・・・最近 結構コンスタントに仕事も入るし CMとかの
大きな仕事も任せてもらえるようにもなってきたしね
面白くもなってきたんだ 正直さ 最初はなんだかなぁ・・って思ってたんだけど
大沢に背中押してもらったからかな・・・・・」
「大沢君に?」
「うん 事故の前にさ 会ったときに言われたんだ
お前がお前らしくいられる場所があるならそれが一番だな って」
「宏らしく・・・いられる場所?」
「うん・・・俺 自分の外見ってあんまり好きじゃなかったっていうか
あんまり意識した事なかったんだ でも それを好きって言ってくれる人がいて
俺が表現したものが何か人に伝えられたりするって凄いなって
単純にそんな仕事 なかなかないしなぁってさ
できる限りやってみようかと思うようになったんだ」
「そう・・・・応援するね きっと大沢君もそう思ってるよ」
「うん・・・だといいな」
「早く 目を覚ましてくれるといいね」
「うん・・・きっと きっと ああよく寝たってケロッと起きるよ・・きっと」
「そうだね・・・」
二人 そう言い合って そう信じたいという気持ちを肯定し合った
眠り続ける大沢と二人っきりになると 宏は大沢の手をとりその指の爪を切った
「こうして お前の爪切るの すっかり習慣になっちゃったな・・・
ホントはお前が俺の爪切ってくれるって言ってたのにな・・・・」
窓の外では セミが夏の終わりに最期の声を振り絞っていた
大沢の声がききたかった
その手で背中を叩いて欲しかった
その腕で抱き締めて欲しかった
今なら判る 自分の正直な気持ち
素直になれる
宏は大沢を必要だと感じていた そして誰よりも愛していると
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