19.私−気づかずにいた事
19.私ー気づかずにいたこと
大沢が画廊にやってきた
昨晩 宏が訪ねてきたという
詳しい様子を話そうとしない大沢だったが
それならなぜ私をわざわざ訪ねてきたのかと問えば
いつか 君の所へも宏が助けを求めてくるかもしれないから
その時には暖かく迎えてやって欲しい という
当たり前だ 言われなくてもそうする と応えると
安心したように微笑んで帰って行った
宏に何があったのか 私は知る術もない
大沢もまた実のところ 何も知ってはいないのだと思った
しかし 大沢の胸に宿る激しい怒りが手に取るように伝わった
おそらくは宏を傷つけた誰かを大沢は殺したい程憎んでいる
それでも 宏からそれが誰なのか
一体何があったのかを聞き出そうとはしない大沢
知らずにいる優しさもあるのだろうと思った
大沢は 全てを受け止める覚悟を決めたのだろう
そして私にも同様の優しさを持ち続けてくれと言いにきた
優しさ?
私の胸の中にある思いはそんな綺麗なものじゃない
私は大沢に淡い恋心を抱いていた
そしてその大沢が恋する宏をも 私は愛しく思っていた
そう
私は二人に恋して病まないのだ
二人の少年 今はもう立派な青年になった二人が
私の理想型であり 憧れであった
だから
私は二人を失いたくなく
二人を誰にも渡したくないのだ
それは醜い独占欲
はてしない執着心は私の心を暗く濁す
そのどちらをも選ぶ事もできなければ
おそらく
私が彼らのどちらかに選ばれる事もないのだろう
だから それならばいっそのこと
私は二人が上手くいけばいい そう思った
そうすれば 二人を誰かに奪われる事もなく
私は変わらず彼らの側にいられる
屈折した私の想い これも一つの恋の形
大沢の心の闇を覗いた時 自分の闇にも気がついた
恋に正解などないのだから
私の恋もまた一つの形
大沢にも宏にも 告げる事のない私の想い
私はいつか 二人とは違う誰かと家庭を築き子をもうけ
ごく普通の生活に幸せを見出してゆくだろう
そうする事で 絶対に叶う事のない恋を忘れていくのだ
そうしながら
きっと 死ぬまで私の心の片隅には
大沢と宏という二人の少年が住み続ける
手を伸ばせば届く距離にいるのに 絶対に届かない彼ら
二人の間にはどの位の距離があるのだろうか
大沢が高校の3年間をかけて出した結論に
宏はどう応えてゆくのだろう
私にできる事は これからもずっと
二人を見守ってゆくこと
それは 私の屈折した恋心と純粋な好奇心
いや 醜いあがきなのかもしれない
季節はめぐり 短大と言うところは入学した年と卒業する年しかない
よって 私は追い立てられるように就職活動をして
とある企業の広告デザインの仕事にありついた
宏の姿は相変わらず数々の雑誌でみかけ
最近ではテレビのCMも数本みかけるようになった
そんな宏の姿は どこか現実感に乏しく
自分のよく知る宏とは別人のように思えてならなかった
宏が私に助けを求めてやってくる事もなく
何事もなく 平和に ただ流れて時間が過ぎていった
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