17.大沢たかし ー再会
17.大沢たかし − 再会
その頃 大沢は不思議な胸騒ぎを覚えていた
何かざわざわと落ち着かない気分になり
一人大学のレポートに取り組んでいた部屋の窓から外を眺めていた
大学入学と同時に入居した一人暮らしのマンションは
狭いながらも快適に整えられ 好きで選んだ家具で揃えられていた
居心地の良いはずの部屋の中で
何が落ち着かない原因なのか 首をかしげた時
大沢の携帯が鳴った
着信番号に見覚えはなかった しかし迫る胸騒ぎに
慌てて電話に出ると声がうわずった「て・・寺山?宏か?」
大沢の声に 電話の向こうからはかすれた声がした
「お・・・大沢・・・助けて・・俺・・俺・・どうしたら・・・」
「宏?宏?今どこにいるんだ?」
「おまえんちに行こうとしたのに・・・・お前・・・いない・・・」
「一人暮らしをはじめたんだ 実家にはいない 俺の家に行ったのか?
今はどこにいるんだ?そこを動くなよ すぐ行くからっ!」
大沢は携帯と財布 家の鍵だけを掴みポケットにねじ込むと
部屋を飛び出した
行き先は実家の近くのコンビニ 宏が電話をかけてきた場所だ
バイクを飛ばして10分程でたどりついたコンビニの
駐車場の片隅に うずくまっている宏を見つけた
「宏っ!!」
「おおさわぁ・・・・」
「何も言わなくていい・・・行こう 歩けるか?」
「うん・・・」
「バイクの後ろ 乗れるか?ほんの10分 我慢できるか?」
「うん・・・」
おとなしく大沢に即されるままに宏はバイクの後部座席に跨った
「しっかりつかまってろよ」
「うん・・・」
宏にヘルメットを被せると 自分はノーヘルのままバイクを発進させた
大通りを避けて住宅街を抜けながら なるべく静かにバイクを走らせた
宏が弱っているらしいことはその姿を見つけた時に判った
ただ その理由は見当もつかなかった
しかし今はとにかく 大沢は宏を自分の部屋へと連れて帰りたかった
何かに追い立てられるように
何かから必死に逃れるように
大沢はバイクを走らせた
その背中から両腕を深く大沢の腰にまわし ヘルメット越しにその顔を
大沢の背中にすりつけるようにしがみついた宏は目を閉じていた
目を閉じてバイクに揺られるのは恐い
しかし 宏は今 大沢の背中のぬくもりに全ての神経を注いでいた
そうしないと疼く身体がバイクから振り落とされそうで
また すぐそばに まだ吉田の荒い息づかいが聞こえるようで
宏はきつく目を閉じて 先ほどまでの全てを脳裏から追い出そうとしていた
大沢に抱き取られるようにしてバイクを降りた時
宏は繋ぎ止めていた意識を手放した
ふらりと気を失って大沢の胸に倒れ込んだ
「宏っ!!」
大沢は気を失った宏を抱き上げると 部屋へと運び入れた
ヘルメットをとり 靴を脱がせ
宏をベッドの上に横たえた
苦しいかとゆるめたシャツの襟元から 宏の白いうなじにくっきりと刻まれた
薄紅色の痣が見えた
「・・・!・・・・」
それが何を意味するのか 大沢は瞬時に理解した
大きくため息をつくと 大沢は宏の肩口まで掛け布団を引き上げた
冷たい濡れタオルを宏の額にのせてやり
その手を握ったままベッドの傍らに座り込んで付き添った
長い睫が白い顔にくっきりと陰を落とし
閉じた瞼は泣きはらしたように紅く染まっている
何を堪えて噛み締めたのか 宏の唇の端が小さく切れて血が滲んでいた
何があったのだろうか
どうして自分の所へ宏はやってきたのだろうか
助けて
確かに宏はそう言った
何から逃れてきたのだろうか
知りたいという激しい欲求のすぐ傍らで 何も知りたくないと叫ぶ自分がいた
大沢は ただ宏の白い寝顔を見つめていた
|