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青春という名の日々に
作:tensuke



15.寺山宏ー知らない世界で


15.寺山宏 − 知らない世界で

大学に入ってしばらくした頃 ガールフレンドができた
好きです つきあってください
そんなストレートな告白をされて 宏は彼女を受け入れた

綺麗なロングヘアに黒く大きな瞳がクリクリと動く
どこか小動物のような可愛らしい少女だった
何も考えず 軽い気持ちでOKしていた

一緒に買い物をしたり 映画を見たり
食事をしたり 大学内でも一緒に勉強をしたりもした
ただ キスもセックスもしなかった
そういう欲求が不思議とおこらないのだった

ガールフレンドは宏の外見をいつも褒め 大好きだと言った
自分の外側だけが好かれているのだろうと感じていた
宏は自分が女生徒たちから人気があるのに反して
陰で男子生徒たちから良く思われていない事も感じていた
高校時代には向けられた事のない視線がつらかった
今更のように 幼馴染みと大沢と共にいた日々が懐かしく思えた
守られていたのかな とも思えた

ガールフレンドは宏の写真に履歴書を添えて
某雑誌でのオーディションに応募してしまった
話がとんとんと進み 気がつけばモデルという仕事を始めていた

自分の存在が初めてプロのカメラマンによって切り取られ
その姿が雑誌の誌面を飾った時
宏は不思議な思いに取り憑かれていた
意識した事もなかった自分という生き物の外見が
こんなふうに人の目には映っているのかと愕然とした

ポーズを決める事も 自分で表情を作る事もできない
素人の自分が ただそこに突っ立っているだけの自分が
こんな風にカメラマンの目には映っていたのか
これを見る人達にとって 寺山ヒロシ という存在は
この写真が全てなのか
空恐ろしい気すらした

しかし 病床の母に雑誌を見せたら とても喜んだ
その笑顔が嬉しくて 次の仕事も引き受けた
そうこうするうちに なぜかひっぱりだこの人気モデルの仲間入りをしていた
自分に自信はない その外見に拘りもなんの自覚もなかった
それなのに 周囲の人間たちはこぞって自分の外側を褒める
複雑な気分だった

ガールフレンドの態度も変わった
それまでの可愛らしい少女から 嫉妬深く疑い深い少女へと変貌した
結局 夏休みの終わりには別れが訪れていた
残ったのは 彼女がきっかけを作ってくれたモデルの仕事だけだった

離婚した父からの養育費や生活費は宏が大学に入学すると同時に途絶えていた
もう成人したものと見なされたのか 先方にも経済的な理由があるのか
母も宏も何も知らされる事はなかった
宏は 学費と生活保護だけではまかないきれないものを補うために
モデルの仕事をやめるワケにはいかなかった
正直 普通のアルバイトや肉体労働のバイトをした方がもっと
稼ぎはよかったかもしれない それでも 宏にも何某の責任感が芽生えており
現場で必要とされればモデルとしてできうる限りの事をしたいと思うようになっていた

その日も 雑誌のグラビアの撮影にかり出されていた
本当は同じ事務所に所属する宏よりも年長のモデルが参加するハズだったが
どういうワケかクライアントとカメラマンの強い希望により 
宏へとモデルが変更されていた
カメラマンは今 実力と人気ともに若手の頂点にたつ吉田という男だった
吉田は自らも俳優あがりという異端の経歴を持つカメラマンであり
その精悍で端正なマスクでビジュアル的にも注目を集めている存在であった
指定された撮影場所へと向かった宏はそこがいつもの現場とは
少し趣の違う場所である事にささやかな疑問を覚えた

それは 都内の高層マンションの一室であり
宏の他にモデルは一人もやってきていなかった
室内にはカメラマンが一人で待ちかまえていた

「おはようございます 寺山ヒロシです よろしくお願いします」
そういって頭を下げて部屋に入った宏をカメラマンが笑顔で迎えた
「やぁ ヒロシ君 初めまして 僕は今日撮影をさせてもらう吉田です」
「よろしくお願いします」
あらためて頭をさげた宏ひカメラマンの吉田はソファーをすすめた

「あの・・・メイクさんとか衣装さんたちスタッフのみなさんは・・・どちらに?」
宏の問いかけに 吉田はカメラの三脚をセットしながら答えた
「ああ・・・今日はね 僕が一人でさせてもらう事になってるんだ」
「・・・お・・お一人でですか?」
「ああ そう 僕一人で全部するから心配しないで」
「は・・・はい」

宏は落ち着かない気分でソファーに腰をおろした
高い天井いっぱいまでの大きなガラス窓の外には都心の大パノラマが広がっている
天気の良い空が青く目の前に迫っていた
空中に ぽかりと浮いて取り残されたような気分になる
ぼんやりと窓の外を眺めていた宏の肩に吉田の手がかかった
「宏君 撮影の前にジュースでもどう?」
そういって吉田は宏にグラスに注がれたオレンジ色の液体を勧めた
「あ・・ありがとうございます 頂きます」
宏はグラスを受け取ると 緊張で乾ききっていた喉に一気に流し込んだ
「くっくっく・・・・美味しい?宏君」
吉田の顔が宏の目の前に迫った
「・・・?なっ・・・なんですか?よ・・吉田さん?」
「ちょっとだけ 時間がかかるっていってたっけ くっくっく(笑)」
「な・・・?なんの時間・・・です・・か・・・うっ・・」

宏は自分の身体からがっくりと力が抜け落ちてゆくのを感じた
たまらない恐怖に襲われた
ソファーに座っていられなくなり 足元の毛足の長い絨毯に崩れ落ちた
「な・・・な・・にを・・俺に・・・の・・飲ませ・・たっ!!」
「宏君 甘いなぁ 君・・・・この世界のお約束 知らないの?」
「くっ・・・くそっ・・・な・・何が やく・・そく・・・」
「大体 撮影なのに二人っきりなんておかしいと思わなくちゃ
この先 気をつけなくちゃだめだよ 君みたいな美人はいつも危険と
隣り合わせなんだから ちゃんと自覚を持ってやって行かなくちゃ くっくっく(笑)」
「く・・・くそっ・・」
吉田の手が宏の細い首筋にのびる
逃れようと身をよじるが身体が言うことをきかない

助けて・・・助けて・・・誰か・・・
自分の身に何が起きようとしているのか 漠然とした恐怖で思考が止まる
必死な宏の姿を吉田は楽しむように目を細めた
「キレイだね・・・寺山君・・・君の一番綺麗な姿を写真に撮ってあげるからね」
吉田の手が宏の上着のボタンをひとつずつ外し始めた












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