14.私ー新生活にて
14. 私ー 新生活にて
私は相変わらず実家で暮らしながら短大へ通い始めた
一人暮らしも考えたが 経済的な事もあり諦めた
そんな中 宏が引っ越したのを知った
何も知らされていなかった
母がたまたま 小さな軽トラック一台で出て行こうとしていた
宏に出くわし 転居を知ったのだった
宏は私たち家族にも行き先を教えないつもりだったらしい
しかし 入院中の母の事もあるではないか と
私の母に説得され 宏はしぶしぶ転居先と連絡先を書き残したそうだ
短大から戻ってその話を聞いたとき
私は大いに驚き 少なからずショックを受けていた
今まで どんな小さな事でも隠さず話してきた仲であり
またこれからも ずっとそうでありつづけるものと思いこんでいたのだ
幼馴染み そんな響きは離れ離れになって初めて切なく
胸に留まる言葉なのかも知れない
宏のいない生活に 私は随分と戸惑い悩みもした
しかし 7月の夏休みを迎える頃には新しい友人もでき
それなりに毎日を過ごす事ができるようになっていた
そして夏のある日
友人と立ち寄ったコンビニで 何気なく手にとったファッション誌に
私の目は釘付けになった
「優勝者はモデルデビュー」とうたわれた美少年コンテストらしい頁に
見紛う事のない姿があった
宏だった
大きなトロフィーを抱え はにかんだ笑顔で立つ宏の写真を
私はしばらくの間絶句して凝視していた
そんな私に気づいた友人は陽気に言った
「あぁ!寺山ヒロシ君優勝したんだねぇ!やっぱりね
私も彼に投票したもん!格好いいよね っていうか
可愛くて ちょっとエロイ感じがいいんだよねぇ〜」
「・・・・・エロイ・・・・・・・」
私はしばらく 正常な思考回路へと立ち戻る事が出来なかった
その後数ヶ月という短い期間のうちに
宏は男性誌・女性誌問わず あちこちでその姿をみかける程の
人気モデルへとなっていた
表紙を飾る事も少なくなく 街中にはそのポスターさえしばしば見かけられた
風の便りによれば というのも芸能通の友人からの情報によれば
寺山ヒロシこと 宏は某国立大学建築学部の現役大学生であり
学業の傍らモデルとして生計をたてているらしい との事であった
友人は私が宏の知り合いで在ることは知らない
屈託もなく 「格好良くて ちょっと影があるようなエロさが好き」という
こんなに人気が出てしまった有名人に 今更連絡をとるのは
どこかはばかられた
初めてモデルとしての宏を知ったあの日に
久しぶり とメールのひとつでも送っていれば
高校時代の続きがまた出来たかも知れない
そんな後悔にも似た思いがよぎる
卒業して本当にバラバラになってしまった私たち
離れてみて初めて いかに自分が宏に依存して生きてきたのかを痛感した
幼馴染み もうそんな言葉では宏を繋ぎ止めておくことは出来ないのだ
漠然としたそんな思いに 我ながらその喪失感の大きさに驚いた
そしてふと 大沢少年の事を思い出した
彼はその後 どうしているのだろう
卒業式の後 私は二人の姿を捜して校舎の中を走り回った
しかし 二人を見つける事はできず
私はとぼとぼと一人で学校を後にしたのだった
それから宏にも大沢少年にも会っていない
二人は あの後どうしているのだろうか?まだ交流があるのだろうか
私は思い立って大沢少年の携帯にメールをいれた
久しぶりです その後どうしてますか
短い文面に私は自分のアルバイト先である画廊の住所を記した
数日の後
大沢が私のバイト先である画廊を訪れた
大学は夏休みであり 今年も随分と暑い夏となっていた
カラン と入り口についた小さな呼び鈴が鳴り
背の高い影がうっそりと画廊に入ってきた
飾り気のないTシャツにコットンのサマーパンツという出で立ちは
一見地味のようであり実際には大沢の持つ鋭くどこか野性的な
雰囲気を際だたせており とてもよく似合っていた
「久しぶり」 そう言って静かに微笑んだ大沢は
高校時代とはどこか少し違って見えた
何がそうさせているのか私には判らなかったが
私の知っている大沢はもっと朗らかな柔らかい笑顔の少年だった
今の大沢の笑顔は大人っぽくなった という一言で片付けるには
どこかひっかかる 何かが違う 陰を帯びていた
「最近 宏に会ってる?」 私の問いに大沢は首を横に振った
雑誌の事は大沢も本屋で見かけたといい 宏がモデルとして
活躍し始めている事を知っていた
また ああいった華々しい世界に宏はそぐわない気がする
と 少し心配しているような口調で言った
「宏には会っていないが 宏のお母さんのお見舞いには時々行っている」
大沢は宏の母を見舞い いつか宏にも出くわす事があるかもしれない
と秘かに願っているのだと 面はゆそうに言った
その表情は どこか苦しげにも見えた
大沢はまた 卒業式のあの日 宏から「女と付き合え」と言われた
と私にぼそりぼそりと語った
「それで・・・・大沢君 お付き合いしてみたの?」
私の問いかけに頷いて応えた
「コンパで知り合った女性が連絡してくれと言うのでしばらく
お付き合いをしてみた」
性的な関係にも至ったのだとかわらぬ口調で言った
けれども それは自分にとって 動物の雄としての機能が正常に働く
と言うことの証明にしかならなかった とも言った
女性は可愛らしく 美しく 見ているのは楽しい
手をつなげばあたたかいその手に癒されるし
抱き締めれば柔らかいその感触に心地よいとも感じた
しかし どうにも恋する気持ちになれないのだという
かといって
自分は本当に男にしか興味を持てない 真性のゲイなのかと不安にもなり
そのてのやからが集うであろう店に出向いてもみた
そこで 数人の男に声をかけられもしたが
これは全くと言って何も感じるところもなく
正直なところ そういった関係を求める輩とただ会話をする事すら
苦痛以外の何物でもなかったという
結局の所
大沢は私の目をしっかりと見つめて呟いた
結局の所 やはり自分は寺山宏という人間だからこそ
恋しくもあり 愛しくもあり くるおしく求めて病まないのだと気づいた と
いつか
いつか宏と再会した時に その傍らに可愛らしい女性が佇んでいたら
どうするの? そんな意地の悪い質問をしてみた
大沢は しばらく俯いて足元を見つめていたが
顔をあげると きっぱりとした口調で応えた
「それでも気持ちは変わらないと思う」 と
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