11.恋が許す範囲
11.恋が許す範囲
「抱かせて・・・寺山・・」
「なっ・・何言ってんの大沢」
「お前の全てを俺にくれよ」
「んっ・・・やっ・・やめろって・・人が来たら・・」
「人の来ない所にいこ?」
「そうじゃなくて・・・」
桜の花びらが舞い散る中
樹の幹にその背を預けたまま
大沢の繰り返される口づけと 胸元への執拗な愛撫を受け
宏の思考は徐々に鈍り 白い靄の向こうへと歩み出していた
それでも 最期の気力を振り絞って大沢の手をふりほどこうと
小さく身をよじってみる
それでもその身体は解放される事なく
かえって強く 大沢の広い胸に抱き込まれてしまう
そして耳元で繰り返し囁かれる甘い言葉に
意識が遠のき始める
胸元に芽生えた小さな疼くような快感が
静かに宏の全身の血を下腹部へと集めてくる
「もっ・・・やめ・・やめて大沢・・・俺 おかしくなる・・・」
「おかしくなれ」
「何言ってんだ さっきから お前 へん」
「変なんじゃない 正直になっただけだ」
「余計判らないよ・・・頼むから離して・・・」
「離したら二度と戻ってこない」
「何いって・・・・」
「逃げないでくれ 宏」
「大沢・・・・」
繰り返される告白は宏の耳朶をくすぐり
その吐息がかかる度に身体の震えが大きくなっていく
ずるずると足元から崩れ落ちそうになる
「と・・とにかく 人が来たら・・・ここ学校・・」
「もう卒業した」
「そういっても まだこんな・・・大沢っ!!」
「帰ろう」
「ちょっ・・・大沢」
大沢は宏の腕を掴むと 乱れたシャツも学ランもそのままに
宏の肩を抱くようにして裏門へとむかって歩き始めた
強引に与えられた刺激と数え切れない程の口づけに
宏の目元は紅色に染まり その足取りはあやうかった
そんな宏を半ば抱えるようにして大沢は歩く
「は・・離せよ 大沢 一人で歩けるっ!」
「離したら逃げるだろ お前」
「あ・・当たり前だ 離せっ!」
「いやだ」
「何なんだよぉ!ホントに 怒るぞ」
「怒った顔もいい」
「・・・・!」
どうやらふざけているのではないらしい様子が
ようやく宏にも何か伝わってきて
大沢の厳しい横顔に 宏は思わず口をつぐんだ
そのまま
大沢にひきづられるようにして 宏は学校を後にした
ふと 頭の片隅を幼馴染みの少女の顔がよぎった
いつも 3人でいたよなぁ・・・・ぼんやりと
そんなことを思った
そして 今更に いくつかの出来事が思い出され
その全てが彼女の画策によるものだったのだろうと
なぜかすっきりと納得がいく気分になった
彼女は大沢の気持ちを知っていたに違いない
自分にではなく 俺に 寺山宏という男に向かっていた大沢の心
彼女はそれを知って 俺と大沢の間にいつもいたのだ
恋のキューピットにでもなったつもりだったのか?
大沢の俺への想いを成就させようと思っていたのか?
男同士だぞ 一体何を考えてるんだ
そもそもなんで俺なんだ?
大沢の気持ちが今ひとつ判らない
ざわざわと心が次々と疑問符の台詞を吐き出しては震える
俺
そういえば 恋 したことなかったなぁ・・・この3年間
大沢と幼馴染みと俺の3人
それが揃っていれば他には何もいらなかった
そのどちらかを失う事も
考えた事もなかった
今 俺は大沢を失おうとしているのか?
俺の拒絶の理由は?
男だから?
本当にそうなのか?
俺は 大沢にどんな感情を持っていた?
親友だ かけがえのない友人だ
だから 大沢に恋人が出来ても 他の誰かの隣で微笑んでも
それは俺にとっても嬉しいこと
嬉しいこと
嬉しいこと?
嬉しい事のハズじゃないか?
なぜ俺の心は乱れる?
大沢の隣で微笑む誰かを想像した時に こんなにも胸が痛むのは
どうしてなんだ?
独占欲
すぎた友情
子供じみた嫉妬心
求められて 心のどこかで首を縦にふる自分がいる事に驚いた
やめてくれ はなしてくれ どういうつもりだ
口から零れる言葉達が 心の叫びとは食い違っているように思える
大沢の手のぬくもりが心地よくて
重ねられる唇に夢中になった
胸元をさぐられて たまらない愉悦が全身を駈けた
正直になっただけ
大沢はそう言った
それでは 俺の正直な心は何と言っている?
耳をすませてみよう
自分の心の声に
恐い
正直になる事がこんなにも恐いことだとは知らなかった
この恐怖をねじこんで 大沢は俺を抱き締めたのか
抱き締められて 俺の心の中のホントが目を覚まそうとしている
ホントは
ホントは
ホントは
俺は 恋が許す範囲にとどまっていられない
肩を抱かれ 裏門をでた
「大沢・・・俺の・・・俺のうち」
「お前んち」
「行こう」
俺は 大沢の熱にやかれてみたいと強烈に思った
ばかな・・・
何かが かわろうとしていた
二人の間で
俺の中で
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