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スターダスト
作:日下部良介



迫りくる影


5.迫りくる影


 その日の午後、俊哉は昭和薬品工業宣伝部長の二宮に呼び出しを受けた。
昭和薬品工業の本社は俊哉の事務所から歩いていける距離だった。
俊哉はいかにも事務所ビルといった感じの四角い巨大なビルに入ると、正面の受付で、名を告げ、宣伝部長の二宮に呼ばれたことを告げた。
受付の女性社員が、内線電話でそれを伝えると、二宮がここへ出向いてくるということだった。
俊哉は、メインロビーの待合室に案内されて、そこで二宮を待つことになった。

 麻理亜と翔子は陽子に関係する人物の相関図を広げて考え込んでいた。
「血縁関係がある人だけでも相当な人数になるわね。それに友人や仕事関係の付き合いまで含めると、凄いことになるわ。この人たち全員に手紙を書かせるなんて不可能に近いわね。」
すると、翔子は黄色の蛍光ペンで相関図に×印を付けた。
「麻理亜さん、まず、この辺は考えなくていいと思います。私に経験上、あの感覚は本当に親密な関係の人でないと出ませんから。」
そして、更に、今度はオレンジ色の蛍光ペンで○印を付けた。
「すると、血縁関係からは、ご両親と双子の妹、つまり、城戸さんの奥さんの優子さんに絞っていいということね。」
「はい!そして、陽子さんの親友の平山杏奈さんと婚約者の松山伸一さんの5人に絞っていいと思います。」
「よしっ!それなら何とかなるわね。じゃあ、早速城戸さんの家へ行きましょう。」
そう言って麻理亜は立ち上がった。
「城戸さんの家へですか?」
「そうよ。優子さんに事情を話して協力して貰うのよ。さあ、早く支度をしてちょうだい!」
「で、でも、事務所に誰もいなくなったら・・・」
「あなた、この事務所にどれくらいいる?」
「3ヶ月になりますけど・・・」
「その間に仕事の電話って何件あった?」
翔子は今まで受けた電話の内容を思い出してみた。
そのほとんどは、俊哉が個人的に私用しているカードや携帯電話の引き落としが出来ない・・といった類のものばかりだった。
それは、俊哉が、個人の銀行口座に、ほとんど金を入金していないからなのだが・・そう言われれば、仕事関係らしい人からの電話を受けた記憶は全くなかった。
「・・・」
「分かったでしょう!さあ、早く行くわよ。」
証拠はなんだか複雑な気持ちのなった。
「私って、何のためにこの事務所に雇われているのかしら・・・」

 本物かどうかは分からないが、有名が庚がいくつもかけられているメインロビーにはガラスの仕切で区切られた待合室がいくつかある。
俊哉は、一番手前のブースで二宮を待った。
5分もしない中に二宮が現れた。
俊哉は立ち上がって、二宮におじぎをした。
二宮は、アタッシュケースを一つぶら下げていた。
そして、俊哉に近づくなり、俊哉の耳元で、こう言った。
「どこか、誰にも見られない場所を知ってますか?」
何やら訳有りだと察した俊哉は、ふと、ある店を思いだした。
「ちょうど、おあつらえ向きの店が1軒あります。」
「さすがだね!」
そう言って二宮は微笑んだ。
そして、二ノ宮は俊哉を伴って、メインロビーから通用口を抜けて、タクシーを拾った。

 とてもセンスのいいティーカップだと翔子は思った。
居間のソファから見える庭には、きちんと手入れされているのが分かるカラフルな花壇とハーブ畑があった。
 翔子はティーカップを口元へ運んだ。
穏やかなハーブの香りが鼻をくすぐる。
一口、口に含むと爽やかな口の中に広がった。
「どうですか?」
優子は屈託のない笑顔で翔子に問いかけた。
「これって、あそこのお庭で?」
「あら、気が付いていたんですね。主人が栽培しているんですよ。」
「えっ!」
と、思わず言ってしまってから、翔子は手で口を塞いだ。
それを見た優子はにこっと笑い、エプロンを外し、ソファに腰を下ろした。
「いいんですよ。でも以外でしょう?」
翔子は何も言えなくなってしまった。

 そのころ、麻理亜は帝王商事へ向かっていた。

 一旦は翔子と一緒に事務所を出て、俊哉の家へ向かっていたのだが、地下鉄の駅の入口で携帯電話が鳴った。
電話の相手は帝王商事の持田だった。
持田は“スターダスト”と条件付だが、正式に契約したいと行ってきたのだ。
「森村さん、ごめんなさい。急用ができたわ。」
「えっ?それじゃあ、中止にしますか?」
「いいえ、人の命に関わるかもしれないことだから、あなた一人で行って来てちょうだい。優子さんには事情を説明して置くから。」
そう言って、麻理亜は城戸の自宅の地図と電話番号を書いたメモ用紙を翔子に渡した。

 真理亜は一度事務所に戻って、帝王商事に関する資料を揃えてから持田に会いに行くことにした。

 店のカウンターに置かれたパソコンには、過去に放映された昭和薬品工業のCFが映し出されていた。
二宮は、ファントムに依頼したCFのすべてを俊哉に確認してもらった。
「城戸さん、どう思うかね?」
俊哉は、腕組みをして眼を瞑ると、そば楽の間顔を天井に向けたまま、無言になった。
すると、マスターの犬飼がつぶやいた。
「今のは昭和薬品工業のコマーシャルだったんだ!映像は覚えているんだが、何のコマーシャルだったかは、まるで記憶にかなったよ。」
その瞬間、俊哉は眼を開けて、指を鳴らした。
「マスター、ナイス!二宮さんそれですよ!」
二宮も頷いた。
「この店を選んだのは正解だったね、城戸さん。やっぱり、こういうのは実際にCFを見ている視聴者の意見が大事なんだと、つくづく思ったよ。」
「インパクトのある映像とカット割り、30秒の中に充分すぎるほどのストーリーもある。
邪魔にならず、メッセージ性の強いコピーがカットインして来る。典型的な“ファントム”のCFだ。玄人受けはするが、実際に見ている視聴者は映像のインパクトが強すぎて、なんのCFだか分からない場合が多い。なぜか?それはコピーが弱いんだ。ファントムのプロデューサーは企業名をズバリと言うのを嫌うんだ。最近はクライアントが知的でスマートなイメージを求めていることもあるが、関西の引っ越し屋のCFみたいなものは芸術じゃないと思っている。みんな勘違いしているんだ。企業にしてみれば“売れてなんぼ”の世界なのに、あいつらは、まるで、ちょっとした芸術家気取りでいる。だから、関西の企業には受けが悪い・・・」
そこまで力説すると、俊哉は急にのどを詰まらせた。
「マスターのどが渇いた。なんかくれ。」
マスターは、俊哉の方を向くと、左手の親指を立てて見せ、ウインクをして“OK”と合図した。
「これは水替わりのサービスだ。」
そう言って、マスターは2杯の生ビールをカウンターに置いた。
「もう、今日は事務所に戻るつもりはないでしょう?」
俊哉は、ちらっと腕時計を見た。
4:45。
二宮にどうするか聞こうと思った時には、二宮は既に、グラス半分のビールを飲み干していた。

 翔子はハーブティーを飲み干すと、本題に入った。
「マリアさんから伺っているとは思いますが、双子のお姉さんの陽子さんことで、少し気になることがあるんです。」
「ええ、真理亜に電話を貰った時にはからかわれているのかと思ったけど、あなたの顔を見てその疑いはすっかり無くなったわ。」
「えっ?」
翔子は、どういうことなのか理由が分からなかった。
「私と陽子は一卵性双生児なの。離れていても、お互いがどこで何をしているのか分ってしまうことが時々あるのよ。まあ、それとこれとは話が違うけど、陽子と違って、私だけには子供のころから強い霊感があるの。陽子は私の霊感を感じることができるけれど、自分が感じることはないのよ。つまりね、何が言いたいかというと・・・あなたと私はきっと同じなのよ。あなたの顔を見たとたんに、感じたの。たぶん、あなたが文字から霊感を感じるように、私は顔を見ればその人の未来が分かってしまうの。誰でもという訳ではないのだけれど。だから、あなたの顔を見た時に、あなたが強い霊感を持っていることがすぐに分かったわ。」
「そうでしたか。」
「たぶん、身に危険が迫っているのは、私と陽子の両方だと思うわ。そして、それは、主人と真理亜に大きな関わりがあるような気がするの。」
「どうしてそう思われるのですか?」
「最近陽子が誰かに見張られているような感じがするの。私の感じたことを、陽子はきっと感じ取っているだろうから、それなりに注意をしていると思うけれど、ちょっと、気を引き締めてかかった方がよさそうだわ。」
「分りました。今夜、陽子さんをここに呼ぶことは出来るでしょうか?」
「大丈夫だと思うけど、どうして?」
「はい、もし、陽子さんがここへ来られるなら、4人で、今後の対策を相談しましょうと、真理亜さんが言っていましたから。」
「あら、真理亜は仕事ではなかったの?」
「夜までには片付けると言っていました。」
「どうかしら・・・ちょっと嫌な感じがするの。ここ2〜3日、急に、この辺が騒がしくなってきたから。」
そう言って夕子は自分のうしろの辺りを両手で示した。
翔子はちょっと、ゾクッとしながら、優子のうしろを見渡した。

 持田の部屋のドアをノックすると、この前と同じように、持田が自らドアを開けて真理亜を招き入れてくれた。
「まあ、掛けたまえ。」
持田は真理亜を応接セットの来客用ソファに座るよう指示した。
「私も、あれから色々検討してみたんだが、お互いの利害関係を考えると、スターダストに仕事を任せるのが一番いいような気がしてきましてね。それで条件付きではありますが、正式に契約をしようと思うんですよ。」
真理亜は黙って持田の話を聞いていた。
そして、その条件を聞こうと口を開いた瞬間、持田は真理亜の口を塞いで話を続けた。
「それで、その条件なんですが・・・」

















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