スターダスト(4/5)縦書き表示RDF


スターダスト
作:日下部良介



文字からの警告


4.文字からの警告


 俊哉は自分の席に腰をおろして机の上におかれていた郵便物に目を通した。
森村翔子が、昨日留守にしていた間に来た郵便物を置いてくれていたのだ。
物品販売のダイレクトメールが3通、クレジットカードの使用明細と請求書、友人の結婚式の招待状、そして、飾り気のない白い封書が一通。
俊哉は、この白い封書に目を引かれた。
差出人が沢村陽子だったからだ。
沢村は俊哉の妻、優子の旧姓で、陽子は優子の双子の妹だった。
俊哉が封を切ろうとしたとき、ドアをノックする音がして翔子の声が聞こえた。
「城戸さん、ちょっと失礼してもいいですか?」
俊哉は手の持っていた封書を机の上において返事をした。
「どうぞ。」
ドアが開いて、翔子が部屋に入ってきた。
翔子は俊哉の机の前まで来ると、今、俊哉が机の上に置いた白い封書を指して言った。
「この人とはどんな関係なんですか?」
俊哉は、翔子の顔を見上げて苦笑いした。
どうやら、翔子は、俊哉が浮気でもしているのではないかと疑っているに違いない、そう思った俊哉は差出人の正体を教えた。
「家内のお姉さんだ。」
翔子は一瞬、険しい表情をしたが、すぐに元の疑いの表情に戻って問い詰めた。
「その奥様のお姉さまと深い関係になられているのではないでしょうね?」
これにはさすがの俊哉もあきれてしまった。
「君は、いったい、この事務所に何をしに来ているんだい?僕の浮気調査でも頼まれているのかい?それとも・・・」
そこまで口にしたとき、翔子が震えているのに俊哉は気がついた。
「どうかしたの?」
翔子は、俊哉の机の上のティッシュを抜き取ると、涙を拭いた。
「私、分かるんです・・・」
そういうと、翔子は部屋を出て行ってしまった。
「・・・」
俊哉には、何がなんだかまるで分らなかった。
そして、すっかりやる気がなくなったので、机の上の郵便物を全部引き出しにしまって、パソコンの電源を入れた。

 翔子は、昨日、二人が出かけた後に届いたこの沢村陽子からの手紙が気になって仕方なかった。
普通なら、何でもないただの手紙なのだが、その手紙と差出人の名前を見たとたん、翔子は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
翔子は以前にも何度か同じような感覚を覚えたことがある。
最初の体験は翔子が高校生の頃だった。
それは、付きあっていた男子生徒から貰ったラブレターを読んでいた時だった。
急に胸を締め付けられるような感覚を覚え、真っ暗な闇が翔子の心の中を支配していった。
闇はすぐに消えていまい、その時は特に気にはしなかったのだが、その男子生徒は翔子ともう一人の女の子を二股かけていて、その数日後、翔子ではない方の女の子と心中してしまったのだ。
 翔子は小さい時から霊感が強く、文字を通して、それを書いた人物の過去か未来が見えることがあるのだ。
大抵の場合、その文字を書いた人物本人か、身近な誰かが亡くなっているのだ。
今回も、それに近い感覚を“沢村陽子”の文字から感じたのだ。

 事務所では、真理亜がふてくされてスケジュールのチェックを行っていた。
真理亜の脳裏には夕べの持田とのやり取りが浮かんできた。

 持田は、俊哉がファントムとの打合せが長引いてこられなくなったと真理亜に告げた。
そのことを聞いた時、真理亜は“変だ”と思った。
俊哉が、自分から、しかも、客に直接連絡を入れたということが、どうにも、ふに落ちなかった。
 銀座の店に行ってからというもの、契約な話は一切なかった。
持田が口にしたことと言えば、自分の趣味がカジキ釣りで、葉山にクルーザーを持っていて、週末にはトローリングに出かけるということや、乗馬が好きで軽井沢に別荘を持っているということなどの自慢話ばかりだった。
真理亜は、仕事の話でなければ、極力、接したくないタイプの人間だったので、この間の3時間余りの時間が、苦痛で仕方なかった。
持田は、お目当ての相手に自分のことを存分にアピールすることができて満足そうだった。
真理亜は、持田の気分を害さないように心掛け、本心を読まれなように気を使った。
持田をタクシーに乗せて、そのタクシーが交差点を曲がって見えなくなった途端、急に吐き気を覚え、その場に座り込んでしまった。

 真理亜は席を立つと、給湯室へ向かい、濃いめのコーヒーを淹れた。
コロンビア産の豆からきつめの香りが漂った。
自分のマグカップにコーヒーを注いで席に戻ると、翔子がそばに寄ってきた。
「あの・・・矢部さんは城戸さんの奥さんに採用されたんですよね?」
急に変なことを聞かれた真理亜は少しばかり面を食らったが、翔子の表情を見たとたん、何かわけがありそうだったのでちゃんと受け答えしようと思った。
「そうよ。以前は奥様の優子さんが事務所の経営を一手に仕切っていたのよ。城戸さんが、そういうことには無頓着だったから苦労したみたいね。お子さんが出来てからは子育てに専念したいということで、代わりに私が送り込まれたってわけね。」
「それじゃあ、矢部さんは城戸さんの奥さんのことも良くご存じなんですね?」
「ええ、正式にここへ来るまでは、城戸さんのことから何からすべてを叩きこまれたもの。それに、私は彼女の姪でもありますからね。」
「そらなら、沢村陽子という人をご存知ですか?城戸さんは奥様のお姉さんだと言っていましたけど・・・」
「その通りよ。優子さんと陽子さんは双子の姉妹なのよ。でも、それがどうかしたの?」
翔子は、自分が霊感が強いこと、過去に経験した出来事、そして、城戸宛に届いた陽子からの手紙のことをかいつまんで真理亜に説明した。
「・・・」
翔子の話を一通り聞いて真理亜は少し考え込んだ。
翔子が口から出まかせを言っている風には思えなかったし、このところ、城戸の周りには、うさん臭い奴らがやたらと多い。
そして、万が一のことを考えて用心するに越したことはないと思った。
「わかったわ。まず、洋子さんの手紙を見せて貰いましょう!」
そう言うと、真理亜は立ち上がり、翔子を伴い、城戸の部屋へ向かった。

 帝王商事の第一秘書室では、部屋の主がマホガニー製の高級机の引き出しからA4サイズの封筒を取り出していた。
封筒から書類を取りだすと、そこには矢部真理亜の写真と一緒に彼女の経歴や家族などの情報が書き込まれたものなどが入っていた。
銀縁の眼鏡をかけ直した持田は、真理亜の写真をじっくりと眺めて微笑んだ。

 ノックもなしに、いきなりドアが開き、真理亜と翔子が部屋に入ってきた。
俊哉は驚いて、思わず、キーボードの“Enter”キーに触れてしまった。
「あっ!」
その瞬間画面から昭和薬品工業のデータが消えていった。
俊哉は頭を抱えて机にひれ伏した。
そして、入ってきた二人を睨みつけて、口を開いた。
「急に入って来るなんてどういうつもりだ?びっくりして大事なデータを消しちゃたじゃないか!」
そんな俊哉にはお構いなく、真理亜は一直線に近づいてきた。
「ねえ、陽子叔母さんからの手紙を見せてちょうだい!」
真理亜の表情からただ事ではないと感じた俊哉は引き出しを開けながらつぶやいた。
「なんだよ、やぶから棒に!」
俊哉が引き出しから封書を出すと、真理亜はサッと取り上げて封を切った。

 真理亜の経歴所に目を移した持田は、真理亜が城戸の妻の姪であることに関心を示した。
そして、城戸の妻には双子の姉がいることにはもっと興味を示していた。
「なあ、これはガセじゃないだろうな?」
第一秘書室の応接セットに腰をおろしていた男が黙って頷いた。
「よくやった。」
持田はそういうと、男に向かって1枚の紙切れを放った。
男は紙切れをキャッチして、書きこまれている数字の丸の数を数えた。
一、十、百・・・そこには¥1,000,000と書かれていた。
男は百万円の小切手をスーツの内ポケットにしまうと、立ち上がり、一例をして部屋を後にした。
持田は、書類を封筒に戻すと、金庫に入れて鍵をかけた。

 真理亜は封筒の中から手紙を取り出し読み始めた。
読み終わると、それをそのまま翔子に渡した。
翔子がその手紙を読み終えると、さっき、俊哉の部屋から出ていった時のように震えだした。
「おい、いったい何なんだ?二人して・・・その手紙がどうかしたのか?」
「いえ、手紙自体は何でもないわ。」
「じゃあ、何がどうしたというんだ?」
俊哉は、まるでわけが分からず、自分だけがカヤの外みたいな状況に我慢が出来なくなった。
真理亜は、翔子に一通りの話をさせ、俊哉に説明した。
俊哉も、だいたいのことは理解した。
しかし、まるっきり鵜呑みにして信じたわけではなかった。
「つまり、こういうことか?陽子ちゃんか、彼女に係わりのある誰かの命が危ないってことなのか?急にそんなことを聞かせれても、はいそうですかってわけにはいかないよ。」
「それもそうね。だけど、黙って見過ごすわけにはいかないわ。翔子ちゃんがこの事務所に入ったのも何かの縁だわ。ねえ、こういうのはどう?」
真理亜の提案はこうだ。
まず、翔子に、陽子をはじめ、陽子の周りの人に手紙を着てもらって、同じ感覚が出るかどうかを見てもらう。
それから、本当に命が危ないのは誰かを絞り込んでもらう。
絞り込みに成功したら、フリーの誰かが出来る限り、行動を共にする。
翔子が感じるのが陽子だけであれば、陽子に事情を話して陽子の家族に協力を要請する。
そういう、簡単なことだった。
「まあ、何事もないに越したことはないが、あとで後悔したくはないからな。」
俊哉は、そう言って、真理亜の案に賛成した。
翔子は、しばらく、事務所の受け付けより、この業務を優先するよう、真理亜に指示された。















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう