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スターダスト
作:日下部良介



持田の目論見


3.持田の目論見


 持田に提示された資料に一通り目を通した真理亜はため息をついた。
「なかなか厳しい条件ですね。でも、継続してお仕事を頂けるのはありがたいです。」
“スターダスト”との契約条件は、新規に取り扱う輸入雑貨のネット販売用のキャッチコピーで特定のサイトで販売する商品をすべて任せるというものだった。
しかし、報酬は売上高をポイント制で評価するというシステムだ。
コピーがなくてもそこそこ売れると予測されているものはポイントが低い。
逆に、いかにも売れそうにないものを売ったときには高いポイントが得られ、報酬も多くなる。
実績が出来れば“帝王商事”としでの宣伝活動における、すべての分野のコピーを任せるというのだ。
「城戸さんの実力なら悪くない条件だと思いますが。」
持田は、この打合せの間中、ずっと真理亜の目を見続けている。
そのことには真理亜も気がついていたが、こういう類の人種は表情一つでこちらの心理を読み取ってしまう。
それを知っていた真理亜は、あくまでポーカーフェイスを装った。
ただ、最初に油断して、笑みを見せたことを悔やんでいたが、今となってはもう前に進むしかない。
「城戸をそんな風に評価して頂いているのは大変光栄です。ですが、少しお時間を頂けますか?」
「いいですとも。次の企画用の商品をを輸入するまでにはまだ少し時間があります。1週間ほど差し上げましょう。」
「ありがとうございます。」
「さて、矢部さん、この後はどうされますか?会社に戻るには中途半端な時間になってしまいましたが・・・」
「はい、銀座にディナーの席を用意してあります。ご一緒していただければ嬉しいのですが、持田さん、ご都合はいかがですか?」
「そうですか、お気づかい頂きありがとうございます。当然、その席では城戸さんも合流なさるんでしょう?」
「はい、その予定になっております。」
「わかりました。では、お言葉に甘えさせて頂きましょう。」
持田はそう言って、外出する準備を始めた。

 打合せの席にやってきた黒木は、二宮と城戸が同じ高校の同級生だったことを知ると、『この縁を大事にしたいものだ』というようなことを言って話に割り込んできた。
そして、CFに起用するコピーを改めて依頼すると、二宮も頷いて微笑んだ。
「この件を任せらるるのは彼をおいて他にいない。」
二宮がそう切り出すと、黒木も早瀬も城戸に握手を求めた。
「よろしくお願いします。」
「さて・・・」
引き続き、黒木が話をはじめた。
「・・・仕事の条件なんですが、城戸さんには以前もうちの仕事を受けていただいているのでだいたいのことはご存じだと思いますが・・・」
そこまで話したところで、二宮が口を挟んできた。
「黒木さん、今回は特例として、彼への報酬とすべてのバックアップは昭和で直接対応させてもらえないかな?」
突然の二宮の申し出に黒木は面を食らった。
しかし、昭和薬品工業の社長は“ファントム”の日下部社長と古い付き合いで、二宮にそう言われたら、断るわけのは行かなかった。
「二宮さんがそうおっしゃるのなら、私どもは一向にかまいませんが、一応、このプロジェクトにおいては“ファントム”が制作するCFがメインになりますから、今後の打合せ等は、この早瀬が仕切っていきます。それでよろしいですね。」
黒木は不本意ながら、二宮の言うことを了解する代わりに、製作の主導権はあくまでも“ファントム”にあることを主張した。
その件に関しては二宮も一切言及しないと約束した。
これで、一応、商談は成立した。
「二宮さん、今日はこの後、一席設けてありますから是非お付き合いいただけませんか?」
二宮は腕時計をチラッと見て頷いた。
「いいでしょう。あまり長居はできませんが、よろしいですか?」
「はい、結構です。ところで、城戸さんもご一緒にいかがですか?」
黒木は城戸にも同席するように切りだした。
「ありがとうございます。お心遣い感謝しますが、あいにく、この後、どうしても外せない用事があるんです。」
そう言って俊哉は席を立った。
「そうですか、残念ですが、仕方ないですね。売れっ子のライターには事前にアポイントが必要なようだ。」
二宮は残念そうにそう言うと、そこまで話を通していかなかった黒木と早瀬を責めるような視線でチラッと見た。

 城戸がファントムを後にすると、黒木は早瀬に二宮を先に案内するように告げると、一旦デスクに戻った。
背もたれの高くなった革張りの椅子に腰かけると、腕組みをし、深い溜息を吐いた。
そして、おもむろに受話器を手にした。

 外出の支度が整った頃、持田の部屋の電話が鳴った。
持田は真理亜に先にエントランスで待つように指示して、受話器を持ち上げた。
『はい、持田です。・・・・・そうか。わかった。そういうことなら仕方ない。後はこっちでなんとかする。』
電話の話が終わると持田は叩きつけるように受話器を置いた。
「ちぇっ!役に立たない奴だ。」
そう呟いて、上着のポケットから携帯電話を取りだした。
そして、真理亜が持ってきた“スターダスト”の会社案内をめくると、城戸の名刺をつかみ出し、城戸の携帯電話の番号を見ながら数字を押した。

 ファントムのあるメディアタワーから銀座までは地下鉄1本で行くことが出来る。
歩く時間も含めて30分あれば十分だ。
約束の時間までにはまだ45分あった。
「なんとか間に合いそうだ。」
俊哉は銀座の駅を出て、腕時計を見た。
まだ20分前だった。
店までは5分で到着する。
「やれやれ、これで、姫さまのご機嫌を損ねずに済みそうだ。」
姫さまとは当然、真理亜のことだ。
そう思って、安心したところに携帯電話の着信音、“ガッチャマンのテーマ”が鳴った。
ディスプレイに表示されていたのは、登録されていない番号だった。
向こうも携帯電話からのようだったので、俊哉は電話に出た。
電話の相手は帝王商事の持田だった。

 受話器の向こうで相手の人物が名乗った。
『はい、城戸です。』
「突然すみません。帝王商事の持田と申します。」
『帝王商事の・・・』
「ええ、持田です。はじめまして。」
『はじめまして。城戸俊哉です。今日はそうもすみませんでした。間もなくそちらに到着しますので・・・』
俊哉がそこまで話すと、持田はそれを遮るように少し大きな声で用件を切り出した。
「城戸さん、そのことなんですが、お願いがあるんですよ。」
『お願い?』
電話の向こうで城戸が明らかに不審がっているのが感じられた。
しかし、持田はかまわず、続けた。
「ええ、今夜のことなんですが、商談もうまくいきそうなので、もう少し、矢部さんと二人で話を詰めたいのですよ。そこで、城戸さんには、今度、何か埋め合わせをさせていただきますので、今夜はご遠慮願えませんか?」
『・・・』
「もちろん、彼女には私からきちんとお話ししておきますので。」
『分りました。実は本音を言うと、ボクもそういう席はどちらかというと苦手な方なんですよ。それじゃあ、ボクからも矢部に失礼のないよう申し伝えておきますので・・・』
「それには及びませんよ。彼女ほどの女性はそう滅多にいるものじゃない。」

 話し終わって電話をしまうと俊哉はふと考えた。
持田は、真理亜に気があるに違いない。
彼女には申し訳ないが、とにかく自分は面倒くさい接待から解放された。
しかし、急に予定が開いたのにはちょっとばかり気が抜けた。
「まいったなあ・・・まあ、俺はその方がありがたいんだが・・・」
そう思って、辺りを見回してみると、1台のバイクに目がとまった。
それは、レース用にペイントが施されたドカティだった。
そして、そのバイクが止められている駐車スペースの奥がバーになっているのに気がついた。
「“DOG HOUSE”?ほー、犬小屋か。ちょうどいい。少し時間を潰していくか!」













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