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ふたつの国のために
作:地球の星



第7話:揺れ動く心の狭間で


 翌日、マフンはキャンピングカーの前でみんなと一旦別れ、自分の家に向かっていった。
 ヒリュウは運転席に乗り込むと、早速出発しようとしたが、その時にキリュウが助手席に乗ってきた。
 彼は昨夜、マフンと相談していたことを伝えた。
 ヒリュウはそれを聞いて、ビクッと反応した。
(そうか…。キノンの人だったのか…。)
 思いがけない事実に、彼は言葉が見つからなくなった。
 しばらくじっと考え込んでいると、キリュウから
「ヒリュウ。出発するぞ。」
 という声が飛んできた。
「あ、はい。」
 ヒリュウは慌てて我に返ると、エンジンを入れ、車を走らせた。

 別の都市に移動している途中、キリュウの通信機に連絡が入った。その内容に目を通すと途端に目つきが険しくなった。
(そうか…。コーマめ。また侵攻を企んでいるのか。)
 キリュウはキノンの人々がどれだけ傷ついていたかを間近で見てきただけに、このままではまた大変なことになることを瞬時に見抜いた。しかし、一つ気になることがあった。
 キリュウは悩み、考え続けた。
(…それでも、コーマの暴走行為を決して許すわけにはいかない。何としても阻止しなければ。)
 悩み続けた末に、キリュウは返信を送った。そしてキャンピングカーを止めさせると、みんなを呼んだ。
「父さん、急にどうしたの?」
「実はな、ヒリュウ、父さんは…。」
 キリュウは一瞬「クウォルに戻る。」と言いそうになったが、慌ててやめた。もしもそんなことを言ったら、コロナがどんな反応をするか。そのため、とっさに言い直した。
「父さんは、別の用事が入ったから、今日の昼過ぎからお前達とは別行動になる。これからはお前達でこの旅行を楽しんできてくれ。」
「別の用事って何、お父さん?」
「カペラには話しても分からないことだが、大事な用事だ。しばらく一緒にいられなくなってしまうが、お母さん、ヒリュウ、コロナと共に楽しんでくれ。」
「…は〜い。」
 カペラは理由を詳しく聞くことが出来なかったため、不満げな表情を浮かべたが、引きとめようとはしなかった。
「お前達に言うことは以上だ。それじゃヒリュウ、運転席に戻ってくれ。
「あ、はい。分かりました。じゃあコロナ、助手席に来る?」
「助手席に?」
「うん。運転しながら色々話をしたいんだ。」
「いいわよ。」
 2人は運転席の方へと移動していった。まもなく車が走り出した。
「それからオゾン、少し時間をもらえないか?一つ話をしたいことがあるんだ。」
「私にですか?」
「ああ、そうだ。」
 オゾンは厳しい表情を浮かべているキリュウの相談に乗ることになった。
 カペラはどうしようか迷ったが、結局話に加わることになり、その場に留まった。

 運転しながら、ヒリュウはコロナの作曲した曲にどういう詞をつけるかについて話し合った。会話の中で何かアイデアが浮かぶたびに、コロナはメモ帳にそれを書き込んでいた。
 しばらくすると、ヒリュウは自分の家族に関することを話し始めた。
 自分とオゾンは血がつながっていないこと、戸籍上、彼女は義母だけれど、実際は姉と弟として呼び合っていること、オゾンは実の父親であるキリュウより14歳年下であること、自分とカペラは母親違いの兄妹であることを打ち明けた。
「何だかややこしい関係ね。トラブルなかったの?」
「あったよ。心無い発言を受けたこともあったし、幼いカペラに真実を話していいのか、かなり悩んだ。結局話したんだけど、最初はショックを受けていたよ。本当に話して良かったのかなって思った。それでも彼女は分かってくれた。現実をしっかりと受け止めてくれた。そして今は家族みんなが仲良しなんだ。」
「素敵な家族ね。」
 彼女には色んなことを乗り越えて分かり合った彼の家族が眩しく見えた。
「今度は君のこと聞いてもいい?君に出会った時、どうして一人寂しくあそこに座っていたのかを聞いてもいい?」
 ヒリュウは少し迷いながらも思い切って聞いてみた。
 コロナは途端に迷いだした。彼女はしばらくうつむきながら考え続けた。
「この質問はきつかったかな?ごめん。」
「…いいわ。あなたには話してあげる。」
「いいの?」
「うん。私を助けてくれて、曲を気に入ってくれて、ギターも買ってくれた。そして何より、私の大切な人だもの。他の人には内緒よ。」
「分かった。」
 コロナはクウォル軍の侵略による混乱の中で、草原で道に迷ってしまってからのことを話した。

 彼女はあれから一晩、泣きながらその場にうずくまって過ごしていた。「寒いよう…。寒いよう…。」と言いながら…。
 翌日、軽自動車が近くを通りかかった。コロナは力の限り叫んで助けを求め、やっと乗せてもらうことが出来た。
 これで兄のもとに帰れると思った彼女は、運転していた人から食べ物を与えてもらった。しかし、それを食べてから記憶がしばらく途切れしまった。
 気がついた時、彼女は全然知らない都市にいた。その都市がルレクだった。
 彼女の財布はいつの間にかなくなっており、一文無しだった。残されたものはハーモニカだけだった。
 だまされたことに気づいたコロナは、気力を振り絞ってキノンに帰ろうとしたが、お金がないため、移動するどころか食べ物にもありつくことが出来なかった。
 もしかしたら、このまま力尽きてしまうかもしれない…。そんな恐怖が頭をよぎったこともあった。
 帰りたい…。でも、一体誰を信じればいいの…?一体誰についていけばいいの…?こんなみすぼらしい姿になった私を、一体誰が拾ってくれるの…?
 そう思いながら、寂しげにハーモニカを奏でていると、2人の男の人が通りかかった。一人はそのまま通り過ぎようとしたが、もう一人はその場に座って
『君は、どうしてここにいるの?』
 と、問いかけてきた。

「その人が僕だったんだね。」
「そうよ。だから、あなたは命の恩人よ。」
「辛かったんだね。あの時、僕があの場所を通りかかって良かった。」
「本当ね。ありがとう、あんな姿になった私を拾ってくれて。」
「ど、どうも。」
「でも、どうして私を拾ってくれたの?」
「話していいかな?」
「いいわよ。」
 それを聞いてヒリュウは12年前のことを話し始めた。

 親が離婚してから、キリュウは取材のためにテファン国にしばらく派遣されることになった。
 当初は単身赴任の予定だったが、父親に引き取られた8歳のヒリュウを一人置いていくわけにもいかず、一緒に行くことになった。
 そんなある日、テファン国のある都市を訪れた。そこは少し前に地震が起き、被害を受けていた。
 現地の人々を取材していく中で、2人は倒壊した建物の前で呆然と立ち尽くしている一人の女性を見かけた。
 話をすると、彼女はここで暮らしていたが、地震で家を失い、全財産を失い、頼る人もいないという状況だった。
 キリュウはそんな彼女を何とかしたいと思い、同行させることにした。
 その人こそ、オゾンだった。

「何だか、私達と似ているわね。」
「本当にそうだよね。でさ、最初に君を見た時、あの時のことを思い出したんだ。父さんはあの時、どんな気持ちだったんだろうって。だからこそ、僕はあの時君を放っておけなかったと思うんだ。」
「そうなの…。ヒリュウ君、ありがとう。」
 2人はお互いのことについて色々話し合った。話しながら、仲がさらに深まっていくことを感じ取っていた。
 今度はコロナが自分の故郷の都市、キノンのことを話し出した。
 彼女はクウォル軍が家を破壊し、街を大混乱に陥れたことを包み隠すことなく話した。
「私…、故郷を破壊していったクウォルの人達が許せないの。あのせいで、私は兄と離れ離れになって、道に迷って、知らない人にだまされて、知らない土地に連れて行かれて、そして死ぬかもしれない恐怖に襲われて…。許せない…。クウォルの人達を許せない!何か仕返ししてやりたいけれど、何も出来ない自分が悔しいの…。」
 コロナの言葉は感情的で、どこか復讐の気持ちがこもっていた。
 ヒリュウは自分が元兵士だっただけに、心を痛めながら彼女の話を聞いていた。途中、何か言い返したくなったが、それをじっと我慢しながら聞いていた。
(軍の幹部が暴走行為に出たせいで、コロナはこんな目にあっていたのか…。僕がせめてその心の傷を癒すことが出来れば…。今は何をすればいいのか分からないけれど、きっと前向きな答えは出てくるはず。その日までは彼女にクウォルについて、どんなことを言われようと、耐えていかなければ…。)
 ヒリュウはコロナの話を最後まで聞き続けた。
「辛い過去を、話してくれてありがとう。たとえどんな過去を背負っても、生きていれば未来が温かく迎えてくれるから。」
「うん…。」
 ヒリュウはコロナの悩みを色々聞き、自分なりの意見でアドバイスをした。
 しかし、自分が元クウォルの兵士であったことを明かすことはなかった。いや、とても明かすことが出来るような雰囲気ではなかった。

 別室ではキリュウがオゾンとカペラに、マフンから渡された手紙の内容を見せた。そこにはプロミネンス宛にこう書かれていた。

 僕はマフン。以前キノンに言った時には、離れ離れになってしまった両親のことや、妹のことを話していただき、ありがとうございました。大変参考になりました。
 貧しくてもいいから、もう一度コロナと一緒に過ごしたい。そんな気持ちが凄く伝わってきました。
 国は違っても、家族を思いやる気持ちは同じなんだなと思えてきました。
 これを知ったら怒るかもしれませんが、僕は在クウォル・ナルビオン人です。
 生まれはナルビオン国のルレクという都市、育ったのはクウォル国のエクラードという都市です。
 僕は昔から親とけんかが絶えなくてひねくれたりもしました。
 『もうこんな家は嫌だ!』とか『在クウォル・ナルビオン人という理由でひどい目にあった!何でこの国に来たんだよ!』と吐き捨てて、家を飛び出したりもしました。
 だけど、世の中には一緒にいたくてもいられない人が大勢いる。たとえ過去にどんなことがあっても、生きていれば、何度でもやり直せる。会いたくなればいつでも会いにいける。
 そう考えると、親のことを考え直したくなってきました。
 プロミネンスさんと会って話をすることが出来、嬉しかったです。ありがとうございました。
 先日、僕は友達と共に、あなたの妹コロナを助けました。
 彼女は最初、身も心もボロボロに傷ついていましたが、僕達と付き合っていくうちに、段々心を開いてくれました。
 僕は途中で別行動をとったため、再会の場面に立ち会うことが出来なくて残念ですが、コロナと再会出来たら、どうか幸せに過ごしてください。

 この手紙の内容を事前に把握していたキリュウは、コロナがキノンの人であることをオゾンとカペラに告げ、さらにはクウォル在住であることを明かさないようにすることを約束させた。
 今は目の前にコロナがいないため、ここではクウォルという国名を出して話すことが出来た。
 続け様にキリュウは自分がこれからクウォル国で、かつてヒリュウがかつて所属していた軍事施設に行くことを告げた。
 しかし、キリュウはオゾンには話しにくい内容にぶつかった。果たして話していいのか、彼は迷った。
「キリュウさん、どうしたの?私には何でも話す約束でしょ?遠慮せずに話していいのよ。」
「そうか…。だったらよかろう。驚かないで聞いてくれ。」
 キリュウは意を決すると、包み隠すことなく内容を話した。
 それを聞いて、オゾンは黙って考え込んでしまった。カペラはあまり理解出来ていないのか、首をかしげながらきょとんとしていた。
「…すまない。こんなことを君に話して。」
「それを頼んできた人はどう考えているの?」
「やはり『すまない。』と言っていた。無理もないだろう。」
「そうね…。」
「本当にすまない。だが決して…。」
「それ以上は言わなくていいわ。」
 キリュウ途中まで言いかけたところでオゾンがさえぎった。
「立場が逆だったら、私も話しにくかったでしょう。気持ちは分かったわ。私は引きとめません。」
「いいのか?」
「みんなのアドバイザーをしている私が、こういうことで悩むわけにはいかないでしょう。キリュウさんを信じます。」
「そうか、すまなかったな。」
「私に打ち明けたなら、もうこの件は気にしなくていいわ。遠慮せずに行ってらっしゃい。」
「分かった。」
 キリュウはやっと肩の荷を降ろすことが出来、安堵の表情を浮かべた。
「お母さん。これからあたし達はどうするの?」
「そうねえ、日程はまだ残っていることだし、私達はコロナを送り届けた後、3人で私の母国、テファン国へ行こうかしらね。」
「行くの?」
「一度行ってみたいでしょ?」
「うん。お母さんの生まれた国だもの。行ってみたい。」
「じゃあ、キリュウさん、私達は3人で旅を楽しんでくるから、心配しないでね。」
「分かった。」
 そう言うと、キリュウは地図を広げ、一行と別れる都市を教えた。
 その日の昼頃、彼はそこで一行と別れると、一人で列車を乗り継いでクウォルへと帰っていった。

 ヒリュウがその日の運転を終え、みんなで夕食を取ると、辺りは既に夜だった。
 食事が終わると、ヒリュウはコロナと一緒に外に出てきた。
 2人は手をつなぎながら外を散歩した。
 周りに家は見えず、彼らは大草原の中の一本道にいた。空ではたくさんの星が輝いていた。
 ヒリュウはおびただしい数の星にすっかり魅了されていた。
 2人は手をつないだまま、道の上に座った。
「コロナ、きれいだね、この星空。」
「そうね、これを見ていると心が洗われていくわね。」
「でさ、僕達は明日キノンに到着するわけだけど、そうしたら…。」
「何?」
「僕達はそこで別れることになるんだよね?」
 ヒリュウはいずれその時が来ることを察知していたが、コロナはこれまでそれを意識しておらず、彼の言葉を聞いてはっとした。
「そう言えば、そうね…。寂しくなるわね。」
「僕も本当のことを言えば、離れたくなんかない。一緒にいたい。」
「私も。せっかく人を好きになったのに…。」
 ヒリュウはつないでいた自分の左手を離し、コロナの左肩に乗せた。
「たとえ離れたって、同じ日の同じ時間に、この星空を見つめることは出来るよ。たくさんの星を見たら、僕を思い出してね。」
「うん。そうするわ。」
「今書いている詞も、大事にしてね。買ってあげたギターも。」
「そうね。大事にするわ。」
 この時点では、まだ詞が未完成だったが、アイデアはかなり集まっていた。2人は作詞の名義を連名にすることを決めていた。
「それからね、ヒリュウ君…。」
「何?」
「あなたにお返しをしてあげたいけれど、何も出来なくてごめんなさい。」
「えっ?」
「私、あなたに何かしてもらってばかりで、申し訳ないと思っているの。だって…。」
「いいよ、そんなの。」
 ヒリュウはコロナの言葉をさえぎった。
「君と出会った時、深い寂しさを抱えていて、人に心を開けない雰囲気があったけれど、今はこんなに明るくなったでしょ?それが僕へのお返しだよ。気にしないで。」
「ありがとう…。」
 コロナは自分の頭をヒリュウの左肩に乗せた。2人は時間も忘れて寄り添っていた。
(たとえ国が違っても、考え方が違っても、話せない事実があっても、この星空を見つめれば、誰もが『きれいだね。』って言うんだろうな。コロナもきっと…。)
 予定では明日の夕方、2人は別れることになっていた。
(コロナがあれだけの反クウォル感情を持っている以上、僕の国に連れていくことは出来ない。それに、僕がキノンに住むことも無理だろう。本当にキノンでお別れになってしまうけれど、たとえ離れていっても、君のことは忘れない。)
 ヒリュウは彼女と一緒にいられる残りの時間を、大切に過ごそうと心に誓った。

 それから30分くらい経過してから、ヒリュウとコロナは手をつないだままゆっくりと来た道を戻っていった。
 車に戻ってくると、2人は書きかけだった詞を完成させた。
「どう?うまく出来たかな?」
「うまく出来ているわ。素敵な詞よ。」
「じゃあ、歌ってみてくれる?」
「いいわよ。それじゃ早速歌うわね。」
 2人は懐中電灯とラジカセ、そしてギターを持って再び外に出た。
 空き地まで移動すると、コロナはギターを弾きながら彼女が作曲、編曲し、2人で作詞した歌を歌い始めた。
 ヒリュウは録音しながら、彼女の可愛らしい声に魅了されていた。
 
 
『旅する人へ 夢見る人へ』

 人は誰もがみな
 旅をして生きていく
 まだ見ぬ夢が叶う時を目指して
 分かり合えた仲間と
 力合わせ進んでく
 果てしない未来へと続く道を

 人は誰もがみな
 いつか別れていく
 叶えた夢にさよならを告げて
 仲間との日々は
 過去に変わっていっても
 果てしない未来は終わりはしない

 一人ぼっちになって泣いて過ごした夜も
 人に認められず落ち込んだ日々も
 生きてさえいればきっと乗り越えられる
 それを教えてくれた君に「ありがとう」

 人は誰もがみな
 旅をして生きていく
 まだ見ぬ夢が叶う時を目指して
 分かり合えた仲間と
 力合わせ進んでく
 果てしない未来へと続く道を

 人は生きる限り続く出会いと別れを
 乗り越えながら旅人になる












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