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ふたつの国のために
作:地球の星



第6話:夢を見る人


 ヒリュウ、マフン、カペラはコロナを喜ばせようと色々試したが、有効な手段が見出せないまま、アイデアが尽きてしまった。彼らは段々重苦しい空気に包まれてきた。
 その時、さっきまで黙ったままだったコロナがカペラのところまで来た。
「ねえ、あなたが演奏したその曲、私にもやらせて。」
「えっ?コロナお姉ちゃん、この曲知っているの?」
「知らない。初めて聞いたわ。でも、やってみようと思って…。」
 本当に出来るの?と言っているように首をかしげるカペラをよそに、コロナはポケットからハーモニカを取り出した。
「それじゃ、今度は私がこの曲を演奏するわね。」
「楽譜見ただけで知らない曲を演奏出来るの?」
 マフンも不思議そうな顔をしていた。ヒリュウも半信半疑だった。
 そんな心配をよそに、コロナはハーモニカで演奏を始めた。
 すると、きれいなメロディーが部屋に響き渡った。きれいだけではない。演奏の腕前も見事だった。
 彼女はそれまで聞いたことのない曲を最後まで完璧に演奏した。
 3人はただただ驚いていた。そして、大きな拍手が沸き起こった。
「すげえ。本当に初めての曲だったの?」
 ヒリュウは彼女の音楽の才能に圧倒されていた。
「えっ?ええ。ごめんなさい。私だけ目立ってしまって。」
「いや、謝ることなんかないよ。どうしてこんなに凄い才能を持ってるの?」
 マフンは興味津々だった。それを聞いて、コロナの表情が曇った。
「…私には…、音楽しかなかったの…。」
 彼女は寂しそうに答えた。マフンは褒めたつもりだったのにうつむかれてしまい、動揺してしまった。
「どういうこと?何か辛いことでもあったの?悩みがあったら出来る範囲で話してよ。何でも聞くからさ。」
「…。」
 コロナはうつむいてしまった。しばらく沈黙が続いた。3人は何を話そうか迷っていたが、その時ヒリュウが話し出した。
「じゃあ、僕達に違う曲を聞かせてよ。」
「…いいの?」
「かまわないよ。君さえよければ。」
「…うん…。分かったわ。」
 コロナは持っていたハーモニカを口に当てると、自分で作った曲を心を込めて演奏した。
 3人はじっと聞き入っていたが、やがてヒリュウが曲に合わせて手拍子を始めた。コロナは彼の意外な行動にはっとしたが、そのまま演奏を続けた。
 やがてマフンとカペラもつられて一緒に手拍子を始めた。そのうち、雰囲気は段々盛り上がってきた。
 一曲吹き終えた時、大きな拍手が沸き起こった。
「コロナ、最高!」
「よっ!音楽の天才!」
「すご〜い、コロナお姉ちゃん。」
 ヒリュウ、マフン、カペラの賛辞の言葉に、彼女はただただ驚いていた。
「…、そんなに…、私の曲って良かったの?」
「うん。最高!」
 ヒリュウが答えた。
 コロナは自分の音楽でこんなにも盛り上がった経験は今までなかった。彼女は涸れた井戸に水が戻ってくるような嬉しさが込み上げてきた。
「私、音楽でこんなに楽しい経験したの初めて。みんなありがとう。」
「どういたしまして。僕達、どうやってコロナを楽しませようか悩んでいたけれど、どうやら音楽の話題で意気投合出来そうだね。」
 マフンが明るい口調で言った。
「そうね。これまで何を話せばいいのか分からずにいたけれど、これであなた達の仲に入っていけそうね。」
 やがてコロナがどうして音楽の才能を身につけることが出来たのかを話し始めた。
「私ね、小さい頃から病弱で、よく寝込んだりしたの。みんなからは度々いじめられたし、一人ぼっちだった。そんな時、両親がギターやハーモニカ、バイオリンといった楽器を安く買って、私にくれたの。」
「それがお姉ちゃんの、音楽との出会いだったんだね。」
「ええ。私は寂しさを紛らわすために、夢中で楽器を弾くようになったわ。そして、音楽が生きがいになった。他の人に心を開けなくなって、他の人に自分の気持ちを打ち明けることが出来ない中で、音楽だけが私の心を癒してくれた。だから、私には音楽しかなかったの。」
「ふうん、君も辛い過去があったんだ…。」
「コロナお姉ちゃんもいじめを経験してきたんだね。」
 マフンとカペラが真剣なまなざしで言った。
「えっ?カペラさんも経験したことがあるの?」
「う、うん…。」
「コロナもってことは、僕達4人ともそういう経験をしたことがあるんだね。」
 ヒリュウが言った。コロナは自分ばかりが一人ぼっちで、辛い経験をしてきたわけではないことを知った。

 やがて、4人は外に出て、街を散歩し始めた。街には店がいろいろあったが、彼らはなるべくお金を節約しているため、ウインドーショッピング状態だった。
 しばらく歩いていると、楽器屋の前を通りかかった。
 コロナは店の前で立ち止まって楽器に注目した。3人もつられて足を止めた。ヒリュウは彼女の隣に立った。
「どうしたの?何かほしいものあるの?」
「うん…。ギターがほしいなと思って…。」
 コロナは寂しさを癒すために、ひたむきに中古のギターを弾いていた時のことを話した。
「今の私には音楽しかないから…。でも、いくら楽器がほしいと思っても、一文無しだから…。」
 彼女はポケットからハーモニカを取り出すと、寂しそうに見つめた。さっきまで明るかった表情が一変した。
 やがて中にいた店員さんが4人に気づき、店から出てきた。
「いらっしゃい。何かお買い求めですか?」
「えっ?僕達、ただ楽器を見ていただけなんですけど…。何しろ、こんな高い楽器買えないから。」
 マフンがあせるような口調で答えた。
「あら、中古もあるわよ。見るだけでもいいから中に入ってみる?」
 4人はそれを聞いて、じゃあいいかという感じで店に入っていった。
 中にはアコースティックギターやエレクトリックギター、バイオリンなど、たくさんの楽器が並んでいた。しかし、買えるような値段のものはなかなかなかった。
 ヒリュウはそれでも何とかコロナのためにギターを買ってあげたいと考え、その気持ちを店員さんに告げた。
「じゃあ、リサイクル品があるから持ってくるわね。それなら安いわよ。」
「そうですか?じゃあお願いします。」
 店員さんはカウンターの奥に行き、しばらくしてから一本のアコースティックギターを持って戻ってきた。他の3人もそのギターを見た。確かに新品ではないが、でも充分に弾けそうだった。
 店員さんは値段をヒリュウに提示してくれた。
「コロナ、これなら僕にも手が出せるよ。買ってあげようか。」
「えっ、いいの?あなたのお金でしょ?」
「いいんだ。さっき君が弾いた曲、気に入ったんだ。買ったらギターで聞かせてよ。」
「…。」
「お金なら働けば取り戻せるよ。だから気にしないで。」
「…じゃあ、弾いてあげるわね。」
 ヒリュウはお金を払ってギターを受け取ると、コロナに渡した。
「ふうん、あなたはギターを弾くことが出来るの?」
 店員さんも興味を持った。
「ギターでの演奏はまだ見たことないけれど、きっと上手だと思うよ。」
「さっき彼女の自作曲をハーモニカで聞いたんだけど、とても上手だったよ。」
「コロナお姉ちゃん、凄いんだよ。知らない曲を、楽譜見ただけで演奏出来ちゃうんだ。」
 ヒリュウ、マフン、カペラも彼女の腕前を評価した。
「じゃあ今から、弾いてもらってもいい?わたしも聞いてみたいから。」
「…分かりました。じゃあ、ここで弾いてみます。」
 コロナはギターを構えると、早速演奏を始めた。3人は待ってましたと言うように手拍子を始めた。
 演奏が終わると、店員さんも満足した表情を彼女に見せた。
「あなた、本当に上手ね。」
「ありがとうございます。」
「ではわたしから見物料をあげるわね。」
 店員さんはレジからいくらかのお金を取り出すと、コロナに差し出してくれた。
「えっ?本当にもらっていいんですか?」
「いい曲を聞かせてくれたお礼よ。あなた才能あるわ。あなたの音楽には人を引きつける力があると思うの。遠慮しないで持っていきなさい。」
「でも、これは私がもらうべきじゃないと思うの。」
 コロナはせっかくもらったお金をヒリュウに渡した。その時、2人の手がそっと触れ合った。
「えっ…?い、いいよ。これは、君が音楽で稼いだお金だから。」
 柔らかい手の感触に、思わずヒリュウはドキッとしながら言った。
「でも…。」
「いいんだ。いつか、音楽でお金稼いで生活していけるといいね。そして、これがその第一歩になるといいね。」
 ヒリュウはお金をコロナに渡すと、今度は自分から彼女の手を包み込んだ。
「…では、もらうわね。ありがとう。」
「うん。君が喜んでくれて嬉しいよ。」
「ヒリュウ君…。」
 しばらくして、マフンが店員さんに質問をした。
「あの、君の名前を聞いてもいいですか?僕はマフンです。」
「わたし?ライラックよ。よろしくね。」
 ヒリュウ達も自己紹介をすると、ライラックと共にしばらく話をしていた。
 やがて4人は彼女に頭を下げてお礼を言うと、楽しそうに店から出ていった。

 4人がまた街中を歩き、公園まで来ると、そこではフリーマーケットをやっていた。その中には衣服を売っているところもあった。
 コロナはまだオゾンの服を着ていたため、彼女には大きかった。そのため、マフンがピッタリのサイズの服を買おうと言い出した。
 彼はコロナと一緒に衣服売り場に足を踏み入れると、彼女に服を選ばせた。コロナは値段をしきりに気にしていたが、その度に「気にしないで。」と言う声が飛んだ。
 ヒリュウはコロナからギターを受け取り、カペラと一緒にフリーマーケット会場を歩き回った。
 少し歩くと、ふと台車を見つけた。細長い板に車輪がついていて、荷物を引っ張るためのひもがついていた。
「これ、買おうかなあ。」
「お兄ちゃん、そんな台車買って、何に使うの?」
「スケボーにちょうどいいかなと思って。」
「ちょっと大きくない?」
「まあ、いいや。安いし。」
 ヒリュウはほとんど迷うことなく、台車を買った。
 2人は他に何かないか見て回ろうとしたが、ギターと台車を既に持っていることもあって、結局公園のベンチに座った。
 ヒリュウは試しに一度ギターを弾いてみようとした。しかしうまく出来ない。
「あれ?おかしいな…。どう弾けばいいんだ。」
「お兄ちゃん、左利きでしょ?それじゃ逆じゃない?」
「あ、そうか。」
 ヒリュウは左利き用にギターを構えると、見様見まねで弾いてみたが、やっぱりうまく出来ない。
「難しいなあ、これ。」
「お兄ちゃん、あたしに渡してくれる?あたしは右利きだし。」
 そう言われて、ヒリュウはギターを渡した。カペラは試しに弾いてみたが、彼女にとっては大きすぎた。しかも、やっぱりうまく演奏出来なかった。
「コロナお姉ちゃんがさっき、器用に演奏していたのを見て、簡単そうに見えたけれど、難しいね。」
「ああ。よほど練習したんだろうな。まいったよ。」
 2人が会話をしていると、コロナが買ったばかりの服を持って、マフンと共に戻ってきた。
「お姉ちゃん、服買えたんだ。」
「ええ、そうよ。これでピッタリの服が手に入ったわ。」
「僕の交渉のおかげだけどね。」
「交渉って、マフンお兄ちゃん、何かしたの?」
「コロナのために値切った!それもしぶとく食い下がって。」
「値切ったんかい!ワルだな!」
 自慢げに豪語するマフンに、ヒリュウが突っ込みを入れた。
「その通り。昔、ちょっとワルやってましたから!」
「マフン君、一体何をやっていたの?」
「教えな〜い。」
 4人が話をしているうちに、ヒリュウとマフンが漫才のようなやり取りを始めた。
「マフン、交渉ってどうすればうまくいくんだ?」
「『こうしよう』って考えがあれば。」
「何だそりゃ!お前ってギャグばっかりだな。」
「いや〜、ギャクにその方が楽しくない?」
 マフンの発言に、ヒリュウは思わず噴き出してしまった。つられてコロナとカペラも笑い出した。
 それを見ながらヒリュウは(コロナって声もかわいらしいけれど、彼女の笑った顔、可愛いな。その笑顔をずっと見ていたいな…。)と顔を赤らめながら考えていた。
 会話で盛り上がっていると、ヒリュウの通信機に着信が入った。キリュウからだ。4人はこのメッセージを見て、明日ここを離れることを知った。
 すると、さっきまでの笑いは一気にさめてしまった。つまりマフンとはこれでお別れということだ。
 しばらくすると、今度はマフンにキリュウから着信が入った。内容は『自分達は一旦ここを離れた後、別のところをまわり、再びルレクに戻ってくる。その時にここに住むか、ここを離れるかを決めなさい。』というものだった。
 マフンはそれを読むと、早速『分かりました。では住んでみて決めます。気を使ってくれてありがとうございます。』と打って返信した。
 4人は一旦キャンピングカーに戻り、荷物を置いた。そしてコロナが着替え終わると再び外に出て、また街中を歩き出した。彼らはなるべくお金を使わずに、楽しく過ごせるやり方を実践していた。

 その日の夜、マフンはキリュウと共にこれからのことについて詳しく話し合っていた。その結果、大体10日程でここに戻ってくることになった。
 マフンはまだ決心はついていなかったが、とりあえずはここに住み続けるつもりで考えていた。
 カペラは得意教科の算数と理科の教科書を読んでおり、オゾンは人間の心理に関する本を読みふけっていた。
 その頃、ヒリュウとコロナは一緒に夜道を散歩していた。ヒリュウは左手にサッカーボールを抱えていた。
 空では満天の星空が浮かび、月明かりが2人を明るく照らし出していた。
 音楽のことで色々話し合っていると、コロナは昼間に演奏した曲について話し出した。
「ヒリュウ君、楽器店にいた時に弾いた曲、本当に気に入ってくれた?」
「とてもね。録音して何度も聞きたいなあ。」
「録音、出来るの?」
「うん。僕、ゼンマイ式のラジカセ持ってきたんだ。録音機能もついているから、それに吹き込めば何度でも聞けるよ。」
「便利な機能ね。じゃあ、後で吹き込んでもいい?」
「いいよ。それでね、あの曲って歌詞あるの?」
「ないわよ。私、詞はあまり書いたことないの。」
「じゃあ、僕が詞をつけるよ。いい?」
「えっ、あなたが?」
「うん。詞をつけたら、歌ってくれる?」
「そうね…、いいわよ。ただ、男言葉は使わないでね。」
「ああ、そうだね。気をつけるよ。それでさ、完成したら作詞ヒリュウ、作曲編曲コロナってなるね。その名義でいつか世間に発表して、大ヒットするといいね。」
「ヒリュウ君、夢大きいわね。私、そこまで出来るだけの実力あるのかしら…。」
「うん、きっと。たとえ今すぐじゃなくても、いつかきっとそうなるよ。僕だってサッカー選手になるのが夢なんだ。しばらく中断しているけれど、この旅が終わったらまたサッカーチームに所属したい。そこで活躍して、プロのチームに入りたい。そしていつか世界に知られる選手になりたい。それが夢なんだ。」
 ヒリュウはそう言うと、持っていたサッカーボールでリフティングを始めた。
「大きな夢ね。叶うかどうかは分からないけれど、応援するわね。」
「ありがとう、コロナ。」
 ヒリュウはボールを地面に落とすことなく30回くらいリフティングをしていたが、やがてボールを大きく上に蹴り上げ、それを両手でキャッチした。
 その後も親しく話しているうちに、コロナが意外なことを言い始めた。
「ヒリュウ君…。」
「何?」
「私のこと…好き?」
 コロナは顔を真っ赤にして言った。
「えっ?あ…、そ、そう…だけど…。気づいてた?」
「ええ。マフン君から聞いたわ。」
「いつ?」
「ほら、昼間フリーマーケットに行った時よ。私に色々話してくれたわ。」
「あのジョーク魔め〜、3つも年下のくせに、本当にワルだな。」
「興奮しなくてもいいわ。私もあなたのこと好きだから。」
 それを聞いた途端、ヒリュウは真っ赤になった。
「えっ?いつから?」
「そうね…、分からないけれど、いつの間にか。」
「そうなんだ…。僕は、君に会った時から。つまりさ…、一目ぼれってやつかな…。」
「やだ…。あんな姿の私に一目ぼれだなんて…。どうして?」
「まあ、ちょっとね…。それからさ、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「何?」
「手を…、つないでもいい?」
 ヒリュウは左手を差し出した。
「…。」
「…無理なお願いだったかな…?」
「…いいわよ。」
「いいの?」
「ええ。」
「…よっしゃー!!」
 ガッツポーズをしながら喜ぶヒリュウを見ながら、コロナは右手を差し出した。それを見てヒリュウは即座に左手をつないだ。彼はコロナの嬉しそうな姿を見られたことを心から喜んでいた。
 2人はしっかりと手をつないだまま、夜道を楽しく歩き回っていた。

 その頃、マフンとキリュウは今後の予定について打ち合わせをしていた。その中で、キリュウはこれからコロナを送り届けるために、自分達はキノンに立ち寄ることを告げた。すると、マフンは手紙を書き始めた。
「何を書いているのかね?」
「プロミネンスに届けてもらえないかなと思って…。確か、この人はコロナの兄貴だよね?」
「知っていたのかね?こちらからは何も話していないのに。」
「ああ。キノンであいつの兄、プロミネンスに会って話をしたんだ。だから、とっくに知ってたよ。知ってて、僕はコロナと親しく接していたんだ。」
「そうか…。」
 マフンは手紙を書き終えると、キリュウに渡した。
 しばらくすると、ヒリュウとコロナが手をつなぎながら楽しそうに戻ってきた。2人はラジカセとギターを持つと、すぐに外に出ていった。
 そして静かなところまで移動すると、コロナが早速演奏を始めた。ヒリュウは録音しながら、じっとそれに聞き入っていた。












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