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ふたつの国のために
作:地球の星



第4話:コロナとの出会い


 ナルビオン国の都市を取材しながら5人は、トラック並みの大きさのキャンピングカーをレンタルして旅をしていた。
 これを運転しているのはヒリュウだ。本当はキリュウもオゾンも運転出来るのだが、彼は兵役時代に色んな乗り物を乗りこなせるようになったこともあり、運転技術は誰にも負けなかった。
 そのため、彼はほとんどの運転を担当していた。
 前の都市から北に60kmくらい走ったところで、いよいよルレクの街並みが見えてきた。
 マフンは自分の生まれ故郷にやってくるのを、首を長くして待っていた。彼は15年前まで自分の家族が住んでいたと思われる、大体の場所を助手席でヒリュウに教えた。
 やがて大きな空き地が見つかると、そこに車を止めた。
「父さん、ここで食料の買出しに行く?」
「そうだな。では早速役割分担することにしよう。」
 後部座席に座っていたキリュウが答えた。
 この街で何をするかを話し合った結果、二手に分かれてヒリュウとマフンは水汲みに行き、キリュウとオゾン、カペラは食料の買出しに行くことになった。
 5人は携帯用の通信機でいつでも連絡が取れるような状態であることを確認すると、別々に行動を始めた。

 ヒリュウとマフンは2リットル入りのボトルをそれぞれ両手に持って歩き、水が手に入りそうなところを都市の人に聞いてまわった。すると、ここから5分ほど歩いたところに井戸があるのでそこから水を汲んでいくようにというアドバイスを受けた。
 2人はお礼を言うと早速そこまで歩いていった。途中、色々会話をしながら盛り上がっていた。
「これまでの旅は楽しかったけれど、キノンでの雰囲気凄かったね。ヒリュウ。」
「ああ。建物はあちこち壊されていたし、人々の反クウォル感情は凄かった。まさに大アウェーの地だったね。」
「もしもあの時、『クウォルから来ました。』なんて言ったら、どうなっていたことやら。」
「そうだね。この旅を通じて父さんが僕達に伝えたかったことってこういうことだったんだろうね。」
「うん。あの時、出動していった軍隊があんなことをしていたなんて…。最初は嘘だろなんて思っていたけれど、これが現実だったんだ…。」
「軍の上の連中はこんなことをして、それを隠し通していたのか…。何か、ぶっ倒してやりたいよなあ。クウォル人として恥ずかしくなってきたし、ナルビオンの人に申し訳なくなってきた。」
「僕は立場的にすごく微妙だよ。今回の件はどう解釈すればいいんだよ。」
「さあ…。」
 あの時は旅に出た時の楽しい気持ちが吹き飛んでしまった。すぐには受け入れがたい現実を知らされ、ヒリュウとマフンは未だに気持ちの整理がつかずにいた。
「お前の親父さんが言うには、『ナルビオンにいる間は出来るだけクウォルから来たってことは隠せ。』って言ってたよな。」
「そうだね。キノンから逃げてきた人もいるだろうし、もしかしたら他の都市にも知れ渡っているかもしれないからね。」
「僕は国籍がナルビオンと言っても、それで容赦してくれる雰囲気じゃなかったし…。ますます立場的に微妙だ。住めるかなあ、ここで。」
「今からやめてもいいんだぞ。クウォルに帰るか?」
「…。」
 マフンはこの都市に住むという気持ちが揺らいでいた。それを察したヒリュウもそれ以上聞こうとはしなかった。
 2人は井戸にたどり着くと、早速水を手に入れた。そして来た道を引き返していた。
車まで到着すると2人は水を別容器に移し変えて、再び水汲みに出かけた。

水汲みは2往復したところで終わったが、その時にはキリュウ達はまだ戻ってきていなかった。時間が余ってしまったため、マフンの生家を見にいくことになった。彼は結局ここに住むことを決めた。
 マフンは事前に用意しておいたルレクの地図を持って外に出ると、ヒリュウと一緒に歩き出した。
「いよいよ、自分の願いが叶う時がきたんだ。楽しみだなあ。」
「僕も楽しみにしてたよ。でもさ…。」
「でも、何?」
「お前とはここで別れるんだろ?何だか寂しいなあ。せっかくこうやって仲良くなれたのに。」
「お互い携帯用の通信機持っているんだから、連絡は取れるだろ。」
「まあ、そうだね。それにしても住む家はどうするんだ?」
「まだ考えてないんだ。生家が空いていればそこに住むし、そうでなければ泊めてくれそうなところを探す。まあこれから決めるよ。」
「うまくいくといいね。」
「ああ。」
 2人が会話をしながら歩いていると、何か音が聞こえてきた。
「何だろう。誰か演奏しているのかな?」
 ヒリュウはそう言うと、マフンと共に音のする方へ進んでいった。
 人が住めないほどボロボロになった家の入口まで行くと、そこには一人の少女が座ったままハーモニカを口に当てて寂しげな曲を演奏していた。
 何か大変なことでもあったのだろう。着ている服は汚れていて、彼女自身も衰弱しているようだった。
 マフンは特に気にしていないようで、そのまま前を通り過ぎようとしたが、ヒリュウは少女の前で立ち止まった。
(父さんはあの時、どんな気持ちだったんだろう…。)
彼はしばらく何かを思い出すように考え事をしていた。
すると、マフンが振り返って
「ヒリュウ、何やってんだよ。行くぞ。」
 と、言ってきた。しかし、ヒリュウがその場を動こうとしなかったため、結局戻ってきた。
「君は、どうしてここにいるの?」
 ヒリュウはその場に座って問いかけた。マフンは立ったまま彼女を見つめていた。
「…。」
 彼女はハーモニカを口から離してポケットに入れた。しかし、何も答えなかった。
「僕はヒリュウ。色んな都市を旅してまわってるんだ。」
「私は…、コロナ…。」
 彼女はしばらく時間がたってから答えた。しかし声はあまりにも弱々しかった。
「ねえ、君ひょっとして病気?」
「…。」
「誰か頼る人いるの?もしいなかったら、僕のところに来ない?姉ちゃんに一度診てもらう?姉ちゃん、治療が上手なんだ。」
「あなたについていったら…、私は…どうなるの…?」
「どうなるって?」
「またどこか…知らないところに…連れていかれたりしない…?」
 その声は弱々しいだけでなく、おびえているようだった。
「僕はそんなことしない。君に何があったのかは知らないけれど、とにかく姉ちゃんに診てもらったほうがいいよ。」
「…。」
 コロナは何か不信感を抱えているようで、なかなかその場を動こうとしなかった。マフンは自分の生家に行きたがっていたが、少し歩いたところでやっぱり立ち止まり、少し離れたところから2人を見つめた。
「とにかくさ、立ち上がれる?」
 ヒリュウは勢いよく立ち上がり、手を差し伸べた。コロナは疑いの目を見せながらも、ゆっくりと立ち上がった。しかし足がふらつき、倒れ掛かってきた。
「えっ?うわっ!」
 ドサッ!
 ヒリュウはバランスを崩して仰向けに倒れてしまった。ふと見ると、コロナが自分の体の上に乗っかっていた。
「ちょ、ちょっと!」
「ご…、ごめん…なさい…。足が…ふらついて…。」
(この娘、かなり弱ってる。早く姉ちゃんに知らせて治療したほうがいい。)
 ヒリュウはそう思いながらコロナの体の上から抜け出した。
「マフン、姉ちゃんにメッセージを打ってくれ。」
「えっ?僕が?」
 ヒリュウはコロナを両手で抱えて立ち上がった。
「この人を助けたいんだ。早く。」
「分かった。じゃあ生家に行くのは後だ。連絡するよ。」
「頼む。」
マフンはポケットから通信機を取り出し、オゾンに向けてメッセージを打ち始めた。
「治療…してくれるの…?」
「うん。早く治療してもらったほうがいい。」
「やっぱり…、何かされそうで、怖い…。」
 コロナはまだおびえている様子だった。
「大丈夫だよ。それよりもここでじっとしていたら、ただ弱っていくだけだ。きっと助けるから、僕達を信じてくれ。」
「…はい。」
ヒリュウはにっこりと微笑みかけると、彼女を抱えたままキャンピングカーに向けて歩き出した。マフンはメッセージを打ち終わって送信すると、2人の後を追っていった。
ヒリュウとマフンはコロナに一体何があったのか聞きたかったが、彼女が自分達を疑いの目で見ている以上、聞くわけにはいかなかった。とにかく彼女を安心させて、助けてあげないと。そう考えていた。

キャンピングカーにたどり着くと早速2人がかりでヒリュウのベッドに彼女を寝かせた。マフンはこの時、コロナに自己紹介をした。
「大丈夫?今、食べ物を持ってくるから。」
 ヒリュウはそう言い残すと、自分の部屋を出ていった。しばらくして、カロリーブロックの箱を持って戻ってきた。
「おなかすいているだろ?食べなよ。」
「いいの…?何か…変なもの入ってない…?」
「大丈夫だよ。僕がおやつに食べようとしてたものなんだ。おいしいよ。」
 それでもコロナはなかなか食べてくれなかった。ヒリュウは何とかしたいと考えていると、マフンが
「お前が一本食べてみたらどうだ?」
 と、言い出した。
「えっ?コロナにあげようとしているのに。」
「食べれば、彼女も安心するよ。」
「まあ、そうだな。」
 ヒリュウは納得すると、箱に入っている4本のうちの1本を食べ始めた。コロナは横になったままその様子をじっと見ていたが、やがて上体を起こした。どうやら自分も食べる気になったのだろう。
「残りはあげるよ。食べれば元気が出るよ。」
「ありがとう…。」
 コロナは箱を受け取るとカロリーブロックを取り出し、ゆっくりと食べ始めた。ヒリュウは2口で1本を食べきってしまったが、彼女は少しずつ口に入れては、その度に噛みしめるようにしてゆっくりと食べていた。
(よほど空腹だったんだ。僕達が助けなかったら、どうなっていたんだろう…。)
 ヒリュウは急に切なくなり、コロナをじっと見つめていた。マフンも傍らから彼女を見ていたが、急に立ち上がると、
「じゃあ僕は飲み物を持ってくる。ちょっと待ってて。」
 と言って、部屋から出ていった。
 しばらくすると、牛乳パックを持って戻ってきた。
「ありがとう…。でも…、自分達の食料を…。」
「気にしなくていいよ。食べ物はまた買えば手に入るから。」
 マフンは元気な声で答えた。ヒリュウはじっとコロナに見とれていた。
「お前さっきから、彼女ばっかり見つめているんだな。」
「えっ?そ、そう?」
「惚れたか?」
「な、何言ってんだよ!」
「ほら、興奮してる!」
「お前なあ!」
 ヒリュウがムキになって言い返すのをマフンは楽しんでいた。コロナはそのやり取りを見ても、笑顔一つ見せようとしなかった。彼女はカロリーブロックを食べ終えて、今牛乳を飲み干したところだった。
その時、外から声が聞こえてきた。
「あ、多分姉ちゃんだ。呼んでくるね。」
「それなら僕が行くよ。」
「いいのか?マフン。」
「うん。お前は彼女のそばで寄り添ってやれよ。」
「そういう理由かい!」
 マフンは冷やかすように言うと、ムキになったヒリュウを見ながら部屋を出ていった。
 しばらくすると、買い物を済ませたオゾンとカペラが、マフンと共に入ってきた。
「この人ね。あなた達が見つけてきた人というのは。」
 オゾンが言った。
「そうだよ。でも、ヒリュウがいなかったら僕は素通りしていたけれどね。」
「コロナ、紹介するよ。この人が姉のオゾン。こちらは妹のカペラ。よろしく。」
「お兄ちゃん。この人、かなり疲れているみたいだね。」
「うん。一人ぼっちだったから。姉ちゃん、早く診てやってよ。それからコロナ、怖がらなくていいよ。とてもいい人だから。」
 案の定、彼女は見知らぬオゾンとカペラを見て、警戒していたが、ヒリュウは微笑みながら優しく語りかけた。
「…はい…。…お願いします…。」
「じゃあ、ヒリュウ。彼女のことは私に任せていいから、あなたは部屋の外に出てもらってもいい?」
「はい。って、姉ちゃん、ここ僕の部屋だよ。」
「あ、そうね。でもちょっと使わせてもらっていい?」
 オゾンは手を合わせて微笑みかけながら、お願いをした。
「…はい。分かりました。じゃあ、マフンと一緒に出かけようかな。」
「そうだね。僕の生家を見にいく途中で、彼女に出会ったんだし。」
「それじゃ、行ってきます。」
 ヒリュウとマフンは一緒に立ち上がって歩き始めた。
「お兄ちゃん達、行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってきます。」
 ヒリュウが返した。
「2人とも、覗かないでね。」
「覗くかよ!」
「変な想像させんな、カペラ!」
 2人が興奮しながら答えると、やがてそこには笑いが起こった。ただ、コロナだけは無表情だった。
ヒリュウは彼女に向かって優しく微笑みかけると、マフンと共に外へと出ていった。
 キリュウはまだ取材中だったため、ここには戻ってきていなかった。
 オゾンの診察の結果、コロナは風邪をひいているうえに、栄養失調で脱水症状だったことがわかった。オゾンとカペラは買ってきたばかりの食べ物と、ヒリュウとマフンが汲んできた水を用意し、コロナに与えた。
彼女はまた噛みしめるように、食べ物を大事そうに食べ、ゆっくりと水を飲んだ。2人はその様子をじっと見ていた。
 やがてコロナが食事を終えると、オゾンは彼女にシャワーを浴びることを勧めた。彼女は自分の服を着替え用に用意して、浴室に案内した。
 それから10分後、体をきれいに洗ってさっぱりしたコロナは早速オゾンの服を着て戻ってきた。着替えの服は彼女には大きかったが、袖まくりをして対処した。
「…ありがとうございます。」
 コロナはお礼をした。おなかを満たすことは出来たが、彼女の足はふらついていた。
「コロナお姉ちゃん、どうしたの?具合が悪いの?」
「…何でもないわ。」
「でも顔色悪いよ。本当に大丈夫?」
「…大丈夫。頭が痛いし、…眠いの。」
 心配そうに問いかけるカペラに言葉を返したが、その声は弱々しかった。
「じゃあ、私のベッドで休みなさい。不安がらないでいいわ。あなたは身も心も疲れきっているけれど、ゆっくり休めばきっと元気になれるわ。」
「コロナお姉ちゃん、早く良くなってね。」
「…ありがとう。」
 優しく語りかける2人に、コロナは眠そうな目で答えた。彼女は言われたとおりにベッドに横になると、たちまち眠りに落ちていった。
 ひとまずコロナは一命を取り留めることは出来た。しかし、彼女の心は重く閉ざされていた。
 そんな姿を見ながら、オゾンは12年前、当時23歳の自分が異国の地から来たキリュウ、ヒリュウと出会った時のことを思い出していた。
 あの時も、自分の心は重く閉ざされ、最初は彼らとなかなか話が出来なかった。そのため、彼女にはコロナの姿がたまらなくあの時の自分と重なって見えていた。












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