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ふたつの国のために
作:地球の星



第2話:狙われた都市


ナルビオン国は山が多い国土で、クウォル国と比べると小さかった。森がたくさんあるため、緑の豊かなところだが、工場のような建物はあまりなく、産業と言えば第1次産業が主だった。
輸出品は農作物や木炭が主だが、調査によると、ある地域には鉄鉱石が眠っている場所があることが判明し、何とか発展に結び付けられないかという動きもあった。
 豊かな生活をしている人は全体的に少なかった。外国に行く人はいるが、観光目的の人は少なく、出稼ぎで行く人がほとんどだった。
この国の中に、キノンという小さな都市があった。人口は二千人程と少ない。人々は農作業をしたり、木を切ったりしながら自給自足の生活をしていた。

都市の一角に、もうすぐ50歳になる夫婦と26歳の一人息子、そして18歳の一人娘の計4人が過ごしている家があった。
夫婦2人は他の多くの家庭と同様に、農作業をしながら過ごしていた。
彼らの一人息子の名前はプロミネンス。身長は175cmあった。彼は力自慢で仕事を率先して引き受けており、朝家を出てから夜暗くなるまでほとんど毎日仕事に明け暮れていた。
本来なら休みの日でも、仕事の依頼が入れば畑を耕したり、井戸を掘ったり、木を切ったりというような仕事に積極的に参加した。家にいることは少なかったが、家族の中では一番の稼ぎ頭だった。
 一人娘の名前はコロナ。身長は155cmだった。兄とは対照的に彼女は病弱で、毎年冬になるとよく風邪をひいて熱を出し、寝込んでしまうことがあった。
雪が降るとまわりの人達は雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりして楽しんでいたが、彼女は子供の頃からそのようなことにほとんど参加したことがなかった。
そのため、いつの間にか人と接することが苦手になり、仕事でも充分に貢献することが出来なかった。
コロナは風邪などで寝込む度に家族の世話になっていたが、彼らの仕事に支障をきたしてしまうことを、彼女は申し訳なく思っていた。
4人は力を合わせて生きていたが、貯蓄はあまり出来ない状況だった。
そんなある日のこと、コロナとプロミネンスの父親、コメットが言った。
「父さんと母さんは、明日テファンという国に出稼ぎに行く。しばらく留守にするが、2人で頑張ってくれ。」
 彼らがここを去ることは以前から決まっていた。もちろん、コロナとプロミネンスも知っていた。しかし、それでも寂しかった。
「お父さん。やっぱり私、引き留めたい。ここにいてほしい。」
 友達が少なく、両親にかなり頼っていたコロナにとっては泣きたくなるほど辛かった。両親も彼女の気持ちは痛いほど分かっていた。
「お前の言いたいことはわかる。だが、生活を助けるために、これは必要なことなんだよ。」
「コロナ、あなたは18歳でしょ?もう小さくはないんだから。」
「う、うん…。そりゃ、私だって分かってはいるけれど…。」
 力なくうつむくコロナの肩をプロミネンスがたたいた。
「大丈夫、おれがついているぞ。これからは少しでも家にいる時間を増やしてお前を支えてやるから、心配するなって。」
「兄さん…。」
「プロミネンス、妹をよろしくね。」
「あいよ。まかせとけって。」
 母親のクレセントの言葉にプロミネンスは元気に返事をした。
 コロナは少し元気を取り戻し、自分の部屋に行った。そこには笛やバイオリン、古びたアコースティックギターといった楽器が置かれていた。
 彼女は他の人と遊びに行くことが少なく、一人で部屋に閉じこもってしまうことが多かった。そのため、両親が何か夢中になれるものがあればと思い、出稼ぎ先で安く買ってきては、彼女に与えていた。
今では色々な楽器をすっかり弾きこなせるようになり、さらには自分で曲を作るようになっていた。
 今日もコロナはギターを手に取ると、早速彼女が作曲した曲を、心を込めて弾き始めた。演奏していると、不思議と心が和み、表情が和らいだ。
(本当にこうやって音を奏でている時が、私にとっての至福の時だわ。一人ぼっちの寂しさも、病弱ゆえの辛さも、全てを癒してくれる。音楽は私にとっての生きがい。かけがえのない私の財産だわ。)
彼女の奏でる音色は隣の部屋にいるプロミネンスにも届いた。
「あ、また始まったな。」
 彼はコロナの曲を聴くのが好きだった。ただ、彼女の性格からか、暗い曲や寂しい曲を弾くことが多かったため、何か明るい曲を作るきっかけを見つけ出すことが出来ればと考えていた。
 両親がナルビオンを離れていったのは、その翌日のことだった。

 コロナは両親が出稼ぎのためにナルビオンから出ていった後、今まで以上に家で楽器を演奏する時間が増えていった。そのためか、他人と接する時間は以前よりも減っていた。
クウォル国の軍隊が出動してから2週間くらいがたった、ある日の朝だった。プロミネンスは仕事に出かけるために家を出ると、コロナに声をかけた。
「それじゃ、おれは行ってくる。留守番頼んだぞ。」
「はい。分かりました。」
 コロナは自分が充分に仕事をこなすことが出来ず、他人からはお荷物扱いされてしまうことが多かったため、元気にバリバリ仕事をこなせる兄がうらやましかった。
 兄の姿が見えなくなると、自分の部屋から笛やギター、ハーモニカを持ってきて、この日は家のドアの前で弾き始めた。弾いた曲は全て彼女が作曲したものだ。弾いていると、通りがかりの人が時々彼女のもとに寄ってくることはあった。しかし、暗い曲が多いため、聞きふけることはあまりなく、たいていはすぐに立ち去ってしまった。
それでも、音楽は彼女の心を癒してくれた。音楽があるから生きてこられたと言っても過言ではないだろう。
 太陽が高く昇りつつある頃、コロナにはふと地平線の彼方から見慣れぬ乗り物がこっちに向かってくるのが見えた。彼女にとっては見たことがないものだった。
「何かしら…。」
 彼女は楽器を弾くのをやめ、じっとその乗り物を見つめていた。周りの人もやがてそれに気づき、興味深そうに見つめていたが、やがて、騒がしい雰囲気になってきた。
「おい、あれは戦車だぞ。」
「あれは確か、クウォルの軍隊じゃない?」
「こっちに向かってくる!」
「逃げろ!クウォルが攻めてくるぞ!」
 口々に叫びながら、人々は戦車とは反対方向にある森の中に逃げ始めた。
「兄さん?兄さんのところに行かなきゃ。確か、井戸を掘りに行っているはず。」
 コロナは命の次に大事な存在のギターと笛をその場に置いたまま、ハーモニカだけをポケットに入れて、プロミネンスが働きに行った方向に駆け出していった。
 住民が森に隠れたあと、いよいよ砲撃が始まった。クウォルの戦車はまだ都市からは離れていたが、弾は住居のあるところまで届いた。街は砲撃を受け、いくつもの畑や道路、家が破壊されていった。
 クウォルの軍隊は街中までは来なかった。どうやら殺戮や略奪に来たわけではなく、戦車の威力を試しに来たのだろうか。
 街には既に人影はなかった。軍隊は森には砲撃をしてこなかったため、犠牲者は出なかった。しかし、人々の心に大きな傷を背負わせるには充分だった。街が破壊されていく。それだけで、充分に悲劇だった。
その様子を街の人々は森の中から見つめた。何かやり返してやりたかったが、なす術がない。たとえ立ち向かっていっても、命を粗末にしてしまうだけだろう。
「くそっ、あいつら…。」
「おれ達の街が…。」
「私達が何をしたっていうの?」
「許さねえ。絶対許さねえ。」
「クウォル人め、ただじゃ済まさないからな!いつか復讐してやる!」
「この悔しさは、一生忘れないわ!」
 人々は口々に言い続けた。そこには悔しさ、憎しみ、そして何も出来ない無念さがあふれ出ていた。

 1時間くらい続いただろうか。やがて砲撃は止んだ。その後、何人もの兵士がトラックのような乗り物に乗ってやってきた。彼らは銃を持ちながら辺りをキョロキョロしていた。
 兵士達はトラックからあまり降りることはなかった。どうやら、自分達の兵器の威力を確かめるために、調査をしているように見えた。
 いずれにしてもキノンの人達にとっては、その光景は恐怖以外の何物でもなかった。街に出ていき、ゲリラでもしてやりたい心境だった。
 その中で、プロミネンスは妹のことが気がかりで仕方なかった。彼は森の中をあちこち歩きながら、コロナの居場所を聞いてまわった。しかし、返ってくる返事はそっけなかった。
「知らない。」
「こちらも人を探しているの。あなたの家族まで気がまわらないわ。」
「下手に動き回らないほうがいい。狙われるぞ。」
 そのようなことを言われ、彼はやりきれない気持ちになった。
(こっちだって必死に探しているんだ。何でこんなことになるんだよ。)
 そう思いながらも、あきらめずに聞き込みをしていると、
「これだけ探しても見つからないということは、逃げ遅れて兵士達に捕まったかもしれないな。」
 と言う返事が返ってきた。その人は適当に答えたのだろうが、プロミネンスの心にはグサリと突き刺さった。
(まさか…。)
 そう思うと、とっさに街の方向を見た。まだ幾人もの兵士達が街中を移動していた。
 プロミネンスはいても立ってもいられなくなり、一目散に駆け出していった。
「待ちなさい!今街へ行っては危険だ!戻りなさい!」
 と、さっきの人から大声が飛んできたが、彼の耳には届いていなかった。
 プロミネンスは途中で木の棒を拾うと、危険をかえりみずに街へと乗り込んでいった。そして物陰から兵士を覗き込みながら、自分の家に向かった。相手は銃を持っている。果たして生きて帰れるか、それは彼自身も分からなかった。
(妹はどこだ?)
今はそんな一念が彼を動かしていた。
彼が兵士を見た限り、人をさらっている様子はなかった。どうやら妹がさらわれたとは考えにくかった。
プロミネンスはやっと自分の家にたどり着いた。家の前では古びたアコースティックギターと笛が置き去りになっていた。
「ハァ、ハァ…。いるのか?コロナは…。」
 すっかり息を切らしながら、家の中に入っていき、祈るような気持ちで妹を探した。
 しかし、彼女はどこにもいなかった。心にはあせりの気持ちがつのった。
「コロナ…。」
 ふと外を見ると、何人かのクウォル人兵士が笑いながら歩いているのが見えた。冷静さを失ったままのプロミネンスは、自分がバカにされているように感じ、とっさに表に飛び出していった。
「貴様ら!」
 突然人が飛び出してきたので、兵士達は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「何だね、君は?何をそんなに怒っているんだね?」
「いい度胸だな、わざわざこんなところまで来るとは。」
 兵士達の何気ない言葉が、プロミネンスの心をさらに逆なでした。
「おれ達をバカにするな!!」
 彼は手に持っていた棒を振りかざし、兵士達に襲い掛かった。
 バキッ!
「ぐあっ!!」
 兵士の一人が声をあげながらその場にうずくまった。それでも意識ははっきりしていた。プロミネンスは続けざまに別の兵士にも襲い掛かった。しかし、その兵士は素早く銃を手に取り、攻撃を受け止めた。
2人の打ち合いはしばらく続いた。兵士は銃の先の部分を持ちながら戦っていた。他の兵士は銃を構えることもせずにその様子をじっと見つめていた。それはまるで、彼がプロミネンスに負けるわけがないと言っているかのようだった。
最初はプロミネンスが優勢だったが、やがて兵士が本気になって反撃を開始すると、次第に立場は逆転した。
やがて、ズドッ!という音と共に、銃の持ち手部分がプロミネンスの右肩を直撃した。
「ぎゃああぁっ!!」
痛みと共に、彼は持っていた棒を落とした。反撃することが出来ずにいると、他の兵士達が一斉に襲い掛かった。
プロミネンスは一方的にやられ続けた。やがて、彼は体のあちこちを殴られ、力なく地面に倒れこんだ。
「残念だったな。おれ達と戦って勝てると思っていたのか!」
「いきなり襲い掛かってきたんだ。命が助かっただけでも、ありがたいと思え!」
 兵士達は同情することもなく言葉を吐き捨てると、プロミネンスに殴られた一人に気を使いながら立ち去っていった。
(ちくしょう…。何も出来なかった…。ちくしょう…、ちくしょう…。)
 痛みに顔をゆがませながら、プロミネンスは悔しがっていた。右肩に集中攻撃を浴びたため、肩から先が動かない状態だった。
「コロナ…無事でいてくれ…。」
 その場に倒れて動けないまま、彼は妹のことを思い続けていた。
 やがて兵士達は街から引き上げていき、戦車のところへと戻っていった。
 1時間後にはクウォルの軍隊は撤退を開始した。彼らが何を考えているのか、何の目的でこの都市を攻撃したのか、それはキノンの人達には全く分からなかった。
 やがて戦車の姿が完全に見えなくなると、人々は街に戻ろうとした。
「さあ、早く街に戻ろう。戻って状況を確認しよう。」
「でも、まだクウォルの兵士が隠れているかもしれませんよ。」
「そうだな。くれぐれも気をつけないと。」
「何か武器を持っていったほうがいいわ。木の棒でも、竹ざおでもいいから。」
「くれぐれも無理をしないで。安全を確認したら知らせてくれ。」
 何人かの人々は集団を作って、密かに街に戻っていった。クウォルの兵士は全員引き返した後であり、すでに兵士はいなかった。キノンの人達が怪我をしているプロミネンスを発見したのはそれから間もなくのことだった。

「兄さん、どこにいるの?兄さん、兄さん…。」
 コロナはポケットにハーモニカを入れたままプロミネンスを探し続けた。体力がないため息はすぐに切れてしまったが、それでも探し続けた。
どれくらい時間がたっただろう。彼女には長い長い時間に感じられた。しかし、どこにもいなかった。
 やがて疲れきってしまい、その場にへたり込んだ。
ふと辺りを見渡すと、彼女ははっとした。
「ここ…、どこ?どこなの…?」
 どこをどう走ってきたのか、まるで覚えていない。いつの間にか一面に森と草原の広がる場所に迷い込んでいた。家などどこにも見当たらなかった。
「攻撃はおさまったのかしら?街に戻っても大丈夫かしら?戻ったらどうなっているのかしら?みんなは?兄さんは?」
 不安を感じながらも彼女は来たと思われる道を引き返し始めた。自分としては一直線に逃げてきたつもりだったが、歩いても家は見えてこなかった。
「私、どこかで道を間違えたのかしら?どうしよう…。どうやって戻れば…。」
 以前から一人でいることが多く、一人は慣れているはずだった。しかし、こんな一人ぼっちは経験したことがなかった。
本当に誰もいなかった。ただ植物が生い茂り、風の音がこだまし、沈んでいく夕日が周りの景色を照らし出しているだけだった…。
「どうしよう…。どうしよう…。」
 例えようのない、これまで経験したこともない不安が彼女に襲い掛かってきた。
「帰りたいよう…。兄さん…。お父さん、お母さん…。助けて…。お願い、誰か助けて。誰でもいいから、誰か来て…。誰か、誰か来てええええっ!!」
 もはや歩く気力もなくなりその場に座り込んだまま、彼女は泣きながら叫んだ。叫んでもその声は空しく響くだけだった。空では星が少しずつ姿を現し始めていた。












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