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ふたつの国のために
作:地球の星



第1話:クウォルの掟


 ある大陸の中に、ナルビオンという国と、クウォルという国があった。ふたつの国は国土や産業、人々の生活様式などで色々違いがあったが、それでもお互い良好な関係を保っていた。
 しかし、ある事件が起きて以降、ナルビオン国の人々の間には反クウォル感情が渦巻き、お互いの関係は最悪と言うべき状態となった。
 深い溝を抱えた状況の中、異国の地を旅する青年ヒリュウが寂しい過去を背負った少女コロナと出会った。2人は次第に惹かれあっていくが、お互いが「生まれ育った国は敵同士」という事実を知ってから、親しかった関係は一変してしまう。
それでも、青年は彼女と再び仲良く過ごせることを信じ続けた。
2人を待ち受ける運命は。そして、お互いの国の人々は果たして歩み寄ることが出来るのだろうか。

これは、変えることの出来ない過去を背負いながら、それでもお互いの友好関係のために奮闘した人々の物語である。

 クウォルは国土も大きく、平地が多くて人口も多い国だった。生活はかなり豊かで便利だった。工業が発展しているため、都市には車や電車が走っており、観光目的で遠くまで出かける人も多かった。
しかし、この国には兵役の義務がある。クウォル国籍の男子は17、8歳になると軍隊に入り、2年半の間そこで過ごさねばならなかった。
ただし、今後プロの世界で活躍が期待されるような人は、兵役に入る時期を遅らせたりすることが出来た。
そして、プロに上り詰めて活躍した人は兵役を短縮されたり、軍隊の中にあるチームに所属して、訓練を受けながらスポーツを続けることとが出来るという特権もあった。
 軍隊生活はなかなか辛く嫌な日々だった。自由は少なく、上官の言うことは嫌でも従わなければならなかったため、不満をためている人は少なくはなかった。
軍に関する情報は幹部が握っているため、国民はあまり軍隊のやっていることを知らずにいた。機密情報も多いため、兵役を経験した人達ですら知らないこともたくさんあった。

 軍隊の中で生活をしている人の中に、ヒリュウという青年がいた。彼は既に2年以上を過ごしており、あと数ヶ月で卒業を控えていた。
ヒリュウもまた辛い日々に耐えている状況ではあったが、空き時間には気分転換にスポーツのミニゲームをしたりして、楽しむこともあった。
彼はサッカーが得意で、ゲームが始まるとよく参加していた。ポジションはディフェンダーだが、攻撃にも参加することがあり、ゴールを決めることもあった。
しかし、プロのサッカー選手としての将来を期待されながら、結局ユース止まりでプロチームに所属したことがなかったため、上記のような特権は得られなかった。
それでもヒリュウはサッカー仲間からは一目置かれる存在であり、相手チームの選手からは自分達がゴールを奪うためには、彼をどう攻略するかについて作戦を立てることもあった。
 そんなある日、彼のいる部隊に新たな人が入ってきた。名前はマフン。彼は寝室がヒリュウと同じになったため、その日の夜、2人は早速自己紹介を始めた。
「僕はヒリュウ。20歳で、この部隊で既に2年以上を過ごしているんだ。」
「自分はマフンと申します。17歳です。絵を描くのが得意です。」
「よろしく。君は絵が描けるんだね。」
「そのとおりです。今ノートと鉛筆があるから、よろしければ、ヒリュウ先輩の似顔絵でも描いて差し上げます。」
 マフンは右手を自分の額のところに持ってきて言った。その態度は正しく、軍隊での規律そのものだった。
「ぜひ、頼む。それからさ、マフン。」
「何ですか?」
「僕に敬語はいいよ。ヒリュウって読んでくれればいい。」
「でも、軍隊では先輩には敬語を使えって聞きましたけど、いいんですか?」
「訓練中は確かに先輩には敬語を使うことになっているけれどね。でも今はいいよ。僕は3歳年上だけれど、そんなの関係ない。友達になろうぜ。」
「はい。あ、うん。」
「じゃあ、早速僕の似顔絵を描いてくれよ。」
「承知いたしました。」
「だから敬語はいいって。」
「あ、そうでしたね。」
 2人はすぐに意気投合した。
 マフンは早速ヒリュウの顔を描き始めた。描いている間も2人は親しく話を続けた。今日知り合ったばかりだが、ずっと前から知り合いだったように話が弾んだ。
「ところでヒリュウ先輩、いや、ヒリュウは軍隊でどういう仕事をしているの?」
「僕?主に運転手をしているよ。列車や運搬車、さらには戦車の操縦も。とは言っても実際に戦闘に参加したことはないけどね。」
「運転好きなの?」
「まあね。特に列車は好き。車掌の物真似がうまいって言われるし。」
「本当に?やってみせてよ。」
 早速ヒリュウは車掌の真似を始めた。
「はい、ドア閉まります。」「発車します。ご注意ください。」
「ぷっ。あははははは。」
 マフンはノートと鉛筆を持ったまま、急に笑い始めた。
「本当だ!本当に車掌の声だ。」
「そんなに似てるか?」
「うん。リアルだ。ウケるよ、それ。」
 マフンはすぐにその声が気に入った。
 描き始めてから20分後、マフンは似顔絵を描き終えた。ヒリュウはそれを見て驚いた。
「すげえなあ、お前。似てるよ。絵を売りに出したら儲かるんじゃないのか?」
「まさか。そんな実力ないよ。」
「似顔絵以外にも何か描けるのか?」
「うん。建物も描けるし、木々も描けるし。色々。」
「すごいね。そんなに描けるなんて。」
「どうも。実はさ、もう一つかいたんだ。見てくれる?」
「いいよ。」
 それを受けて、マフンはページをめくってヒリュウに見せた。
「何だそりゃ。」
「だから『もう一つ』だって。」
「あのなあ…。」
 ヒリュウは渋い顔をしてつぶやいた。
 そのページには『もう一つ』という字が書かれていた。
「どうだ!」
 お互いの一発芸で盛り上がっていると、突然部屋の扉が開いた。
「お前ら騒がしいぞ!何をやっているんだ!」
 そこには上官が引きつり顔で立っていた。
「いえ、あの…。」
「ちょ、ちょっと…。」
 2人がごまかすような言い方をしていると、上官からさらに怒り出した。
「規律を乱すようなことをするな!罰としてその場で腕立て伏せ50回だ!」
「はい、分かりました!腕立て伏せ50回、直ちに行います!」
 ヒリュウの素早い反応を見て、マフンも続いた。
「腕立て伏せ50回、直ちに行います!」
 2人は上官の目の前で罰を受けるはめになった。

 腕立て伏せが済むと、上官は扉を勢い良く閉めて立ち去っていった。
 足音が聞こえなくなると、2人はこりもせずにまた会話を始めた。
「そう言えば、マフンってサッカー出来る?」
「少しね。」
「ポジションはどこ?僕はディフェンダーだけれど。」
「ゴールキーパーがほとんど。やるっていうよりも、やらされる。」
「何で?」
「背が高いから。181cmあるし。」
 確かにマフンはヒリュウよりも背が高い。ヒリュウは166cmなので、かなり背は違って見えた。
「じゃあ、サッカーやる時はゴールキーパー頼むね。」
「OK。」
 しばらくすると、2人はお互いの家族や、生い立ちについて話し出した。
 ヒリュウは49歳の父親キリュウ。彼よりも14歳年下でヒリュウとは血のつながりのない母親オゾン。さらにはオゾンの子であり、ヒリュウとは母親違いの9歳の妹カペラの4人家族だった。
「何か不思議な家族構成だね。つまりヒリュウのお母さんって、君よりも15歳しか離れていないってことになるよね。」
「そうなんだ。だから最初の頃、何て呼ぼうかなって思っていたら、『私のことはお姉ちゃんと呼んでくれていいわよ。』って言われたんだ。姉ちゃんも、僕のことは弟として見ているし。」
「じゃあ、オゾンさんはカペラのことをどう見ているの?」
「娘だよ。僕は弟で、カペラは娘として見ている。」
「ますます不思議だ。」
「しかも、父さんはクウォル人だけど、姉ちゃんはテファンという国の人なんだ。つまり国際結婚ってわけ。でもそういうことや、血のつながりを乗り越えて分かり合ったんだ。」
「いいなあ。そういうことを乗り越えられるなんて。」
「僕は似たような境遇の人に対して、自分がいい見本になれればって思っているんだ。」
「ますますうらやましいよ。僕なんて親と意見が合わなくて、けんかが絶えなくてさ。一緒にいるのが嫌になって、逃げるようにこの軍隊に入ってきたわけだし。」
「何かあったのか?」
「まあね。実は僕、生まれはナルビオン国のルレクという都市で、2歳の時に出稼ぎ目的の両親に連れられて、この国に来たんだ。つまり、クウォル在住のナルビオン人と言うわけ。」
「それも何か不思議だな。」
「うん。ただそのせいで、ここでは外国人扱いされて、何か居場所が感じられない気がしているんだ。親にそのこと話しても、『そんなことは気にしないで、堂々と生きなさい。』って言うばっかりだし。ここ最近は相談に乗ってくれなくてさ。親とは昔から考え方も違っていたから、仲間はずれにされても相談出来なかったんだ。」
「大変だな…。でさ、親とは今一緒に過ごしたいって思ってる?」
「いや、しばらくは会いたくない。一人暮らししたい。『気にしないで。』と言われたってさ、最初の数回かは気にせずにいられるよ。でも、繰り返しそんなことを言われ続けたら、いつも気にしないようにし続けなければならないし。そうだろ?」
「ま、まあ、言われると、確かに。」
 ヒリュウは少し心の中で疑問を感じながらも、賛同した。
「そんなふうに思えてきたら、もう『気にしないで。』なんてアドバイスじゃないよ。もう聞き飽きたんだ。他にも親に言いたいことならいくつもあるし!」
 マフンは鬱憤を晴らすような言い方で、悩みを打ち明けた。
「すまんね、こんなこと言って。」
「苦労してきたんだな。でさ、マフンはルレクに住みたいと思っているのか?」
「思ってるよ。自分の生まれ故郷だから。でも、向こうに行ったら、やっぱり何て思われるのかなあ…。やっぱり外国人扱いかな?」
「さあ…。行けば分かるよ。考えたって仕方ない。全ては行動してみないとな。」
「そうだね…。悪いね、こんなこと話して。」
「いいよ。色々話せて楽しかったよ。それより、就寝時間が近づいているぞ。早く寝よう。夜更かしすると、上官怖いから。」
「OK。じゃあ、おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
 ヒリュウは部屋の電気を消した。そして、2人はそれぞれのベッドに入り、明日に備えた。

 それから、すっかり仲の良くなったヒリュウとマフンは一緒に演習に参加していた。さすがに訓練は厳しく、マフンはついていくので精一杯だった。
「ヒリュウ…、こんな日々に耐えてきたのか…?とても2年半なんてもたないよ。」
 訓練が一区切りつき、休憩をとっているマフンが言った。
「僕だって、最初は耐えられるなんて思っていなかったよ。やめたいとか早く終わってほしいと思ったことは何度もあるよ。でも耐えていくしかないんだ。義務だから。」
「お前が卒業したら、僕もやめようかな?」
「早いな。まだ3ヶ月しか経ってないだろ。」
「そんなこと言われたって…。」
「でも、お前はクウォル国籍じゃないから義務じゃなかったな。本部に頼めば、確かに途中でやめることも出来るぞ。」
「やめることが出来るなら、やめてもいいかな。」
「それはお前が決めることさ。何でも相談にのるから、悩みがあるなら言ってくれよ。」
「ありがとう。」
ヒリュウはよく後輩達にアドバイスをしたり、悩みを聞いたりしていた。
 休憩が終わった時のことだった。マフンはいくつもの戦車が基地を出ていくのを見た。
「ヒリュウ、何だろあれ?随分大掛かりじゃないか?」
「ああ、あれ?確か新型の戦車が出来上がったって言っていたからな。その性能を実戦形式で確かめに行くんじゃないのか?」
「ふうん…。それにしても大掛かりだな。どこに行くんだろ?」
「さあ…。上の人の考えていることは僕達にはなかなか伝わってこないからなあ…。ただでさえ、この国の軍隊に関する情報はあまり表ざたにならないし。」
「何か隠しているかもしれないね。」
「かもね。でも上官には言うなよ。怒られるから。」
「あ、ああ。」
 2人が話していると、いきなり背後から
「お前達、何を話していたんだ!」
 と言う厳しい声が飛んできた。
「いえ、何もございません!」
 ヒリュウは振り返ると、とっさに答え、利き手である左手を額のところに持ってきた。
「では、早く配置につけ!」
「分かりました!」
「すぐ配置につきます!」
 マフンも右手を額のところに持ってきた。そして、2人はすぐに持ち場に戻っていった。しかし、ヒリュウは知らなかった。この時出動していった部隊が、これから彼の運命を大きく変えることになる、一人の少女の心に大きな傷を背負わせることを…。












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