第16話(最終回):国のために 人のために
あれから数日後、エクラードの市役所では、人命救助に尽力したプロミネンスの表彰式が行われていた。
そこにはキリュウが取材に来ていた。
「それではプロミネンスさん。前に出てきてください。」
ステージ上からノナが呼びかけてきた。
プロミネンスは緊張しながら、一歩ずつ階段を上がり、彼女の前に出てきた。
横にはキリュウがマイクを持って立っていた。
ノナは一礼をすると、プロミネンスの正面に立ち、表彰状の文章を読み始めた。
「表彰状。プロミネンス殿 あなたは交通事故で、車に当て逃げされた人の尊い命を救ってくださいました。あなたの勇気と優しさを称え、ここに表彰いたします。おめでとうございます。」
ノナは文章を読み終わると、謝礼金の入った封筒を取り出し、表彰状と共に差し出した。プロミネンスはそれを両手で受け取ると、深々とお辞儀をし、感謝の言葉を述べ始めた。
「ありがとうございます。自分の行動をこのように評価していただき、本当に感謝しています。今回の出来事は、一生忘れません。」
その出来事とは、あの日の学校の授業が終わった後、プロミネンスとカペラが一緒に歩いている時のことだった。
2人は車が急ブレーキをかけたと思われる場所に行くと、そこには60歳くらいの女性が路上で血を流しながら倒れていた。自力では動けず、小声で「助けて…。」とささやきかけていた。
その光景に、カペラは頭が真っ白になりパニック状態になった。
一方、プロミネンスは冷静に女性をそっと抱え上げて道端に運んだ。そしてカペラに添え木になるような棒を探しに行かせて、自分は救急車を呼びに行った。
女性は死を覚悟している中で、現場に戻ってきたプロミネンスは自分の着ていた服を脱ぎ、ちぎって懸命に止血をした。
そして、カペラが持ってきた持ち主不明の放置傘を使い、上半身裸になりながら患部を固定しながら、あきらめずに彼女を励まし続けた。
救急車が到着すると、彼は女性と一緒に乗り込んだ。
女性の血液型は不明だったが、O型のプロミネンスは体内で凝集反応を起こさないように気をつければ誰にでも輸血してあげられると主張し、彼が車内でドナーの役目を引き受けた。
通信機を持っていなかったカペラは、大急ぎでオゾンとキリュウのいる店に走りこんでいった。
彼女の用件を聞いて、2人はカペラを連れて、すぐに車で病院に急行した。
キリュウ達が病院に到着した時、女性は緊急手術中だった。
その時には血液型がA型と判明していたが、血液が不足していたため、オゾンはとっさに自分がA型と申し出て、至急献血をお願いした。
その日の夜、女性はどうにか一命を取り留めることが出来た。
医者の話では、プロミネンスがいなかったら、彼女は助からなかっただろうということだった。
一方で、車を運転していた人は間もなく警察署に自首してきた。
プロミネンスがスピーチを終えると、ノナに呼ばれて、ステージ上に30過ぎくらいの夫妻と7、8歳くらいの女の子、さらには65歳くらいのおじいさんが来た。
彼らは涙を流しながらお礼を述べてきた。
プロミネンスは一人一人と握手を交わしながら、それに応えていった。
そして彼らは感謝の気持ちとして、札束の入った封筒を渡してきた。
プロミネンスは戸惑いながらも、家族の熱意に押され、ついには受け取った。
やりとりが済むと、家族の人たちはステージから降りていった。
続いてキリュウが新聞の記事にするために、プロミネンスにインタビューをしてきた。
「おめでとう。我々は、あなたの行為を決して忘れることはないでしょう。」
「ありがとうございます。でも、この行為は人間として、当然のことだと思います。」
「それにしても、異国の地で見ず知らずの人を助けようとするのは勇気がいることだと思いますが、よくあそこまで出来ましたね。」
「自分にとって見ず知らずの人であっても、その人には家族がいます。待っている人がいます。そう考えると助けずにはいられなくなりました。」
「その行為のおかげであの女性は全治6ヶ月の重症ながら一命を取り留めることが出来ました。その勇気はみんなの良き見本となるでしょう。」
「いえ、自分は妹を助けてくれた人を見本にしたまでです。自分もやはり異国の地を旅していた人に妹を助けてもらったことがあります。この勇気は、彼からもらったものです。それを今度は自分が実践したまでです。感謝なら、ヒリュウにしたいと思います。」
プロミネンスはその場にいない人に向かって感謝の言葉を述べた。
それから10日後、プロミネンスはキノン復興のためのボランティアに参加する人達と共に、故郷に帰る日がやってきた。
彼はエクラードに残ることになったコロナやすでに何枚もの絵を描いたマフン、そして明日CMの撮影を控えたヒリュウと話をしていた。
「兄さん、今までありがとう。私はここの音楽学校に留学するけれど、兄さんのことは決して忘れないわ。」
「ああ。おれとしては寂しくなるけれど、心強い仲間達がいるから大丈夫だろう。ヒリュウ、マフンと同じイベント業の仕事に就くことになったから、これでお金を稼ぐことも出来る。それにお前ならきっと音楽で夢を実現していける。がんばれよ。」
「はい。」
「プロミネンスさん、表彰式でもらったお金をコロナの留学費用にあてていただき、ありがとうございます。」
「僕には家族の大切さを教えてくださって、本当にありがとうございます。」
「ヒリュウ、マフン。礼を言うのはこっちのほうだ。2人で妹を助け、2人で閉ざされていたあいつの心を開かせてくれた。お前達には頭が上がらんよ。本当にありがとう。コロナと共に、夢を大事にしてくれよ。」
「はい。」「約束します。」
4人が親しく話していると、カペラがやってきた。
「プロミネンスお兄ちゃん、もうすぐ時間になるって、お母さんが言っていたよ。」
「分かった。じゃあ、もう少しみんなと話をしたら行くからって伝えておいてくれ。」
「うん。待っているね。」
彼女はそう言うと、また家に戻っていった。
プロミネンスはこの後、キリュウ、オゾン、カペラと一緒に車に乗って、まず病院に行き、まだ入院中の女性のお見舞いをした後、カペラの通う学校に行って、生徒達にあいさつをすることになっていた。それが済むと駅に向かい、いよいよ帰国することになっていた。
「ヒリュウ。もう一度サッカーのピッチに立ちたいという願いが叶うことになって良かったな。けがに気をつけながら、がんばってくれよ。」
「はい。試合で全力を出せるように、左足を万全な状態にしておきます。ありがとうございます。」
「兄さん。私、今オゾンさんからマッサージのやり方や、塗り薬の作り方などを学んでいるの。私がきっとヒリュウ君の足を直してあげるわ。心配しないで。」
「そういうお前は『仲直り』をテーマにした曲を自分で作って、試合前のセレモニーで披露することになったんだよな?」
「うん。ヒリュウ君のお母さんのはからいでね。責任重大だけれど、きっといい曲を作るから。」
「それからマフン。お前はそのチャリティーマッチのマスコットキャラクターのデザインを頼まれたんだよな?」
「はい。ノナさんに頼まれて。自分の描いた絵がみんなに見てもらえると思うと、楽しみです。」
コロナとマフンも好きなことを活かしてキノンの復興と、ふたつの国の友好をアピールするためのイベントに関われることを喜んでいた。
すると、キリュウ、オゾン、カペラが車に乗ってやってきた。
「プロミネンス、まだつもる話もあると思うけれど、時間よ。ごめんね。」
車内からオゾンが声をかけてきた。
「はい。分かりました。」
プロミネンスは地面に置いていた自分の荷物を持ち、トランクに入れた。
しかし、彼はすぐに車に乗り込もうとせず、しばらく立ったまま考え込んでいた。
「どうしたの?何か言い残したことでもあるの?」
オゾンが聞いた。
「はい。ヒリュウにどうしても言っておきたいことがあって…。」
「僕に?」
「ああ。エクラードの人達は本当に親切だよな。おれは妹を助けてくれたお前にあんなひどいことをしたのに、ここの人達はおれに優しく接してくれた。それが本当に嬉しかった反面、お前には余計に申し訳なくなってきてな。あの時は、本当にすまなかった。」
「もういいよ、それは。今さらわだかまりなんかないから。今はもう何でも語り合える仲間同士でしょ?」
「そうだな。ヒリュウ、最後に約束をしてくれるか?」
「約束ですか?」
「ああ。たとえ離れ離れになっても、いつまでもいい仲間同士でいることを。そしてみんなでふたつの国の友好のために尽くしていくことを。」
「はい。約束しましょう。」
2人はしっかりと握手をしながら、約束を誓った。
みんなはその様子を傍らから優しく見守っていた。
それから1ヵ月後、エクラードサッカースタジアムのピッチ上には、背番号16をつけて左サイドバックの位置に立つヒリュウの姿があった。
彼は小柄な体ながらユースで活躍し、将来を期待されていただけに、あの時突然襲ったけがに苦しめられる姿は余計に痛々しかった。
しかし、彼は大切な恋人のコロナをはじめ、多くの人達の支えを受けながら、4年3ヶ月ぶりに懐かしいピッチに帰ってきた。
ふたつの国を結ぶ、架け橋となって…。
(終わり) |