第10話:あきらめてたまるか!
ヒリュウはあれからキノンで井戸を掘る作業を手伝っていた。
作業が終わると、たき火をしながらみんなと一緒に夕食を取った。
そして寝る時には都市から少し離れたところまで行き、人目につかないところで夜を明かした。
彼は自分がクウォル人であることを明かすことはなかった。それでも人々の態度がいつどうなるかという不安があった。
ひたむきに働く彼の姿を見て、都市の人達は優しく接していた。
ヒリュウは何とかなりそうだと少し安心していたが、ただならぬ雰囲気は常に感じ取っていた。
「みんな、クウォル人をかなり嫌っているんだな…。国に帰ったら、ここの人々に大きな傷を背負わせてしまったことを伝えて、あんな行為がもう起きないようにしないとな。」
クウォルの軍隊がこんなことをしていたなんて、自国にいた時には想像もしたことなかった。
もし立場が逆だったら、自分もクウォルを許さなかっただろう。
ヒリュウは作業に励みながら、コロナと仲直りすることをずっと考えていた。これまで何度か彼女と話をしてみたが、返ってきた答えは冷たかった。
『あなたとなんか、仲直り出来るわけないじゃない!敵同士なんだから!』
『しつこいのよ!これ以上私にまとわりつくと、あなたがクウォル人だって言いふらすわよ!』
ヒリュウはそう言われてから、彼女と話しかけにくくなってしまった。しかしそれでも仲直りをあきらめようとはしなかった。
一方、コロナは楽器がなくなってしまったショックで、家に戻ってきてからずっと寂しそうな姿を見せていた。
ある日の朝、彼女にプロミネンスが話しかけてきた。
「コロナ!何やってんだよ。お前は野菜の種まきだろ?早く行けよ。」
「うん…。」
「お前暗いぞ。何でもっと明るく出来ねえんだよ?」
「だって楽器がないから…。このハーモニカも、もう音が出ないし…。」
「あのなあ、楽器が弾けたって、それでめしは食えねえぞ。そんなことより、今は復興で手一杯なんだ。楽器なんかに夢中になっている暇はねえんだよ。」
「でも…。」
コロナはルレクの街で、楽器屋の人がお金を差し出してくれたこと、そして自分の曲に魅了されたヒリュウが『いつか世間に発表して、大ヒットするといいね。』と言っていたことを思い出した。
その体験について話そうとしたが、結局言えなかった。
「とにかく今は働くしかないんだ。おれだってクウォル兵に暴行を受けて以来、右肩が痛くて仕事に支障が出ているんだ。本当なら仕事休みたいところだけど、そんな暇はないんだ。」
「…はい。」
コロナは力なく答えた。
しばらくすると、プロミネンスが何かを思い出したように口を開いた。
「おれは今日も井戸掘りに行くんだけどさ、その作業には2日前からヒリュウっていう、20歳くらいの旅人さんが手伝ってくれているんだ。あいつのこと知っているか?」
「知っているわよ。」
「本当か?どこの人かも分からないけれど、一生懸命働いてくれるし、今や貴重な存在だ。あいつにはここに居続けてほしいんだが。」
「でも兄さん、だまされてはだめよ。あの人は敵よ。」
それまで明るく話していたプロミネンスに、コロナが厳しい視線を向けて言った。
彼女は敵意を込めた口調でヒリュウに関することを話し出した。しかし、彼が自分を助けてくれて、ここまで送り届けてくれたことは最後まで話さなかった。
その日、ヒリュウは井戸掘りの作業を終えると、荷物を抱えたままスケボー代わりの台車に乗って都市の外に出た。
人のいない平原まで来ると、彼はサッカーボールを取り出し、ドリブルをしながらサッカーの自主練習を始めた。
30分後、肩で息をしながら荷物のあるところまで来ると、その場に座り込んだ。
「こんなのでバテるはずじゃなかったのに…。これではプロになれない…。」
ヒリュウは空を見上げて、独り言を言い出した。
「それにしても、今日は一体どうなってんだよ。それまで親切だったのが、急にみんな冷たくなるし。気づかれたのかな?僕がクウォル人だってこと。それにしてもばれたとしたら、一体誰が打ち明けたんだろう。まさか…。」
ヒリュウはとっさに首を横に振った。
「コロナのはずがない。あいつはそんなことしない。」
それでも心の中ではどよめきが起きていた。
翌日には、ついに井戸が使える状態になった。
しかし、その作業に従事していた人達は、さらにヒリュウに冷たく接するようになっていた。
作業後、彼らはきつい口調で質問をしてきた。
「一体どうしてお前の国の軍隊はあんなことをしたんだ?」
「おれ達は何も悪いことはしていないのに!」
「さあ、正直に答えてくれ!」
その言葉にヒリュウはただならぬ雰囲気を感じた。
(もし新型戦車の威力を試すためとか言ったら、一体どれくらいの反感を買うんだろう。口が裂けても言えることじゃないな。)
彼は本当のことを話すべきか考え続けた。自分は実際に侵攻に参加したわけじゃない。しかし、相手にとってみれば「自分は攻め込んでなんかいません。」と言っても無駄だろう。
『そんなうまいことを言って、言い逃れようってのかい?』
『そうやってすぐにごまかそうとする!』
こんなことを言われて、ますます仲が険悪になるんじゃないか。そんな気がしていた。
黙ったまま考え続けていると「どうした?答えられないのか?」と、せかすような声が飛んできた。
(相手からしてみれば、僕が攻め込んできた人かどうかなんて関係ない。この人達は僕以外に聞ける人がいないから聞いているんだ。クウォル人の代表としてやっぱり正直に答えよう。どうなるのかは分からないけれど、やってみるしかない。)
ヒリュウはやっと迷いを吹っ切り、ついに心を決めた。
「分かりました。正直に話します。」
そして、自分の国で何があったのかを全て打ち明けた。そして、最後にこう締めくくった。
「僕達のやったことが原因で、ここの人達に大きな心の傷を背負わせてしまって、すみませんでした。クウォルを代表して、ここに謝罪します。本当にごめんなさい。2度とこのようなことが起きないように努力していきます。」
ヒリュウはそう言いながら何度も頭を下げた。それが今の自分に出来る精一杯のことだった。
しかし、この時に言った「僕達のやったこと」という言葉が、後に思わぬ状況を招いてしまうことを彼はまだ知らなかった。
この状態から何とか抜け出した後、ヒリュウはコロナとプロミネンスの家の前に来た。
そして家の扉をそっと開けて、中をのぞいた。そこには体調を崩してしまい、布団の中で横になっているコロナがいた。
(大丈夫かなあ…。)
大喧嘩したとはいえ、それでも彼女のために何かしてあげたかった。しかしすぐには思いつかなかった。
ふと足元を見ると、そこには古びた空のバケツが2つ転がっていた。
「よし、これだ。」
ヒリュウは扉をそっと閉めると、バケツを拾い上げた。そして自分が作業に関わっていた井戸に向かって歩いていった。
井戸のところでは男の子と母親の2人が水を汲んだところだった。ヒリュウはお辞儀をしながら挨拶をした。
「こんにちは。水汲みご苦労様です。」
「お兄ちゃん、こんにちは。水なら僕が汲んであげるよ。バケツ貸して。」
カペラと同じくらいの年頃の男の子も挨拶をした。
「ありがとう。じゃあお願いしていいかな?」
ヒリュウは持っていたバケツを男の子に差し出した。
その時、「やめなさい!」と言う声がした。
きつい口調だったため、2人ともビクッとした。
「その人はこの地に侵攻してきて、この都市を破壊していった国の人よ!」
「でもママ、僕はこの人を手伝おうとしただけだよ。」
「その人に近づくのはやめなさい!何されるか分からないわ!」
「でも…。」
男の子はしゅんとした感じで怖気づいた。しばらく沈黙が続いたが、やがて母親が近寄ってきて、男の子の手を取った。
「さあ、早く行くわよ!それからあんたには早く出ていってほしいわ!」
不機嫌極まりない発言を浴びせられ、ヒリュウは何か言い返してやりたくなった。
(何でこんなに敵国なんて言うんだよ。僕はここの人達を手助けして、少しでも役に立ちたいって思っているのに…。これじゃ、手伝うことも出来ないよ。)
心の中は煮えくり返るような心境だったが、それでも一呼吸すると、持っていたバケツをロープに引っ掛けて降ろし、水を汲んだ。そしてロープを引っ張り上げた。
その動作をもう一度繰り返し、2つのバケツを水で満たした。そして一直線にコロナの家に向かって歩いていった。
家に到着するとそっと扉を開け、中に入っていった。
「大丈夫?」
ヒリュウは小声で問いかけたが返事はない。彼女はすっかり眠っていた。額の部分に手を添えると、何だか熱かった。
(熱を出しているな。大丈夫かな…。)
ヒリュウはポケットから自分のハンカチを取り出し、今汲んできた水の中に入れた。それを絞って水を切ると、適当な大きさに広げて額に乗せた。
「風邪でも引いたみたいだな…。体弱いのに、無理をしたのかな。」
ヒリュウは紙と筆記用具を取り出すと「コロナ、早く元気になってね。ヒリュウより。」と書き、枕元に置いた。
しばらくコロナを見つめていたが、しばらくするとまた彼女のために何かしてあげたくなった。
「そうだ。姉ちゃんに教えてもらった、薬になる野草でも採ってこよう。」
ヒリュウは立ち上がると外に出て行き、一目散に駆け出していった。
野草を集め終わった時には、太陽は地平線に沈もうとしていた。
ヒリュウは薬草を袋につめると、足早にコロナの家へと走っていった。
家にたどり着くと、扉をノックして中に入ろうとした。すると「誰ですか?」と言う声がした。プロミネンスの声だ。
(げっ、帰っていたのか。どうしよう。)
ヒリュウは内心あせった。その時ドアが勢いよく開き、プロミネンスが現れた。最初は何でもなさそうな顔をしていたが、ヒリュウを見ると表情が一変した。
「何の用だ?」
「え、えっと…、コロナにこれを届けようと思って…。」
ヒリュウは動揺した口調で言うと、持っていた袋の口を開けた。
「何だ?これは?」
「薬草です。煎じてコロナに飲ませようと思って…。」
「お前が作ったものなどいるか!病気の妹に変なものを飲ませようとしていたんだろう!」
「違うよ。」
「帰れ!お前の世話などいらん!妹の面倒はおれが見る!」
プロミネンスは薬草を奪い取ると、足元にたたきつけ、右足でぐりぐりと踏みつけた。その様子をヒリュウは呆然と見つめていた。
「帰れ帰れ!お前が書き置きなんかするな!あれはおれが破り捨ててやったからな!それからこれはお前のか?」
プロミネンスはヒリュウのハンカチを目の前に突き出した。
「そ、そうですけど…。返してくれませんか?」
「やっぱりお前のだったんだな。分かった、返してやるぞ。こうしてな!」
次の瞬間、ハンカチはビリビリと引き裂かれ、乱暴に地面に叩きつけられた。
ヒリュウは目の前で起きた出来事が受け入れられず、呆然と立ち尽くした。
「帰れ!敵のお前が妹に手出しをするな!」
プロミネンスは大声で追い返した。
ヒリュウはがっくりと落ち込みながら振り返り、何も言い返さないまま、重い足取りで引き返していった。
プロミネンスは家にあったタオルを水に入れて絞ると、コロナの額に乗せた。それからしばらくして、彼女が目を覚ました。
「コロナ、大丈夫か?」
プロミネンスが優しく問いかけた。さっきヒリュウを追い返した時とは全く正反対の態度だった。
「兄さん…。」
「お前、熱出しているみたいだな。だけど、兄さんが汲んできた水を使って、今看病しているから。すぐに良くなるさ。心配するな。」
「ありがとう、兄さん。」
「どういたしましてだ。困った時は、いつでも力になってやるぞ。」
その水は本当はヒリュウが汲んできたものだ。プロミネンスが帰ってきた時には、もうすでに置かれていたものだが、それを彼は自分の手柄にしていた。
コロナはすっかり兄が自分のために汲んできたものと思い込んでいた。
「そう言えば兄さん、さっき外に誰がいたの?」
「ヒリュウがいた。だが雑草なんか持ってきて、薬だなんて言ってお前に食わせようとしたから、追い返してやった。」
それを聞いて、コロナは何も言わずに考え事をしていた。
(ヒリュウ君…。どうして私にそこまでしようとするの?あなたは敵なのに…。)
彼女はその頃、ヒリュウが平原の中で悔しがっていることを知る由もなかった。
翌日もヒリュウはキノン復興のため、そしてコロナとよりを戻すための努力を続けた。
(きっと自分の努力が報われる時が来る。途中で放棄したいと思っても、あきらめてたまるか。僕があきらめたら、コロナとはもう仲良く過ごすことは出来ないんだ。あきらめるもんか!)
そう言い聞かせながら、彼女のことを思い続けていた。
オゾンやマフンからは度々通信機を通じてメッセージが届いた。ヒリュウを心配していることは痛いほど伝わってきた。
もちろん、彼らに甘えたくなる時もあった。家族や親友に囲まれて過ごすほうが、よほど幸せだ。
それでも「帰りたい」とか「あきらめる」という内容を送ることはなかった。「僕は元気に頑張っています。」「コロナとのことなら心配ないです。」といった内容をひたすら送り続けていた。
しかしその気持ちとは裏腹に、人々との関係はさらに悪化していた。
その様子をコロナは少し離れた場所で迷いながら見つめていた。
(ヒリュウ君、あなたは今私のことをどう思っているの?みんなからあんな扱いをされて、助けもないまま耐えている状態だけれど…。)
彼女はその後、態度を改めようとしたが、何をすればいいのか分からなかった。
(確かにみんなが敵国のヒリュウ君に何か仕返しをしたいという気持ちは分かるわ。それでもみんなやり過ぎよ。私の言ったことが変に言い換えられているし。私、こんな状況を望んでいたわけじゃないのに。)
コロナがあの日、プロミネンスに言ったことは、ヒリュウがクウォル人であること、彼が以前まで兵役のために軍隊に所属していたことだった。
しかし、いつの間にかその言葉は独り歩きをしていた。
今ではヒリュウはキノンの侵攻に参加し、現在もクウォル軍の現役の兵士で、スパイ目的でこの都市に来ているというふうに、ありもしなかった内容を付け加えられて、拡大解釈されていた。
最初は、キノンの人達はヒリュウに好意的に接していたが、今はもう彼が何をしても感謝されなくなっていた。
そんな光景を見て、コロナの心は揺れ動いていた。
最初は、彼をどうしても許すことが出来ずにいた。彼を困らせてやろうと思っていたから、つい出来心でプロミネンスにあんなことを言ってしまった。
ヒリュウが冷たい扱いを受けるようになった時でも
『敵なんだから当然でしょ。あなたを困らせてやるんだから。』
と言って、ヒリュウに気を使おうとしなかった。
でも、彼女の思惑を超えて事態が大きくなってしまった以上、今ではその時の行動を後悔していた。
(私のせいでこんなことになってしまった。ごめんなさい。今さらだけれど、あなたに謝りたい。謝って、あの時のことを撤回したい。)
それが彼女の正直な気持ちだった。
だが、もし彼をかばうようなことをすれば、自分も裏切り者とみなされて他の人達から嫌な扱いを受けるようになるかもしれない。
そう考えると、どうしても行動に出ることが出来ず、結局何も出来なかった。
一方、ヒリュウはすっかり精神的に追い詰められていた。孤立無援の大アウェー状態にさらされ、ここにいる誰もが敵に見えていた。
ヒリュウは自分がコロナを助けた人だと都市の人達に打ち明けてまわった。しかし
『お前のようなやつが助けるわけがない!』
『うそもたいがいにしなさい!』
というような言葉を浴びせられ、誰も聞き入れてくれなかった。もはや何を言っても無駄だった。
(もういやだ。帰りたい。でもコロナと仲直りが出来るなら、それでもいい。彼女さえ僕の味方になってくれれば…。)
荷物を抱えながら重い足取りで歩いていると、不意に5、6人の人達が現れた。その中にはプロミネンスや、井戸に水を汲みに行った時に出会った男の子、さらにはこん棒を持った女の人もいた。
「何だ、一体?」
ヒリュウが問いかけた。
「お兄ちゃん、この国に攻め入ってきて、この都市を破壊していった人?」
男の子が険しい口調で言ってきた。
「えっ?誰からそんなこと聞いたんだ?」
ヒリュウは聞き返した。
「みんなから聞いた。やっぱりお兄ちゃんは敵なんだ。やっつけなきゃいけない敵なんだ!」
段々口調が厳しくなってきた。ヒリュウは否定しようとしたが、それよりも一瞬早く男の子がさらに続けた。
「ここに何しに来たんだ!スパイにでも来たのか!」
あの時、自分を手助けしようとした時の優しさは、もはやそこにはなかった。
確かに自分はクウォル人だ。しかし、実際に侵攻なんかしたわけじゃないし、スパイに来たわけでもない。ただ、都市の復興をしながらコロナと仲直りしたかっただけだ。
どこで言葉が独り歩きしたのだろう。自分がすっかり戦犯者にされてしまっている。すっかり悪者扱いされてしまっている。
「違う。僕はただ…。」
必死で言い返そうとしたが、言葉が出ない。たとえ言い返したって信じてなんかもらえまい。ヒリュウはたちまち殺気立ったプロミネンス達に取り囲まれた。
「お前の暴挙のせいで、おれ達がどんな思いをしながら生きてきたか分かるか?おれはあの侵攻の時に暴行を受け、右肩を痛めたんだ。そのせいで充分な作業が出来ずにいるんだ。おれだけこんな目に合わされたんじゃ、不公平だよな?」
プロミネンスが言った。明らかに復讐に燃えた口調だ。
(目を合わせたら、やられる…。)
ヒリュウは慌てて目を背けたが、別の人と目が合ってしまった。
「何、ガン飛ばしてるのよ!」
棒を持った女の人が近づいてきた。
「待ってよ。落ち着いて。」
「今更言い逃れようってのか?だが、残念だったな!おれ達の悔しさを思い知れ!」
プロミネンスは真っ先にヒリュウに襲い掛かり、殴りかかった。それにつられて、他の連中も襲い掛かった。
その時、たまたま近くを通りかかったコロナは信じられない光景を目の当たりにし、震えながらその様子を気づかれないように見つめていた。
「兄さん…。ヒリュウ君は私の命の恩人よ。もし彼がいなかったら、私は生きてここに帰れなかったかもしれない。それなのに何てことを…。」
出来れば現場に飛び出していって、ヒリュウを助けたかった。
しかし、もし彼のところに行って、「やめて!」と言おうものなら、自分までもひどい目に合わされるであろう。
コロナはそれが怖くて前に進むどころか、逆に後ずさりをしていった。
「ああ、すっきりしたわ。」
「本当だよな。悪者を退治出来たし。」
「ストレスたまっているやつがいたら、ちょうどいい発散相手がいるって伝えてこようかな。」
数人の連中がそう言った。彼らの顔には薄笑いが浮かんでいた。
「ねえ、こんなことをしていいの?」
ヒリュウをスパイと読んだ少年が問いかけてきた。
「いいんだよ。敵だし。」
「ここを侵攻したわけだから、当然よ。」
「でも…。」
少年はさらに問いかけようとしたが、結局プロミネンス達と一緒に立ち去っていった。
ヒリュウは体のあちこちを殴られ、動く度に痛みが走った。
コロナは物陰から体を半分出した状態で、震えながら彼を見つめていた。何とか助けたいと思いながらも、その勇気がないまま結局体を完全に隠してしまった。
プロミネンス達は彼女に気づいていなかったが、ヒリュウだけは気づいていた。
(コロナ…。君も助けてくれないんだね…。僕はこれまで君と仲直りするために今まで頑張ってきたけれど、もういいよ…。)
ヒリュウの目からはついに涙があふれ出した。
彼は荷物を手に取ってよろよろと立ち上がると、スケボー代わりの台車に乗り、泣きながらゆっくりとその場を離れていった。 |