第8話:立ちはだかる過去
翌日、キャンピングカーはキノンに向かって走り続けていた。運転手はオゾンだった。
コロナと一緒にいたがるヒリュウの気持ちを配慮して、彼女が運転することになった。
ヒリュウはコロナが昨夜録音した歌をラジカセで再生していた。
コロナは自分の曲を聞くのを恥ずかしがっていたが、ヒリュウとカペラの2人は楽しそうに聞いていた。
「コロナお姉ちゃん、演奏だけじゃなくて、歌もうまいんだね。」
「そうかしら?」
「カペラもそう思うだろ?君の歌は本当に人を引きつける力があるよ。」
コロナは最初は自分の実力を疑っていたが、2人に色々褒められ、次第に自信をつけてきた。
「ありがとう。私、あれから考えたんだけど、あなたがサッカーに賭けているように、私も音楽に賭けてみたくなった。いつか音楽で成功出来たらいいなって思えてきたの。」
「それなら自分の曲を恥ずかしがらずに聞けるようにならないとね。」
カペラから突っ込みが飛んできた。
「それは言い過ぎじゃないか?」
「そう?お兄ちゃん。」
「だってさあ…。」
「でも言われてみれば、カペラさんの言うとおりね。自分のやっていることを恥ずかしがっていたら、確かに音楽で有名になることなんて出来ないもの。」
「コロナお姉ちゃん、音楽で有名になれるといいね。」
「どうもありがとう。ヒリュウ君もサッカー選手として有名になれるといいわね。」
「うん。いつか、サッカーの代表選手になりたい。そして君の前でプレーしてみたいって思ってるよ。」
「じゃあ、サッカーの試合についてはチェックしておくわね。」
3人はキノンまでの残り少ない時間を楽しんでいた。
ヒリュウは忘れないうちにと、キリュウから事前に受け取っていたマフンの手紙をコロナに渡した。そして、彼がプロミネンスと会って話をしたことがあることを話した。
「そう…、彼は兄さんと会ったのね。」
「マフンお兄ちゃん、家族のことを考え直したみたいだよ。」
「そういやあいつ、以前は両親のことをボロクソ言っていたけれど、ルレクで別れる前にはかなり気持ちに変化が出ていたし。離れて初めて分かる家族の大切さってやつかな?」
「そうね。私も離れてから、改めて兄さんの存在の大きさを感じたし、気持ちは分かる気がするわ。じゃあこれ、兄さんに届けておくわね。」
「頼んだよ。君の兄さんに会ったら、一緒に読んでよ。」
「ええ、そうするわ。」
しばらくして、黙っていたカペラがコロナに言った。
「一つお願いしたいことがあるんだけど、いい?」
「何?」
「お姉ちゃんが音楽家になったら、あたしも演奏に参加していい?」
「いいわよ。あなたは何か演奏出来る楽器あるの?」
「笛!」
カペラは自信有り気に堂々と言い放った。
「笛だけじゃだめだよ。笛を使った曲はそんなに多いわけじゃないからさ。」
ヒリュウに言われてしまい、カペラの自信は吹き飛んでしまった。
「だめなの?」
「ごめん、言い直すよ。笛以外にも何か新しい楽器を覚えれば、きっと色んな曲に参加出来るようになるよ。決してだめって言う意味で言ったわけじゃないんだ。」
ヒリュウは慌てて訂正した。
「じゃああたし、これから笛以外にも色んな楽器を覚えるね。」
「何を覚えるつもりなの?」
「うんとねえ…、ドラム!」
「何でドラムなんだ?」
「だってお兄ちゃん、音楽を聞きながらよく何か叩くまねをしているから。」
「ああ、エアドラムね。」
「エアドラムって?」
「ドラムと叩く真似をすること。何も持っていない状態でギターを弾く真似をすることを『エアギター』って言うから、それに習って命名したんだ。」
「ふうん、でも今さら聞くようで悪いけれど、ドラムって何なの?」
「えっ?」
コロナに予想外の質問をされ、ヒリュウは思わず困惑してしまった。言葉ではうまく説明出来なかったため、彼は紙とシャーペンを用意し、絵を描いて説明した。
「こんな感じの楽器なんだけど…。」
「お兄ちゃん、絵が下手。マフンお兄ちゃんの方がずっと上手だった。」
「あいつと比較するな。」
ヒリュウが苦笑いを浮かべた。
「でさ、僕はそれを叩くまねをしたりしているんだ。」
「そんなことをして、他人から変に思われない?ヒリュウ君。」
「カラオケでやったら言われたことがあるよ。」
「何?カラオケって。」
「えーっとね…。」
ヒリュウは今度は絵でもうまく説明することが出来ず、言葉に詰まってしまった。
「とにかく僕の国にあるものなんだ。とても楽しいものだよ。」
「それじゃ、ヒリュウ君はどこの国の人なの?」
「どこって…、僕は今色んな場所をまわっている身だから、どこの人って言われても答えようがないなあ…。」
「答えられなくても、故郷はあるでしょ?あなたの故郷について教えてくれない?私、いつかあなたの故郷に行ってみたい。」
「…。」
ヒリュウは返答に困ってしまった。もしクウォルの人だなんて打ち明けたらどうなるか…。そう考えると、とても正直に答えることなど出来なかった。
「そのうち、話す時が来ると思うよ。今は話せないんだ。」
「えっ?どうして?」
「…。」
その姿を見て、コロナはヒリュウが何か隠しているような印象を受けた。
「ヒリュウ君、どうして教えてくれないの?私は故郷について聞いただけよ。話してくれたっていいじゃない。じゃあカペラさん、教えてくれる?」
「…ごめんなさい。お父さんに自分の国については言わないようにって言われたから。」
「カペラ!」
ヒリュウは慌てて彼女の言葉をさえぎった。内心ではかなりあせっていた。
「何を隠しているの?あなた達!」
コロナは厳しい口調で問い詰めてきた。
(やばいな。せめてキノンにたどり着くまで仲が壊れなければいいけれど…。)
さっきまであれほどはずんでいた会話が突然ぷっつりと途絶えた。辺りには気まずい雰囲気が立ち込めた。
(もう、隠し通すことは出来ないだろう…。ごめん、父さん、姉ちゃん、マフン。そして、カペラ。やっぱり全てを話すよ。コロナから何て言われるか分からないけれど、やってみる。)
ヒリュウは考えに考えた末に、ついに自分の故郷について話し始めた。
クウォル国の軍事施設では、コーマ大佐が指揮する部隊がキノンを襲った時の映像を見ながら次なるプランを立てていた。部屋には1人の女性を含む、5人の部下がいた。
「この前はご苦労だった。この度開発された兵器は遠くまで到達することが証明された。これによると、到達距離がこれまでの1.5倍あることが証明された。他国の兵器では、ここまでは届かないだろう。」
「これがあれば、他国との戦闘でも、恐れることはないですね。」
「相手の武器が届かないところからこちらは攻撃ができるわけですからね。」
コーマの発言に、幹部の連中も続いた。
「今回の件は極秘だ。報道では軍事演習として処理し、決してキノンの都市の映像を出すようなことのないように!いいか!」
「はい!」
「承知しました!」
「コーマ大佐、万歳!」
「万歳!」
4人の部下は一斉に席を立つと、各自の持ち場に戻っていった。
一人残った女性の部下はコーマに質問を投げかけた。
「キノンを襲った正確な目的を教えてもらえませんか?軍事演習なら家のない平原で出来るはずです。」
「ナルビオン国内の鉱産資源を手に入れるためだ。あそこには豊かな資源が眠っているからな。今回の件で我々には勝てないような雰囲気を作ってしまえば、彼らは嫌でも我々に協力するだろう。今後が楽しみだ。私の手で、クウォルをもっと豊かにしてみせる。」
コーマは得意げな口調で言い聞かせた。彼女は黙ってそれを聞き続けた。
その頃、キリュウはエクラード行きの列車で帰り道を急いでいた。
ヒリュウの言葉を聞いて、コロナはそれまで築いてきた絆が跡形も無く砕け散っていくような衝撃が走った。
それから間もなく、大声で口げんかが始まった。カペラは何を言えばいいのか分からず、ただビクビクしながら2人を見つめていた。
大声は運転席にいるオゾンの耳にも届いた。
(とうとう、分かってしまったようね。出来れば最後まで伏せたかったけれど、それは無理な話だったようね…。)
彼女も動揺が静まらなくなり、やむを得ず車を止めた。
「近寄らないでよ!私とあなたは敵同士よ!」
コロナは敵意をむき出しにして言った。
「敵って言うな!生まれた国が違うだけだ!頼むから冷静になれよ!本当に心から語り合えば、きっと分かり合えるから。」
「あなたはキノンを襲って、私の心にこんな大きな傷を背負わせた人でしょう?そんな人なんかに言われたくないわ!」
「僕はやってないよ。兵役についていて、新たな戦車の威力を試すために軍事演習に行くのを見届けただけだ。」
「それで言い逃れしようっていうの?どっちにしろ軍隊に所属していたんでしょう?何で軍隊なんかにいたのよ!」
「義務なんだから、しょうがないだろ?クウォル人の男なら誰もが通らなきゃならない道なんだ!」
「じゃあ、あなたが私を拾ってから、進路変更をしてキノンに向かい、私を送り届けようとしていた意図は何なの?もしかしてスパイ?またキノンに何か仕掛けようと言うの?」
「スパイなんかじゃない!ただ純粋に君を助けたかったんだ。君があの侵攻で心に大きな傷を背負っていて、クウォルを敵国とみなしていることが分かっても、僕に何か言い返したいことが出来ても、それでも我慢して、君と仲良くなろうって思っていたんだ!」
カペラはオロオロしたまま2人の会話を聞いていた。
「来ないで!ヒリュウ君もカペラさんも出て行って!誰とも会話なんかしたくないわ!お願いだから出て行って!」
「コロナ…。」
ヒリュウは彼女に近づいていったが、次の瞬間、
「来ないでって言ったじゃない!」
と言われながら、突き飛ばされてしまった。ヒリュウが床に倒れこんだ時「バキッ!」という大きな音がした。振り向くと、彼はギターの上にいた。
それを見た途端、ヒリュウは顔が青ざめた。
「ギターが…。せっかく買ったのに…。」
「柄の部分が折れちゃった…。」
カペラも呆然としてしまった。
「いらないわよ、そんなの!キノンに帰れば、また楽器は弾けるわ!敵の人が買ったものなんかなくても平気よ!」
彼女の怒りはおさまらなかった。もはやヒリュウ、カペラになす術はなかった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「平気。それよりさ、今はコロナを一人にさせてあげたほうがいい。早く部屋を出よう。」
「でも…。」
「はやく出よう。」
ヒリュウはそう言ってカペラを説得すると、ラジカセを持ってドアのところに向かった。部屋の入口では運転席から移動してきたオゾンが心配そうに見つめていた。
「姉ちゃん、ごめん。こんなことになって…。」
「気にしないで。一人で責任を背負い込むことは無いわ。これも人生よ。」
オゾンが答えると、ヒリュウとカペラは振り向いて一緒にコロナを見つめた。
「ごめん、コロナ。こんなことになったけれど、僕は…。」
「聞きたくないわ!誰とも会話したくないって言ったでしょ!出て行って!!それから、こんなものもいらないわ!!」
コロナはポケットからマフンの手紙を取り出すと、読みもせずにちぎり始め、床にばらまいた。
「それはマフンの…。」
「マフン君も敵よ!」
ヒリュウはせっかくの彼の気持ちを台無しにされてしまい、呆然と立ち尽くした。
「こうなっては、彼女を一人にさせておくしかないわ。行きましょう。」
オゾンがヒリュウを見ながら言った。3人は重い雰囲気に包まれたまま、静かに立ち去っていった。
その後、3人はコロナと全く言葉を交わすことが出来なくなってしまった。
まだ9歳のカペラにも、自分達が置かれている状況は理解出来た。
「お兄ちゃん、大丈夫?コロナお姉ちゃんと、仲良く出来ないの?」
「残念だけれど、今は無理だ。どうすればいいんだ…。どうやったら仲良くなれるんだ。」
「あたしはただコロナお姉ちゃんともっと話がしたかったけれど…。」
「僕だってそうさ。音楽のことで意気投合し、彼女の作った曲に一緒に詞をつけてあげたんだけど…。」
その後は、かける言葉が見つからなくなった。どうすればいいのかも分からずにいると、ヒリュウは自分のラジカセを見つめた。
「コロナの曲、消そうかな…。」
そう言いながら、録音ボタンに手を伸ばして、音を消去しようとした。
しかし押せなかった。結局押したのは再生ボタンだった。すると、まだ仲良しだった頃のコロナの声が入った、心温まるような曲が流れてきた。
「お兄ちゃん、消さないの?」
ヒリュウはその質問には答えず、曲が終わってはテープを巻き戻し、何度も聞いていた。
ルレクの都市では、慣れないことだらけの状態で、孤独な闘いを続けているマフンの姿があった。
(やばいな、僕の考え方が甘すぎた。理想と現実のギャップがこれほどのものだなんて…。こんなはずじゃなかったのに。)
自分がナルビオン人であるとはいえ、ここにいる人々とは考え方や生活習慣があまりにも違いすぎた。
通信機で連絡を取り合っていた人と会うことも出来なかった。
住んでいる家は廃屋だっただけあって、これまで当たり前のように使っていた電化製品も、ろくにそろっていなかった。
(どうしよう。ここに来る前はあんなに期待に胸膨らませていたのに。やばいな、今は早くここを離れる日が来てくれって、そんなこと考えてるよ…。ヒリュウに何て言おう…。)
マフンがため息をつきながら物思いにふけっていると、通信機に連絡が入った。ヒリュウからだ。
現実の前に途方にくれている中で、コロナを無事に送り届けたのかという期待が生まれた。 マフンは早速本文を読んだ。しかし、そこには期待と全く裏腹の内容が書いてあった。
「そうか…、とうとう恐れていたことが起きてしまったか…。」
本文の最後を読んで、彼はますます苦悩の表情を浮かべた。
「あのなあ、『最悪だ。僕は一体どうすればいいんだ。』なんて言われても…。」
マフンにとっては泣きっ面に蜂のような状況だった。
その中でヒリュウには「僕が何か言ってそれで何とかなれば苦労はしねえよ。手紙は破られるし、こっちだって最悪だよ。」と打って返信した。
途方にくれながら立ち尽くしていると、ふと
「どうしたの?」
という声が聞こえてきた。
マフンが振り返ると、そこにはライラックがいた。
やがてヒリュウ達はキノンの街の入口から1kmくらいのところまでやってきた。
本当は彼女の家の前まで行きたかったのだが、反クウォル感情を考えて結局断念し、その場所でコロナを降ろすことになった。しかし、この時になっても仲は良くならなかった。
仲が冷え切ったままとはいえ、やはりヒリュウにとっては寂しかった。
彼は仲直りするための答えを見つけることが出来なかった無念さに打ちひしがれていた。
「コロナ、こうなってしまったけれど、君を助けてここまで送り届けることが出来て良かったよ。いつかきっと、やり直そうな。」
「助けてくれたことには礼を言うわ。でも、もう会うことも無いと思うわ。さようなら、ヒリュウ君。」
コロナはお礼をしたのか、皮肉を言っているのか分からないような言い方をすると振り返り、一目散に走り去っていった。彼女が振り向くことはなかった。
ヒリュウは彼女を引きとめようとしたが、4、5歩進んだところで立ち止まった。彼の後ろ姿がオゾンとカペラには寂しく映った。
「ヒリュウ、もうあきらめなさい。私達はどっちみちここで別れなければならないの。最悪な別れ方だったけれど、彼女はあなたに助けてもらった恩は決して忘れないわ。今はだめでも、いつかきっと分かり合えるから。」
オゾンにそう言われてもヒリュウは彼女に背を向け、両手を握りしめたまま立ち尽くしていた。
「ヒリュウ、いくら好きになっても、あなたとあの娘は考え方も、背負った過去も違うのよ。国が違うとはこういうことよ。私とキリュウさんもそう簡単に分かり合えたわけじゃないの。さあ、乗りなさい。」
「お兄ちゃん…。」
「ヒリュウ、行くわよ。」
オゾンはそう言うと、彼のところに歩み寄ってきた。つられてカペラも来た。その時、ヒリュウは迷いをやっと吹っ切るように意を決して
「姉ちゃん、カペラ、僕から聞いてほしいお願いがあるんだ。」
と言い出した。
「何?お兄ちゃん。」
「僕、ここに残る。コロナと仲直りしてくる。2人でテファンに行ってくれ。」
突然の決意に、オゾンは驚いてヒリュウの正面に回りこんだ。
「何を言っているの?本気なの?本当にあの都市に住むつもりなの?無茶なことを言わないで!ただじゃ済まされないわよ!」
案の定、彼女から反対意見が浴びせられた。
「お兄ちゃん、一緒に行こうよ。お兄ちゃんがいないとあたし、寂しいの。」
「私とキリュウさんが分かり合うことが出来たのは、テファンとクウォルが友好的な国だったからよ。もしこんな深い溝が出来た状況だったら、絶対に無理だったわよ!」
「それでも行く。国が違っても、きっと分かり合える。僕とコロナは、同じ人間だ。父さんと姉ちゃんが分かり合えたように、僕もきっと分かり合って見せる。」
ヒリュウは自分の意思を曲げようとはしなかった。
「ごめん。これからどんなことが待っているか分からないけれど、僕はコロナが好きなんだ。どうしても彼女との仲を終わらせたくない。いつか分かり合えるって言われたけれど、いつかじゃだめなんだ。過去なんか関係ない。きっと仲直りしてみせる。」
1対2のにらみ合いはその後も続き、意見は衝突し続けた。それでもヒリュウは決意を変えなかった。
やがて、オゾンはもう説得しても無駄だと分かってくると、ついに折れた。
「分かった。行ってきなさい。もし何かあったら持っている小型の通信機で連絡してね。すぐに飛んでいくから。」
「はい、分かりました。」
「お兄ちゃん、気をつけてね。」
「カペラ。一緒にいてやれなくてごめんな。」
「うん…。」
ヒリュウは再びオゾンとカペラに背中を見せ、キノンの都市を見つめて言った。
「コロナ、今会いにいくよ。君が僕を許せなくても、僕はあきらめないから。君が仲直りしてくれるまで、あきらめないから。」
コロナはショックが癒えないまま、自分の家にたどり着き、そこで兄に再会することが出来た。
プロミネンスは涙を流しながら再会の喜びを爆発させた。その一方で、コロナの心境は複雑だった。
プロミネンスはずっと妹の帰りを待ち続け、それまでに出会った人々に片っ端に妹を探してほしいと頼み続けていたことを話した。その中にはキリュウとマフンもいたが、彼らの名前を出すことはなかった。
兄の話が終わると、今度はコロナがそれまでにあったことを話して聞かせた。ただ、その話の中に、ヒリュウ達の名前は出てこなかった。
「コロナ。本当によく生きて戻れたな。お前を助けてくれた人と一緒じゃなかったのか?」
「うん…。その人は旅をしているから、私をキノンの入口で降ろすと、また次の目的地に行ってしまったわ。」
「そうか。おれからお礼を言いたかったな。」
「…。」
プロミネンスはその人に会えなかったことを悔やんでいた。その様子をコロナは複雑な気持ちで見つめていた。
しばらくすると、コロナはクウォル軍が襲ってきた時に、家に置いてきたギター、笛、バイオリンを探し始めた。
彼女にとっては自分の命と、兄の次に大事な存在と言ってもいいものだった。しかし見つからない。
(どこ?楽器はどこ?)
彼女は既に見た箇所を何度も探した。しかし、いくら探しても見つからなかった。
「何を探しているんだ?」
「私の楽器よ。どこにあるの?」
「あれか?持っていかれたよ。クウォルの兵士に。」
「持っていかれたの?」
「ああ、そうだ。だが、兄と再会出来たんだからいいじゃねえか。おれがいれば寂しくなんかないよ。」
「でも…。」
「ほらほら、そうやって落ち込むな。」
コロナはその場に立ち尽くした。
(そんな…。私の大切な楽器が…。私はこれから、どうやって音楽と接していけばいいの…?私には音楽しかないのに…。)
コロナは仕方なくポケットからハーモニカを取り出し、寂しげに吹き始めた。ハーモニカは今となってはすっかり古くなってしまい、音の出も段々悪くなっていた。 |