伝統〜ANOTHER VERSION〜縦書き表示RDF


はっきり言って自信ありません。最後まで読んでいただけたら幸いです。
伝統〜ANOTHER VERSION〜
作:夢野晴輝


私は平坦な道を、モトラド(注:二輪車。空を飛ばないものだけを指す。)で走っていた。
言葉を話さない、モトラドに乗って。
名前をつけて毎日呼んでいれば、いつか答えてくれるのだろうか…。本気でそう思い、名前を考え始めた。

先日会った、少年か少女か判断しかねた旅人は、エルメスという話すモトラドに乗っていた。
その旅人、確か、キノといったか。キノの話によると、
「この先にある国は、とても面白い国ですよ。」
と言うことだった。
エルメスというモトラドも、
「必見だよ、もし次に会うことがあったら、どんな風だったか教えてね。」
と。

私は旅をすることはおろか、国を出たのも初めてだった。そのため、
「旅をするのには、話すモトラドが必要なのか?」
と、質問をしてしまった。

さて、その国はどんな風なのか、と色々想像していると、目的の国が見えてきた。
「着いたぞ、さて、どんな風なのかな。どう思う?」
返事はなかった。

小さな国だった。
半日足らずで、いや、もっと短い時間で一周できそうなくらい周囲のない城壁が、それを物語っていた。城があることにはあるが、
「ちゃっちい…」
私は素直に、独り言を零した。

入国審査を済ませようと、私は詰め所にいる門番に申請した。
なかなかに伝統がありそうな礼服に、ヘルメットを被った門番に、いくつか質問をされた。一つ一つに、できる限り丁寧に答えていった。
最後にこんな質問をされた。
「この国を訪れるのは初めてですか?」
「ええ、初めてですが。何か問題でも?」
私がそう答えると、門番は歓喜の笑みを浮かべた。
「問題!?とんでもない!大歓迎ですよ!国民も、きっと歓迎してくれることでしょう!」
そう言うと、何やら電話をかけた。城壁の中から、鐘を打ち鳴らす音が響いた。
「滅多にいらっしゃらないお客様です!国を挙げて歓迎いたしますよ!我が国へようこそ!」
門番がそう言うと、城門が開いた。
「有り難い。お言葉に甘えて、歓迎されましょう。」
私は門番に礼を言って、モトラドを押しながら中に入っていった。

大勢の住人に出迎えられた。私は絶句した。
住人は全員、色とりどりの配色を施した、色々な面白い形をした仮面を被っていた。
「いらっしゃい、旅人さん!我が国へようこそ!」
笑いを堪えるのに必死だった。

国家元首と紹介した、つぶらな瞳に高い鼻、『3』の口をした仮面の男(声で判断したまでだが)に連れられ、城の中にある執務室に案内された。
お茶を出した、少女マンガのような目に、横に広く低い鼻、タコのような口の仮面をつけた秘書の女(髪が長いことと、スタイルを見て判断した)が去り、私は直球で質問をした。
「いきなりで申し訳ないのですが、何故、皆さん仮面を被っていらっしゃるのですか?しかも、ちょっと、正視しかねる面白さが…。」
仮面を見ると吹き出しそうになるので、あえて出されたお茶に視線を向けて聞いた。
すると、男はこう答えた。
「こんなヘンテコな仮面をしていると、どんなに怒っていても、その面白さに笑ってしまうでしょう?そうして、怒りの感情を抑えるのです。こうすることにより、この国では争いが起きなくなるのです。家族、友人、恋人、その他全ての人と、無益な争いをしなくてすむのですよ。」
「なるほど、納得です。ですが、争う、というより、ケンカをして築かれる関係もあると思うのですが、その点はいかがですか?」
私がそう言うと、男は少し戸惑った…ようだ。
「そう、ですね、それはありうることだと思います。ですが、これがこの国の『伝統』ですので…。」
男は言葉を選びながら言った。
「そうですよね。申し訳ない。長年かけて培われた『伝統』を踏みにじるようなことを言ってしまいました。」
「いえいえ、旅人さんの仰ることも、他の国では、そうなのでしょう。」
男は安心した様子で、しかし、どこかまごまごと答えた。文章として、少しおかしな言葉の付け方だった。
出されたお茶をすすりながら、ふと、壁に掛かっている絵画に目をやった。男女、とおぼしき二人組が、互いの手を取り見つめ合っていた。もちろん、二人とも仮面を被っていた。
改めて目の前の男の顔、いや、仮面を見た。危うくお茶を吹き出すところだった。
「そうだ、せっかくこの国にいらっしゃったのですから、『伝統』に触れては見ませんか?」
男は箱をテーブルの上に置き、ふたを開いた。中にはこれまた面白い顔の仮面が入っていた。
寄り目で、鼻の穴が大きく、にこりと笑った口は歯並びが悪く、所々歯が抜けていた。
「ふっ!」
声に出して吹いてしまった。
「なかなかに面白いでしょう?これは、私が最近作ったものです。お貸ししますので、被ってみてはいかがですか?もちろん、被る被らないは、あなたが決めてください。強制はしませんので。」


私はモトラドに乗って、街を走っていた。仮面を被って。鼻と口の部分に無数の小さな穴があるため、息苦しくはなかった。
途中、各々面白い仮面を被った住人に呼び止められ、
「旅人さん、すてきな仮面ですね!」
「おお、これはなかなか!」
など、様々に感想を述べられた。
「なるほど、確かに面白い国だな。」
私はつぶやいた。

聞くところによると、この国では自分で仮面を作るという。いかに面白く、より目立つ仮面を作れるかで、その人の評価が決まるらしい。


国を一周し終え、ホテルにチェックインした。受付の人も、やはり仮面を被っていた。
聞くところによると、私の歓迎のために、夜に舞踏会を開催してくれるのだとか。参加しない理由もなく、参加しないのは申し訳ない。
広場へ赴くことにした。その前に、夕食をと頼んだ。
出された料理はどれも見たことのない食材が使われており、食欲をそそった。
しかし、いざ食べようとして、問題が発生した。仮面を被ったままでは、食べられない。
「あの、この国では、食事はどのように?食事のときは、仮面は外すのですか?」
ウェイターに訊ねた。すると、ウェイターは自分の仮面の、鼻から下に手をやり、
「ご安心を。ここをこうすれば…」
そのまま下へおろした。仮面は鼻と口の境目がパカリと開いた。ウェイターが本来持っている口が、数秒現れた。
「あ、ありがとうございます。いや、全く勝手がわかりませんで。」
「いえいえ、初めてでは仕方のないことですよ。では、失礼します。」
そう言うと、仮面を元に戻し、去っていった。


食事を終えて広場に向かう。仮面の集団が、妖しく踊っていた。
「これがこの国の伝統行事の一つです。いかがですか?」
国家元首の男が話しかけてきた。
「いや、楽しんでますよ。わざわざこんな歓迎会を開いていただけるなんて、嬉しいですね。」
「そうですか、それはよかった。では、皆とご一緒に踊りませんか?もっと楽しんでいただけるでしょう。」
「はい、そうさせていただきます。」
舞踏会は、夜遅くまで続いた。


次の日の朝、いや、昼だ。舞踏会で踊り狂ったせいか、ベッドからなかなか出られず、すっかり日が高くなってしまった。
ブランチとして食事を出して貰った。また、これも見たことのない食材が使われていた。
口元だけパカリと開け、美味い食事に舌鼓をうった。


私は出国の準備をしていた。もともと、あまり長く滞在するつもりはなかったが、この国を出て思い切り笑いたかった。

城門付近で、国家元首の男、その秘書の女、それから何人かの住民が見送りに来てくれた。
「もう数日、滞在していただいても構わなかったのですが…。」
「せっかく歓迎会まで開いていただいて申し訳ないですが、何分初めての旅ですので。故郷の両親や友人を心配させるわけにもいかなくて…。」
「そうですね、ご両親やご友人は大切になさってください。」
私は仮面を取り外し、国家元首の男に渡した。
「お貸しいただいて、ありがとうございました。大変楽しい思い出になりました。では。」
それだけ言って、私はこの国を出立した。

旅人が見えなくなったのを確認し、見送りに来た全ての人が仮面を取り外した。
秘書の女が持ってきた『回収箱』に、各々仮面を放り込む。
「五百五十勝、二百三十三敗だな。私の任期中では四勝八敗か。久しぶりの勝ちだ。」
「連敗記録を止められてよかったですね。」
「全くだ。状況終了の鐘を。」
「手配してあります。」
「さて、次は何にしようか。早く決めないとな。今回は、練習期間が短すぎた。絵も描き変えなければ。」
「前回訪れた…キノさん、でしたっけ。あの方が来てから、本当にすぐでしたね。」
「『ケンカして築かれる仲もある』と突っ込まれたときは、冷や汗をかいた。」
「私も、バレないようにどうやって切り返すのか心配でしたよ。」
「まあ、終わりよければ全てよし、だな。」


私は、モトラドに乗り森の中の道を走っていた。
「フフッ、アッハハハハ!」
大声を出して笑った。
「よくできた仮面だ、ネコ耳を期待したが、流石に続けて同じことはできないか!ハハハハ!」
森の中、私の笑い声が響いた。


「この先にある国は、本当に面白い国ですよ。その国特有の『伝統』を重んじています。聞いた話では、亀の甲羅を背負う、おしりにライオンの尻尾をつける、鳥の真似をして歩く、激しく踊って挨拶、急に泣き出して挨拶、歌いながら食事…。」
「随分、たくさんの『伝統』があるのだな。疲れそうだ。」
「違う違う。その中の一つをして、旅人を騙して同じことさせて楽しもうってことさ。他にも、鳥の羽を頭に飾る、いつもケンケンで右足から入室、空を指さしながら左手だけで食事、目の周りが白いメイク、挨拶が親指立てて『イエーイ!』。」
「ボクは、ネコの耳をつけさせられそうになりました。断ったんですけどね。事前に聞いて知っていたので。嘘をついて話に乗ってあげるのは、ボクには向かない。」
「わざとひっかかって、みんなが喜ぶ様を楽しむのもあり、かな?」
「いいと思うよ。とにかく、あの国のアイデアの豊富さは必見だよ。もし次に会うことがあったら、どんな風だったか教えてね。」






「いや、世の中は面白いな、あんな国があるなんて!なあ、クロノス、お前もそう思うだろう?」
相変わらず話さないモトラドを『クロノス』と名付け、私とクロノスは森の中を疾走していった。何度話しかけても、一向に答えてくれない、クロノスと一緒に。



〜fin〜


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これは、自分が元の作品を読んだ後に妄想して作った話です。元の作品を読んだことのある方の中には、途中でオチに気付いた方もいらっしゃるかと。 この旅人がモトラドに付けたクロノスは、エルメスが『ヘルメス』と勘違いされたことがある、というところから来ています。何故そうなったかは、別の話になるので聞かないでください。旅人がそのことを知り得るはずがないことも、偶然だと流してください。アラばっかりですみません。













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