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黒いマントを羽織ったタキシードのエビの顔をしたマスクをした男が、断崖絶壁で笑っていた。
そして、その断崖絶壁の下には、赤、青、緑、黄、桃色の5人のスーツがいた。
「おのれ!!エビフライ伯爵め!!」
と、赤いスーツが叫ぶ。
そう、これは子供向け番組「山登り戦隊 ヤマレンジャー」の収録現場である。
この「山登り戦隊 ヤマレンジャー」は、近年、稀に見る重厚すぎるドラマ性と、アクションシーンで話題騒然である。
そして、登場人物がイケメン。
そのため、主婦層にも人気である。
さらには、ヤマ・ピンク役の弱冠18歳の少女がとても可愛く、男性層にも大人気。
しかも、彼女は朝8:30なのに、毎週入浴シーンをやってくれるというサービスっぷりに視聴率もうなぎ登り。
とにかく、この番組は大人気である。
そして、遅れたが、僕の名前は吉崎孝則・・。
25歳の独身・・。
このヤマレンジャーのメンバーの一人を・・。
やってるわけもなく・・、今、例の黒いマントを羽織ったタキシードのエビの顔をしたマスクを被ってる男をやっている・・。
この番組の悪役。
しかも、視聴者に最高に嫌われている悪の親玉のエビフライ伯爵・・。
さらには、顔も見えない・・。
それが、僕の役・・。
「あっははは!!私は、エビフライ伯爵だ!!」
なに、言ってるんだ俺・・。
ツマブシ・サトシ君のような清純派の俳優を目指して、この世界に入ったのに・・。
しかも、22歳の時に、勤めていた仕事をやめて来たってのに・・。
あまりにも、生活が厳しくて、この役を・・。
「カットー!!」
「お疲れ様でしたー」
そして、収録が終わった。
ああ・・、帰れる・・。
マスクを脱ぐと、スカッとする。
もうこの撮影、嫌だ・・。
だが、いつか、このことを苦労話出来るくらいの大物になってやる・・。
そうして、いつもの妄想が始まる・・。
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平日のお昼に、サングラスの人が、僕向けて話しかけている。
「デビューが、エビフライ伯爵ってね・・」
「いやー、本当に辛かったですよ・・」
と、僕は笑いながらに得意げに話している。
そして、ファンにキャーキャー騒がれている・・。
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「お疲れ様です」
「はっ!!」
その声で、急に現実に戻された。
僕を現実に戻したのは、エビフライ伯爵の部下で、数十人いるやられ役の黒い全身スーツの戦闘員役の篤元豪って名前の青年だ。
なんでも、彼はこの番組の大ファンで、戦闘員役でのバイトをしてまで、この番組に関わりたいとまで言ってるくらいの熱心な青年。
悪く言えば、オタクだ。
僕は、彼としか親しくなかった。
他の俳優さんは、監督とスタッフで楽しく喋ってる。
僕は、あのメンバーに入りにくかった。
というか、入れてもらえなかった。
畜生!僕だって、あのヤマ・ピンク役の桃木道子ちゃんと、トークしたいんだよ!!
しかし、こんなのは叶わぬことだ・・。
僕と彼女の差は、F−1カーと、自転車ぐらいの差がある・・。
畜生!!25歳という、なんか生々しい年齢が嫌だ!!
しかも、この番組の役者で、一番、年長じゃねぇか!!
そんなわけで、僕は篤元君と一緒に、弁当を食べている・・。
「エビフライ、上げますよ」
と、篤元君は弁当のエビフライを渡してきた。
「ああ、ありがとう・・」
嫌味に感じるが、彼は天然だから仕方ない・・。
エビフライ伯爵役の僕が、エビフライを口に含む姿は情けない・・。
「それにしても、道子ちゃん可愛いですねー」
と、篤元君が言う。
「そうだね・・」
僕は、軽く答えた。
それにしても、本当に彼女は可愛い・・。
実は言うと、自分のパソコンには、彼女の番組内のキャラクターソングが入っていたり、彼女のグラビアまである。
彼女は、ネットでも悪い噂が書かれない。
まさに、現世の天使。
「彼女・・、ヤマ・レッドの拓村木哉と付き合ってるんですってね」
と、篤元君が言った。
僕は、その一言で背筋が凍った。
「えっ・・、嘘だろ・・」「本当ですよ・・。ネットの8ちゃんねるで、話題騒然ですよ」
余計なこと言うなーー!!
このオタクが!!!
嘘だろ!!所詮!!
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「本当だ・・」
篤元君、自前のノートパソコンで、例のサイトを見た。
そういや、彼女、拓村君とよく話していた・・。
しかも、その時の彼女の顔は、無邪気な少女ではなく一人の女性のような顔つきだった。
「死のう・・」僕は、そう言った。
あまりにも、ショックだったのだ。
「なに、言ってるんですか!!吉崎さん」
話を振った篤元君が、そう言う。
元はと言えば、お前が・・。
「道子ちゃんと、拓村君が付き合ってたなんて・・」
「吉崎さん、道子ちゃんのこと好きだったんですか・・」
急に、同情を始めやがった・・。
こんにゃろう・・。
「女なんて、他にも居ますよ・・」
と、僕の肩に手をかけた。
なめとんのか!!こいつ!!
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「はぁ・・、散々だよ・・」
と、収録現場から自宅に帰ることにした。
だが、未だにショックが大きい。
都会の街並みが、冷たく感じる・・。
もう僕には・・。
「離して下さい!!」
と、急に女性の声が聞こえた。
その方向に、顔を向けると、若い女性が暴漢に襲われている。
このあたりは、こういう事件が多いんだ。
急に、腹が立ってきた。
例の件といい、この暴漢のこといい・・。
僕は、ついカッ!となり、その暴漢の方に走った。
「おい!なにやってるんだ!!」
と、叫んだ。
「ちっ!」
暴漢は、彼女の手を離した。
それで、男はあっさり逃げて行った。
まったく、これでは日本が駄目な方向に動くぞ・・。
「はぁはぁ・・、ありがとうございます・・」
彼女は、ひどく怯えていた。
とても怖かったようだ。
しかも、彼女は飛びっきりに可愛いではないか・・。
なんというか、道子ちゃんより萌えではないか・・。
電車男みたいな展開だが、所詮は現実なので、特に今後の展開に期待しないで、このまま帰ろう・・。
あとは、警察にお任せ・・。
「それでは、これで・・」
と、僕は去ろうとした瞬間・・。
「あの・・、家までご一緒・・、出来ませんか・・」
嘘だろ!!
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信じられないことだが、僕は彼女のアパートに来ている・・。
さっきまでの絶望っぷりは、なんだったのだ・・。
彼女は21のOL。
いつもと違う道を通っていたら、襲われたそうだ。
そこに、ヒーローのように現れたのが僕である・・。
ちなみ、僕はまだ名乗ってないし、職業も言ってない。
「どうぞ・・、ごゆっくり・・」
「ああ・・、すいません・・」
と、彼女の部屋に上がって、お茶をご馳走になっている・・。
しかし、彼女の部屋は・・、美少年のポスターが貼られている・・。
有名どころのアイドルばかりだ・・。
意外にも、オタクか・・。
げっ、「山登り戦隊 ヤマレンジャー」のポスターが・・。
彼女も拓村の虜か!!
「あのヤマレンジャーのファンですか・・」
「あっ、はい・・」
やはりか・・。
「ああー、そうですかー。実は、僕この番組のスタッフなんですよー」
「そうなんですかー」
役名は、死んでも言えない・・。
「んでもって・・、やっぱり、拓村君のファンですか・・?」
と、思わず聞いてしまった。
「いいえ・・」
やったーーー!!!!
何故か、喜んでしまった。
じゃあ、誰のファンなんだ?
まさか・・。
「あの・・、この番組のエビフライ伯爵って居ますよね・・」
「はい・・」
もしかして、彼女は・・。
これで、彼女がエビフライ伯爵に好感があったら・・。
これって、運命・・。
これて、デスティニー・・。
「彼って、どう思いますか?」
ついに、そう言ってしまった・・。
果たして、彼女の答えは・・。
「メチャクチャ、嫌いです」
僕を殺して。
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翌日の収録。
「あっははは!!私は、エビフライ伯爵だ!!世界征服してやるぞ!!畜生!!てめら、地獄落としてやんぞ!ボケ!!アホ!!カス!!」
と、僕は断崖絶壁で笑っている。
エビフライ伯爵の姿で。
「うむぅ・・、凄い演技だぞ・・。吉崎君・・」
と、監督が唸っている
あれから、その彼女とは音信不通だ・・。
あの後、普通に帰った。
泣きながら、帰った。
エビフライ伯爵を、憎みながら帰った。
しかし、エビフライ伯爵は、僕自身だ・・。 |