街の集会所受付
「そ、その格好で?」
「そうだけど?
そんなにおかしいか?」
受付の女性はその言葉に呆れた。
依頼を受けようとしている青年は白い毛皮の防寒着姿だった。
「死んじゃいますよ!
ダメです!
依頼受諾は認められません!!」
「そんなに心配?
俺のヨメになるんなら取り消してもいいよ?」
青年の言葉に
女性は耳まで真っ赤にして激昂した。
「か、からかわないで下さい!」
「悪かったよ
じゃ、依頼確認の方はヨロシク!」
青年は集会所を後にした。
「神様・・・」
女性は祈る事しかできなかった。
青年はベッドで横になりくつろいでいた。
伝声管から声が聞こえてきた。
『ヤツが来た
1番ゲートを紙みたいに突き壊して行きやがった』
「・・・了解」
聞き終えると
ベッドから起き上がり
目を閉じて瞑想する。
しばらくして目を開けると頬を軽く平手で叩く。
部屋の出口を出た。
青年は目を閉じ
通路の真ん中で腕を組み仁王立ちしてターゲットを待った。
先程からシトシト降り始めた雨が頬を伝う。
地面が、大気が、大きく揺れ動く。
青年は目を開ける。
ヤツが来た。
背中の刀を振り抜くと
右下段に構えた。
眼前の白く深い靄を払いながらヤツが四つん這いの姿勢で顔を出した。
ヤツの名は
老山龍
青年の受けた依頼とは
ラオシャンロンの撃退
『お散歩コースになる街から山道へエスコートせよ』と言うものだ。
「ラオシャンロン・・・
はっ!
ただのバカデカいトカゲに何をビビる!」
地面を蹴り距離をつめる。目標は頭部。
アゴ下あたりでブレーキをかけると
勢いにまかせて右下段から上段へ切り払う。
ギンッッッ
金属のぶつかる音。
青年はそれに合わせバックステップして距離を離す。
刀を持つ手が振動で震える。
「金属っ!?」
ラオシャンロンの皮膚は
明らかに他生物と違いまるで鉄鋼。
「予想してたさっ!
バカデカくてバカカタいトカゲだってな!!」
もう一度右下段に構えるとラオシャンロンの動きを警戒しながら腹部中央あたりに潜り込む。
刀の刃を腹に当てがうと
刀の柄の下に左手をそえ
力を込めて腹を突き刺した。
刃は3分の1程減り込むと硬い筋肉に阻まれた。
腹に刃を刺し込まれても
ラオシャンロンは何事も無い様に歩き続けている。
柄を両手で握り直すと
思い切り力を込め切り裂いた。
鮮血が飛び散るが
まるでダメージにはならない。
人間で言えば子猫に引っ掛かれた程度だろう。
青年は刀をしまうと
腰のポーチから小さなタルを取り出した。
小タル爆弾と呼ばれる
タルに爆薬をつめた超原始的破壊兵器。
爆弾の導火線に火を付けると先程切り裂いた傷口深くに埋め込んだ。
青年はラオシャンロンの右脇を走り抜ける。
・・・ドフッ!
小さく破裂音がすると
さすがに直接内臓を襲う衝撃に耐えられずラオシャンロンは立ち上がる。
「チャンス!!」
地面に着いたラオシャンロンの尻尾にしがみつくと
よじ登りはじめた。
「弱点は背部の薄い皮膚だったよな?」
少し広い背部に登りついた瞬間
ラオシャンロンは勢いよく倒れ込み四つん這いの姿勢に戻る。
「おわっ!!」
衝撃に耐えられず振り落とされ
地面に全身を打ち付けた。
強烈な痛みにしばし呼吸が停止する。
「・・・かはっ!」
体をなんとか起こすと
尻尾の右横まで走り寄る。
「タイミングを計って
今だっ!」
こちらに振られた尻尾にしがみつく。
もちろん衝撃は凄まじく
肋骨を数本ヤラれたらしく
口元から血が流れ出る。
口内に溜まった血を吐き飛ばすと
背部へよじ登った。
薄く他とは違い少し柔らかい場所にたどり着く。
ポーチから銀色の長い針を取り出した。
避雷針だ。
朝から降り続く雨は
次第に雨足を強め
今は空高くから轟音が鳴り響いていた。
「天気に感謝!」
そう言うと
天高く突き出し
轟音の響きとともに背部の柔らかい部位に思い切り突き刺す。
避雷針から手を離した瞬間雷鳴が針を襲う。
その爆音と衝撃で青年は弾き飛ばされた。
「グゥゥオォォゥゥ!」
さすがのラオシャンロンも背部に襲い掛かる
凄まじい熱量に悲鳴を上げた。
青年は気がつくと
立ち上がり辺りを見回す。
青年が気絶している間に
ラオシャンロンは砦へ進行してしまったのだろう。
「俺のエスコート無視しやがって
高くつくぜっ!」
ラオシャンロンが向かったであろう砦へ走った。
砦 正門
体を持ち上げ
2足歩行のラオシャンロンがゆっくり正門に向かっていた。
「ここまで来ちまったか」
正門前にたどり着くと門最上段に兵士がいる。
伝声管で進行を伝えた兵士だろう。
ラオシャンロンの進行に合わせ『切り札』を出すタイミングを見計らっていた。
一歩
また一歩
ラオシャンロンはなんの警戒も無く近づく。
『切り札』の間合いに入った事を確認するとスイッチを押した。
撃龍槍と呼ばれる最終兵器。
強烈に回転する槍が
上方に2本、下方に2本
高速で打ち出される。
下方の槍が膝あたりを貫いたが・・・
「なっ!?
ば、バカな!!?」
兵士が驚きの声を上げる。
その光景は
あまりに有り得ないモノだった。
上方の槍は
ラオシャンロンの胸部にたどり着く前に『止められて』いた。
槍の横腹を掴み
握力だけで強引に回転を止め攻撃を防いだ。
「何してる!逃げろ!」
その声に
兵士は我に返り砦内へ逃げた。
ラオシャンロンは上方の握ったままの槍を力まかせにねじり切ると無造作に地面に落とした。
その光景に青年の背筋が凍り付く。
自分が撃退しようとしていた相手の強大さに今さら気付いた。
しかし
ここで逃げるわけには行かない。
恐怖で凍り付いた顔を両手で思い切り叩くと
砦の壁面に付けられたハシゴを登りはじめた。
ラオシャンロンの進行は止まらず砦を大きく揺らす。危うくハシゴから滑り落ちそうになるが
しがみつき最上段までたどり着いた。
青年は注意を払うわけでも無く
まるでペットと向き合う様にラオシャンロンの眼前に仁王立ちした。
背中の刀を振り抜くと
逆手に持ち替え
左手の平を柄の下に当てがい顔の前で水平に構える。
それを待っていた様に
ラオシャンロンは首を天に仰ぎ鳴いた。
「グゥゥオォォゥゥ!!」
次の瞬間
ラオシャンロンの頭部が青年の右側から襲いかかる。
首の薙ぎ払い
単純な攻撃だが当たれば
(・・・死ぬ!)
刀を持つ手に力を込める。
「おぉぉぉおおおぉぉ!」
咆哮を上げ
ラオシャンロンに突きかかる。
刃の狙いは
眼球
頭部と刃が勢いよくぶつかり合う。
グシュュュ
鈍い音を立て刃が硬い眼球に突き刺さる。
激痛に耐え兼ね
眼球に刀を刺したまま
ラオシャンロンは天を仰ぎ鳴いた。
「ウウワォォオオゥゥ!」
青年は刀越しとは言え
薙ぎ払いの衝撃で吹き飛ばされ砦壁面に全身を思い切り打ち付けられ
口から大量に血を吐き出した。
ラオシャンロンは鳴き止むと正門とは逆
山道方面へ向きを変えた。
青年は薄れ行く意識のなか山道に姿を消すラオシャンロンに
笑みを浮かべながら消え去りそうな声で言った。
「その・・・刀・・・
次に会うまで・・・
無くすな・・よ」
青年はその場に崩れる様に倒れた。
数カ月後
街の集会所
「あ!
もう傷大丈夫ですか?」
受付の女性は青年を見るなり嬉しそうに微笑んだ。
「当たり前だろ?
あんなトカゲ楽勝だよ!」
青年の言葉に
女性の表情が暗くなる。
「もう・・・
無茶しないで・・・」
涙目になる女性の頭を軽く撫でる。
「そんなに心配?
俺のヨメになるなら無茶しないって約束してやる」
その言葉に女性は
笑いながら頬を少し膨らませた。
後ろの依頼案内板に目を向けた時
青年は真剣な表情になる。
女性はそれに気付くと
慌てて依頼書を両手で隠す。
「こ、これは
あの・・・
ダメですから!
絶対行かせませんから!」
「手を退けろ」
青年の真剣な表情と冷たい瞳の光に女性はしぶしぶ手を退けた。
『片目に刀の刺さったラオシャンロンを火山中腹で目撃
隣街の砦を襲う可能性大』
それを見ると
無言で集会所を出ようとするが女性の声がそれを制止した。
「待って!
あなたのお嫁さんになってあげるから!
なんでもするから!
もうやめて!」
青年は振り向く事も無く
右手を突き上げ
集会所を出て行った。
「どうして・・・?
死んじゃうよ・・・!
誰か・・・
止めて・・・!」
啜り泣く女性に
1人の男性ハンターが歩み寄る。
「アイツのあだ名
知らないのか?」
「あだ・・・名?」
「・・・死にたがり」
それを聞くと女性の顔は蒼白になり
その場に倒れ込んだ。
その後
火山で片目を潰されたラオシャンロンの死体は見つかったが青年の行方は誰も知らない。
「死にたがりの咆哮」 終
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