第9話 〜たったひとつしかない初恋〜
「春って。
イベントがないんだよね…」
次の日の放課後。
校庭の隅っこで
陸上部の練習を見ながら。
翔子がため息をつく。
「うん。
イベントって
全て冬だよね」
せめて
バレンタインとか近かったら…。
とか思いつつ
そう答えたら。
「だからこそ!
敵も少ないと思うの!」
力こめて翔子が言った。
…そう来ましたか…。
翔子はポジティブだなあ!
好き。
好きって。
憧れと
何が違うのかな。
「ねえ翔子」
「なに?」
「なんで、
好きなの?」
聞いてみた。
だってなんか。
イヤだったんだ。
あたしが大好きな翔子が。
強くて、
可愛くて、
優しい翔子が。
他の女の子みたいに
ルックスが好みだとか。
そういうトコだけ見て
『好き』って
思ってるんだとしたら。
なんかイヤだったんだ。
「理由なんかないよ」
「え?」
「そりゃ…。
はじめはただの
ミーハーだったよ?
でも あたし。
話もしたことない人。
きっと好きになれない。
今までだって
そういうのって…
あたしに告ってくるヤツ、
断ってたじゃん?」
「話、したことあるの!?」
翔子が
今までどれだけモテて来たかは
もう知ってるから、
ソコはひっかからずに。
真先輩との接点があるのに
驚いた。
「あるよ。
あたし、
入学式で宣誓読んだじゃん?」
宣誓っていうのは…
入試でトップだった生徒が
読むアレだ。
「無理してさあ。
受験勉強してさあ。
あたし、確かに
超マグレでトップだったさあ。
だけど。
世の中には
いるんだよね…。
無理しなくても
デキル人ってのが。
次のミニテストで
バレちゃって。
アタシの頭のレベル。
気ぃぬいたら
すぐ成績なんて落ちた。
でも。
ちょっとうかれてたんだ。
自惚れ?
っての?
そういうの…
見る人が見たらわかるんだよね…。
廊下で
すれ違いざまにさ。
『イイ女がいると思ったら。
違ったな』
って
イヤミ言われて。
何だよソレ。
ふざけんなって
アンタに
あたしの何がわかってんだ?
って
くってかかったら」
ちょっと待て翔子。
なぜソコで。
売られたケンカを
直後に買うんだ?
あたしが頭を抱えていたら。
翔子は
ふっとキレイな表情で笑った。
「『はいはい。
イイ女になんなさい』
って
頭ポンポンってされて。
それが
真先輩だったんだ。
イヤになる。
まるで子供扱いなんだもん…」
翔子がシュンとして。
ホントに子供みたい
体育館横の石階段ににうずくまった。
「でね。
何を間違ったかあたし…
体育委員に選ばれちゃって。
そしたらね。
真先輩もそうで。
しょっぱなの委員会の書類で
ちょっとトラブったのね。
そしたら。
何も文句言わないで。
助けてくれたの。
それから廊下とかで会ったら
声かけてくれるようになって。
なんとなく、立ち話とかしてたら。
そしたら。
なんとなく、ね」
……。
ふーん。
翔子の何度目かの恋は。
そうやって『なんとなく』
はじまったのか。
「なんか…。
みんな
女の子なんだねぇ…」
「……。
灯?
何でそこで枯れてんの!?
アンタだって
オンナノコでしょ!?
これから
初恋のひとつやふたつするのっ!!」
すっくと立ち上がって
勢いよく翔子がそう言い放つから。
「…翔子。
初恋ってのは。
たったひとつしかないから
『初恋』っていうんだよ…」
と、あたしは答えた。
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