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第5話 〜そして少女は脱兎する〜
 



 放課後の生徒指導室。

 説教くらう時はいつも
 この階段の上にある小部屋。

 ここの学校はそういう造りで。

 そういう方針らしい。

 それはそれで
 仕方ないこと

 …なんだろうけど。

 だけどね。


 担任の山口が軽い口調で
 お説教文句をつらつらと
 述べている。

 先生にしてはまだ若いから、
 これで済むけど。

 問題は。


「だからな、
 だいたいの事情は
 中村から聞いたが…。
 日野。
 お前もな、
 ホイホイ着いて行くこと
 ないだろう?

 そして何よりお前だ!桜井!」


「あーい?」


 何でコイツ。
 桜井涼が一緒なのよ!?
 何で?


「ったって、先生。
 俺、1組っしょ?
 何で2組のセンセが指導すんの。
 おかしくない?」


「バカ。
 これで済むならヨシとしてくれや。
 1組の担任の山崎先生なら
 もっと厳しいだろうが」


「そりゃあそーですケド」


「ハイ。反省文提出な。
 1時間で書けよ。
 後でまた来るからな」


 と山口先生は
 扉を閉めて出て行った。


「はぁーい」


 ってオイ!!
 2人っきりですかいっ。
 山口先生!!



 「………」


 「…………」


 気まずい。


 生徒指導室は
 陽あたりがよくて。

 空気がゆっくりと流れて。

 おまけに静か。


 「………」


 って静かすぎるでしょ!?


 あたしのシャーペンで
 反省文書く音しか聞こえない
 ってどういう事?

 がばっと勢いよく顔を上げると。

 桜井は
 机に突っ伏して眠っていた。


 「……何だコイツ……」


 桜井の作文用紙
 チラリと見ると。

 何も書いてない。


 え?寝る?

 それで、眠れる!!?


 何て不マジメな奴…。

 あたしは呆れた。

 軽蔑ってあんまりしないけど。

 この感情は…
 ケイベツしたって感じかも。


 だって。

 こうなったのはそもそも。

 小林里美さんってコのせい
 かもしんないけど。

 そもそもはコイツが
 教室に乗り込んで来て。

 あたしを屋上に
 引っ張って行ったから
 じゃんか。


 …あたしなんて。

 根源(こんげん)は何が悪いかなんて
 わからないけど。

 着いてったのは
 (いくら引っ張られてムリヤリでも)
 あたし自身だから。

 そういうのがいけなかったなって
 思って。

 授業は
 途中からになっちゃうし…。

 ノート取るの遅れて、
 翔子に借りなきゃで
 迷惑かけたし。

 ()におちないけど。

 一応反省はしてて。

 ちゃんと文章に書いたのに。


 髪も黒くて。
 マジメな人に見えるのに。

 何だか…態度(たいど)はだらしない。

 だけど。

 何でこんな奴。

 山口先生には
 可愛がられてんだろう。


 そういや1組って。

 特進クラスじゃん。

 頭もイイのに。

 なんで?

 
「うわあ眠っちまった!
 今何時?」


 いきなりがばっと起きて、
 騒々しく叫ぶ。


 あたしは反射的に
 びくっとしてしまった。


「ね、ね、今何時?

 俺ぜんぜん書けてねーの。
 何書いた?ちょっと見せて」


 あたしのペースには
 かまわずにそう言って、
 桜井はあたしの反省文を
 奪った。


「あ、名前。
 ひのサンっていうんだ?

 コレ、あかりって読むの?

 あかりチャンかー。
 なあ、見せてもらっていい?
 ちょっと文章変えて書けば
 時間にまにあ…」


 あたしは作文用紙を
 無言で奪いかえした。

 だって!

 だってこれは
 あたしが書いたものだ。

 あたしのだ。


「え」


 少しムッとした顔で。

 桜井はあたしを(にら)んだ。


 こ、こ、こ、怖くなんか
 ないんだからねっ…。


「…ゃんとっ
 …じぶんでっ…か…」


 怖くなんか無いんだからっ。


「か?」


「か、か、…かいたら…?」


 
 なんで?

 たったこれだけ
 睨まれただけで。

 相手、男の子だから。

 体格、デカイから。
 
 あたし、チビだから。

 だから?


 なんで。


 泣いちゃうんだろう。あたし。

  
「げ」


 桜井はちょっと(ひる)んで。

 おたおたしてる。

 そして深くため息をついた。


「アンタさあ?

 そんくらいで泣く?ふつー?

 名前だって口きけんなら
 里美の前で言えよ。
 聞いてたんだからさ。
 そこで泣かれたら
 こっちが悪モンみてーだろ。

 つまんねぇヤツ。

 クソマジメすぎんだよ!」



 桜井は吐き捨てるように、
 そうやって言う。




 …何だよ。

 何だよ。

 何なんだよコイツ!!


 手が(ふる)えてきて。

 思わずあたしは


「何だよ!

 あたしは昨日から…

 訳わかんないことばっかりでっ。

 あたしが迷惑してんだからっ。


 迷惑かけたのは
 そっちじゃんか!

 そんでこんなこと
 なってっ…。

 何でそれで
 怒鳴(どな)られなきゃなんないわけ!?

 そっちだって

 里美ちゃんだか何だか
 知らねーけど、

 かわりにアレコレ
 動いちゃって!

 そんなん…

 本人に任せとけば
 いいじゃんか!

 彼女でもちょっと
 過保護(かほご)すぎんじゃないの!?」
 


 一気に怒鳴りかえしてしまった。



 最悪。

 最悪だ。

 あんまり怖いから。

 あたしはその場から逃げだした。




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