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第16話 〜陸上部・そして亜季さん〜




「新しいマネージャーを紹介する」


 あたしはジャージを着て。
 翔子と並んで陸上部のみんなの前に立ってる。

 だから。人前は緊張するんだって。

「1年2組 中村翔子です。
 頑張りますので、よろしくお願いします!」

 すらすらと翔子は自己紹介している。

 おぉ!と歓声があがる。
 
 翔子、可愛いからなあ。


 あたしは傍で

「1年2組の日野灯です。
 …よろしくです…」

 ちっちゃな声で言うと

「なにー?
 聞こえねー」

 と笑われた。

 もー。

 顔が赤くなってるのがわかる。


「赤くなっちゃって
 かわいー」

 何か真先輩の声がしたような
 しないような…?


「こら。静かにして
 ひの あかり さんっていうのよ。
 この子。
 私が色々教えてあげるからね。
 中村さんもね」

 そう言って。庇って。
 あたしの横でキレイに微笑んだのが…。

 坂田亜季さん。

 真先輩の噂の彼女さんだ。



 で。

 体育教師の秋山ちゃんが顧問だった。
 知らなかったけど
 陸上で有名な人らしい…。

 って。

 うちの学校、陸上部。強かったんだ。
 知らなかったよ。



「まずは部室の掃除からね。
 1日で荒れちゃうから。
 結構大変よ」


 亜季さんが掃除道具の場所と
 手順を教えてくれた。


「じゃあ、後よろしくお願いね」

 そう言って。
 亜季さんは部室を後にして。

 部室には翔子とあたしの
 2人だけになった。




「さて。やるか」

 腕まくりしてバケツと雑巾持って。
 掃除に取りかかる。


「あーん。
 しょっぱなから
 真先輩の傍から引き離されちゃったよ。
 寂しー」


 雑巾片手に翔子がボヤいてる。



「なんか…。
 聞いた話だとね。翔子」


「なに?」


「朝練とかあって。
 そういうのも出なきゃでね。
 真先輩目当てのマネージャーって
 思ってたより仕事がキツイから
 けっこう辞めて行くらしいよ」


「げ」

 翔子がへこんだ。


「ま、いっしょにガンバろ?」

「…うん」




 ひととおり作業が終わって。

 ふと。
 部室の椅子に置かれた陸上雑誌を目にした。

 開いてあったページ。


「真先輩出てるよ!?」

「なに、どれ?」

 すかさず翔子が読み始めた。

「やーん。
 やっぱカッコイイ…」

 何のノロケですか。ソレ。

 でも。
 短距離でそんな雑誌に掲載されるくらい。
 凄い人だったんだな。
 真先輩って。


 


 
  ***



 何日か放課後にはすぐにマネージャーとして陸上部に通って。

 暗くなるまで練習中に色々して。

 練習とか見てたら。

 凄いハードで。

 何ていうか…。
 運動たいしてデキナイあたしにしてみたら。

 言葉悪いかもしんないけど。
 バカみたいにみんな熱心で。

 そんなね。
 陸上で将来ご飯が食べて行ける人なんて
 限られてるのに。

 何だか…
 1分1秒のタイムで苦しんで。
 それを上げるために
 メニュー組んで。
 取り組んで。

 そういう人達がいっぱいいて。

 なんで。

 そこまで…って。

 時々苦しいくらいに。

 申し訳ないくらいに。

 だからあたし。

 裏方だけど。
 そのお手伝いになるなら。

 走れないから。

 何でもやろうって。

 素直にそう思えるくらい。
 人間ってスゴかった…。





「もう慣れた?」

 救急箱の在庫チェックしてたら、
 亜季さんが近寄ってきてそう聞いた。


「…はい。だいぶ」

 ちょっと緊張して答える。

「中村さんは?」

「あ…。
 さっき、ドリンク皆さんに配るために行きました」

「そう。真ね」

 え?

「そういうコ多いからね。わかるの。
 不純な動機でも
 やるコトやってくれたら
 私はいいのだけど…。

 ちょっと見てたら気になってね。
 裏方の仕事だから。マネは。
 そういうの…
 もっと理解してくれたら、とね」

 バレてますがな。
 翔子。

 心臓がばくばくして。

「灯ちゃんは…
 どうも違うみたい」

 違いますけど。
 付き合いですから、
 アナタの敵ですが…。

 緊張しながら聞いている。

 
「陸上。
 好きになってね」

 そう言って。
 亜季さんはあたしの傍から離れた。

 ……。

 透明な、感覚。

 何ていうか。

 亜季さん。ただ大人しいだけとは違う気がした。
 芯が、強い。
 感じ?



 あの人。
 走る人が好きなんだ。

 

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