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第12話 〜非常階段の命令〜




 いつもの
 何もない1日がすぎて。

 1日中
 ノートがどうなっているのか
 気にして。


 でも
 何もなくすぎていく時間に
 ただ失くしただけで
 とくに
 何があるって訳でも
 無いのかもって。
 ただの散文(さんぶん)だったし。
 って。

 そう思えはじめた放課後。


 「ちょっと来てくんない?」


 最悪なヤツに
 非常階段(ひじょうかいだん)に呼び出された。

 桜井涼だ。


 「イヤ」

 そう短く言って
 突っぱねようとしたら。



 「これ

  オマエんのだろ

  アカリチャン」

 桜井の右手には
 あのノートがおさまっていた。




 何で?

 何でよりによって
 桜井涼が
 あの『略奪計画ノート』
 持ってソコにいるの?


 「かえして!」


 手を伸ばして
 ノートを取ろうとしたけど。

 身長差がジャマをした。


 「オマエって
  真センパイのこと
  好きなんだ?」

 耳元で桜井が(ささや)いた。


 「何言ってんの!?」

 ぎょっとした。
 あわてて辺りを見渡して
 誰も聞いてないのを
 確認してから


 「行くから!
  非常階段!
  …だから静かにして」

 ちっちゃな声で
 あたしはそう言った。




     ***



 「そのノート…
  返して」


 何で
 あたしはそんなノートの表紙に
 律儀(りちぎ)にフルネーム
 書いていたんだろう?

 後悔ばかりだ。

 授業で使うつもりだったから。

 だからだ。


 「レンアイに興味ありません
  って顔して
  なんかエグいよな
  オマエ。


  彼女であるアキから
  真センパイ
  略奪しようって?

  やめとけやめとけ
  叶いっこないから」


 「何言って…」



 そこで思い出した。

 そのノートの中にだけは

 名前が書いてない!


 「ほんと意外」


 意地悪そうな表情(かお)

 イヤだ。

 コイツ、
 あたしにいい感情
 持ってない!

 
 「アンタ
  俺の言うこときけよ」


 それって
 どういう…意味。


 「今
  アカリチャン
  どういう状況かわかる?

  入学してそうそう
  真の彼女のアキ
  そのオトモダチに
  バケツ水かけられたよな」


 「あれは
  人違いだったじゃん!」


 そう。
 あれは
 里美ちゃんと間違われて。


 「だけど、だ。
  ヤツらに
  その誤解は解けてない」


 「え?」


 ぞっとした。


 そうだ。
 里美ちゃんには
 謝られたけど。
 だからって
 そんな理由は
 亜季さんの友達の
 彼女らには…
 伝わってるわけが
 ないんだ。


 どうしよう。

 足が震えた。


 「あんた…。
  亜季さんの
  なに…?

  名前
  呼び捨てするくらい
  仲いいんだったら…
  説明してくれたら…」


 「何で?」


 「だって
  仲いいんでしょう!?」


 「家隣だから。
  昔から仲はいいよ」


 「だったら」


 「だけど
  なんで俺が誤解とく必要
  あんの?
  わざわざこっちが?
  何の義理あって?

  意外と
  間違いじゃなかったし?」


  だから、それも!
  真センパイのことを
  好きなのは
  あたしじゃなくって
  翔子…
  …。
  そんなん。
  言えないじゃん…。

  コイツにそんなこと言ったら。
  今度は翔子が…
  からかわれて…。
  真先輩を好きなこと
  バレて。
  翔子が恥をかく…。

  今からなのに。

  まだこれから
  翔子は頑張らなきゃ
  いけないのに。


 「……」


 「なに?
  また泣くの?」

 握り締めた(こぶし)

 コイツの腹に
 思いっきり
 くらわしてやりたい。

 けど。

 顔を上げた。


 「泣かないわよっ!

  誰が泣くのよっ。
  泣いてるヒマなんて
  ないのよっ!」


 桜井が少し
 呆気(あっけ)にとられた顔をした。


 「何でも!
  アンタの言うこと
  聞いてやろうじゃないの!」

 あたしは高らかに
 声をはりあげて宣言した。





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