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魔女ラクトアのお取り寄せシリーズ

もし日本のクリスマスを異世界の人(王様)が見たら

作者:紅葉
「ルー、ルー!!」

「はい、はい。そう大声で呼ばなくても聞こえていますよ。誰かさんじゃあるまいし、ぼくはぴっちぴちの若者なんですから……んが?」

 黄色くて一見可愛いがよく見れば獰猛な爪が生えている水掻きのついた脚で、ぺたりぺたりと歩いて来たルーは、おもわず嘴を開いた。人間で言えば『開いた口が塞がらない』とも『あんぐり』ともいえる状態だ。
 次いで、恐慌状態に陥ったように小刻みに震え、羽毛の下には冷や汗が流れた。もっともルーには、というより鳥型魔獣には汗腺はないはずなのだが、ルーは人間にも化けられるので、色々とそういうことがアリだったりする。それよりも、だ。

「ラクトア様、ど、どどどどどどどどどど」

「ルー、なんだい。どどどどどって。城の床に穴でも開けてるのかい? ペンギンドリルは外でやっとくれ」

「どうしたんですかその格好!」

「ん? 似合うだろう?」

 ラクトアは上機嫌でくるりと右足を軸に時計まわりに回ってみせた。いつもは裾の長い黒いドレスに身を包んでいるラクトアだったが、上機嫌でくるくると回るラクトアはいつもとは違う装いをしていた。
 赤い長袖の上着、赤い丈の短いスカートに赤いロングブーツ。そしてだらんと先の垂れた三角帽子。そのどれもにふわふわとした白い毛皮が付いている。その暖かいんだか、年齢を省みず勇気があるんだかよく分からない主人(マスター)の出で立ちに恐怖を覚えたルーは、主人がどうやらその格好を褒めて欲しいらしいことを空気から読み取った。

「うぇ!? や、似合うか似合わないかと言いますと、歳を取っても未だ若く美しい美貌と完璧なプロポーションを保たれているラクトア様にはとても〇〇〇歳とは思えないほどよくお似合いですけど、いつもの装いとは正反対のお色使いなので正直なところ、羽毛がごっそり抜ける勢いで驚きました」

「ふふん。たまにはいいだろう?」

「たまに。たまにの使い方間違ってやしませんか、あわわっ、いやっ、これって創世以来の椿事だと思うのですが、わわわっ。ところで、ラクトア様これは一体どういう趣向(きのまよい)ですか?」

「よく気がついた」

 お仕えしてからこのかたン百年、黒しか着なかったご主人様がいきなり赤をお召しになればそりゃ当然気づきますよ、と思ったがルーは口には出さない。ちなみにルーは色も識別できる。だって鳥型魔獣なのだから、ただの鳥ではないのだ。

「無知な我が(しもべ)に教えてやろう。これはサンタコスというものだよ」

「さんたこす、ですか。なんですそれは。妖精ピクシーの種類ですか?」

「異世界ではこのような赤いコスチュームの老人が、一般庶民の年端もいかない少年少女たちに一年の功徳に見合った贈り物をするという慣習があるそうなのよ」

「ははぁ、老人が。そりゃ、ぴったり……いぇ!? なにも申し上げておりませんがっ! げほげほ、そ、それで?」

「この慣習はもともと異世界にいたとある聖人を崇め、感謝する祭りだそうよ。このごろ四大魔女への崇拝が薄れてきていると嘆かわしく思っていたところなの。この機会にあたしたちの威光を見せつけてやろうと思ってねぇ」

「ははぁ、つまり面白そうだからやってみたかったんですね。それで、さんたこすって何をするんです?」

「おほほ、本当にルーはおバカさんねぇ、サンタコスとはサンタクロースという名の老人を真似たこの伝統衣装のことよ。サンタクロースという名の老人が空を飛び、施しをしながら聖人の崇拝を集める。そんなクリスマスという祭りをあたしたちを崇める祭りとしてこの世界に浸透させるの。どう? いい考えでしょう?」

「え、洗濯苦労す……? まあ、確かに洗濯しにくそうな衣装ですね。って、あたしたちって、つまりお姉さま方がまた集まるんですかぁ?」

 つい先日も酒盛りをしたというのに、お姉さま方はまた何かを企てているらしい。楽しい事をするのは大好きだが、やりっぱなしなのが常。後片付けのことを思うと、ルーはげっそりとした表情を見せた。

「で、具体的にはくりすますって何をするんです?」

「そうね、調べたところによると、①クリスマスツリーを飾る。②クリスマスリースを飾る。③クリスマスプレゼントを贈る。④クリスマスケーキを食べる。⑤七面鳥料理を食べるってことらしいわ」

「へ~、分からない単語ばっかりですね。で、どうやってラクトア様のご威光を知らしめるんです?」

「んふふ。任せておいで。あんたはこれを着るのよ」

 と、ラクトアより手渡された茶色い毛布のようなものを見て、ルーは怪訝な表情をした。茶色い毛布の一部からはなぜか枯れた木の枝のようなものが二本突き出ている。

「なんですこれは」

「サンタコスに対をなすトナカイコスよ」

 ラクトアは自信満々に言い放った。ルーがそれを床に広げてみると、人ひとり入れそうな形の袋状のものであるらしいことが分かった。

「ははぁ、なるほど。しかし、ぼくには少し大きいようですが。それに自慢の羽飾りも見えなくなっちゃいますし」

人型ルーフェスになればいいじゃないの」

「えええええ~! やだなぁ。ただでさえここは極寒の氷の国なのに、その上、この時期どこに行っても氷の季節なんですよ? 人型ルーフェスには羽毛もないし、心臓が足から遠くなるから身体全体寒いんです!」

「だまらっしゃい! ルーはあたしの命令を聞いていればいいの。そのためのトナカイコスなのよ。一見薄い布のように見えるけれど、内側は肌触りのよい起毛素材、しかもNA〇Aが開発した極寒の地でも体温を守ってくれる特別な素材を外側に使っているの。『まあ、ジョージ、これなら雪の中でガーデンパーティーをしても平気ね』だから大丈夫」

「ラクトア様、その売り文句、お取り寄せだけでなくテレビショッピングにまで手を出したんですか?」

「さっさと着替えて出かけるわよ。これ以上ごちゃごちゃ言うと強制的に変化の術かけるわよ」

「わぁ! 待ってください。人化した瞬間って素っ裸なんですよ? ラクトア様のえっち! 今すぐ着替えて参ります!!」


*****

「で、外に出てきた訳ですけど、これからどうするんですか?」

「そうだねぇ、『クリスマスツリーを飾る』とやらをまず用意するか」

「ツリーですか。つまりこちらで言うところの樹木ですね。なにか特別仕様の樹木なんでしょうか」

「ああ、そのようだね。針葉樹に雪や光り物を付けるそうだ。聖人が生まれたことを知らせたことにちなんで、星を天辺に飾るのが習わしみたいだね」

「この辺は氷ばっかりですからねぇ。もう少し人里の方に行かないと、樹木はないですよ。で、針葉樹かぁ、針というには幅広だけど、この世界にはあれしかないかなぁ」

「剣葉樹だろ? あたしもそれしかないと思ってたよ」

 二人の脳裡に氷の季節でも青々とした葉を繁らせる背の高い樹木の林が浮かび上がった。

「で、引っこ抜いて帰るんです?」

「いや、四大魔女の奇跡をみせびらかすのが目的だよ」

「……奇跡じゃなくて魔術ですけどね。そしたら行きましょうか」

 ルーはトナカイコスに包まれた片手を地面に着けた。トナカイコスの中では、人差し指を地面に触れさせるようにしている。
 そして口の中で、移動魔法の呪文を低く短く唱えた。
 緑色の魔方陣が、氷に覆われた凍土に浮かび、ぐるぐると回りだした。
 その様子をラクトアは満足そうに見ている。

「なかなかやるようになってきたね」

「お褒めに預り光栄です。誰かさんがお使いばかりさせるもんで、移動呪文ばっかり上達しましたよ。というか、ラクトア様がしてくだされば無詠唱で遠距離飛べるのに!」

 ルーの叫び声は凍土を吹き渡る雪まじりの風とともに掻き消え、そして二人は人里に近い剣葉樹の森へと降り立っていた。
 雪を被り黒々とした森に、ラクトアは腕を一振りで、森全体の剣葉樹に装飾を施した。

「星と光り物って、こんなのでいいんですかね」

 ルーが剣葉樹を見上げる。樹のてっぺんには、手足を開いた状態の人間の男が氷漬けとなり、乙女が顔を赤らめずにはいられないような場所で串刺しにされている。遠目から見れば透明な氷は月明かりに映えて星に見えなくもないかもしれない。そんないびつな形の五芒星が天頂に乗っかり、銀色のウロコに覆われたサルモンという名の魚が枝に吊るされている。

「むしろ……はやにえ? あのお気の毒な男はどこから調達されたんです?」

「さ、次いくよ」

「わあ、待ってくださいよ」

 吹雪の中で生き生きとした様子のラクトアは、今度は自分で移動魔法を発動させた。ルーは慌てて魔法陣に飛び乗る。
 次の瞬間には、二人はラクトアの居城へと戻っていた。

「あー、寒かった。もうこのトナカイ脱いでいいですか? いいですよね? 脱ぎますよ」

「まだだよルー。それは今晩、クリスマスが終わるまで脱ぐことは許さないよ。分かったね?」

「ええ~、だってこれカップさえ持てないんですよ。不便です。ボク、ラクトア様のお食事の準備とか、ご入浴の準備とか、お洗濯とか寝室の準備とか仕事がいっぱいあるんですよ~」

「ふむ、仕方がないね。今夜プレゼントを配達に行くときにはまた着ると約束するなら脱ぐことは許してあげよう。今夜のために七面鳥料理とケーキを二つ作っておくんだよ」

「ええ、おっしゃるとおりにいたしますとも。七面鳥……やっぱりアレですかね。鳥型魔獣に鳥を絞めろなんてラクトア様も酷なことをおっしゃいますよね。ま、やりますけどね。それよりボクはあのサルモンでサルモンステーキにして食べたいですね。ラクトア様の気が済んだらサルモン回収して貯蔵庫に入れなくっちゃ……」

 ルーはぶつぶつと呟きながら、足取りは軽く、いそいそと別室へと姿を消した。

「んぎゃ~! 戻れない!!」

 ルーの叫び声を聞いて、ラクトアは紅い唇で弧を描いた。

「ふむ、それじゃあたしはクリスマスリースとプレゼントとやらを用意しようかね」



******

「王、ラクトアより予告状らしきものが届きました」

「なに? 読み上げてみよ」

「『今宵、王ちゃんの国に聖夜の奇跡をみせてあげる。王ちゃんもいい子にしていたらプレゼントをあげるわよ』だそうでございます」

「キセキ……じゃと? セイヤとはなんじゃ」

「全く見当もつきませんが、魔術で何かをしでかすつもりかもしれませぬ」

「うむ、なにを企んでおるのかさっぱりわからぬな。急ぎ国境沿い、町、村の周りに国軍を配備し、不測の事態に備えよ。ラクトアの起こすキセキが何かはわからんが、その騒ぎに乗じた無法者が町や村を襲わんとも限らん。この頃街道沿いの剣葉樹の森に盗賊団が現れるとの報告も上がっている。みなの者、ワシに力を貸して欲しい。この国を守り通すのじゃ」

「ははっ!!」

 勅命を受けた騎士たちは、急ぎ伝達に走り去った。
 大臣や貴族も自分の領地と領民を守らんと対策に大わらわとなった。
 王の側には、最低限の近衛兵と侍従たちが残った。
 王はラクトアの手紙を持った近侍をもう一度見た。

「ところでじゃ。ラクトアから届いたのはその予告状らしきもの一通のみであったか?」

「左様でございます」

「他にこう、このくらいの大きさの不思議な異界の食べ物が入っていそうな箱は一緒に届いてはおらんかったか?」

「はい。この一通のみでございますが」

「そうか」

「……キセキが何かは分からんが、ぷれぜんととやらがタイヤキであったらよいのになぁ……」

 王はぽつりと呟いたが、近衛兵も侍従たちも無言を貫いていた。王は少しだけ肩を落とした。



*****

 ラクトアの居城の正門前に大きなクリスマスリースが飾られた。花や木の実、蔓、ヒイラギによく似た棘のある葉が円形の氷に閉じ込められて、表面にも薔薇の花のような彫刻が施されている。
 そして玄関には氷でできた三角錐のような形のツリーが並んでいる。そのツリーはピンクや黄色、緑、青の発光体が閉じ込められているらしく、ふわふわと移動しては瞬いている。
 ルーは『今日一日鳥型魔獣に戻らない呪い』をかけられてしまったので、お仕着せに渡されていたものの箪笥のこやしになっていた普段は絶対着ない黒いスーツを身にまとっていた。といっても炊事には向かないので、黒いベストに白いシャツ、黒のスラックスのみを着用し、シャツの袖はまくってある。似非執事のような格好をしたルーは、革靴をコツコツいわせながら銀のカートを押してラクトアのいる部屋へと入ってきた。

「ラクトア様、ケーキご用意できましたよ」

 ルーはケーキに被せていた蓋を外した。途端にフルーツの瑞々しい香りと甘いバターと砂糖とクリームの匂いが辺りを漂う。白い雪山のような生クリームに赤い宝石のようなベリーが飾られたケーキは二つ用意されていた。

「上出来だよ、ルー」

「お褒めにあずかり光栄です。しかしこの『はじめてさんでも作れちゃう☆12か月のケーキ』ってレシピ本すごいですね。材料もすべて異世界あちらからお取り寄せしてくださいましたし、オーブンの焼き具合だけは、薪を使うアナログオーブンなんで温度調節とか勘でしたけど、前にカップ麺作ったときに学習した時間の概念役にたちましたよ。ちょっとお菓子作り目覚めちゃうなぁ~。で、どうして二個もケーキが必要なんです?」

「これを見てごらん?」

 ラクトアはつい、と空に指で魔方陣を描いた。するとカートに載っていたケーキの一つが空中に浮かび、ラクトアの手元にある白い箱の中にゆっくりと入った。そして蓋が閉まる。
 次いで先ほどケーキを入れた箱と同じ箱が、ケーキの入った箱の隣に現れる。外見からだけでは二つは全く同じもののように見える。二個の箱がクルクルと机の上でダンスをするように踊る。やがて、箱の蓋が上げられると、ルーは箱の中を覗き込んで、素っ頓狂な声をあげた。

「あれ? あれれれれ? まったく同じケーキが二つ? どういう仕掛けなんです、ラクトア様?」

 ルーはカートを振り返る。
 そこにはルーが持ってきたまま銀のトレイに載せられたケーキがひとつ、ちゃんとある。ということはこの部屋にケーキは三つ? 焼いたのは二つ、あるのは三つ……。
 その様子を愉快そうにラクトアは眺めていたが、やがて口を開いた。

「どっちのケーキが自分の作ったものか、分かるかい?」

「ええええ? う~ん……今の間に『お取り寄せ』したとか?」

「さあ、当ててごらん。どっちかは食べられないケーキ、つまり食品サンプルだよ」

「図星なんですね。だから飾り付け方も拘らせたわけですね。は~、なるほど。で、食品サンプル? それって、なんですか?」

(ロウ)って知っているだろう?」

「ええ、こちらにもありますよね。明かりを灯すためのアイテムです。パチパチの樹木から精製してますよね」

「そう。あれに似た性質の蝋で作ってある異世界の飾り物さ」

「へ~、食べ物の形の置物なんて、異世界の方は変なものを飾るのですね。う~ん、こちらですかね。ぱっと見では分かりませんが」

「そうかい。それじゃ、フォークで刺してみな」

「え! これ、どなたかに差し上げるんじゃ……分かりましたよ。それじゃ、えい!」

 ガッと振り降ろしたフォークの歯は、柔らかいように見えた生クリームに弾かれた。

「え? 今、ラクトア様瞬間冷凍しました?」

「あはは、引っ掛かったね。こりゃ、今夜も見ものだ。さ、パーティーの準備ができたなら、まずはプレゼントを配りに行こうか」

 ラクトアは偽物ケーキに僅かに付いた傷を消した。
 ルーの執事服は一瞬でトナカイコスへと早変わりし、ラクトアの居城の中庭には大きな荷台のあるソリが置かれていた。一足早く先ほどの二つのケーキ箱が荷台に載せられていた。

「ラクトア様、ボクもちょっとは学習したんですけどね、こういう場合ってトナカイがソリを引くんじゃなかったですか? ボク、空は飛べない鳥なんですけど」

「心配いらないからお乗り。行くよ!」

 ソリを引くトナカイのいないソリは、サンタコスのラクトアと、トナカイコスのルーを乗せて空に浮かび上がった。風を切りながらソリはぐんぐんとスピードを上げて飛んでいく。

「ラクトアさま~~、スピード違反じゃありませんか~~~!」

 ルーの悲鳴は、ご機嫌で下界に向けて魔法をかけまくるラクトアの哄笑の声にかき消された。


*****


 そのころ、王宮は国内の要所から次々に持ち込まれる情報でパニック状態だった。

「王、大変です!」

「どうした」

「民家の門扉に突如、輪の形をした氷が貼り付けられています!」

「貴族の屋敷が突如光り出しました!!」

「国中のありとあらゆる家畜が光り出しています!!」

「街道沿いの森の木が光り出しました!」

「なんと。国中のありとあらゆるものが光りだすというのがラクトアの言っていた奇跡なのか!」

「剣葉樹の森に! 森に!!」

「なんじゃ!!」

「お尋ね者の盗賊団が……!」

「どうした!!」

「おケツぶっ刺し氷漬けで剣葉樹の天辺で絶命していることが確認されましたぁ! ただいま魔術師に降ろさせています」

「さ、さらに、剣葉樹には北の海でしかとれないといわれる高級魚サルモンが果物のようになっております」

「なんと!! それはまさに奇跡じゃ!!」

「国中の子どもたちの枕元に両親の知らぬ間にあやしい包みが置かれております! ただいま順番に騎士団を派遣し安全を確認しております!!」

「騎士団の数が足りません!!」

「魔術師の数も足りません!!」

「ええい、門番でも、警備隊でもなんでも動員しろ!」

「城下の街が大変です! 若い男女が人目も憚らずくっつき、そこここで接吻をいたしております! なんたる、羨ましい……いや、けしからん!」

「お、お、お、王!! 空から雪が降ってきております~~!!」

「なんじゃとぉ~~~~!! 雪が降るなどという予報は報告されておらんぞ」

「原因を急ぎ調べさせます!! なんじゃこりゃ~!! 城も光ってる~~~~!!」

「王、ラクトアから包みが届いております!! ラクトアの使いという奇妙な獣の皮を被った美青年が訪ねて参りました!!」

「どこじゃ!!」

「王の間の前で待たせています!」

「ここへ連れて参れ!!」

 王の言葉に従い、扉が開けられると、食事を運ぶメイドのように銀のカートを押し、奇妙な獣の皮を被った青年がしずしずと入室してきた。確かに容姿は整っており婦人方が色めきたった。

「タイヤキの箱ではないのか……いや、その方、なんの皮を……いや、使いご苦労であった」

 ルーは肩を上下すると、ペコリとお辞儀をした。

「王様こんばんは。何度もこちらにはお伺いはしてますが、王様にお会いするのは初めてですよね。ボクはラクトア様の弟子、ルーフェスです。本当はここまで持ってくるつもりはなかったんですよ、ラクトア様は形式を重要視される方ですからね、人知れず置いてくるのがサンタクロースのしきたりだとかおっしゃっていました。まあ、今回はちょっとした趣向がありましたので、贈り物を選んでいただこうかと思いましてね。いや、両方とも置いていっても構わないんですが、ラクトア様が楽しみにされているので。本当にお人が悪い……いえ、人なのかというともう疑問しかないんですけど、まあそれはそれ。あ、これですか? これはトナカイコスですよ。あまり深く考えないほうがいいってこともあります。そもそもこの世界にはいない獣ですからね。え? ボク? ボクはラクトアの情夫じゃありませんったら。怖いことを言わないでくださいよ。あー、羽毛が逆立つじゃありませんか。え? 羽毛なんてどこにあるんだ? それは言えませんけど、こちらにも色々と事情がありましてね。今ごろお姉さま方が集まってこれを大笑いしながら見てるんだろうなぁ~、いえ、こちらの話です。ああ、そうそう。国中をイルミネーションで光らせたのも、へんちくりんなクリスマスツリーを剣葉樹の森に作ったのも、ランダムにクリスマスリースを飾らせて頂いたのも、交際五年未満の男女がいきなり盛りだしたのもラクトア様の魔法ですよ。色々とご迷惑をおかけいたしました」

「? い、いや。盗賊団の捕獲に関しては礼を言わねばならぬと思っていたところだったのだ。ラクトア殿によろしく伝えておいてくれぬか」

「かしこまりました。まあ、ラクトア様が狙ってやったかどうかはわかりませんけどね」

「できれば生きて捕獲してもらえていたら、もっと助かったのだが」


「それは仕方がありませんね。人間を氷漬けにするのはラクトア様の趣味みたいなものですから。さて、こちらに持って参りました贈り物をご覧ください」

 ルーはパカッっと銀のドーム型の蓋を開けた。同じく銀の高い脚が付いたトレイに二つのケーキが乗っている。

 白雪のようなクリームに、見たこともない赤や緑、紫といった果物らしきものが飾られ、食べ物であるはずのケーキの上に小さな家や小人、ギザギザした葉と赤い実、そして金色の鐘まで載せられている。王の間にひしめいていた皆が、それを遠巻きにしながら見つめ、その美しい細工にほぅとため息を漏らした。

「これは……食べられるのか」

「ええっと、いきなり核心をつくご質問ですけどそれには答えにくいと申しますか……この世界のいわゆるデザートとして共されるケーキとは見た目が随分違いますが、ええ、食べられます」


 王の間がどよめきに包まれる。

「ただし、食べられるのはこのうちのひとつだけです」

「食べたい方を選べと申すか」

「うん? 間違ってはいませんけど、誤解してないかなぁ。ええと、つまり、ひとつは食べられるケーキで、もうひとつは食べられないケーキです」

「どういうことだ」
「毒入りということではないか?」
「堂々と使者を送って毒殺しに来たのではないか」

「ちょっと待ってくださいって。皆さん殺気立たないで。ラクトア様は悪戯好きですけども、こちらの王様に危害を加えようなんて思っていらっしゃいません」

 ラクトア様好みのイケメンでもないし、ラクトア様に楯突くわけでもないし、殺害する理由がないじゃないですか。この国の人はどんだけ自意識過剰なんだ、とルーは思ったが、日頃ラクトアとの付き合いで鍛えた勘で口にしないほうがいいと判断したので、善良な鳥の皮を被った上に美青年の皮を被り、その上からトナカイコスを被った顔を柔和に微笑ませた。

「ラクトア様はとある事情から特別にこの国に目をかけていらっしゃいます。つまりこの国を、創世の魔女ラクトア様が直々に守護してらっしゃるということですよ。ラクトア様を怒らせないかぎりこの国は安泰です」

 ケヴィンさんが浮気してリサさんを泣かせたら、氷河期の始まりかもしれませんけどね~とルーは心の中で付け足す。まさかお城の警備隊長さんがこの国の行く末を握っているなんて、王様たち思ってもみないんだろうな~とルーは安堵した表情を見せている宮廷人たちを見回した。

「そういうわけで、さっさとお使いを果たして帰りたいので、どっちのケーキが欲しいか選んでもらっていいですか」

「もちろん、食べられる方を所望する」

「ええ、まあ、そうでしょうけど。これはラクトア様からのクリスマスプレゼントでもあり、ゲームのお誘いでもあるんですよ。一年間笑わ……いえ、お世話になりましたからね。王様自らどちらのケーキが食べられるケーキか当ててみてください」

「むう」

「ラクトアの使者、ルー殿。王立科学研究所や王立魔法研究所に成分調査を依頼することは……」

「わあ、ボクが殿付で呼ばれるなんて新鮮だなぁ。もちろんダメですよ。ボクの帰った後はお好きにしてくださって結構ですが、今のセレクトタイムには許可されてません」

 がっくりと項垂れる王の側近。王はじっと二つのケーキを見比べた。

「分からぬ……どちらも食べられそうで、食べられぬようにも見える。これは一体なんだ。食べられぬとはどういう意味だ。魔法を使った幻視なのか」

「ああ、そういう理解ですか。いえ、食べられないというのは本当に物理的に食べられません。そもそも食べる用の材料じゃありませんし、フォークも刺さらないんですよ。不思議ですよね、こんなに柔らかそうに見えるのに、蝋でできているなんて」

「蝋だと。あのパチパチの木から精製する……?」

「まあ、正確には違うそうなんですが、同じように明かりは付けられるそうですよ」

 長い時が流れた。王は玉座から身を乗りだし、ぶつぶつと呟きながらケーキと食品サンプルを見比べた。
 どちらからも甘い香りが届く気がするし、果物は艶々と新鮮そうだ。
 ルーも宮廷人も固唾をのんで見守っていたが、やがてお茶が配られ、ルーと貴族たちは王そっちのけでティータイムに突入した。







「うむ。左のケーキにしよう」

「そうですか。では右のケーキは持って帰りますね」

 ルーは口にクリーム、頬に婦人の口紅を付けたいでたちで、右のケーキを抱えると、「では王様、ごきげんよう。来年もよろしくお願い致します。メリークリスマス」と言い置いて、発動させた移動魔法陣の中央で姿を消した。


*****

「ただいま帰りました~、うぁ、皆様出来上がってますねぇ」

「おかえり~、ルー」

「おー、ルーの美青年姿久しぶりに見た!」

「んぎゃ、コガネ様噛まないでぇ」

「あはは、ルーモテモテだねぇ。で、どうだった?」

「ラクトア様見ていらしたんでしょう? 国中大パニックでしたよ。あの星になった人たちに関してはお尋ね者だったそうで感謝されましたけど」

「そうだろう」

「なんだ。ご存じだったんですか。それで、王様どっちだったんだろう」

 ルーはラクトアの後ろから水晶を覗きこんだ。

「あ~、王様、鼻水垂らして泣きながら食べてますねぇ。あんなに喜んで食べてもらえると作ったボクも嬉しいです」

「新たに雇った48人の毒見係を経てだから、いつも通りほんの一口だけどね」

「一口だから余計美味しく感じるのかもしれませんが。ねぇ、ラクトア様、そろそろこの呪い解いてもらえませんか」

「ルーの分のケーキ、残しておいてやったよ。ほら」

「うわ、フォークひと刺し分って、王様より少ないじゃないですか」

「みんなが美味しいって食べちゃったのさ。すまないね、ほら」

「ラクトア様……あーんは嫌です。自分で食べられます。自分で食べさせてください!!」

「ほらほら~」

「ひぃぃ~!」




Merry Christmas and A happy new year!





「ルー、アイスクリームケーキというものもあるそうよ」
「わあ、美味しそうですね。あっ! サルモンの回収忘れた!」

***

「めりーくりすますとはどんな呪文だ!!」
「王立魔法研究所の所長を呼べ!筆頭魔導師に調べさせよ!」


「美味い……もう少し食べたかったのう……」

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