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部活の先輩の、三つ編み眼鏡の美少女さんが、ネットスラングに興味を持ちすぎてツライ 作者:雲居 残月

ネットスラング編2

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第19話「絶対領域」

 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部は、変態チックな人たちで満たされている。彼らは、日々、アブノーマルな活動をおこない、人の道を大いに踏み外している。
 かくいう僕も、そういった本道を逸れた人生を送る人間の一人だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンで、ネットを巡回して、何の役にも立たないネットスラングを調べて喜ぶことだ。

 えっ、もっとましな趣味はないかですって? 何をおっしゃる、ネットパトロールも高尚な趣味です。世の中の大切な情報は、ほとんどネットにあります。僕は、そんなお宝なデータを探して、日夜トレジャーハンティングをしている収集家なのです。

 そういった、どうしようもない人々ばかりの文芸部にも、きちんとした人が、一人だけいます。魔界に放り込まれた聖女様。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。そんな彼女は、この部室で清らかに生きているのです。

「サカキく~ん。ネット詳しいわよね。教えて欲しいことがあるの~」

 間延びしたような声が聞こえてきて、僕はマウスから手を放した。楓先輩は、「何を見ているのだろう」といった様子で、僕のモニターを見ながら隣に座った。
 危ない危ない、性的に刺激の強いサイトを閲覧していなくてよかった。ちょうど、テキストばかりのサイトを眺めていたからセーフですよ。僕は、隣に座って僕を見上げる楓先輩の顔を見て、にっこりと笑みを浮かべる。

「何ですか、先輩。また、ネットで、新しい言葉に出会ったのですか?」
「うん。サカキくんは、ネットの達人よね?」
「ええ。神の領域に到達した玄人です。僕ほど、ネットマエストロの名に相応しい人は、いないと自負しています」
「そんな、サカキくんに、聞きたいことがあるの」
「何でしょうか?」

 僕は知っている。先輩は、最近ノートパソコンをお父さんに買ってもらった。文芸部の原稿を量産するためだ。楓先輩は、そのパソコンをネットに繋いだ。切っ掛けは、オンラインの辞書を使うためだ。その結果、知ってしまったのだ。辞書に載っていない言葉が大量にあることを。そして現在、ネット初心者の楓先輩は、ずぶずぶとネットの罠にはまりつつあるのだ。

「絶対領域って何?」

 明るく朗らかに言う楓先輩の台詞を聞いて、僕は楓先輩の絶対領域を想像する。
 いつもは、きっちりと長いスカートをはいて校則を守っている先輩が、放課後にミニスカートをはいて、オーバーニーソックスを身に着けて、僕の部屋に遊びに来るのだ。そして、そのミニスカートとオーバーニーソックスの間から覗く、白く艶やかな太ももを、恥ずかしそうに僕に見せてくれる。
 僕は、その絶対領域をどのように活用しようか考える。鑑賞するもよし、なでるもよし、正座してもらって、その上で膝枕をさせてもらうのもよし。あるいは、少し高度な活用方法として、後ろを向いてもらい、絶対領域の裏側から、お尻へと続くラインを、存分に堪能させてもらうという手もある。その利用方法は無限大だ。僕は、楓先輩の絶対領域があれば、一週間はゆうに戦えることを確信する。

 その時、部屋の片隅で、「ガタリ」という音が響いた。僕は、何だろうと思い、視線を向ける。そこには、同級生で男の娘の、鈴村真くんが立っていた。
 華奢な体に、女の子のような顔立ち。そのポーズは誰の目から見ても可愛いくなるようにと、等身大の姿見で練習を重ねたものだ。そんな鈴村くんは、女の子の格好をする時には「真琴」という女の子ネームに変わる。僕は、その真琴の姿を、これまでにも何回か見たことがある。いや、そういえば今日見た。僕はそのことを思い出す。

 今日の朝のホームルームのことである。僕は鈴村くんに声をかけられた。

「ねえ、サカキくん。昼休みに時間はある?」

 特につるんでいる仲間もなければ、やらなければならない用事もない僕は、気軽な調子で応じた。

「特にないよ。強いて言えば、昼寝をするぐらいかなあ。僕は、『寝る子は育つ』タイプなんだ」

 適当なことを言い、親指を立て、得意げなポーズを取った。その渾身の格好を無視して、鈴村くんは、もじもじと僕にお願いをしてきた。

「昼休みに、屋上で見てもらいたいものがあるんだ」
「いいよ。昼休みに、屋上だね」

 そして僕は、昼ご飯が終わったあと、鈴村くんの待つ屋上に行ったのだ。
 そこには、鈴村くん一人だけがいた。そして、もじもじとしていた。

「見せたいものって何だい?」
「女装なんだけど。今日は、制服の下に、女物の服を着てきたんだ」

 僕は、ぶっ!、と噴き出しそうになるのをがまんして、鈴村くんの学生服姿を眺めた。その下に、女の子の格好が? にわかには信じられなかった。そして、なぜそんなことしているのか分からなかった。

「どうしてまた?」
「いろんな場所で女装ができるように、少しずつ練習しようと思って」

 鈴村くんは、顔を赤く染めて恥ずかしそうに言う。こんな変態紳士を友人に持ってしまった僕は、どういった反応をすればよいのだろう。ここは、友人として、必要な言葉を投げかけるべきである。僕は意を決して、鈴村くんに声をかけた。

「なぜ、本当の自分を隠すんだよ。もっと、素直にさらけ出せよ!」

 あれ? 言いたかったのは、その言葉じゃないぞ。学校ではやばいよとか、時と場所を選ぼうねとか、そんな台詞だ。言ったこと自体は、とてもよい内容だけど、今の状況にはそぐわない。僕の言葉を聞いた鈴村くんは、目をきらきらとさせて、嬉しそうに頷いて、ズボンのベルトを外し始めた。

 えっ? うわっ? いいの? 違う、よくない! 僕はパニックになり、思考が混乱する。
 鈴村くんは、チャックを外して、男物の学生服のズボンをくるぶしの辺りまで下ろした。上半身は、男物の学生服のまま、顔を真っ赤にして目をつむり、両手を可愛らしく喉の辺りに添えている。
 下半身は、オーバーニーソックスをはいており、水色と白色のしましまになった女性向けのパンティーをはいている。男性としてまだ発展途上の鈴村くんの股間は、とても控えめだった。ぱっと見は、女性とそれほど変わらない。そういった鈴村くんの腰から膝上の肌が、学校の屋上であらわになった。
 上半身は鈴村くん、下半身は真琴のハイブリッド羞恥シチュエーションを前にして、僕は脳髄が破裂しそうになる。僕は男として、どういった反応をすればよいのだろう。萌えるべきなのか、喜ぶべきなのか、堪能するべきなのか。頭が混乱している僕は、拒絶したり、いさめたり、そういった反応は頭に浮かばなかった。
 僕は、真面目な顔になったあと、爽やかな笑みを浮かべて鈴村くんに言った。

「鈴村くん。『パーフェクトだ!』と言いたいけど、画竜点睛を欠くね」
「サカキくん。お願い、アドバイスをちょうだい!」
「ミニスカートだよ! それを装着してこそ、絶対領域は完成する。男子向け学生服の下に隠された、心の絶対領域。それこそが、鈴村くん、いや、真琴! 君に足りないものだ!」

 真琴は衝撃を受ける。そして、恥ずかしそうに、学生服のポケットに手を入れた。

「実は、ミニスカートも持ってきているんだ。でも、ズボンの下に、ミニスカートって、おかしいかなと思って、はかなかったんだ。でも、サカキくんの台詞で、間違っていると気付いたよ。僕ははくよ。ミニスカートを。そして、心の絶対領域を手に入れるよ」
「それでこそ、男の中の男の娘だよ!」
「ありがとう。それじゃあ、サカキくん。僕にミニスカートをはかせて欲しいんだ」
「えっ?」

 それが、今日の昼休みの出来事である。僕は、屋上で、鈴村くんにミニスカートをはかせた。そのために、この部室には、完璧なまでにこだわり抜かれた絶対領域が存在する。なぜなんだ。神のいたずらか。なぜ、今日に限って、楓先輩は、絶対領域について尋ねてきたりするのだ。僕は、神を呪う。なぜ、神は、僕にこんな試練を与えるのだろうか。

「ねえ、絶対領域って何?」

 楓先輩が無邪気に聞いてくる。鈴村くんは、立ち上がった状態で、「えっ、僕の絶対領域ばれている? 見せた方がいいの?」といった様子で、おどおどしている。僕は、鈴村くんにサインを送る。人差し指を鈴村くんに向けたあと、椅子に座るように、指を下に向ける。これで、鈴村くんは落ち着いて、席に着いてくれるだろう。
 しかし、予想外のことが起きた。鈴村くんは、恥ずかしそうに、あごをこくんと引いて、いそいそとズボンを脱ぎ始めたのだ。僕は、楓先輩の前であたふたとする。楓先輩は、なぜ僕が大慌てで両手を動かしているのか、不思議そうな顔をしている。その、絵に描いたような「きょとん」という仕草は、三つ編み眼鏡の楓先輩の容姿に、ものすごくよく似合っていた。
 でも今は、そんな可愛さを堪能しているわけにはいかない。このままでは、僕が指示を出して、鈴村くんにズボンを脱がせたと思われてしまう。楓先輩の顔を、鈴村くんの方に向かせるわけにはいかない。そのためには、先輩の興味と関心を、僕にすべて集めなければいけない。

「楓先輩!」
「何、サカキくん。絶対領域について教えてくれるの?」
「ええ、教えますとも! 絶対領域とは、女性がミニスカートとオーバーニーソックスをはいた際にできる、太ももの露出部分を指すのです」
「ふーん、でも、なぜそれが絶対領域と言われるの? ネットの人たちは、その絶対領域をものすごくありがたがったり、感動したりしているようだったんだけど」

 ええい、鈴村くんズボンをはけ! 僕はそう思い、人差し指を天井に向ける。鈴村くんは、羞恥の表情で、ミニスカートを持って、わずかに上げる。そのせいで、絶対領域の上にある股下デルタと、パンチラが、僕の前頭葉を直撃した。僕は前後不覚に陥り、楓先輩の質問に答える。

「それはですね。男性は、露骨なものよりも、隠しているものがぽろりと見えるものの方が興奮するからですよ! たとえば、純粋なヌードよりも、おっぱいぽろりの方が興奮するし、大胆に露出したパンティーよりも、思わぬ時に見えてしまったパンチラの方が嬉しいのですよ!

 男性はですね。肉体だけでなく、脳で性的快感を味わう動物なのです。その時に大切なのが、落差です。敬虔なシスターだと思っていた人が、淫らな娼婦のように振る舞うとか、堅物の女教師だと思っていた人が、貪婪な性欲を見せるとか、そういった落差です!
 逆に、ヤンキーだと思っていた茶髪の子が、実は純情可憐な少女だったとか、そういった状況もナイスです! 男性は、そういった落差で脳を刺激されて、興奮を倍増させるのですよ!

 だから男性はですね、隠されているものから覗く、わずかな美しい女性の肢体というものに、絶対的な好意を持つのです。服と服の間から覗く、健康で素晴らしい肉体の一部に感動するのです。そういったシチュエーションを常時堪能できるのが、ミニスカートとオーバーニーソックスの間の露出部分なのです! それこそが絶対領域なのです!」

 圧倒的な説明に腰が引けた先輩は、僕から少し距離を取り、椅子からずり落ちそうになる。

「はわわっ」

 楓先輩は可愛らしい声を上げて、姿勢を支える。そのせいで、僕から視線が逸れて、「見てもらっては困るもの」が目に入った。ミニスカートをわずかにたくし上げた状態の、真琴の絶対領域が。

「あわわわ、何をしているの鈴村くん!!」

 先輩は顔を上気させ、頭から湯気を立ちのぼらせて、両手を開いてぶんぶんと振る。その声を聞いた鈴村くんは、とても恥ずかしそうに楓先輩に告白した。

「絶対領域の話題が出ているから、サカキくんが、僕にズボンを脱げって指示を出してきたから」

 何だって~~! そんな指示を出していないよ鈴村くん! 僕は楓先輩に対して、必死に弁解しようとする。

「サカキくん!」

 先輩は、僕をいさめるようにして声を出してきた。

「はい、すみません楓先輩!」

 僕は、大慌てで返事をする。

「サカキくんも、絶対領域が好きなの?」
「えっ?」

 先輩は、顔を真っ赤にして、尋ねてきた。僕は同じように顔を染めて、「はい」と小さく頷いた。
 その翌日、楓先輩は部室で、スカートの上から、太ももの辺りをもじもじと触っていた。もしかして、スカートの下はオーバーニーソックスだけど、校則を重視する楓先輩は、ミニスカートをはけずに、普通のスカートをはいているといった状態なのだろうか? ここは僕が、紳士として進言しなければならない。僕はそう思い、立ち上がって、楓先輩の前に立った。

「ミニスカートが必要でしたら、明日持ってきましょうか?」
「サカキくんの、エッチ~~!」

 僕は先輩にしこたま怒られた。けっきょく先輩は、スカートの下にオーバーニーソックスをはいていたかどうか、僕に教えてくれなかった。
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続編:『三つ編み眼鏡の美少女さんがネットスラングに 二周目』(4/15 始まりました!)

新作:『【異世界召喚】モンスター鑑定士は笑えない【チートでハーレム】』(4/20 始まりました!)

関連作品:『三つ編み眼鏡ネットスラング:創作ノート』(創作情報や参考URL)

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