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だってフードルだもん!
作:えんぴつ


 新潟から出てきて1年、気がついたらフードルと呼ばれていた。
 
 親とケンカして家を飛び出して、ひとりで東京に来たんだ。

 お金3000円しか持ってなかったから、すぐに風俗の求人雑誌を買って池袋のイメクラで面接してもらった。

 その日のうちに働き出して、寮に住み、それからアッという間の1年だったよ。

 母親が再婚したの。

 私はどうしてもあの男と一緒に暮らすのがイヤだった。

 だから家を飛び出したんだ。
 

 いままで、3回、母親には電話をした。

 1回目は家出して3日目だった。

 やっぱり心配していると思ったから、「心配はいらないよ、ちゃんと東京で働き口を探して寮に入ったから」と報告した。

 母親は「そうかい。無事ならよかった」と、安心してくれたみたいだったけど、そんなことよりもっと怒って欲しかった。

 怒鳴って欲しかった。
 
 すぐに帰って来いと言って欲しかった。

 電話を切った後、泣いた。
 
 
 2回目は母親の誕生日。
 
 18年間、ずっと2人きりで小さなケーキを買って祝っていたから、こうして離れていてもなにかしてあげたくて、私はお金だけはいっぱいあるから、ルイ・ヴィトンのバッグを送って、電話で「おめでとう」って、ぶっきらぼうに言った。

「東京でなにしてるの? こんな高価な物送って来て。こんなことするより、元気な顔を見せて」

 そんな言葉を期待していたけど、すんなり「ありがとう」って喜ばれて悲しかった。
 
 その晩、初めてホストクラブに行った。
 
 
 3回目は私の19回目の誕生日。

「誕生日おめでとう。どう、元気でやってる? とにかく1回帰っておいで。話し合おうよ」

 少なくても「誕生日おめでとう」ぐらいは言ってくれると思ったら、「なに?」と言われた。

 茶の間の笑い声が聞こえてきた。

 あの男とその連れ子の声だ。

 あったかい家族っていう感じがしちゃった。

 もうどうでもよくなったんだ。

 
 こんな風にしゃべると、私、すごく不幸で暗い感じだけど、明るいんだよ。

 だってフードルだもん。

 母親には感謝しているんだ。かわいく生んでもらって。

 そのおかげでこんなにちやほやされているんだから。

 そう、ホントに苦労なんてまったくない。

 働き出したらすぐにお客さんがたくさん付いて、社長も、「キミならすぐにウチの看板になれる」って言って、雑誌の取材、みんな私にまわしてくれて、そしたら風俗雑誌の人気ランキングでトップになって、フードルって呼ばれ始めた。

 別に私、特別なことしたわけでもないし、努力したつもりもない。

 ただ社長に言われるままに笑顔を振りまいていただけ。
 
 個室にお客さんが入ってくると笑顔であいさつして、一緒にシャワーを浴びて、笑顔でお話しして、恥ずかしそうにお客さんの求める役どころを演じて、それからサービスして、最後にまた笑顔で「ありがとうございました」って言っているだけ。

 ほかの女のコが個室でどんな感じなのかは分からないけど、それが私の性格なのかな、それとも東京に来て寂しかったから、お客さんとでも、とにかく話せれば楽しかったから、それがよかったのかな。

 指名が次から次へと入って、入店ひと月ぐらいにはもう、なかなか指名が取れないほどになったらしいよ。

 風俗に入ることに抵抗はなかったかって?
 
 それよく雑誌の取材で聞かれる。

「やっぱり抵抗はありましたよ、人前で脱ぐのはいまでも恥ずかしい」

 なんて答えているけど、実際はまったくなかったな。

 だって東京に出て来た時、3000円しかなかったんだよ。
 
 最初から風俗で働くつもりだった。

 テレクラや出会い系サイトで援助するのも考えたけど、やっぱり怖いし。

 その点、風俗は安心でしょ。

 人並みに男性経験もあったから、特別驚くようなことするわけじゃないしね。

 
 お客さんはね、結構、みんなイイ人。

 なかにはケーキを買って来てくれて、1時間話しだけで帰る人なんかもいて、2万円も払っているのに申し訳ないなあなんて思うんだけど、でも、そのお客さんはそれで満足してくれているみたいだから、それはそれでいいのかなあ。

 寂しい人の気持ち、ちょっとは私、分かるから。
 
 寂しい、か。
 
 うん、やっぱり私も寂しい。

 月に3、4本は雑誌のグラビア撮影とか、インタビュー取材が入るのね。
 
 そんな時、いかにも楽しそうに笑顔を見せて、趣味は「オシャレとお部屋の模様替え」なんて答えるんだけど、別に洋服なんて私の生活のなかではあんまり必要ないでしょ。

 だって寮では短パンにTシャツだし、お店に入ったらセーラー服や体操着やナース服だもん。

 お部屋の模様替えも寮だから、どうでもいい。

 社長に「そう答えろ」って言われているからそう答えているだけ。

 お客さんに夢を与えるためだって。

 私、フードルだから。

 
 結局、お客さんと同じで風俗嬢も寂しいんだよね。

 仕事が終わって、そのまま狭い寮で寝るなんてできなくて、お店の女のコとついついホストクラブに行っちゃう。
 
 お金はたくさんあるから、調子に乗るとドンペリ何本も空けて、一晩に100万円使ったこともある。

 もう金銭感覚がおかしいから、なんとも思わない。

 目的があって風俗に入ったコなら貯金するんだろうけど、私、なんにも目的ないし。
 
 先輩のお姉さんからは、いつまでも若くないんだから、貯められるうちに貯めておきなとか、こんな仕事しているんだから、お金残さないとダメだよとか、いろいろアドバイスされるけど、なんかそんなにお金が大切なモノだと思わないし、先のこととかどうでもいいし。
 
 私、最近、アダルトビデオに出ないかって誘われているの。

 せっかくフードルになって人気があるんだから、ビデオに出てもっと稼がないかって。

 もしかしたら、それからVシネマとか芸能界とか、道が開けるかもだって。

 そんなのには私、興味はないけど、でも毎日同じ仕事するのにも飽きてきているから、出ちゃおうかななんて考えてた。

 まとまったお金が入ったら、それでしばらく海外に行くのもいいかななんて。

 でも、ひとりじゃやっぱり寂しいから、いまのままでもいいかなとかね。

 そうなると彼氏だよね。

 でも、東京来てから男の人って、お客さんとホストしか知らないから。
 
 まわりでホストと付き合っているコいるけど、結局、あんまり幸せそうじゃないし。

 ホストクラブには行くから男嫌いって訳じゃないんだけど、なんか近寄ってくる男がみんなお金目当てのような気がして、どうもね。

 実はね、さっき、初めて母親から電話が来たんだ。

 しょうもない電話。

 お金を貸してくれって。

 あの男が仕事もしないでパチンコばっかりして、借金作ったんだって。
 
 もうずいぶん前に私がフードルだってこと、雑誌を見て知っていたみたい。

 私、明日、社長にアダルトビデオに出るって言うんだ。

 それで100万円前借りして、私の持っている50万円とで、150万円振り込むつもり。
 
 ホント、初めての電話がこんなしょうもない電話で情けなかったけど、でも、正直言うと、うれしかったんだ。
 
 おかあちゃんが初めて私を頼ってくれたんだもん。

「おかあちゃん、また2人で暮らさない? 東京で」

 私がそう言うと、おかあちゃん、電話口で泣いていた。

 泣かなくてもいいのにね。

 親子なんだから。

「あ、お客さん、時間になっちゃった。延長? ごめんね、予約でいっぱいなの」

 だって、私、フードルだもん――。















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