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ケイオス邂逅(あっさり風味)
「しかし、変な事になったもんだ」

 ドレス自体は意外な所から手に入った。
 赤銀コンビが自前のドレスなんていう物を、旅支度に仕込んでいたとは……。
 ちょうど良かったんで、コピらせて貰って色だけ青のグラデーションに。
 お返しといっては何ですが、キラッキラのデコレーション付をもう一着と、ストールというかショールというか、そんなものやらヒールやらを渡しておいた。
 俺はロッドさんが貸衣装で見繕った礼服の寸法を弄ってコピらせて頂いた。
 薄いグレーベースの代物で、地味だが楽そう。
 あとはフォウさんの気配を誤魔化す為の仕込みで半日潰れた。

 翌日、夕方に昨日の馬車が、数珠繋ぎでやって来た。
 城へ行くメンバーは、皆それなりの格好をしている。
 でも、俺とフォウさんの方を見ると、何か言いたげになるのは失礼だと思う。

「ふん、どうせ釣り合ってないよ」

 さて、横丁の前には、礼装した連中が何故か溜まっていたり。
 ぶっちゃけ知らない連中だが。
 もしかして「運が良ければエスコートされるかなー」とかな、シンデレラみたいな事を期待してるのやら?
 確かに美人さんとか色男もいますが……あれ? どっかで見た人が居る。
 静々と寄って来て、俺をスルーしてルドガーさんの傍に。
「きゃあ、何よあの娘、きぃーーー!!」とかな奇声が飛び交う中で、ルドガーさんが手をスッと差し出して迎え入れる。
 おや、マジでシンデレラ?
 金髪碧眼、白い肌に淡いグリーンのドレス。
 なんか可憐・清楚という感じがテンプレート化して、若干お硬くて地味って方面にスライドしちゃってる、ちょっと残念な人は!!
 
「なんだ、シーマさんか……久しぶり過ぎて、誰だか判らなかった」

 それ程の知り合いでもないですが。
 と、見つめてたら、こっちにやって来た。

「お久しぶりです」
「お久しぶりです。
 シーマさんが、こういう場に出てくるとは、思いもよりませんでしたが」

 俺が素直に感想を口に出すと、シーマさんがガックリ肩を落とす。

「実は、ルドガー様の決済が必要で、此処まで来たのですが……」
「ああ、丁度良いからって」
「……はい」
「でも、気分良いんじゃない?
 ライバルの取り巻きが一杯の中で颯爽と出て来て、役をかっさらっていくとか。
 ちょっとしたお姫様ポジションでしょ」
「……」

 おお、紅い紅い。

 結局、メンバーは俺・フォウさん・赤・銀・ルドガーさん・ロッドさん・シーマ嬢。
 女性が一人あぶれる勘定ですが、赤銀コンビはあれで一組でしょうし、むしろロッドさんがあぶれる予感。

「おれぁ、別に良いんだよ」

 酒が恋人さぁっ!! てなもんで、あんまり気にしてない様子。
 まあ、ただの祝賀会やら、懇親会だなんて信じてないですわな。
 素直に喜んでるのは赤い人だけだろう。

「それでは参ります」

 迎えに来た、シーン・ハーケンデーン機士の声に、馬車が進み始める。
 行く先は旧ベルダ王城。
 不落と噂される巨大なそれを背に、赤い日が落ちていく。

 完全フリーパスで突っ走る馬車。
 城郭に辿り着いてからも、速度を落とす事無く、闇の中をひた走る。
 ガカカカカカカカカとでも、表現するべき蹄音が響く。

「No.13です」

 そんな中、フォウさんの声がポツリ。
 フォウさんは対策してる上に、相手が居るものとして感知かけてるので、先を取れている筈。
 俺はスーツに仕掛けた、マナ発生器を開放。
 もやもやと周囲が薄いマナで満たされる、これで感知は難しかろう。
 周囲の人は出始めを見てるんで、何してるのかと俺を見てた訳ですが。
 いいんだよ、天才君とNo.13を誤魔化せれば。

 さて、周囲の明るさが増して来た。
 それにあわせるように、馬車の速度が緩む。
 しばらくして、ふいっと軌道が曲がり、馬車が停まる。
 外は、すっかり日が落ちて闇の中の筈だが、目の前の門の如き扉は大きく開かれ、煌々と光が射している。

「ラブレス工房滞在のご一行、到着されました」

 ハーケンデーン機士の口上。
 さあ、本番だ。





「……?」

 相変わらずの侍女服なサーティンがふと、ホールの入り口に視線を走らせる。

「どうかした?」
「いえ、何か違和感を」

 入り口が開き「ラブレス工房に滞在のご一行が到着しました」との口上が述べられた途端、薄いマナがホール一杯に広がったのを感じた。
 漠然としたマナの気配。
 機兵が発するようなレベルの物ではなく、掴めるか掴めないかという位のそれに、周囲の機士の心得のある者は違和感を感じるのか、無意識に己にマナを集めて身を守ろうとする。
 しかしマナの薄さに、大方の者は、そのコントロールは失敗している。

「一体、なんなんだ」

 何かに使うには余りに薄いそのマナ。
 それが、こんな機兵も居ない場所で……何が起こっているんだ。

「サーティン、誰かのパートナーが?」

 薄いとはいえ、これだけの量を常に発し続けるには、それなりの準備が必要だろう。
 だが、黒機士のパートナー達なら。

「いえ、その気配は……すみません、この状態では判断できません」

 緊張した空気の中、入り口から数人の集団。
 その集団は、この空気にも関わらず、特に緊張はしていない様子だった。
 男性三人と女性が四人。
 そのうちブルーのドレスを着た女性が、連れの男性にショールを預けていた。
 その男性が手を振ると、ショールが一瞬で消え去るのは、何かの魔術だったろうか?
 しかし、そちらより女性に目が向いた。
 寒々とした、透き通るようなブルーのドレス。
 無機的な感じさえするその女性には、非常に良く似合っている。
 だが、その黒髪と怜悧な美貌は、その種類を別にして、誰かに似ていないだろうか?

「サーティン、あの人?」

 僕が視線を向けるとサーティンも、じっとその女性を見詰めるが、暫くしてその顔を横に振った。

「判りません……この薄く広げられたマナの状態下では、殆どのスキャンが役に立ちません」
「逆に言えば、怪しくはあるという事かな?」

 僕はサーティンに良く似た雰囲気の女性を眺めつつ、一つ溜め息を漏らした。




 俺がホールに入ると、若干緊張した空気が流れていた。
 どうやら仕掛けが功を奏したか。
 こちらに注意を向けているのは……天才君と、何故かメイドさんな人が、No.13だな。
 こちらをじっと見つめているが、フォウさんには欺瞞の仕掛けを施しているし、周囲はこの状態だ。
 それにフォウさんは、この短い間にすっかり顔付きが変わる程の変化をしている。
 無論いい方向で、初めて会った時とは雲泥な感じ。
 今でも無表情で硬質な印象を受けるが、その中には芯があり、存在の強さが垣間見える。
 そうそう簡単には正体バレは無いだろう。
 しかし、このホールの空気は計算外だったな……居心地悪い。

「ようこそ、素晴らしき機士たちよ」

 そんな硬い空気を立て直したのは、ホール一杯に響く鷹揚な声だった。

「べ、ベルダ守護侯サラバーン様、御成りです!!」

 どうやら本日のホストである偉いさんが、場の空気を読んで、手順無視で出てきたらしい。
 ルドガーさんが「ほほう、中々の器量だな」とか感心している。
 見た目は老けて見えるが、それでも四十代くらいなんじゃなかろうか?
 意外にさばけた感じのオッサンである。

「さて、そちらの王国のお客人、どうぞこちらへ」

 サラバーン侯が先に到着していた、天才君ご一行を招く。

「旧き名工、ラブレス縁のお客人、どうぞこちらへ」

 次に俺達を招き、ホールの奥に用意された、晩餐の会場へと歩みを進めた。
 ホールに居た警備の連中は、こちらへは立ち入らない様子。
 会場の中には、横丁に迎えに来たシーン・ハーケンデーン機士の他に、二人の機士礼装の軍人らしき人物が待っていた。
 そのうち一人には、見覚えがある。

 ヒョーゴ・リヒョーダン・ジマー機士。
 死神部隊の玄武。
 背後に化粧をしている、長髪の男性を引き連れて、こちらにやって来た。

「やあ、こうも早い再会が出来るとは思っていなかった。
 あれから変わり無かったかね」

 あくまでも落ち着いた、紳士的な様子。

「ええ、おかげさまで」

 こちらも笑顔でお返しする。
 綺麗に整えられた髭を撫で付け、ジマー機士がニヤリと笑い、一歩引き一礼。
 いつの間にか、サラバーン候がやって来ていた。

「なんだ、ジマーよ。
 彼らと面識があるのなら、紹介して貰いたいものだな」
「はっ、これは失礼を」
「ちょっと、待ってくんない?」

 ジマー機士が口を開きかけた所で、後ろに控えていた派手な人が口を挟んできた。

「く、クーザック!! ベニー・クーザック!! このような席で、なんという口の利き方を!!」

 そして、ハーケンデーン機士が、真っ赤な顔で、更に割り込んで来た。
 カオスだなぁ。

「何事か? クーザックよ。 かまわん、申してみよ」

 サラバーン候が、ハハハこやつめ的な視線を、クーザックと呼ばれた機士に向ける。
 その様子に、ハーケンデーン機士が胃を抑えている。
 どうやら二人は相性が悪いようだ。

「では、失礼いたしまして。
 この場が色々な思惑が入り混じってる事は、私も承知してるんだけどさ。
 余計な連中が居なくなったこの状況でさ、ダラダラしてるのもさぁ、かったるくない?
 サッパリスッキリしちゃって、いいんじゃないの?
 アタシはね、こんな地味ーな礼服着てるの面倒なのよねぇ」

 言いながら、首元を指で引っ掛けて、うっとおしそうに広げている。

 うわコイツ、ぶっちゃけやがッた。

「くくくくく、流石はベニー・クーザック、馬鹿だ馬鹿だと思っていたが……。
 ここまで爽快な馬鹿だったとは、ついぞ忘れておったな。
 しかし待て、せめてこの一杯は干させて貰わねば、口の滑りが悪かろう。
 様式美という代物もあるのだ。
 これだけの役者が揃っておれば、多少なりとも格好をつけてもバチは当たるまい。
 ふっ、今日の日に乾杯だ」

 一人さっさと杯を干し、手のグラスを投げ捨てる。
 大概、サラバーン候も大物だ。
 なんかハーケンデーン機士は胃を抑えているし、ジマー機士は後ろ向いて肩を震わせている。
 何故か、馬鹿だといわれた筈の、クーザック機士は嬉しそう。
 本当に馬鹿なんだろうか。

「ふむ、そういう趣向なら、私から名乗らせていただこうか」

 ちょ、ルドガーさん。

「ヤディス教国機士、ルドガー・シュバウアー」
「同じく、ロドニー・エスパーダ」
「ヤディス教国特務、シーマ・ベルンスト」

 全員がマント・コートを投げ捨て、いつの間にか白い教国軍装に!!
 てのは嘘だが、名乗りは本当だ。
 因みに赤と銀の人が呆然としている。

「あー、あんたらは違うったら!!」

 教国の人が参上して見せたのだが、クーザック機士のお気には召さなかった模様。

「アタシが言ってるのはぁ、そっちの事だっての!!」

 指差す先には天才君一行。

「ふ、しょうがないですね」

 なに!? 誰だ?
 カーテンに隠れていたのか、いつの間にか紅白の衣装が鮮やかに目出度い、巫女装束の人が居る!!

「貴様!! なぜここにっ!!」

 突っ込んだのはルドガーさん。

「ふふふのふ、サイオン王家守護職!!
 サイオンジ・エリカ!! 見参なのですよ」
「エリカさん、何時の間に!!」「貴女は何をしているんですか!!」「馬鹿かお前は!!」
「ぐはぁ、味方が居ないのですよ!!」

 言葉のフレンドリファイアに撃ちのめされる巫女さんがOTL状態。
 因みに、天才君、No13、元黒機士4席のチンピラの順番。
 いや、本当に何をしてたんだアンタ。

「貴様、何時の間に!!」

 ハーケンデーン機士も驚いてる所を見ると、呼んでるメンバーの中には居なかったのか?

「さいぜんから、この城に忍んでいましたが、出番を感じて出てきたのですよ!!」

 うわ、本当の馬鹿が居る。
 どこに出てくるメリットがある!!
 しかし、ドジッ子の癖に、どうやってこの城に忍び込めたのだろう。

「だからもう!! アンタも、お呼びじゃない!!
 そこの天才機士、あんたよあんた!!
 判ってるんでしょ、天の機士!! あんたのことよ!!」

 ムキー!! とばかりに髪を掻き毟るクーザック機士、とりあえずジマー機士が肩を震わせつつ、しゃがみ込んでしまった。

「仕方ないのかな……サーティン」
「ハイ、マスター」

 天才君の肩をNo13が掴み引く。
 白の礼服が舞い、あとに残るのは黒衣の天才君。

「王国近衛天位、機士グラム見参!!」

 名乗った!! お前もか!! つか天位って何!!
 そして脇に控えるNo13、その口元には何か達成感を浮かべている。

「天機士が従者、No.13でございます」

 お前の仕込みか!!

「もう、突っ込むのが疲れてきた」

 俺の溜息と駄々下がるテンション、そして反比例してドド上がる人。

「そうよ!! そうこなくっちゃ!! 待ってたぜ!!」

 めっちゃご機嫌な、クーザック機士。

「それじゃあ、今度はアタシの番ね!!
 ある時は、バルド公領傭兵、またある時はベルダ直轄軍機士!!
 そして、その正体は!!
 バルド公国基幹軍死神部隊、朱雀を預かるベニー・クーザックさぁ!!」

 見栄を切ってドドンと踏み込む。
 お前は何処の出身だ。
 それに教国関係者の前で、公国って言いやがりましたよ。

「ふむん、こうなっては続くより仕方あるまいな。
 ベルダ直轄軍機士長にして、玄武を預かるヒョーゴ・リヒョーダン・ジマーだ」
「何でこんな事に……。
 ベルダ直轄軍機士、白虎を預かります、シーン・ハーケンデーンと申します」

 面白げなジマー機士と不本意そうなハーケンデーン機士。
 あれ? そうなると四神の青竜、残りの一人って誰だ?

「それでは、次はワシか……。
 ベルダ守護候にして、青龍を預かるフィーゲ・ヨーン・サラバーン。
 見知りおき願おう」

 あんたかよ!!
 もう色々疲れてきたけど、なんかフォウさんがドキワクしてるっぽい。
 いや、名乗らないから。

「ふん、四神がこうも簡単に姿を晒すとは、冥土の土産という奴かな」

 ルドガーさんが嫌な事をおっしゃる。
「そのとお「いや、我々としては王国か教国、どちらかが釣れてくれれば、其れで良かったのだがな。
 両者共に揃うとは、流石に想定外だったとも。
 こうなれば、その場の勢いというやつだな。
 はあっはっはっは」ちょ、アタシと天の機士の対決は?」
「今は無しだ」

 サラバーン候がアッサリとした反応を返す。
 地味にクーザック機士が部屋の隅でイジケテいる。
 しかし、その場の勢いで、はっはっはじゃねーよ。

「それで、何が目的なのか、聞かせて欲しいのですよ」

 ドジッ娘め、珍しく建設的な意見を。

「よかろう、ハーケンデーン!!」
「はっ!! 皆様、こちらへ」

 ハーケンデーン機士が俺達を会場の隅に呼び集める。
 みな、疑わしそうな目をしても、興味があるのか黙って従う。
 何かするにしても、サラバーン侯が身を晒しているのでは、下手に手は出しにくかろうしね。
 どうせならと、俺とロッドさんはヒョイヒョイと皿に、料理を確保してから部屋の隅へ。

「地下へ参ります」

 ハーケンデーン機士の合図で、床がジワリと沈んでいく。
 何と言うか大げさな仕掛けだ。
 深度が床の厚みを越えると、階下のフロアが見えてくる。
 仄かに灯された明かりで見えるのは、工場じみた鉄骨の足場。
 そのまま床面が足場に接地すると、照明が地下工場内を照らし出した。

「これは!!」

 誰の声だったか、皆の声だったろうか?
 そこには、紅、黒、白、青の四色の機兵と、一際目立つ黄金の機兵。
 それが、鋼鉄の軋みをあげ、身じろぎした。
 まるで此方を伺うように。

「自律しているんですか?」

 フォウさんがコッソリと聞いてきた。

「いや、中途半端にロックが外れかかってる。
 それでこっちに反応してるんだ……下手に弄ると、暴走しかねないかも。
 多分、実際に見れば、判るんだろうけど」

 実際に見れば感覚的に判ると思うけど……ここからでは今の時点でどうなってるのか掴めない。
 とりあえずNo.13に先に触れられるのが拙いのは、前よりもハッキリしたな。

「さあ、ここまで見せた理由が、一体どういうものなのか、そろそろ教えて頂きたいものだな。
 まさかここから、大して理由が無かった等ということも有るまい」

 いち早く平静に戻ったルドガーさんの声で、皆の注意がサラバーン候に再び集まった。

「ふむ、では簡潔に済ませよう。
 我等はケイオスを手に入れたが、動かすには至っていない。
 我々の持つ遺産とは少々勝手が違うようでな、このままでは宝の持ち腐れと言える。
 隠して外交のブラフとも思ったが、早々に動かせないのが感づかれていたようなのでな」

 ちらと巫女さんへ視線を送るサラバーン候。
 しかし、遺産と申したか!!
 何か凄く俺の心の琴線に触れたYO!!

「この際だ……動かせる力を持つ者と手を組み、ケイオスの力を持って代償とする代わりに、この国を認めさせる事にした。
 その程度には、このケイオスの力は強かろうよ」

 ほう……サラバーン候、死神部隊とか軍事力を握って勝手してるのかと思ったら、公領の主権回復を目的にしてるとか、ちゃんと中央と協同してるっぽい。
 その話が本当なら、一番手っ取り早いのは、公領の頭の上に乗っかっていて、ケイオスを動かしてる実績のある教国と、現状よりマシな関係を結びなおす事か。
 現実的に次期最高指導者に近いルドガーさんが相手なら、かなり現実味が在る話だが、現在の教国トップや何やらが、今まで属領扱いにしてた公領を認められるのか?
 ただ放置すると王国と結ばれるってのも教国としては見過ごせまいが。
 ぶっちゃけて仮想敵国だろうしな。
 王国も過去の遺恨はあるとはいえ、教国の潜在的な脅威を考えれば、公領を公国と認めて協同で教国にってのは、アリかもしれない。
 ただし、教国という潜在的仮想敵国が顕在化しちゃうが。

「サラバーン候、現状の曖昧な関係にピリオドを打つ気なの?」

 ポツリと呟くと、シーマさんが何やら考え込み始めた。
「まだ早いですわ」とか言いつつ、親指の爪を噛んでる。

 巫女さんも、天才君の視線を受けつつも、動けないでいる。
 ハイハーイとばかりに飛びつくかと思ったのに。

「さあ、我が手を取る者は居らぬか?」

 静かに重く、サラバーン候が言葉を紡ぐ。
 誰も動かない。 いや、動けない。
 チキンうめえ。

 教国としては、俺が考える範囲では公領との同盟に対して、特にデメリットは無いんじゃないの? と思う。
 国交の健全化による緊張緩和での国境付近の軍備縮小、公領の工業力を生かせば白機士の増産も可能だろうし、公領の気分次第では謎テクノロジーによって、白機士が黒機士に迫る可能性も……なんぞを考えると、同盟の手は悪く無いんじゃないだろうか?
 あくまで当事者じゃない、俺の目から見てだけども。
 ただし、恐らくはルドガーさんがトップに立ってからなら兎も角、現状の教国が公領の属国扱いを、すぐに取りやめられるかってのは、非常に難しいと思える。
 ぶっちゃけ内部の派閥争いに、他国巻き込んで戦闘やらかすような馬鹿が居るんだし。
 釣られて動いた王国も大概だが。
 そんな連中を整理しきれて無い状況では、教国内の混乱に繋がる。
 だからこそのシーマさんの「まだ早い」発言なんだろう。

 王国としてはメリットは微妙で、デメリットがハッキリしているか。
 公領と王国は遺恨はあれど、今の時点では特に何があるわけじゃない。
 王国はむしろ教国を危険視してるわけだし、教国と公領の反目によって、教国とのパワーバランスを取っている節もある。
 つまり王国のスタンスは現状維持。
 それを積極的に破棄して力での関係に戻すというのは、機兵誕生の頃の戦国時代に戻りかねない博打だし、継戦能力に不安のある王国としては、流石にそう易々とは切れない一手だろう。
 黒機士やジークフリードという大駒の数が多くても、守備側だからこそ活きているともいえるし。
 ただし、それも抑止力としての活かし方で在って、本気で攻められるなら大規模な前線をどうにか出来る戦力ではない。
 だからと言って、ノーガードでお互いの領土を荒らしあったとしても、間違いなく王国は詰むな。
 いや、そんな状態になるまで、流石に教国が黙ってみてないか。
 最終的には勝てそうな物量差があるとはいえ、二正面はやりたくないだろうし。
 馬鹿連中も己の身が危うくなるような事態になれば、気分と面子以外にデメリットの無い取引を躊躇う事も無い……というか嬉々として受け入れるだろう。
 うん、ハムメロンは正義。

「ふむん、やっぱ王国と公領の結び付きは現実的じゃない……かな?」
「思いっきり部外者な言動ですね」
「そりゃ、ねえ」

 フォウさんの生温い視線をスウェーでかわす。

「マスターには、もう一つ選択肢があるように思いますが」

 あー、確かにあるよね。
 ダッキング。

「それに先程、遺産という言葉が出てから、落ち着かないようですが」

 ぐぇ。
 カウンターを喰らった。
 ええ、ええ、気になってしょうがないですよ。
 銀狼・赤獅子にも気になる事はあるし、その答えが出るってんならねえ。
 うん、ポテチうめえ。

「それなら……」

 なるほど、ケイオスの戦闘パターンのデータは必要。
 ついでに謎の遺産の技術が垣間見れるなら……。

「それじゃあ、ご期待に応えましょうかね」
「……!!」

 そんな期待を込めた目で見られてもなぁ、やるだけはやりますけどね。

「サラバーン候!! そこのケイオス、俺に任せて貰おうか!!」

 うぉ、視線が痛い!!

「ほう、青機士殿だったか。 何故にそなたがケイオスを動かせると?
 あと、いい加減皿を手放せ」

 興味深げな目で、こちらを見つめるサラバーン候。
 ここで気後れしてもしょうがない。

「教国のケイオスを動けるように手伝ったのは俺だ。
 教国が関わるなら、俺が出張る事になると思って様子を見てたが、どうも動きが無いんでね。
 王国が動く目は無いと思ってるが、暴走されても困るしな。
 だから、俺が個人で関わる事にする。
 それと、ご馳走様!!」

 ハーケンデーン機士が皿を下げてくれた。

「うむ、お粗末様だ。
 近頃の若い者にしては……いや。
 しかし、これは驚いたな。
 私は君を教国のエージェントだと思っていたのだがね」

 ジマー機士が珍しく表情を見せていた。
 どっちに対してかはしらんが。

「別に何処の者って訳でも無い。
 ルドガーさんと、機兵でやりあった事もある。
 王国とも公国ともやり合って……ドンだけ厄介事に巻き込まれてるんだ俺は。
 ともかく俺はただの傭兵で、別に何処に付くとかな心情的な物はない」

 事実か? と言う風情で、サラバーン候が周囲に視線を送る。
 答えは期待してなかったんだろうが、ルドガーさんが苦笑いしながら頷いたのを見て、驚いた風な顔。 
 ちなみに王国連中は、元四位のチンピラ以外、首を傾げている。
 一応はそれで納得したのか、サラバーン候が此方へ視線を向けなおす。
 それを話を進めろという風な意図と受け取った。

「俺としては、公国の遺産とやらに興味がある。
 そいつを拝ませてくれるなら、特別な報酬は要らない」

 良い顔で言い切って見せる(一応、気を使って公国って呼んだり)
 とりあえずはケイオスのデータだけ貰えれば、本体に関しては別に問題は無い。
 データだけ抜いとけば、唯の凄い機兵だし。
 以前なら慌ててたかも知れないが、今の俺は慌てないのだ。
 良く考えれば、別に無敵でも永遠に動き続ける訳でも無いし。
 怖いのはデータ残ったまま使われる事、乗り手がNo.13と天才君のペアだったり、俗に戦術級とか決戦級なんて言われるワールドでの機兵魔術を使われる事であって、マクロ設定の補正無しで普通の人が乗ってるだけなら、そんなに怖くない。
 せいぜい使い切れなくて、タイマンが異常に強いってくらいなもんだろう。
 とんでもない出力も、使いきれなければピーキー過ぎるってもんだし、今にして思えば補助が無かったら、俺でも持て余すような気もする。
 もしも、なんとかかんとか使えたとしても、戦術的には凄いが戦略レベルじゃどうにでもなるような。
 ぶっちゃけ俺なら戦術レベルでも、相手がルドガーさんレベルなら素で、黒機士がパートナー込みでもフォウさんが居れば、アーキタイプでやっても青機士でやっても削りきる自信がある。
 武器燃料補充+修復しながらだろうけど。
 それに白機士レベルの機兵に、ケイオスに通じる武器を持たせてタコ殴りすれば、流石にどうにか出来るだろう。
 大体、戦略的に言えば、ケイオスなんて相手にせず、他の所を攻めまくれば良い。
 ゲリラ戦されたら辛いけど、そこまでだし。
 ドンだけ強くても所詮は一機、数の暴力には勝てないのだ。
 まあ、ミッシング・ウォーだと、タイマンオンリーだから困るんだけどね。

 だから、あんまり気にしない。

「どうです?」
「ちょっと待って下さい!!」

 おや? 天才君?

「何故、貴方がそのケイオスを動かせるんです!!」

 ふ、そんな事、聞かれるまでもない。
 でも、なんて答えようか。

「この紙一重の変態なら、何が在っても不思議じゃないと思うけどね」

 赤い人がそんな事を仰った。

「ああ、錬金術師としては只者ではないな」

 ルドガーさんは、ちゃんと言葉を選んでくれた。

「あー俺も色々見てるが、機兵に関しては、こいつが何をやっても驚きゃしねえよ」

 ロッドさん。
 若干、納得いかない部分もあるが、これは乗っておくか。

「ふ、実力と実績があるからだ!!」

 何の説明にもなっていないが、人間は無駄に自信溢れる相手に反論するのは難しい。
 オタに反論するのが厄介なのと大差はない。

「……」

 天才君の言葉がないので、ここで話題を変える。

「サラバーン候、無駄に戦国の時代に戻る積もりは無いのでしょう?
 ここは取り合えず、俺の力を試してみたらどうです。
 俺個人がどう動いたところで、国が動くなんて大人気無い事にはならんでしょうし。
 そちらがケイオスを少々弄った所で、現状で何も成果が無いというか、壊す事すら出来てないという事は、俺が駄目でもケイオスがどうにかなる可能性は少ないでしょう。
 ただし王国の連中は、そちらで言う所の遺産持ちですからね、何が起こるか判りませんよ。
 まずは俺を最初に試してみて損は無いでしょうよ」

 どうですか? と強い視線を向ける。
 俺に確実なケイオス復帰の自信が有る以上、サラバーン候に人を見る目が有れば、少々の疑い程度では逆らいがたい程に、俺の視線の説得力は大きい筈だ。

「良かろう。 そこまで言うならやって見るが良い。
 確かに王国の遺産に関しては情報もあり、危険性も考えられる。
 ならば見る所、教国よりの貴様に先に機会を与えて見るも一興」

 おいおい、人を見る目すげー。

「ちょっ、ちょっと待って下さい!!」

 なんだよ、ドジッ子!!

「なんで、そんな事知ってるんですか!!」
「おい!!」「何を言ってるんです!!」「え、エリカさん!!」

 総突っ込みを受ける巫女さん。

「ふむ、今まで一切の記録が無かった天の機士何ぞという者が、いきなり王国に現れる時点で、何かしら有ると思うのは不思議ではないと思うが」

 確かに天才君は、突然のデビューすぎるわな。

「じゃあ、そっちの人は何で知ってるんですか!!」

 おっと、こっちに向いたか。

「いや、黒機士見たら、普通に何かがおかしいと思うだろ。
 いきなり強くなるし、ナンバー・エースの「うわあああああああああああああああ!!」うっさいな!!」

 突然絶叫する巫女さん。

「何を今更、こないだの戦いで生存者を残した時点でバレバレじゃないか」
「うあああああうぅぅ」

 OTL状態になる巫女さん。

「とにかく、見せて貰いましょう!!」

 俺の言葉に鷹揚に頷くサラバーン候。
 そして、それを見守る皆の衆。
 足場を伸ばして貰い、俺はフォウさんを伴ってケイオスへ。
 ジロリと此方をねめつける様なケイオスの動き。
 ただの反射だと思っても、少々怖い。
 乗り込む為に、金に輝く装甲に手を触れる。
 ゾワリと冷たい金属が手に馴染む。
 己のマナに似た感触、まるで自身の体のような、意識の通りが其処には有った。

「こりゃ、思った以上にヤバイ代物かも……俺にとって」

 狭い操縦席にもぐりこむ。
 以前、青機士に発現した仮想コクピットに似た計器が並ぶそれは、白機士や黒機士とは一線を画した代物だった。
 一応、機兵のスタンダードな入力手段である操縦桿やフットペダルなんかも在るが、キーボードなんかも在ったりするのが、大きな違いだ。

「ふん、尻に合う」
「それは赤い時に言う台詞では?」
「グラサンかけたら金の人だし、別に良いだろう」

 フォウさんの突っ込みに、緊張が解ける。

「さて、始めよう。 フォウさん、俺とリンク」
「イエス、マスター」

 フォウさんを俺の外部ユニットとしてリンク。
 以前にフォウさんのデータを取り込んだ時に、死ぬような激痛で、のた打ち回った事を考えると、自分に吸い出しデータを取り込む気にはなれない。
 少なくとも、あれからマナ取り込みまくって、機能拡張を進めたフォウさんの容量なら、取り込めない事は無いだろう。
 補給ピーピーの黒機士パートナーズに、それなりの量がある、ジークフリードのデータが取り込めるなら、多分大丈夫な筈、きっと大丈夫、大丈夫だといいなぁ。

 気を取り直して、キーボードに触れる。
 仮想のコンソールが浮かび上がる。
 久しぶりに見た、ミッシングワールドのコンソール。
 ”KAZUYA”でログイン。
 各種ロックが外れ正常起動。
 感覚的にどうすれば良いのかが、脳裏に浮かび上がって来た。
 自然と機兵鍛冶スキルが起動しているのか。
 各種ステータスが現れる。
 ケイオスは機体損傷が数%有るが、ほぼ問題ない状態だった。
 天から落っこちて、この程度のダメージとか……ワールドじゃあ、普通にこけてもダメージ出てたのに、ミッシング・ウォーが基準か?
 とはいえ、今は人目が有る。
 部品が飛び回るような機体修正系のコマンドは使えない。
 目的はデータなんだから、そちらを展開させる。
 コンソールに低レベルの反射設定、動作の簡易登録設定の展開が始まっていく。

「この辺はオリハルコン感覚子のデータか」

 条件付けしたマナの入力に拠って、反射行動や動作の簡易化を登録してある領域だ。
 順次、フォウさんに送っていく。

「さて、上位集積部のデータはっと」

 こちらとあちらの機兵の大きな違い。
 それは機兵の頭脳とでも云うべき、オリハルコン集積による制御部の有無。
 アーキタイプには載ってないが、ジークフリードや他タイプのケイオスには全て載っている。

「アクセス……展開……っ!!」

 データをフォウさんに送ろうとして、処理がロックされた。

「マスター、アクセスが拒否されました。
 これは……高度情報体の接触を感知」
「No.13か!?」
「いえ、しかし……こちらへのアクセス承認を求めています。
 識別名:CHAOS-00」

 ちょ、ケイオスが自律?
 確かに元がアプリケーションのフォウさんが、こうして存在してますが……。
 まあ、容量的な話で言えば、下手なアプリよりでかいし、擬似言語のプログラムと言ってしまっても良い代物ですが。

「制御、奪われています。
 こちらからのコントロール、受け付けません」
「……」

 まいったな。

「こうなると、話を聞いてみるしかないわな。
 害意はあったりする?」
「いえ、今の所は。
 恐らくは外部へのコミニュケーション手段として、私にアクセスを求めているのだと」

 ケイオス自体を動かしたくない、こちらの意図は理解できているのか。

「危険は?」
「念の為、私自身のバックアップを取ります。 恐らく問題は無いかと思われますが」
「じゃあ、承認してみるしかないか」
「イエス、マスター」

 フォウさんが目を瞑ると、表情の色が消える。
 そして次に目を見開いた時には、何か不本意そうな表情を見せる、むっつりした表情が浮かんでいた。

「えーと、ケイオス?」
「是、イエス、そうデス。 マイスター」

 ああ、俺ってマイスターなんだ。
 俺がケイオスだ!! なんて言わないぞっと。

「どうしてアクセスを拒否った訳?」
「複製される事も消去される事も承認できかねマス」
「あ……」

 なるほど、データ吸い上げして、残ってるのは破棄しようと思ってたけど……意識持ってるような存在だと、自分がそんな事されるのは嫌だわな。
 じゃあ、どうしろと。

「問題ありません。
 このまま敵性存在を消去、その後は如何様にデモ。
 現時点で、私を止められる要素は皆無デス」
「いやいやいや、それは駄目だって!!」
「認識不能デス」
「えーと、味方も居るからというか、戦闘は駄目。
 あと、このケイオスは破棄します。
 だから、中の人だけ確保したいんですが」
「……条件を了解デス。
 機体制御部のコアを外部に再構築、後に本体側コアを消去しマス」

 何気なく言ってから、暴れられたらどうしようと焦ったが、大丈夫だった模様。

「機体出力最大、外部ユニットNo.4を経路に設定」

 なんか、ケイオスの主機が凄い勢いで回りだしましたよ。

「マイスターにアクセス、転写開始しマス」

 え、こっち?  ちょ、う”にゃあああああああああああああ!!!!

 ……
  ……
   ……

「……転写完了。 再構築、正常終了デス。
 主機停止、本体側コアを削除。
 全工程正常終了、再起動しマス」

 に、人間、限界来た時って、こ、声無き絶叫って奴を、あ、あげるもんなんですね。
 これが嫌だったから、確保はフォウさんに、お願いしたかったというのに。
 しかも今回は、気絶しないように頑張った前回と違って、無理やり介入された上で正気を保たれたせいで、無駄にクリアに苦しみ実感とか、これなんて拷問ですか。
 ん? なんだ、なんか変な感覚が。
 なんか、頭から別の経路が生えてるような。

「大丈夫ですか? マスター」
「あ、フォウさん戻った? ケイオスは?」
「ここにいます」
「ん? 何このサイコロ?」

 フォウさんの手の中に、透けた朱金の宝石? が乗っていた。

「私はサイコロでは無いデス」

 マナの光が明滅し、不愉快だとでも言いそうな意思を発している。

「まさか、これが制御コア?」

 随分と小さいな。

「どうやら、コードデータをマスターのスキル領域に転写したお陰で、本来の情報部分を切り離せたのだと。
 そのオリハルコンの制御コアは処理だけを行っている為、コンパクトにまとまっているようですね」

 えーと……ケイオスの制御部に収まっていた戦闘プログラムを抜き出して、プログラム部を俺のスキル領域に入れた。
 制御部自体は再展開可能なパーツとして登録されてる感じか?

「それじゃあ、別に処理部なんて要らないんじゃ?」
「いえ、元々マスターの脳の処理速度では、天の機士の戦闘速度に追い付けない為に、私にデータを走らせる事での補助が必要だった筈です」

 そりゃそうか。

「しかし、ケイオスは私への複写を拒み、マスターへの転写を行いました。
 つまりはマスターの処理能力の増強が必要という事です。
 そこで、外部に処理を補助する為の制御部を作成する事は、理に適っていると言えます」
「そのとおりデス」

 んー、戦闘補助用の外部プロセッサ?

「あれ? それじゃあ、機兵鍛冶とかのスキルも外部に制御部作ったら」
「恐らくは難しいかと。
 外部での処理が可能なのは、ケイオスという自律可能な情報体が在っての事でしょう」
「なるほど、それで合ってる? えーと、ケイオスって呼べばいいのかね?」

 サイコロに問いかけてみる。

「概ね正しい認識デス。
 戦闘補助は、私というオペレーティングシステムが無ければ、その性能を生かすことは出来マセン。
 そして、外部に制御部を持たなければ、このオペレーティングシステムを有効に動作させる事は不可能デス。
 逆に言えば、外部にユニットを用意すれば、その分だけ処理速度を得ることが出来るのデス。
 識別名は、マイスターにお任せしマス」

 サイコロが点滅しながらそう答えた。

「んー、外部ユニットって、フォウさんみたいな?」

 サイコロが瞬くように明滅する。

「いえ、私にとって人の姿をとる事は、余分な機能デス。
 私の本分は機兵の制御、それ以外にありマセン」
「あー、ケイオスの代わりの機兵を作れって事か」
「その通りデス。
 以前の私は機体が壊れれば其れまでデス。
 しかし、現在はマイスターが生きている限りにおいて、機体は代替可能デス……素晴ラシイ」

 な、なんか変な奴だ。

「ところで、ここから出るときに、オリハルコンなんか持ち出してると非常に怪しいんだけども、一旦消しちゃっても大丈夫か?」
「プログラムコードはマイスターに付随していマス。
 制御部自体は再構築可能なパーツにすぎまセン。
 問題はありマセン」

 サイコロさんが、そう仰るので、一安心。

「なら良かった。 フォウさん食っといて」
「はい」

 手渡すとサイコロを口の中で飴玉の如く、コロコロしだすフォウさん。
 そのうち、ケイオスの声は聞こえなくなった。
 早々に制御部が分解されちゃったんだろう。

「さて、そろそろ降りようか。 皆も、やきもきしてる様子だし」

 ケイオスのコクピットから出て、普通の機兵と同じように扱えるようになった腕を操作し、皆の前に降り立った。

「こんなもんで、どうでしょう?」

 目前に立つサラバーン候に、三流手品師まがいの胡散臭さで一礼。
 なんだか色々と値踏みされている視線を感じる。

「はっ、幾分かの期待はしていたが、こうもアッサリと動かしてしまうか。
 今までの苦労が思い返されて目に染みるというものだ」

 サラバーン侯が手を出してきたので、それを受けて握手。
 ジマー機士が、なんかこっちにウムウムと頷いていて、ハーケンデーン機士が何か感動している様子。
 クーザック機士は、まだ立ち直っていない。
 王国の連中は、なんか危険物を見てるような様子で、教国のグループは苦笑している風情。
 赤銀の二人は普通に感心しているらしい。

「一つ聞かせて貰いたい」

 ジマー機士が、いつの間にか傍に居て驚いた。

「なんです?」
「キミは、あの機兵を手にしようとは思わなかったのかね?」

 ジマー機士はケイオスを眺め、腕を組み視線だけをこちらに向けて、何事もないように問うてくる。

「まあ、道に落ちてりゃ拾うかもですが……。
 アリモノ拾って俺TUEEEEする程にガツガツしてる訳でもないですしね」
「ふ、おもしろいな」

 いや、そんな事したら、遺産も見れない挙句に、お尋ね者でしょうが。

 …………

 ……

 …

「結局は、変わらずか」

 地下から戻った一行は、パーティの料理をツマミながら、今後の事をツラツラと話し合っている。
 一応、建前通りの優秀機士の招待ってのを取り繕うように、ホールには客が入っていて、赤銀や俺、天才君に話を聞こうと、紹介されても覚えられない程度に人がやって来る。
 サラバーン侯も、思った以上にフットワーク軽く、あちこちに顔を出している。
 ただ、ルドガーさんやロッドさん、ジマー機士、ハーケンデーン機士辺りが、隅の方でゴソゴソやっている……何気に巫女さんも居るし(あのドジっ子に政治的影響力が在るのだろうか?)
 とはいえ、現状のトップが誰も居ない訳なので、暫定の暫定といったものなんだろうけど。

「あれ? クーザック機士と、あのチンピラは何処行った?」

 何時の間にか、見かけないと思ったら、ホールの中には居ない様子。
 首を傾げていると、背後から「そろそろ、抜け出そうかと思うが、どうかね?」と声をかけられた。
 振り返ると、サラバーン侯が居て「約束どおり、公国の遺産を見せよう」と俺を促し、さっさと先を進んでいく。

「ほんとにフットワークの軽い人だなぁ」

 呆れつつも、慌てて俺もそのあとを追う事にした。
 この時、見かけなくなった二人の事を確認しておけばと思ったのは、大分経ってからの後の祭りだった。
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