The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』(77/82)PDFで表示縦書き表示RDF


The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』
作:レイ@名無し



77   夢の泡沫(うたかた)


 ――――認めたくは無い。
 初めての敗北を悟りながら、感情は受け入れられない。
(………負けた………?)
 違う。
 俺は、知りたかったんだ。
(…どうして、そんな事を言う……)
 あいつだけが、知っているから。
(一度だって云わなかったじゃないか)
 俺は、俺一人じゃなかったのだ。
 人は――――
 自分だけでは、なかった。
 人は、何処へ往くのか――――
 
『――名を、宣言なさい……』
 重苦しさを感じさせない、ルイーザの声が囁いた。
 待っていたのです――
 あなたが、ひと時の夢の泡沫うたかたに母を想っているあいだ――
 誰にも許されない名前を祈りながら――
「今こそ、魂を慰め、労いましょう――」
 ユーアン自身が放ったのか、彼を中心にして瞬く間に、蒼くて白い光が空間を圧倒し始めた。
 胸元のペンダントが、フワと浮き上がったかと思うと、煌きを残して散る。
 期せずして、ルイーザ像の鳴りも一層高まる。
 
 “我が名において、刻に沈んだ黄金の瞳ヒブラは還る”
 聞け。
 その名は私であり、汝自身である。
 
 我が名は―――
 〈汝、在る者ユーアン
 
 同時に私でもなく、汝自身にあらず。
 其の名は―――
 〈誰にも非ずウティス〉 
 
 
 
「光線、交差しました!」
「斉射です!!」
 ブリッジ・オペレータが、悲鳴のように叫んだ。
 地上へ、緩慢に光の束が延びて降り行く様は、さながら超新星の誕生を思わせた。
 
 
 
 傷ついた足を庇いながら、なす術もなく床に膝を着くシャ・メインの傍らに、アルダが降り立った。
「――答えは得られて?」
 精悍な横顔を見つめ、一歩近づいた。
「……虚しいとは思わない……」
 ぼそ、と呟く。
 その意を汲んで、アルダは微笑んだ。
「――始めから…何者でもなかったのよ…」
「何者でもない――」
 “あなたと言う人ユーアン”…それは即ち、ありとあらゆる全てを指し、“誰でもないウティス”はまた全ての何ものでもないものを指す―――
「それは歴史においても同じ…。帝政は一〇二八年に終わっていた。帝政と血を異にする私たちは、ルイーザの為だけに在り、静かに消えていく存在。あなたたちは、黙って座視していれば夢と幻に消えていた……」
 夢幻。
 千年、幻に矢を射、刃を振り続けた。己が己に課した呪縛。
「見えない悪夢だった――」
「………悲しい……。陛下サイアーはあなたの願いを聞いていたから…」
 行く先、行く先が運命だというのなら、どうやって逆らえばいいのだろう。
 受け入れれば良いのか?
 抗えば報われるのか?
 導かれて、それぞれの糸は、痛みと共に紡がれた。
 虚脱に身を任せてしまったシャ・メインの頬に一筋の痛みを見つけて、アルダはその熱さを確かめようと、光の筋を指先に絡ませた。
 彼はそんなことも気にせず、神々しく空に放たれようとしている像を凝視する。













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