The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』(70/82)PDFで表示縦書き表示RDF


The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』
作:レイ@名無し



70 ◆TRADITION 5◆“あなたと云う人”(ユーアン)


 ――どれだけの人が知り得るのかは予測がつかない。
 ――人類が自ら終止符を付けようと目指した先に、哀しい星ラントゥールが在るのを。
 ――人類を見つめ続けた瞳が在るのを。
 ――数々の命が、そのために費やされた。
 ――しかし、必要であったのだろうか?
 ――または、それも運命であると?
 
 
「――遠路、この大艦隊を率いての任務、お疲れ様であります」
 マルツァーは緊張気味に敬礼した。
「いや、大艦隊と言っても貨物が殆どだ。防衛には不安の残る艦隊だったよ」
 作戦本部の指揮を執るケイ中将も、苦笑いしながら敬礼を返した。「この作戦で、貴殿の迅速な補佐を期待する」
 リアクターはラントゥールに到着し、休む間も無く惑星上空に即時展開を始めた。
「無人艦隊と攻撃衛星を四層目の上に配置を?」
「計算上、八十七パーセントの確立で小惑星化は避けられると言うが……人のやることだ。念には念を入れておきたい。マルツァー司令官のお手持ちの道具をお借りする」
「いえ、今後は必要ないと考えられますので……」
 彼女からの電文は、そのことだった。
 惑星をリアクターで四層に包み、さらに破壊力を持つ艦や衛星でカバーしようと言う。
 ブリッジの外には、貨物船の上部が口を開き、大きな金属の塊が吐き出されて徐々に分解し、ラントゥールの成層圏に散らばっていくのが見て取れた。
 大きな不安は、ある。
「――――ここまで来るのに長かったものかな」艦外を覗き込んで、ケイが言う。「マルツァー司令官。我々の手で始末をつけるのを、名誉と思わねばならんな。まかり間違っても後世の歴史家に、理不尽な批評をされたくはない」
「…ですが、過去の価値は未来が決めてしまうものです。今、我々がどう感じようとも、彼らには理解不可能ですから」
 それはそうだ、と相槌を打つとケイ中将は踵を返して、ブリッジを出て行った。
 リアクターの展開と配置が済んで、エネルギー充填の合間にこの空域を撤収せねばならない。
「………に、しても…罪意識は消えんものだ――」
 正直な話は、こうである。
 ラントゥールに吸い込まれそうな気がして、目を逸らした。



 〈玄室〉は不可思議なエネルギーで満ち溢れていた。
 もう何かが起きそうな予感、の段階は過ぎており、現実は事を急いで確実に進行している。
 あらゆる機器が、かつてないほど忙しく働いてるのを誇示するように、人間の視覚に訴える光の明滅を繰りかえす。
 高揚しているらしいルイーザ像が、ユーアンを呼ぶ。
『………還る時が来ました……今在いまいます皇帝よ……の“ことば”を……』
 豊かな力に満ち、神々しい威厳を浮かべながら、支配者はオレンジ色の瞳に光彩を煌かせる。
 ――運命は、現生での制約。
 ――名に籠められた呪い。
「それを解く力は、私にあり――」
 ユーアンの指の下で、コンソールが所々点滅する。
 最初の権限が入力された。
 ――制約を解除せよテイク・オフ・ユア・オウン・コマンド
 暫くの間、彼女は沈黙していたが、反応は別音声となって現れる。
『……最大の権限者がアクセスしました。黄金の瞳ヒブラは承認済みです。制約を解除せよテイク・オフ・ユア・オウン・コマンド。これまでの不可侵とされたゾーンへアプローチします…………“黄金の瞳ヒブラ”がクリアされました……“ルイーザ”はいかがされますか……』
「システム・ルイーザは保守する必要はない。消去する」
『消去……権限を受諾アクセプト・マイ・オーソリティ……最初の障壁は無効とされました……システム・ルイーザに侵食開始。時間は計算により七十三分となり、誤差はありません。完了後は統制プログラムが存在しないため、動力炉が暴走する恐れがありますので、新たにコントロール・プログラムを生成中。権限者は解放コードを』
「私がコントロールする」
『受諾しました……全ての制御から離れます。地下都市は一時的にダウンし、ディフェンサーを含むサブ・システムの崩壊を無視します。エネルギー解放のため、地下都市入り口を開きます――』
 今までとは異なる機械音が鳴り響いた。
導主ラウ………」
 ハッと耳の傍を両手で押さえながら、アルダは呼びかけた。
「扉が開かれるとエージェントが侵入してきます。私はここの防御に」
 逸る気持ちで身を返そうとする彼女の腕を、導主ラウが掴んだ。
「いま動いても、どうにもならん。陛下サイアーにお任せするしかないのだ」
「しかしっ……」
「お前が何を感じているかは分からないが、お前は陛下サイアーの従者であるぞ?下命あるまで、お傍を離れてはならんっ」
 叱咤されて、アルダは押し黙った。自分の役割が、いまひとつ分かっていない気がして、それが導主ラウに気圧されたのである。
 ただ、感じたことは間違いなく、
(彼は、ここに来る………)
 予感は確信に変わっていた。













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