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◆TRADITION 4◆紫紺の玉座
56   黄金の瞳が降り立つところ
「………暫くは大丈夫でしょう……ここが、〈玄室〉への入り口にございます。ルイーザのまします部屋へは、徒歩にて参ります」
 呼吸を整えてカートを降りると、道士(メンター)使徒(アポストロス)の二人が〈玄室〉のコントロール・ルームへ走っていった。
 銃撃された使徒(アポストロス)は、出血が無いので修復剤と保護剤で、簡単に処置する。
 それぞれ彼らを待つこともなく、導主(ラウ)とアルダ、マイヤーとユーアンたちは、目的地へと足を進めた。
 ヒブラたちが住まうこの巨大な空間は、何処へ行っても湾曲した天井とドーム型で、そして暗褐色や赤褐色に彩られた、単一的な構成でできている。
 厳重なセキュリティが施されているらしく、目指すところに行くまでは、ゆっくりと流れる逃げようの無い、長いスライド・ウェイを行かねばならなかった。
 行く道に、導主(ラウ)は歴史の紐を解く。
「……ここは、一千年の昔、現在の星間共同主権(ザ・ガバメント)が発足する前身、星間自治連合であったときに、その中心に栄え華やかな装いに輝いていた、ラントゥール星の首都ナッソーの大深度地下に建設されております。当時の連合や帝政の民はおろか、我々の真上に住む者どもも、この真実は知りませんでした――――」
 黄金の瞳(ヒブラ)ルイーザの面影を抱くヒブラ信教団の本尊は、帝政と勢力争う連合の足元に息づいていたのである。
 起源はL.M.(ラストミレニアム)四〇〇年の辺りに発する。
 いまだ帝政に拮抗しうる力を得ず、連合としての形を成す以前のこと、ルイーザの嘆きを聴く者たちが何処からとも無くラントゥール星に移住して、街を興し、やがて地に潜ったという。
 然るべき後に、ラントゥールは連合の中心に繁栄する。
「…ルイーザの声を聴いたというのは、誰なのです?」と、ユーアン。
黄金の瞳(ヒブラ)様が生前には、その直属の諮問機関であったギャラクシアン・グループに啓蒙された方々、と聞いております……お恥ずかしい話ですが、我々はあらゆる知識を所有しながら、我々の祖先(ルーツ)を詳しく知らないのです。ルイーザの魂が彷徨うように、我々も彷徨い、伝えられたものだけを信じてやってまいりました。独り残され、哀しみのうちにひしがれるルイーザを、ただひたすらお世話するためだけに在るのでございましょう―――しかし、そのために多大な犠牲が払われてしまったのは………」
 ――識る者は云うであろう――――。
 “初めから何も無く、在るとすれば既に終われるもの。即ち、無”。
 さて、一行はスライド・ウェイの端に着き、広い空間の中へと導かれた。
 上を見れば、どこの光景なのか、星や星雲のホログラフが浮いている。
「ここは歴史の間でございます。――ご覧下さい。ここには帝政の歴代皇帝が住まう部屋なれば、彼らも陛下(サイアー)を歓待することでしょう」
 円形の部屋には、壁に沿って何かが乗るであろう、彫刻めいた土台がいくつも並べられていた。
 導主(ラウ)が手を振り、土台から光が差したかと思うと、次々と人の形を結んでいく。
 そのどれもが荘厳で風格ある装いを纏い、胸を張って鋭い視線を一点に向けていた。
「……これは…?」
「彼らはみな、ユーデリウスの意志を継いだ者達……」
 誘われるように、ユーアンは踏み出した。一般的な歴史は習っている。アカデミズム史学は詳細も真実も伝えてくれはしないが、その頃に輝いていた人物が、生前の姿で収められている。
 ユーアンは、それぞれの顔を一巡しながら、かねてより心にある人物を探した。
 その空気を読んで、導主(ラウ)は一方向を指し示す。
「第七十六代目皇帝カロルシア・クラオンは、あちらに」
 導主を振り返って一瞬戸惑いを見せるも、指された方へ向かう。
 果たしてあるかな、『緋い大帝(グランド・カーブ)』の異名をとるその姿――――。
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・当作品より2千年前(推定) → 外伝 『空白の言葉』
・シリーズ完全独立物語:地球篇 → ダブル・イノセンス





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