The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』(51/82)PDFで表示縦書き表示RDF


The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』
作:レイ@名無し



51   アメジスト、宿命の刻印


「………」
 ここぞとばかりに、導主ラウもゆっくりと頷き、少年の元へと歩を進める。
 それはやはり、老成した知恵と知識ある、ヒブラの導主と言うべきか。
「私は――このヒブラを統轄しております、導主ラウでございます。ここにおりますは、同じくヒブラと共に生きる、道士メンター使徒アポストロス。……時代は違えど、こう、お呼びすべきでございましょうな…陛下サイアー
 ゆっくりと一礼した。
 この少年の言動と存在を受け容れる空気が、自然と出来上がっているのだろうか。
 否定すらもできない、その力が彼にはあるのだ。
 少し荒い息で、少年は体の位置を直し、カプセルから足を降ろす。
「ヒブラ……僕は詳しく知らない。どうしてこんなにも因果があるのかわからない。……あなたは答えられるのですか? ……」
 今こそは、伝えられたものを、少年の問いに宛がうべきであろう。
 使徒アポストロスは力を行使するが、道士メンターは知識を行使する。
「恐れながら、陛下の回復を待つ間に、ダイブを行いまして記憶を辿らせて頂きました。――――が、陛下が間違うことなき正当な帝政の継承者であるかは、わたくしでは確認できませんでした――」
 アルダが少年の精神シールドに開けた、小さな穴から医師たちは苦労して、意識の断片を取り出した。
 観得たものは、彼の生きてきた証………。
 
 
 刻一刻と、惑星破壊ディストラクションは迫っている。
 直接の関わりを持たないせい、と言いワケしたいところだが、それ以上に心は静謐の中にあった。
 忙しいとはいえ、ここ暫く自宅にも帰ってない。
 知的探究心の強い人間としては、目の前に起こるだろう歴史的、伝説的事件が起こるのを、時間を惜しんで逐一情報を集めているし、またそれがしやすい立場でもあるのだ。
「栄養バランスは考えておりますけれど」秘書のハンナは、そんな上司を世話するのに余念が無い。
「大丈夫だ。ちゃんと局内のジムにも行っている」
 情報局内に、ランミールトは缶詰だった。
 シャ・メインとは、連絡が取れなくなった。
 少年の動向もわからない。
 そして、なによりヒブラの行方。
 ハンナが、デスクの上に散らかり放題の資料を、簡単にまとめて片付ける。
「――ありがとう」
 緊迫した空気に、無言で部屋を出る彼女に礼を言った。
(現地時間では明日の夜か……)
 首都ノアトゥーンの溢れる光に、いくらか室内も明るく感じた。
 殺風景なオフィスで、ライト一つ点いただけの机に視線を落とす。
(ノボア・ガーハン)
 不思議な運命の少年の名を、これで何度目かに思い出した。
 トラウマになりそうな記憶を使って、無理やり処理してからヒブラに送り込んでみたが………。
 グーヤー星の家族には、事情徴収を行った以外は連絡を取らずにいる。
 もし―――彼が、ランミールトの確信したとおりならば、もし家族の元に戻ることができないのであれば、多少の事実を交えて栄誉ある死であることを、事後報告にするつもりであった。
(養子であっても、育ての親は何にも勝る――――)
 聞けばノボアは、父と母の新婚旅行先で宇宙遊泳中に、拾った金属塊の中で冬眠コールド・スリープしていたと言う。
 まるで時間が来たかのように、首にアメジストを絡ませた赤ん坊は目覚めた。
冬眠コールド・スリープは、今も昔も不可能な技術ではない。千年の時を眠っていたとしても、ありうることだ。しかしクラオン帝が産んだだろう子を、どうしてこうもする必要があるのか?)
 せっかくハンナが片付けた資料の山を、手のひらで崩した。
 少年が現れてから、この短期間でかき集めたものである。全てに眼を通し、理論的に組み立てなおしてるのは、ランミールトゆえの頭脳だ。
 ――ただ理解できないのは、少年の存在理由――
(悩むところだが……手がかりはあるはずだ)
 眉間を指で押さえるように、腰を少し前へ屈めた。
 自分と同じくらいの身長、薄いグレイッシュブルーの髪色に、何かしら高貴な孤高の感情を湛えたオレンジの瞳、己の謂れを知らずに生きてきた、その―――
 
 『残されたるをべ、導くもの、世に我が子として生を受ける…私は愛すべきこの者に名を贈る……ユーアン・ウティス=グレス・ユーデロイト。汝が名を二人より…一〇二九年、……マイアランデ』
 
 ふと、脳裏に思い出した、その文言。
 紫水晶アメジストのペンダントに刻まれた宿命を指す言葉。
「――――………そういうこと…か……?」













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