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◆TRADITION 3◆其は汝(な)が名なり
39   ルイーザに想う
(作戦――…さて、どうしようかしら)
 どうやってノボアを探すかは思いついているが、ヒブラのディフェンサーをどう操作するかが問題だ。システムをいじるには素人なため、
「ちょっと手荒いけど、オペレーターを脅かすしかない?」とは、じっくり考慮した割には簡潔な結果だった。
「短絡的過ぎるけど、うまくいけばいいな」
 マイヤーのエア・フライトは一人乗りだったので、上官から許可を取ってもう少し大型のエア・フライトを譲り受けた。
 乗り込みながら不安要素を覗かせたのは、パワーライナーゆえの認識力か。
 それでも急激な展開の割りには、うまく対処しているとアルダは思った。
(でも少し違う……障害は先にあると言うこと…)
 操縦席に座ったマイヤーに、縦列になった後部座席から念を押す。
「エージェントの気配がする。もしかしたらマーキングされたかもしれない」
 暴力的だが鋭い力が満ちているのが判る。(シャ・メイン)だろう。
「出くわす前に〈回廊〉に入りたいもんだっ」
 ハンドルを引き絞り、アクセルを踏みつけた。
 気が急く。時満ちて、待てるものが来たのだ。
 黄金の瞳(ヒブラ)は“(ノボア)”を飲み込んで自らを解放する力を得ることだろう。
(それとも…逆? “彼”がルイーザを取り込み解放するのか…)
 永い時に人は世を重ね、往時の帝政やユーデリウスの時代を忘れまいとしてきたが、残された映像などの記録は偏見と身勝手な解釈を生み出していた。
 ヒブラのメンバーですら、ユーデリウスの意思とルイーザの言葉の原型(アーキタイプ)のなんたるかは、歪められた虚像をもってのみしか知りえない。そして固められた大多数の意見に振り回されてきたのである。
 しかし、そう思い込むのも危険なことであるのは、アルダも知っていた。
 真に伝うべくは隠さなくてはならないからだ。
(ルイーザは自分の“思い”に苦しんでいた……一人の人間…女…?ユーデリウスと同じ”意志“を持っていたならば、縛られずに済んだのか?)
 ユーデリウスの死後、引き継いだルイーザは予見に基づき帝政の設立に邁進した。
 そのさ中に育ての親であり、慕うべき兄であり、唯一の心の絆であったグランスが亡くなったときには、さすがに嘆き哀しんだという。
 そして彼女は叫んだ。
 
 “あなたはいったい何人、わたくしから大切な人を奪うのですか……!”
 
 ユーデリウスによって傷つけられ奪われた、人間的な最後の叫びだった。
 後の世に人々は評する。やはりものの見方はいつの世も、大局的に賛否両論という二者択一の物別れに終始する。
 
 ――ルイーザは自分の感情を制することができなかった、未完の魂である

 ――ルイーザは感情を失わずに済んだ、人を理解できた至高の魂である
 
 “ゆえに、ルイーザはユーデリウスと融合しえず、呪縛に陥り、皇帝(ユーデロイト)の解放からその手を離した。そして我々ヒブラ信教団は、彼女の魂をお慰め申し上げるために共に留まったのだ”
 
 導主(ラウ)の講義はいささか感傷的であり、抽象的である。
 いかにも大衆受けするようなヒブラ賛美は、「智慧を隠した聖典」を謳ったものなのだ。
 ヒブラの民とはいえ、それでも暗愚なる人間達には、賛美型の説教はさぞかし最上の美酒となるだろうが、自己陶酔を嫌う属派的考え方をするアルダは、思う。
(ルイーザに、引きずり込まれたのだ――。余りに強大な引力は近くにいた哀れな人間を捕えて、沈黙的な時間の奴隷にしてしまった………そして彼女はそれも知っていたがゆえに哀しんでいる…)
 全ては、彼女の観た通りなのだ。
 全てを知り、理解し、また得ながらも、人としての苦しみに悶えて自らをユーデリウスの踏み台にした。
「………ルイーザは…優しい女性だったのね…」
 マイヤーの後ろで、ボソッとつぶやいた。
「――まぁなんだ、凄いんだよ」
 食い違った返事のようでいて、彼の言うことに間違った意味はない。
 ラントゥールは、静かで緊迫した空気に覆われていた。少しは敏感な人間にもその臭いは嗅ぎ取れよう。
 ――でも。
 この宇宙で幾人かが認識するであろう思いがよぎる。
 ――そっとしておいてくれれば、ここはもっと安らいでいたのに……。
 もっと、宇宙は穏やかであったろうに――――
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