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◆TRADITION 3◆其は汝(な)が名なり
34   我が名はユーアン
『僕は―――』
『私は―――』
 二重の音声が彼女に向かって発せられた。
『私は、いまルイーザより名を得た――』
 空気が、急に冷えたように硬直してくる。
「ルイーザが…名を与えた……」
『名は―――ユーアンである』
『ユーアン・ウティス=グレス』
 二人は峻厳な口調で語りながら、彫像とコンタクトを取るように振り返る。
 それからまたアルダを見やって、言を継ぐ。
『―――太祖ユーデリウスは、クラオン帝により自らの民を手元に揚げられたが、ルイーザは己れの哀しみの呪縛に閉ざされ、解放を待ち望んでいる。
 私はユーデリウスの力を借りた母の代理として、そしてユーデリウスとルイーザの願いを負い、ルイーザの鋼鎖(かなぐさり)を解くために在る――。
 黄金の瞳(ヒブラ)に集いたる者を労おう。我は”ユーデリウスの意を継ぐ者“「ユーデロイト」の称号を得る者』
 何という――!
「貴方がヒブラを導くというのですか?霊帝(ユーデリウス)が望むと?お母上の代理って――」
 その瞬間に一気に湧き上がる思いの中、言葉にできる疑問はこれだけであった。
 そんな少女の思いを知ってか知らずか、ユーアンと名乗る彼はオレンジの瞳からより強い光を放つ。
最終千年期(ラスト・ミレニアム)が終わりを告げる。紫紺の玉座に(いま)す皇帝に、分かたれた御霊があるなれば、呼び合い引き寄せるは自然であろうと云う。
 ヒブラ解放のために、汝(いた)つべしと――――汝、アルダよ。我を見失うな。私はまたこの星に来る。………我が呼んだがために人の手により生まれた者よ、惑わされるな』
我が使徒(アポストロス)――』
 彼女にそう命令すると、ノイズが走ったように姿は掻き消えた。
 余韻の残る現場に、大人たちが駆けつけたのは数分後だった。
「どうしたことだ!〈玄室》に?」
「間違いありません。異常な数値のエネルギーがここに出現していました」
導主(ラウ)にも知らせよ!」
「〈玄室〉内および〈回廊〉にトラブルがないかチェックしろ!ディフェンサー!」
「まったく機能しておりません。と言うより不具合があった痕跡すらありません!正常に稼動中!」
 血相を変えて走り回る連中から、アルダはこっそりと離れた。
 今”ユーアン“から言われた事と、彼の姿を忘れないように。
(ユーデリウスの分かたれた魂に…使徒(アポストロス)の任を命ぜられました――)
 こころ密かに、ルイーザに思った。
 ――浸ってしまった。
「違反かもしれないけれど…マイヤーの力を借りれたら…」
 一度は飛び出してきたものの、ヒブラの元に戻らねばならない。
 唯一の理解者であろうマイヤーに連絡をすべく、彼の派遣先部隊へ向かう。
 自殺行為を承知で機体の高度を上げると、モーターの悲鳴も聞く耳持たず、空気を切り裂くほどにスピードを上げた。
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・当作品より1千年前(推定) → Galactic ILLUSION
・当作品より2千年前(推定) → 外伝 『空白の言葉』
・シリーズ完全独立物語:地球篇 → ダブル・イノセンス





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