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◆TRADITION 3◆其は汝(な)が名なり
27  其は汝(な)が名なり
 アルダが自由使徒(アポストロス)としてヒブラの戦列を離れノボアを追っている頃、彼らの部隊は小規模な戦闘を繰り返して戦線本部へと移動していた。
 途中、合流した部隊にはヒブラ派遣兵がいたが、互いの交流を深める前に死亡しているのである。移動基地として使用していたトレーラーは使い物にならなくなって捨てられた。
 やむなく戦線の兵士たちは銃火器と食料を背負っての徒歩となる。
 ノボアの戦いぶりは相変わらず異常に目覚しい。
 疑うべきは戦闘能力のありようではあるが、混乱の戦闘に訝しがる余裕も無い。そうこうしてるうちにシャ・メインが行方不明となった。
「どうなってるんだ?」
 シャ・メインの任を継いで新たに指揮することとなった男は怒鳴った。
「判りません! 政府軍が撤退しました!」
「こっちも退くんだ! 無駄死にするぞ!」
「二、三人が奥へ入ってます!」
 索敵の機器が無いものだから、行き当たりばったりの戦闘である。徐々に戦力を削がれる息苦しい空気で皆は疲れていた。
「負傷者はどうします?」
「ポイントマーカーを置いていく。この状態でつれてはいけん。連絡取れ次第収容の要請をする」
 血のにおいを嗅ぎつけるように、退きの早い政府軍を追っていたノボアは、浮上したリニアを打ち落としてから部隊に戻るつもりだった。
 ところが想定していたより爆発の規模が大きく、爆風であおりを食らい吹き飛ばされてひどく体を打ち付ける。
「………!」
 声にならない痛みで、一瞬気が遠くなった。
(なんだっていうんだ――!)
 自分のうかつさに舌打ちをした。
 痛みをこらえて倒れた体を起こそうとしたが、背中に激痛を感じてその場に固まる。
(肋骨?)
 折ったのか打ち身なのか、不明だが回復を待てない。
 戦闘の終結と周囲を流れる空気に、ノボアは我に返った気がした。
 ここで自分が戦うことに疑問を持ったことはない。が、果たして自分が理想に情熱を傾けるとか、単なる人殺しに加担する人間だったのかと問うと、精神的に符合性を感じないのである。
 考えようとしても考えることができない。そしていざ戦場に向かうと、戦う自分ばかりが先走りしてしまう。
 記憶や意思の歪みに気づくはずも無く、ただ黙々と人を殺している。
(――それだけではないはずなのだが…)
 そしてこのところずっと、そんなことばかりを考えているのだ。
 いつもそうする戸惑いのさなか、眼前にさっき撃ち落としたリニアが残骸となって方々に飛び散り、爆風で掃除したように綺麗な地面が、黒く焦げた顔を覗かせていた。
 文明があった証拠の瓦礫と、たくましく育った木々の中に見える大地に、ふとノボアは目が留まる。
「………? 何だ…」
 何かを見つけて、焦げた土の一端に痛む体を向けた。
 片膝を立て、引きずるように近寄る。
 ザクという音を立てて踵が土に埋まり、バランスを崩して尻と片手をついた。身体にかかる負担と負傷で脱力したかのようである。
「参ったな…」
 いったい何を困ったのか、座り込んでしまった自分が独り言を言う。
 もう一歩ぐらいのところに、それがあった。
 手のひらで円を描くように土を払いのけてみる。
 金属的な冷たさがノボアの手に伝わった。
 そのまま両手で掻き出しはじめた。
 程なく、それは一部を現す。
 二つの円が互いをずらして重なったような形。
 それを取り囲むように動物の角をデフォルメしたようなライン。
 何度か目にした事のある、このパターンを彼は知っていた。
「紋章………」
(ヒブラのだ)
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