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◆TRADITION 2◆天の呼ぶ声
18   矢は放たれた
 宇宙空間だから当たり前のことだが、目の前を外壁チェックするロボットが音も無く滑っていくのは、多少違和感があった。
 周囲を小惑星に囲まれながら、それらの衝突を避けるためにシールドを張り、巧みに見るものの目を惑わすように、この大きな小惑星の影で、分解型巨大建築物「通称リアクター」の最終点検が行われていた。
 この物体が建造される目的はただ一つ。惑星破壊(ディストラクション)である。
 それは意外と歴史が古く、今から九百年近く前に建造計画が提議されて、約百年後に製造が実現していた。しかし一度も使用されること無く、維持費削減と老朽化のため宇宙のゴミ捨て場にて爆破、廃棄される。
 星ひとつを破壊してしまう、その破壊力については議論の止むことを知らない。
 その星系の重力バランス、飛散する星の破片の処理など、環境の激変を考慮せねばならず、また使用する側の倫理を問う必要もある。
 超弩級兵器をそうまでして造る必要があるのか、また管理の問題と相まってL.M.(ラスト・ミレニアム)一四〇〇年代には思い出したように討議されてきた。
 そしてその超弩級兵器の必要性がある場合に備えて、その使用を制限する法律が制定されている。
 建造についての場所は機密とし、管理、使用についての決定権は議会が握り、承認なしには動力に火を入れることも許されない。
 そのためか、あらゆる規制でがんじがらめの兵器は、利用困難・用途価値が無いとして、敬遠の彼方に置かれていた。
 だが時代はついに求めたのだろうか?
 リヒマンが議長になり、すぐ政変が起こると、事実上の独裁下でリアクター使用における新法を立てて、それは造られたのである。
「政府からの受注は四基。エネルギー供給用の機体が一基。この機体で製造は完了する。引渡しが二日後になっているから、このメモリに目を通してくれ」
「テストしないで使うつもりですか?」
「急げというから、一基五年は掛かるものを十年で四基プラスアルファも造ったのだ。いま停止命令出されたって無理だろうが。工費だって三割増しだって言うのもゴネられたのに、そんな暇があるか」
「そりゃあ、そうですね」
「しっかりやれよマッケナー、安心しろ。テストのことは、作戦上口を出すなと言われてる。せめて機体が爆発しないようにメンテナンスしとけ。従軍中に死なないようにな」
 外部ドックを見下ろすエレベーター・ルームからは、宇宙服を着たメカニックマンが所狭しと動くのが、モニターを通さずとも見えた。
「見学は以上だ。後は現場監督の力量次第だろう。ヤバイ報告は怠るなよ」
 ビジネススーツを着込んだ男は、適度な室温の中で汗を掻き掻き立ち去った。
「お気をつけて」
 聞こえても聞こえなくてもいいような声で後姿を見送ると、マッケナーはいそいそと仕事の続きに入る。
「どうだ?」
「――ああ、マッケナー主任。動力炉は極めて安定していますが、出力口への供給バランスだけまだ調整がかかりますねぇ。暫く模様眺めが必要でしょう」
「おいおい、引渡しがいつだと思ってんだ。二日後だぞ?俺の首が飛ばないように頼むよ」
「そりゃあ、そっちも微妙だ」
「減らず口を叩くな。禁忌を犯してまで作ったものだ、失敗したらお前らも一緒だぞ」
 肩をすくめてメカマンは、調整用のモニターに向かった。
 マッケナーも端末を引っ張り出すと、膨大なチェック項目の消化に精を出す。
「こいつが星ひとつを壊しちまうんですね」
「それように作ってあるんだ。他に用途があるか」
「でかい仕事してるんでしょうけどねぇ…」
「良心の呵責に苛まされることはないさ。これは仕事だ」
 心を痛めるより、目の前の機械をでかすのが先である。ハハ、と笑ってメカマンは頭を振った、その会話を聞いて付近にいたもう一人が言う。
「いよいよですね。ラントゥール」
 マッケナーは思わずなんと答えたらよいものか、手元が止まってしまった。
「そ、そうだな」
 自分たちが携わっている物体が、ラントゥール攻撃に使用されるのは公然の秘密である。と言うより、現場でははっきりと言いたくない雰囲気であるのは確かだった。
「僕は思うんですけど、解放戦線も政府も、何もしなければこんなことにはならなかったような気がしてるんです。これって、ジェネレーション・ギャップから生じる歴史観の相違でしょうか」
 率直な意見だ、と彼らは感じた。
 本当ならば――無かったことかもしれない……。
「だがな、始まったモンはしょうがないんだ。例え間違ってても誰かが始末つけるまでな」
「それをやろうとする人は勇気ある人ですね」
「――さあさあ、議論する時間があるなら学校へ行ってろ。そして先生に言うんだ。“俺たちはリアクターが無かったら、高給取りになってたか?”ってな。無駄口は終わりだ」
 沈黙の中を機械的な音だけが響いた。
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