The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』(14/82)PDFで表示縦書き表示RDF


The ORPHAN 異伝 『千年の夢幻』
作:レイ@名無し



14   FACE3:青年を呼ぶ星


 〈FACE 3〉 
 
 彼は純粋な性質の持ち主である。
 ひとえに純粋、と言ってもいろいろあるが、その性質ゆえに周囲のあらゆる一切を受け付けないか、一切を併呑してしまうかに分かれる。
 彼の場合、どちらかと言うと前者に当たった。
 自身では己が正しいと感じたことに身を投じていると信じて、そこに居るのだ。
 ただし、彼は決して正義を振りかざして糾弾するようなことはしない。真っ向から不条理に立ち向かうにはいささか役者不足であったし、それを訴えるほどの情熱も持ち合わせていなかったからである。
 そこで選んだ手段とは―――。
「おめでとう、シャ・メイン」ドカンとドアが開くなり、腹が突き出し気味な男が豪快そのままに入ってきた。
  シャ・メインは首をすくめた。
「怒鳴らなくても聞こえますよ」
「大抜擢だ。先天的な才能とはいえ、最速でのクリアランス級エージェント合格とはすばらしいじゃないか?………なんだね、もっと嬉しそうな顔ができないか。私が喜んでどうするんだ」
「上司の評価を上げるのに貢献しただけですよ」
 口の端に苦笑を忍ばせて、上司より先に腰掛けた。
「私の育て方が良かったのか?君が勝手に成長しただけか?」
 大げさな身振りで上司は、満面に笑顔を乗せて止まらない。
「だが、君の私に対する貢献は残念ながらここまでだ。クリアランス級は私の指揮するところではないし、ランミールト・ロワティエの所属となる。と言っても直属ではないが、願っても無いだろう」
「何回か顔は拝見していますが…」
「たいして曲者ではない。……違うな、こんな泥沼職場にしては淡白な性質だが、信頼していい人物だから、君の希望も通るかもしれん」
「………貴方のように物分りがよければ良いのですが」
「適材であれば希望は通るだろう。しかしそんなにラントゥールへ行きたいのか?」
 ふと思い出したように、上司の笑顔が消えた。
「最大の問題には最大のチカラを注ぐべきであると心得ています。私もその一部に加わりたいだけです」
 随分と歯がゆく思ってきたのだ。
 シャ・メインは奥底でつぶやいた。
 何故これほどまでに永い時間を浪費して、無駄な労力を消費しようとする?
 少し力を加えれば終わることだろうに――
「私からも進言はしよう。だが君ほどの人材をラントゥールごときに費やすのももったいない話だ」
 故意か天然にか、含みを持たせてシャ・メインの上司はうんうんと一人頷く。
 彼の手が退出を促していた。
 シャ・メインの望む道は平坦でもなく、荒れた砂利道でもない。獣すら通らないような道に等しかった。
 骨をうずめることになっても、ラントゥールは彼にとって宿命の星である。
 ようやく願い叶って、その星は手の届くところに見えてきたが、どこかしら彼は腑に落ちなさを感じていた。自分では自らの意思でこうなったのだ、と思おうとしたが、何者かの力が強制的に働いた感が拭えない。
(これでいいはずなのに――?)
 
 ねぇ、シャ・メイン。
 
 密かに心囁く声がする。
 シャ・メインはその声を知っている。
 
 それでいいの――?
 
(君が呼んだんだ)
 嘯いた。
(君がラントゥールへ来いと、君が呼んだんだ)
 それは軽やかに笑った。
 
 いいわ。いらっしゃい。
 
 あの時からが奇妙だった。
 数ヶ月前に逢った、あの少女がもたらしたもの。
 あの時、二人が分かれてからすぐにあの場所で爆破事件が起きた。轟音と爆風と、悲鳴と怒号の中、一人取り乱すことなく少女は立ち去った。
 そして、
 また逢うわ。
 の声。
 それきり彼女は凄惨な光景を振り返ることも無く、群衆に溶け込んでいった。
(逢う?)
 なぜ逢うと?
 
『ラントゥール…』
 
 何の根拠も無く、その星の名が響く。
 
 行け、と言うのか。
 星の標が輝いたようだった。
 恐らく、彼に許された道が、唯そこに横たわっていた。
 
 L.M.ラスト・ミレニアムニ〇七四年
 シャ・メイン 二十一歳
 星間共同主権首都星ダハトにて













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