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◆TRADITION 1◆運命人(さだめびと)は時来(きた)るまで
11   ヒブラの中で
 褐色に統一された《回廊》内を一台のリニアが走りすぎ、ターミナルで止まると二人の男女が降り立つ。
 数メートル先に扉があり、彼らはそちらへ歩を進める。
 前に立つ警備兵が二人に向かって敬礼した。
導主(ラウ)はおいでかしら」
「まだお見えになっておりません。アルダ様」
「そう。ありがとう」
 彼女は手を振って中へと入った。
「いるって?」
「いいえ、まだのようよ、マイヤー」
 どれだけの人物が集まるのか、厳重な警備と重々しい構造の廊下と部屋を幾つか抜ける。暫くして議場のような広めの部屋にたどり着いた。
 そこには室内の準備をしている者たち以外は誰もいなかった。
「早かったかな…」
「ゆっくりできていいと思うわ。個人的に色々話が聞けそうだもの――報告前に話を聞けない?」
「予習しておくか」
「ええ。ダハトのエージェントが出た話」
「お化けじゃないんだよ――解放戦線のカイ地区の部隊だ。まずいことにパワーエージェントだったから我々も処理するのに苦労したよ」
「彼はどうしたの」
「死んだ。我々が強かったのか、彼が自殺したのかは分からないが…」
「厳しいわね…彼らの任務一筋縄ではいかないか――あぁでも、そのことばかり考えてはいられない。ユーデリウス・プログラミングはもっと重要」
 ひそめた眉が、彼女の苦悩の一端を表していたかのようだった。
使徒(アポストロス)としては歯がゆいばかりだな。……『彼』には会えた?」
「会ってたら、今ここには居ない。わかっているでしょう?名前と顔しか分からないのに、どうやって探せというの………」
導主(ラウ)や、道士(メンター)には言うわけにも行かないしなぁ」
「『彼』は『私』に探せと云った。他言はできないわ。今のヒブラ内の現状を見てると、『彼』の話をすることなど出来ない――」
 こころもちマイヤーを睨むようにして、アルダは口をつぐんだ。
 
 『ヒブラ』。
 ここは帝政共同体の末裔と呼ぶには、余りにも特異な存在の『ヒブラ信教団』の本拠地である。その確かな場所は、武力提携をしたラントゥール解放戦線にさえひた隠しにされており、実態すら疑われるようなその存在は、永い間囁かれながらも明らかにされることはなかった。
 ――そのヒブラが何ゆえか、少しずつ零れだしてきているのか――
 
 緋色のローブを纏った道士(メンター)たちが、アルダたちの前を過ぎていく。
 すぐにも議場はごったがえし、アルダと同様に非公式な情報のやりとりをしていた。
 時間であろう、一人の道士(メンター)が集まった顔に視線を一巡させ、口を開いた。
導主(ラウ)におかれては《玄室》での作業が終わる目処が立たず、本日は出席できないと言うことだ。皆には着席願いたい」
 導主(ラウ)、とは恐らく『ヒブラ信教団』を統べる人物であろう。重要な役を負っているような面々が集まっているからには、当然その長たる人物も出席せねば成り立たないだろうが、それすらも出られないような作業、とは――?
 それだけでもざわめきが起こったのに、次の言葉はもっと衝撃的だった。
「まず最初に訃報がダハトから届いている。星間共同主権の評議会議員でありながら、長年我々のために尽力してくださった、マジッド・メザレ議員が先日、自殺された」
 どよめきが湧き上った。
「十年前の政変で解放戦線はおろか、ひた隠しにされてきたはずのヒブラも風当たりが目に見えて強くなった。その中でのマジッド議員逮捕と言う大事になってしまったが、最後にコンタクトをとった使徒(アポストロス)によれば、極めて重要な情報を提供の後に、起こった事態らしい…どうか、彼に対するダハト政府の扱いが人道的であったことと、彼の冥福を祈りたい」
 淡々と道士(メンター)は語った。得がたい人物を失って、その損失感と悲しみのないはずがない。「だが、我々は感傷に浸っている暇のないことは承知のことと思う。常々懸念されてはいたが、もはや噂でないことは確認されている。
 諸君、惑星破壊(ディストラクション)が決定されている!」
 思わず俯いた。いつか強硬手段を採られるとは思っていたが――「避けては通れないわ…」アルダの言葉にマイヤーも緊張を隠せない面持ちで応じる。
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