その水たまり
――雨がふっていました。
もう三日もふりつづけています。空を見上げれば灰色の雲が。そして、白い雨がふってくるのが見えます。
シトシトとふっています。しゅん君は思いました。
(あぁ、今日もふっている)
昨日もふっていた。その前も。きっと、明日もふっているんだろうなぁ。そう思いました。
学校がおわって、教室の窓から外を見下ろせば、みんなが帰ってゆく姿が見えます。
色とりどりの傘をさしたお友だち達が、南側の正門、東門とに向かって放射状に、虹のカケラのように散らばってゆきます。しゅん君は「きれいだなぁ」と呟いて、じっとそれを眺めていました。
しばらくしてしゅん君も帰ろうと、身支度をして門を出ました。雨は相変わらず、シトシトとふっています。
道を歩いてしばらくすると、前に二人の男の子が見えました。二人は傘の枝を指でつまんで弾き、水をかけあって遊んでいます。
するとその男の子達の前に、水たまりが現れました。雨がふった日には必ず現れる、大きな大きな水たまりです。
しゅん君は大きな声で言いました。
「その水たまりにおちたら、しぬよ」
二人はおどろき、ふり返ると、なんとも言えない不思議そうな顔をしました。「今の、なに?」そんな表情です。
二人は向き合い、少し困ったような表情のまま笑いました。そして、水たまりに向かいます。
右の子が、少し下がってぴょんっ、と跳びました。男の子の足が地面からはなれます。かざしていた傘が空気をつかみ、男の子の体はふわりと宙に浮きます。
そして、水たまりの真ん中に左足から着水しました。ひときわ大きな波紋が広がります。
靴のつま先が水に着いたと思うと、次に足首、ふくらはぎ、太ももの順に水に浸かってゆきます。左足に遅れて、右足も。
腰まで浸かったかと思うと、あっというまに胴や肩、頭まで浸かってしまいます。そして、傘を持っていた右腕だけが残ります。
スルスルとそれも短くなると、最後には傘の黄色い生地が残りました。それはぷくっ、とふくらみ抵抗しましたが、男の子の体に引っ張られるようにざぷん、と沈みました。……後に残ったのはぶくぶくと浮かんでは消える、泡と波だけ。まるで、水深の深いプールに飛び込んだかのように、それは見えました。
もう一人の男の子は、その一瞬の出来事の全てを目の当たりにしていました。その場で固まったように棒立ちになり、その水たまりを見ていました。
――残った男の子はその後、ちらりとしゅん君の方を向いた後、走って行ってしまいました。
――しゅん君は一人、水たまりに近づいてそれを覗き込みます。
その水たまりの底には、色とりどりの水玉模様が見えました。
それは湖に沈む、虹のカケラのようでした。
「きれいだなぁ」
そう呟くと、水たまりに向かって飛び込みました。