シリンク帝国懲罰作戦、銀河連合1
シリンク帝国懲罰作戦も大詰めです。
栗田は、地球防衛軍艦隊への合流点に向かいながらスーワリートム星での歓迎を思い浮かべていた。
まさに、栗田の艦隊の登場は劇的なものであったろう。 スーワリートム防衛軍とシリンク帝国艦隊のあの戦闘は、始まって3時間ほどであったらしいが、スーワリートム防衛軍は一方的に数を削られており、すでに4割が破壊されていた。
もし、栗田たちの登場がなく、ほぼ確実にそうなりそうであったように、スーワリートム防衛軍が破れたら、シリンク帝国艦隊は過去の他の諸惑星での所業から、スーワリートムを爆撃して屈服を迫ったに違いない。
その場合、栗田らが着陸して目にした、美しいスーワリートム星の首都のワレンガイの整然とした町並みが廃墟になっていたわけだ。招待された街を歩きながら、栗田たちの一行は本当に良かったと思い、またそのように貢献した自分たちの存在を誇りに思えた。
また、いささか偶然に助けられたとはいえ、自分たちのシリンク帝国の主力艦に比べ長さで半分以下しかない艦で、これは容積では1/8以下だが、170機もの艦隊を自分たちに被害なく一方的に破ったということにやや戸惑いもあった。これは、銀河連合軍の見立てによると、シリンク帝国の主力艦は超空間ジャンプこそできないが、戦力は銀河連合軍の主力艦に劣らないと言われれきたからである。
栗田は、この点はカーターや地球防衛軍の同僚と議論する必要があると考え、当面蓋をした。
なお、スーワリートム星人は小柄で動きの俊敏な人々で、男女ともヘアスタイルが頭の両端を角みたいに立てるものであるため、その青みがかった顔の色から青小鬼みたいだと思ったのは内緒である。しかし、その歓迎と感謝の集いは心あたたまるもので、栗田の戦隊のメンバーはみな大いに感激した。また、彼らには大量の贈り物が集まり、断り切れず受け取ったが、高度な文明のスーワリートム星の生産物であるだけに、地球に持って帰ったところ大変貴重なものだらけで、扱いに困ったものである。
地球防衛軍は、結局軍が一旦没収し、置物など特にノウハウが含まれないものは、もらった個人に返し、高い対価のついたものは、基本的には軍の収入としてある程度を栗田艦体の個人に還元した。ただ、特許に関係するようなものは、あくまで権利はスーワリートム星にあるとしている。
栗田たちの艦隊は、地球防衛軍の艦隊と合流し、司令官のジョゼフ・カーター少将の主催で、早速テレビ会議を開く。各分遣隊の幹部の他、銀河連合軍第3軍のリリンカム人も出席している。
「みな、ご苦労だった。いずれの場合もシリンク帝国艦艇を一方的に破り、地上軍も上空からの撃破でことが足り、ほとんどこちらの陸戦隊も出番がない状態に終わった。まったく犠牲が出なかったのは、運もあったと思うが誠に良かった。宇宙における戦闘では、一番派手であったのは栗山大佐の35機の艦隊が敵の170機の艦隊を発見後わずか60秒で殲滅したことだな。これは、地球防衛軍の歴史に残る戦果だな。」
そう言った時、連合軍第3軍のリリンカム人が発言を求める。
「第3軍3艦隊の参謀長のミマセルマ少将だ。なんなのだ、君たちの軍の被害ゼロというのは。今回わが軍からは1200機、スラミカ王国からは宇宙艦隊750機が参加して、まだ作戦は終了しておらんが、すでにわが軍では主力艦3隻、補助艦12隻、スラミカ王国艦隊では主力艦25隻、補助艦35隻の被害が出ている。
これでも、この規模の作戦でシリンク帝国レベルの相手の戦闘で、相手には5倍以上の損害を与えているので、上出来という評価だ。どういう秘密が君たちにはあるのだ?」
カーターが答える。「そう、秘密はあります。それは、リリンカム共和国に着いてから、開示します」
ミマセルマ第3艦隊参謀長は仕方がないというように答える。
「うむ。国についてから楽しみにしている」
その後、会議は今後の予定に入り、予定通り、カーター、栗田の乗艦を含めた10艦がリリンカム共和国に移動し、残りの艦はリセンカノ支隊アルペノ・カチスナ大佐に率いられて地球に帰還した。
カーターに率いられた10機の艦隊がリリンカム共和国に着いたとき、銀河連合がシリンク帝国へ発した宣言の期限が3日後に迫っていた。カーターたちは、リリンカム共和国の軍務大臣サリカムル氏に呼ばれている。
「いや、ご苦労だった。担当範囲がやや少なかったとはいえ、自らは全く被害なしに一方的にシリンク帝国を蹂躙したというのは、賞賛に値するよ。特にスーワリートム星人はレベルが高い民族で、近くコンタクトする予定であったので、これの危機を救ってくれたことは感謝する。
それにしても、スーワリートム星系で主力艦が多数の170機のシリンク帝国艦隊を一瞬に撃破したというのは銀河史に残る偉業だ。どなたがその指揮官の栗田さんかな?」
言う軍務大臣サリカムルにカーターが紹介する。
「彼が、栗田慎吾大佐です」
「おお、光栄です。『クリタ・アタック』の指揮官に会えるとは!」と栗田の両手を握る。
「ええ!クリタ・アタック!」栗山が驚いて言う。
「ええ、これはすでに銀河中に君の攻撃の映像と共に広まっていますよ。私も孫に自慢しなくては。クリタ・アタックの栗田大佐と握手したぞってね」と大臣が笑う。
この後、今回の遠征に係る実務的な話の後、「2日後に銀河連合がシリンク帝国への宣言の期限が来ますが、どのように回答を得るのですか?」カーターの質問に大臣が答える。
「うん。それは期限の日に、前回と同様に快速船がシリンク帝国の帝都のある恒星系にジャンプして、今度は超空間通信機を設置した無人コンテナを放置します。それが放送で回答を求めるわけだ。回答無しまたはコンテナを破壊したら拒否ということで、キリガセント星にすでに完成している転送装置が働き始めるわけです」
「もし、受け入れるという回答だったら?」カーターがさらに聞く。
「この場合は、なかなか難しいミッションになるな。最初の要求は、安全を考えればまず武装解除だから、主力艦の引き渡しだね。これに素直に従えば、牙を抜かれた後だから、あとは法廷を作って、被征服種族の告発者を集めて損害の賠償と処罰だね。たぶん、シリンク帝国の過去やってきたことの悪辣さから言えば、彼らの資産はすべて取り上げだね。惑星から何から、その後は、かろうじて抵当でとられた惑星の上で食っていくだけだ。銀河連合にしてみれば、彼らの心を折らないとまた同じことを繰り返すからね」
大臣はカーターの目を見てさらに言う。
「まあ、受け入れるような民族だったら、最初から僕らの目で見てあんな悪辣なことはしないよ。受け入れることはないね。
それから、当日は銀河連合総会が開かれ、その快速船によるコンテナ放出を見守る。快速船に敵対的な行動をとるかどうかも判断の材料になるからね。時間になって、回答がでないまたは拒否の場合には、議長がシリンク帝国殲滅を宣言します。
転送装置の操作は、キリガセント星に本拠を置く銀河連合の第1軍が実施します。
私が聞いているのは、艦船の破壊を先行するらしい。それが1日くらいかかるらしいけれど、終わってから惑星の破壊にかかります。艦船の破壊を先行するのは、なんで、どうしてこういうことになったか考えさせるためと言いますが、あまり意味はないと思いますがね。こっちは300個位だから、2時間くらいで片がつくでしょう」
大臣の話を聞いて、カーターがちょっとためらってあえて言う。
「これは、2000億人からの民族を滅ぼすことになりますが、操作する人はそういう抵抗はないのでしょうかね?」
「うん、われわれリリンカム人だと、ちょっと無理かもしれない。しかし、第1軍の構成している兵士の出身民族は果断というか、割り切っているというか、やらなくてはならないことに関しては、彼らに言わせると軟弱な情緒はわかないそうです。だから大丈夫ですよ」大臣は言ってから時計を見て、
「ああ、もう時間になりましたね。ちなみに明後日、我々もシリンク帝国殲滅の提案者ですから、立ち合いの義務があるので、立体映像による総会への参加をします。皆さんも、地球人を代表した立場で参加してください。
それでは、明後日は迎えのものを送りますので、おいでください。それでは!楽しい会合でした」大臣は地球防衛軍の出席者一人一人の手を握る。
その日の午後、カーターたちはミマセルマ第3艦隊参謀長を始め実務者たちと会合を開いている。
「さあ、君たちがなぜあんなに強いのか教えてもらおうか」ミマセルマ参謀長が言う。
「これはですね。あなたたちも超光速飛行は、重力エンジンによる飛行に時間の要素をいじって、見かけ上早くしているわけですよね」これに関しては、技術的に詳しい、西山誠二技術大尉が言う。
「うーん、まあそうだな。それで?」とミマセルマ。
「だから、艦の操縦ロボットを、時間を早める時間フィールドの影響下に入れているのですよ。また、それでもミサイルはレールガンで迎撃できますが、レールガンの迎撃は無理なので重力エンジンを斥力装置として使って向かってくる弾をそらしているのです。
あなたたちのロボットも斥力装置を使っているじゃないですか」とカーター。
「そうか、数千倍の早い時間帯にいるロボットは、どんな早いレールガンも反応できる対象になるわけだ。特に斥力装置をレールガンをそらすのに使うということは考えていたが、どうしても反応が遅れてダメだったからな。うーむ、その発想はなかったな」
ミマセルマと技術将校がつぶやいている。
「しかし、たしかにこれは圧倒的なアドバンテージだが、よく君の上司が開示することにO.Kしたな」ミマセルマが言うのに、カーターが答える。
「ええ、できれば同じ導くものラリムの導きを受けたものとして、我々としてはリリンカム共和国には隠し事はしたくないということがあります。それと、今回の遠征で我々の能力は思い切り出しましたから、どういう能力を持っているかはいずれわかるし、そうなると技術を隠しているのがわかりますからね。いずれにせよ、今のところは我々の方が教わることは圧倒的に多いですから」
カーターがさらにいう。「どうです。どの程度の防御の能力を持っているか実際に試してみませんか。我々の艦にロボットのみを乗せて防御のみをさせます。その方が遠慮なく攻撃できるでしょう。あなたたちの艦は、そうですね。主力艦3機という所でどうですか?」
「なに、主力艦3機に攻撃せずに立ち向かえると?、うむぜひやってみよう」ミマセルマが乗り気になって言う。
翌日、宇宙空間にカーターの乗艦がロボット操縦で浮かび、連合第3軍の主力艦3隻が迫る。
「私の艦、テキサス3号は、攻撃はしませんが超光速には入らないものの機動はしますよ。さすがに飽和攻撃を受けたら避けきれませんからね。また1時間逃げ切ったら我々の勝ちです」
カーターが一緒に見ている、第3軍の総司令官とミマセルマと第3艦隊参謀長に話しかける。
「それでも、我々の方の分がよさそうだけどな」ミマセルマが言う。
3機の長さ500mの銀河連合の主力艦と、長さ200mの新地球クラスの戦闘艦の戦いが始まった。ロボットは融通があまり効かないので、カーターはある程度の行動指針として、できるだけ機動で逃げること、2機以上からは狙われる位置取りをしないなどを与えている。
3軍司令官の「始め!」の合図で、主力艦がいきなりレールガンを撃つが、テキサス3は撃つ前にさっと避け、その後は動きを止めない。最初のレールガンを避けた機動が見学者の驚きを呼んでいる。
「あれは、レールガンは撃つ前に艦体のカバーを開くでしょう。だからですよ」カーターが説明する。
しかし、何発かは船体にあたる角度で撃たれるが、船体に届くまでに大きくそれる。
さらに、レールガン、ミサイルがどんどん打ち込まれるが、数隻が一斉に打てる場所には絶対にテキサス3号はおらず、ミサイルは迎撃用のレールガンまたは、熱線銃で迎撃し、レールガンは斥力装置でそらす。熱線銃も撃たれるが、これは集束の問題で一定以内の距離に入らないと、バリヤーにはじかれる。
夢中になって人々が見るうち、たちまち時間は過ぎ、「1時間!終了です」の宣言がされる。
結局テキサス3号は無傷であった。
「いや、見事だ!これは、君たちの損害無しの戦果もうなずける。この技術を供与いただけるとのこと、感謝します」司令官が、カーターに握手を求める。
栗田は見ていて、なるほど我々の戦果はある意味で当然だったのだなと思った。